完璧な順位ですね!いつもありがとうございます!
机の上に広げられた地図には、いくつものバツ印が書かれている。これは全て俺たちが訪れて、水や食料品を主としたいろいろな物資をすでに回収した地点のものだ。その範囲もかなり広がり、近場の物はほぼ回収が終わっていることが分かる。
足を伸ばせばまだまだ未回収の地点はあるが、そのためにはガソリンを消費する必要があるのだ。あらかじめ計画を立ててルートを決めて、効率よく回っていかなければならない。
地図を眺めながら今日の道筋を考えていると、朝食の洗いものを終えたエマが戻ってきた。
「どこ行くか決まった?」
「ああ、決まったよ。じゃあ出かける準備しようか」
ライフルをはじめとして、外に出るなら用意しなければならないものはある。椅子から立ち上がりエマの方を見た時、その歩き方に違和感を感じた。
「……えっと、エマ。今日は君は休むかい?」
「……?どうして?調子悪かったりしないよ?」
「その、だね……歩き方が変だから、もしかしてまだ痛いのかなと思ったんだが」
「う……」
俺の指摘に、エマは顔を赤くしてうつむいてしまった。あまりにも直接的な指摘だったかもしれないが、無理をさせるわけにもいかない。
「全然平気だよ!ちょっと……その……お股が変な感じなだけで……」
「そ、そうか」
彼女がそう主張するなら、これ以上この話題を深堀することもできない。
外出前に、車のエアコンだけ先に効かせておこうと部屋を出る時に、エマの方から声をかけてきた。
「あ、あの、先生……!」
「ん?」
振り返って彼女の顔を見る。その瞳が揺れていて、何か思い悩んでいるような印象を受けた。
「その…………先生は今、ちゃんと幸せ?ボクは、ちゃんと頑張れてるかな」
「……ああ、もちろんだよ。君のおかげだ」
「そっか……。うん、ありがとう」
その表情から不安感を感じ取ってできるだけ穏やかに言うものの、彼女の表情から暗さを拭い去ることはできなかった。
何を考えているのだろうか。エッチした翌日に自分が相手を幸せにできるか考えるのは、むしろさせてもらった男の側の思考ではないだろうか。
…………いや、させてもらった、などというのはあまりに男視点に立った考えすぎるか。逆にエマはさせてあげたとは考えていないだろうし。なら彼女がさせてもらったと感じているのだろうか。
(分からないが……今聞いても平気だって言われそうだな)
初めての直後だけの、一時的な精神不安の可能性もある。とりあえずは彼女のことをよく見ているしかできないだろうと、そう判断するしかなかった。
■
物資を回収するための地点として、コンビニはかなり優秀な場所だ。
もちろん備蓄量という意味ではスーパーや公共施設には劣るが、それらに比べると店舗自体がとても狭い。
つまり、バックヤードから表に止めた車までの移動距離が少なくて済むため、運び出す時間だけで言えばとても短く済ませることができた。量を回収するためにはあちこちの店舗を回らねばならず移動時間はかかるものの、それでもメリットの方が大きい。
水に缶詰、カップラーメン。ボディーソープなどの洗剤類。そして俺が使い捨てる下着類などをかごに入れては、すぐそばの台車に乗せていく。手慣れた作業を続けている間に、普段だったら見ないふりをしていた商品をつい手に取ってしまった。
ゴムである。
(必要、だよな……)
もうしない、と言えればよかったのだけれど、もはや俺は俺自身をそこまで信頼していなかったし、我慢する必要もないと思った。
そして現状で子供を作ることが正しいかというと、それもまた自信が持てない。
食べ物の事、環境の事、考えなければならないことはいくつもあって、当面はこれを使った方がいいだろうと
そんなことを考えながらパッケージを見つめているさまを、エマに見つかってしまった。
「せ、先生。それ……」
「あ、ああ。これも持って行った方がいいかなと思ってだな」
バツが悪い思いをしながらも、隠すことでもないだろうと思う。これは二人の間の事なのであるし。
「子供ができたら、その、色々大変になっちゃうからね。するときは必ずこれを付けるように――」
言い訳をするような心地でエマに対して説明する。その瞬間だった
「ちょっと待った!!」
ハリのある声と共に、エマがぴしっと俺に指を突き付けてくる。どこかでパリーンとステンドグラスが割れるような幻聴が聞こえた気がした。
「これからのことを考えたら、子供を作るのはデメリットばかりじゃないと思うんだ。昔の時代は子供だって労働力だったんだしね。それにボクらがもっと年を取ったときに、二人だけで老後を過ごすのも寂しいよ」
「そ、それはそうかもしれないが、単純な話でもないだろう。寂しいと感じてから作ることにしても……」
「それはおかしいよ!」
再び放たれる反論。何かが割れる幻聴。場の主導権を、完全にエマに握られた。
「寂しくなってからって、それはいつ?高齢になってからの出産は負担も大きいし、未来の方向性を定めるなら出来るだけ早い方がいいんじゃないかな」
「いや、だが君はまだ……15歳だろう?未成年ならむしろまだ体ができてなくって、逆に早すぎて危険なんじゃないか?」
「ううん。そんなことないよ」
エマがそう言ってポケットからスマホを取り出した。ちらりと魔女図鑑と書かれていた気がする何かを開いて、写真を俺に見せてくる。
「これがその証拠だよ!」
画面に映っていたのは、とある書籍の表だった。どうしてそんな証拠品を撮って、ここに持ち歩いているのだろうか。こんなこともあろうかと?うん、そっか……。
「この国の統計データだよ。女の子の身長は15歳までで伸び切って、大人と変わらない数値になるんだ。体ができてない、なんて言えないんじゃないかな」
「それは……そうだが……いや、でも衛生環境を考えると、危険な気もしてだな……」
「賛成だよ!」
賛意を示してくれているはずの発言に、なぜか嫌な予感がした。まるで追い詰められた犯人のような気分で、エマの言葉を聞く。
「確かに衛生環境って大事だよね。出産は母体にとっても負担が大きいし、生まれてきた乳児がちゃんと大きくなれるかにもかかってくる」
「だ、だろう?だからな……」
「でもその衛生環境って、これからよくなるのかな?」
「え……?」
「待っていればそのうち病院が再稼働する、なんてこともないんだよ?むしろまだ残っている薬の使用期限を考えれば、今が一番衛生環境がいいんじゃないかな」
たしかに、文明の遺産である医薬品には使用期限がある。そして大きい効果をもたらす薬であるほど使用には慎重にならざるを得ず、期限切れには気を付けないといけないだろう。
「薬だけじゃない。保存水だって使用期限があるんだ。ボクが18になるまで待って、そのあと
「うぐ……」
完全に言い負かされてしまった。確かにエマの言うことは全て正しい。いつか子供を作るならばできるだけ早い方がよく、それは今すぐというのも十分ありだった。
「あの。あのね?えっと、もしかして……」
エマが、こちらに近寄ってくる。俺の手を取り、上目遣いで言った。
「疑問なんだけど、先生はボクと子供作るの、嫌?」
最後の最後、その疑問で止めを刺されてしまった。
「い、嫌じゃないです……」
「じゃあこれはいらないね!」
するりと俺の手からゴムを抜き取り、商品棚へと戻した。その後エマは商品が積み重なった台車を掴み、店の外へと出て行ってしまう。
流れるような鮮やかな動きに何も言えないままに、俺は近くに置いてあったもう一つの台車を引き寄せて、次の商品を積み込み始めた。
(今朝不安そうな顔を見た時には、最後までしたことを後悔しているのかと思ったけど……それはないな)
本人は気づいてないかもしれないが、理路整然と論理を組み立てた結果の主張は、『生で入れて中に出して』である。ちょっとエッチ過ぎるな。
ともかく、もしかしたら順序としては逆なのかもしれない。エッチしたから不安なのではなく、不安だからエッチなことをしたがったり子供を欲しがったりするのだろうか。
どうにかして何を不安に思っているのか聞きだしたいところだが、理由のない不安感だってあり得るし、それなら質問して言語化させてあげないといけない。
(今晩、何とか聞き出せたらいいんだけど)
ピロートークの時にでも、と、ナチュラルに今日も性的なことをする前提に考えていることに気付く。
俺も変わったなと思いながら、いっぱいになった台車を押して、エマのいるコンビニの外へと出た。