夜になる。俺は自室で机に座り、勉強のための技術書を呼んでいた。
とはいってもその内容はほとんど頭に入ってきていない。頑張って集中しようとしても気は散ってしまって、全く身にならなかった。
ちらりと机上のデジタル時計を見る。今は21時38分。さっき確認したときは37分だったから1分経過しか経過していないことになる。つまり、時計を気に過ぎて何度も見てしまっているのだろう。
だが気にもなってしまう。普段だったら21時30分にはエマはここに来てくれたのに、今日は少し遅れているように思えた。彼女が来てくれるのが待ち遠しくて、こうしてそわそわと落ち着きのないふるまいをしてしまっている。
机の上に置かれたもう一つの物。写真立てに飾られた、俺とエマ、二人の姿が目に入る。
朗らかに明るく笑っている昼間の笑顔。それが昨晩の嘲笑と重なって、写真の中のエマに俺の姿をクスクスと笑われているような気がした。
(いや、何を考えているんだ俺は……)
落ち着こうと深呼吸をして、もう一度時計を確認する。先ほどと変わらす21時38分。まだ一分すら経過していない。時間が経つのがとても遅く感じられた。
もういっそ俺の方からエマの部屋へと行ってしまうか?いや、それはあまりにもがっつき過ぎではないだろうか。流石にに引かれてしまうかもしれない。
いや、もしかしたら引かれずに、許されるのだろうか。俺の情けなさをあざ笑う、あの微笑みと引き換えに。
俺のプライドと引き換えになら、望むままどこまでも行けてしまいそうで
(でも……でもなあ……)
それでも、エマが受け入れてくれるとしても、好きな子の前ではカッコつけていたい男心があるのだ。それがたとえ今更だったとしても。
そうやって思い悩んでいても、その音にはすぐ気づいた。コンコンという聞きなれたノック音。
俺はぱっと頭を上げて立ち上がり、写真立てから視線を外した。小走りでドアに近づきそうになって、でもやっぱりそんな期待しすぎな姿を彼女に見せたくなくて、落ち着いた様子を取り繕う。
ドアを開けると、期待通りに枕を持ったエマがそこにいてくれた。
「こんばんは。今日も一緒に寝てもいいかな」
「ああ、もちろんだよ」
「えへへ、ありがとう先生」
お願いをする少女と、それを受け入れてあげる男。そんな形ばかりの儀式を行って、エマを部屋の中へと招き入れる。
だがここで考えてしまう。ここから俺はどういう展開に持っていけばいいんだろう。
性欲処理をして欲しいとか、そんな直接的な言葉を言えばいいのだろうか。いや、女の子側からしたらそれはどうなんだろう。冷めさせるのではないのだろうか。
これが手慣れた男なら自然な話術でリードして、そう言う流れに持っていけるのかもしれない。だがあいにく俺はエマが初めての恋人であり、童貞である。そんなテクニックなどあろうはずがなかった。
今までであれば布団の中で二人で横になる。それだけで無言の合意は取れていたし、俺は何も言わずエマに『ハグ』してもよかった。だがまさか、無言のままに握らせるわけにもいかない。
エマに難しく考えすぎと言われた思考のままに、あれこれと悩んでいる間に、エマは自分の枕をベッドへと並べていた。そして――
「それじゃあ先生。そろそろ一緒に寝ようか?」
「えっと……」
そう言い放つエマの言葉に、なんて答えればいいか分からずに口が止まってしまう。このまま一緒に寝た場合、『ハグ』はできるだろうがそれだけだ。今俺が一番して欲しいことではない。
「どうしたの、先生。もしかしてまだ眠くない?」
そのことにエマが気付いていないはずがない。昨晩の行為と、今朝の話から、今晩何をするかは分かっているはずだ。つまり、まただ。
「それとも……なにかボクに、して欲しいことがあるのかな」
またエマは、俺に言わせようとしている。
「言ってくれないと、ボク分からないな」
声だけは取り繕って不思議そうにしていれど、顔は笑っており口角が上がっている。その表情を見るだけで、俺の行動が縛られてしまう。
期待されている。許されている。エマの望むとおりに行動するだけで、彼女に気持ちよくしてもらえる。
そう分かってしまったとたんに、先ほどまで大切にしていたプライドが、手の中から滑り落ちていった。
「あの……その……エマ……」
「なあに?」
「こう、して欲しいというか……」
「して欲しいって、何を?」
「その……性欲処理を……」
恥ずかしさのあまり声が小さくなってしまう。顔が熱くて、恐らく俺の顔は赤くなっているだろうと思う。そんな俺の姿を見て、エマの笑みが一段と深くなった。
「性欲処理って、具体的に何をすればいいの?」
「……っ!」
(こ、このエスっ娘め……)
この程度ではまだエマは許しくてくれないようだった。言葉だけで俺のことを追い詰めて、もっとみっともないことを言って欲しいと伝えてくる、
「エマ……えっと……俺のペ、ペニスを、握ってしごいて欲しい、です……」
「ふふ、ふふふ……。うん、分かった。いいよ。ボクに任せて!」
俺の痴態に、エマはいつもの綺麗で華やかな、満面の笑みを浮かべてくれた。
恥ずかしいことは辛いし、情けない姿をさらすことは悔しいとも感じている。でも、それで君が喜んでくれるなら、もうそれでいいと思った。
「それじゃあ先生、ズボン脱いで?」
「ああ、分かった……」
少女に命令されるままに従って、パジャマのズボンに手をかける。そのまま脱ぎ去ると、俺が期待してしまっている証が、エマの前へと引きずり出された。
(というか、なんで俺はエマに命令されるがままになってるんだ……?)
普通こういう行為は男の方がリードするもののような気がするのに、今は彼女が主導権を握っていて、俺は言われるがままになっている。では今からでも俺が主体的に動けるかと考えた時に、気づく。
そんなこと、俺にはできない。
なぜなら俺はエマに対して罪悪感を抱いているから。お願いであれ命令であれ、何かしら動きを要求することができないから、リードするなんて不可能だ。だからこうしてエマの指示に対して、決して逆らえないでいる。
「じゃあ先生、こっち来て。ボクの隣に座って」
「う、うん……」
呼ばれた通りに歩みを進めて、ぶらぶらとペニスを揺らしながらエマに近づく。そんなこと自分からはできなくて、命令があるから許される。
もはや心のどこかで、彼女の言いつけを待ち望んですらいた。
エマの隣、同じベッドに腰を下ろすと、彼女が俺のペニスに対して手を伸ばし、優しく握ってくれた。ただそれだけで気持ちよくて、体全体がびくりと跳ねる。
「あ、気持ちいい?」
「う……」
「ねぇ、教えてよ?」
「き、気持ちいいよ……」
「そっか、良かった」
そのまま、彼女の手が上下へと動き出す。体全体に快楽が広がって、何かに力を籠めたくなって、ついエマの肩へと手を伸ばしていた。そのまま抱き寄せるとエマとの距離が近くなる。少女の髪の香りが鼻をくすぐって、さらに俺の興奮を煽った。
「先生、甘えんぼさんだ」
「あ、甘え……?」
「うん。そんな感じしないかな」
彼女の肩を握る手はまるで縋り付くようで、体に走る快楽の反射で力を込めてしまうのは、今のが気持ちよかったという伝言だった。そう考えると確かに、これは甘えなのかもしれない。もっとして欲しいと、少女におねだりしてしまっている。
「分かるよ。先生、ボクの手で気持ちよくなってるんだね。幸せに、なってるんだね」
エマの手が竿をこすり上げる。それだけでなくたまに敏感な亀頭を握って、アクセントのように強い刺激も当ててくる。俺がどう感じるか、どのように快楽を得るかが、全てエマの思うがままだった。
「こんなに気持ちいいことなのに、どうして我慢してたの?」
「どうしてって……」
どうして我慢していたのか。消えた社会のルールとか、未成年に手を出す問題とか、かつて考えたことを思い出そうとする。でもそんな難しいことがペニスの刺激に流されて考えがまとまらない。与えられる快楽に知能が落ちて、出てきたのは単純な言葉だけだった。
「君が……その……」
「うん」
「怖がると思ったからだよ……俺が性欲を向けたら……」
「え?」
俺の言葉に彼女はキョトンとした顔をした。完全に予想外のことを言われたという表情は、先ほどまでの淫靡な印象が薄れて、素の表情が覗いている。
そんなに驚くことだっただろうか。
「先生って……ボクが先生のこと怖がると思ったの?」
「そ、そうだよ」
「でも、ボクが先生のこと怖がるなんて絶対あり得ないと思うよ」
「だから、その君からの信頼を裏切るのが――」
「そもそもさ、それは無理なんじゃないかな」
そう言うとエマはあえて握る力を緩める。ほんの少し物足りなくなって、心の中に隙間ができて
「おちんちん握られただけでこんなに可愛くなっちゃうのに――」
その隙間を埋めるように、再び握る力を籠める。
「ボクを怖がらせるなんて、先生にはできないよ」
「あうっ……」
その緩急の動きに、口から喘ぎ声が漏れてしまった。その声を可愛がるように、彼女はクスクスと笑っている。
「お、お前……言っとくけど、可愛いは男にとって褒め言葉じゃないからな……!」
「うーん。そうなの?」
その嘲笑に、明らかに俺を馬鹿にした言葉に、つい彼女に対して使わないようにしていた荒い口調で言ってしまう。そんな俺のささやかな反抗を、弱者の反乱を愛でるように受け入れて、エマは言った。
「なら、先生は可愛いって言われるの、嫌?」
「それは、別に嫌ってわけじゃないが……」
「へえ、そっか……」
俺の返答に、彼女はにやりと笑って続けた。
「先生、ボクに可愛いって言われるの嫌じゃないんだぁ」
嫌じゃないと言っただけなのに、その言葉の裏には、俺がそう言われるのが好きだと言ったかのような含意が含まれている気がした。
実際どうなんだろう。俺は可愛いと言われて喜んでいるのか。嫌ではないが、だが、しかし――
そんな思考もまた、快楽の波に流されていく。
「先生、可愛いね」
少女の小さな手により、度重なり送られる心地よさ。
「すごく可愛い」
それと共に注がれる可愛いという言葉が、俺の心の中で結び付けられていく。
「可愛いよ。大好き」
付け加えられる愛の言葉に、性感だけじゃない幸せが胸の奥からあふれてくる。
幸福に、溺れさせられていく。
何も抵抗なんてできなかった。エマに言われるがままにだけ動いて、彼女のされるがままにじっとしている。ただそれだけで気持ちよくしてもらえる。射精感が、こみあげてくる。
快楽に耐えるように一際強く彼女の体を掴むと、ただそれだけでエマは察したようだった。
「もしかして、出ちゃいそう?」
「あ、ああ、もう少しで……」
「そっか、でもそれって必要なことかな?」
また、エマから突然出てくる意味の分からない言葉。でもこんなことを言い出すときに彼女が何を望んでいるのか、もう予想がついてしまっている。
「ボクがお願いされたのは、手で握ってあげることだけだよ。射精させてほしいなんて、そんなこと言われてないし、勝手に判断できないな」
「エ、エマ……」
エマの手が少し遅くなる。焦らされると思ったとたんに、口からは情けない言葉が漏れていた。
「出させて……」
「んん……?」
「射精させて、欲しい、です……」
「うん、いいよ!」
少女に屈服する服従の言葉に、ようやく満足したのか彼女の手の動きが速くなった。射精させるための手の動きに、どんどんと精液が昇ってくる。
昨日と同じようにエマのもう片方の手がペニスの先端に添えられる。精液を受け止めてもらえる準備ができた。もう我慢しなくていい。そう認識したとたんに一気に上り詰めて、最後の一線を越えた。
先端から、白く濁った精液が放出される。びゅくびゅくと何度も繰り返し、少女の手を汚していく。
その間もエマは優しくペニスを揉んでくれていた。射精を促してくれる穏やかな刺激。昨日よりもさらに深い快感と共に、射精の最後まで、精液を絞り出され続けていた。
■
今日のエマは準備がよかった。枕と共にウェットティッシュも持ってきていたらしく、普通のティッシュで手を拭いた後にさらにそれで綺麗にしている。
水場まではいかずにこのまま寝るつもりなのだろう。実際俺もその方が良かった。一度部屋の外に出て仕切り直し、なんてことはせず、射精の余韻と気怠い空気の中、恋人と一緒に眠りたかったからだ。
性欲処理が終わった後、俺たちは同じベッドに入る。『ハグ』はしていないものの、それでも隣り合った互いの温もりを感じたまま、ピロートークのように寝る前の言葉を交わしていた。
そんな中、とにもかくにも俺がエマに言ってやりたいことは、これだ。
「君って……結構エスなところあるよな……」
「えぇ!?」
俺の言葉に、彼女は意外そうに驚いた。
「そ、そんな、ボク、エスとか、そんな変態さんじゃないよ!?」
「そうか……?かなり君から責められた気がしたんだけど」
「それは、こう、奉仕の心だから!先生に気持ちよくなってほしいっていう優しい気持ちだから!」
(優しい気持ち……?)
そうなのかもしれないが、素直に頷き難いのはなぜだろう。
「だが、結構今日君に笑われた気がするというか……」
「もしかして、凄く嫌だった?止めないとダメかなあ」
「いや、君が楽しいなら俺も嬉しいし、止めて欲しいって程じゃないよ――少し、男のプライドは傷ついたけど」
「そっか、それじゃあ――」
エマが、少しだけ間を置く。布団の中で俺の手を握り、少し熱のこもった声色で言った。
「反撃、しちゃう?」
反撃。つまりは俺からエマの体に触れてしまうということ。それを考えただけで射精直後にも関わらず、もう一度反応してしまいそうだった。
だがそれをしてしまったら、性欲処理の……セーフの範囲を超えてしまう気がする。
「エマは……」
嫌じゃないのか、と聞こうとして言葉が止まった。嫌じゃないと言ってくれる気がして、そしたら本当に止まれなくなるだろう。
ズルズルと、最後までしてしまうかもしれない。
「いや、何でもない。俺からは、その、手は出さないよ」
「ふふっ。先生、ボクに反撃できないんだ」
性欲処理は終わったのに、エマからまた嘲笑混じりの声が聞こえる。
その声に傷つけられたプライドのせいで動きそうになる手を、俺は必至で抑え込んでいた。
原作ではエマちゃんにエスだなんて設定はないけど、pixivとかの絵見てると二次創作ってここまで自由でいいんだなって思ったんです。
なので当方のエマちゃんはエスの素質があります!よろしくお願いいたします!