俺は夜の自室で、一人で風呂上りに気分を沈ませていた。
子供たちの墓を思い出す。そしてこの手に染み付いた、皆の死体と血と臓物の感触を。孤独な世界を歩き回った、まさしく地獄と言える日々を。
俺自身は、もう乗り越えたと思っていた。エマと共に日々を生活して、未来を向いて生きていると。
だが、今日のエマの様子を見て、俺まで引きずられて暗い気持ちになり、思い知らされたのだ。
みんなみんな死んでしまって、もう俺達しか残っていないのだと。
そんな事実に直面させられて、こうしてただただ落ち込んでいる。今日はもう酒を飲んで寝たいなとかつての世界だったらそうするが、今はそれどころではない。
今日の俺の失敗。それによるエマの心情について、考える必要があった。
これまでもエマの精神が不安定になることはあったけれど、あの様子は明らかに異常だった。
せっかく彼女のメンタルが落ち着いてきたのに、あの日のことを思い起こさせてしまったのだ。
「エマに、なにがあったんだ……?」
ろくなことでないのは分かる。きっと想像を絶するような出来事が起こったのだろう。だがしかし、俺はそれを知らない。
今まではそれを聞こうとは思わなかった。思い出さずに忘れることができるなら、それが一番いいと思った。でもこのままでは、知らないままでは、慰めてあげることもできない。
ジャブ程度に、軽く聞いてみるべきか。あるいはまた彼女が落ち着くまで待った方がいいのか、むしろここでけりをつけるべきなのか。
分からない。絶対にうまく行く選択肢なんてない。だって俺はその内容を知らなくて、情報がないからだ。
情報だ。エマの当時を知らなければ、正しい判断なんてできはしない。だからもし聞くことが間違っていたのだとしても、話を聞いたその後でより良い道を考えるしかないんじゃないか。
そんなことを考えていると部屋にノックの音が響いた。エマもお風呂から上がったのだろう。俺は椅子から立ち上がり、意識的に笑顔を作ってドアを開けた。
「どうぞ、エマ。入っ……」
ドアを開けて、彼女の姿を見る。その様子は普段と異なり、異様と言っていいものだった。
エマは、全裸だった。最低限体を拭いているものの、髪を乾かしてはいないのだろう。ポタポタと雫を床にこぼしながら、それを気にすることも立っている。
何よりもおかしいのはその表情だ。感情が抜け落ちたかのような何もない顔からは、その心の内を読むことができない。その瞳には光がなく、どこか呆然と俺を見る様は死んでいるかのようだった。
「ねえ、先生」
そんな、亡霊かと思うような彼女が、声を発して
「エッチしよう?」
明かりのない廊下の暗闇から、昏い瞳で、俺のことを誘ってきた。
まずい、と、そう思った。直接的な単語を使った誘いがエマから出るのが初めてだとか、そんなことを気にする余裕もない。明らかに今の彼女は精神に異常をきたしている。
今ここで手を出したら、多分ろくなことにならない。
「エマ」
できるだけ優しい声で名前を呼んで、ぽんと彼女の頭に手を置く。濡れた髪が俺自身の手の平と、服の袖をほんの少しだけ濡らした。
「髪を乾かさないと、風邪をひくかもしれないよ。それが心配で、別のことに集中することなんてできないよ」
「…………」
彼女の頭をなでるように手を動かしても、恐ろしいほどにエマは無反応だった。
「まずは髪を乾かして……まだ飲めるココアの粉があるから、それを温かくして作ろうか。温泉からここまで裸で来たのなら、きっと体も冷えちゃってるしね」
エマの頭から手を離して、とりあえずタオルでもう一度髪を拭いたほうがいいと、そう思った時だった。
「ねえ、先生」
彼女に呼び掛けられる。それだけで俺は動けなくなった。
いや違う、動けなくなったわけではない。ただ視線が、彼女の姿から離せない。
暗い表情からはいつもの笑顔が消えているのに、無邪気さの消えたことがかえって、整った顔立ちの美しさを際立たせていた。
髪から落ちた雫が彼女の肌の上を流れていき、その丸い膨らみと、桜色の先端の先へと滑る。
さらにその下。彼女の性器すら隠されることはなく露わになっていた。初めて見た時はほぼ閉じていたそこは、他ならぬ俺自身のペニスに何度も調教された結果、以前より少し開いている。
そして俺は、その奥にある穴が、とても気持ちいいのだと知っている。
体の奥から興奮がこみあげてくる。交尾したいという、とても単純で愚かな欲求が俺の下腹部を熱くさせた。
今はそんな場合じゃないと思っているのに、それでもやはり視線が外せない。タオルを取るために振り返ろうと思ったはずなのに、そうすることができない。
「ねえ、先生」
エマが、俺へと3度目の呼びかけをして。
「【エッチしよう?】」
気付けば、エマの手を掴んでいた。無理やり引いて部屋の中へと引きずり込み、投げるかのようにベッドの上へと押し倒す。
開けっ放しのドアからは廊下の暗がりが覗いていたが、それをわざわざ閉じるのも面倒だった。
「あ、あは、納得してくれたんだ。そうだよね。先生も気持ちよくなりたいんだもんね」
エマは『先生も』と言った。つまり当然エマもしたいのだ。ならもうそれでいいだろう。彼女の言うとおり、望み通りに、この情欲に押し流される。
彼女の好きなことは知っていた。エマの上にのしかかり、彼女の首筋に歯を立てる。そしてほんの少し噛むと、それだけで甘い嬌声を上げた。
「あっ……あぁっ……先生……【もっと強く、して】……!!」
その言葉を聞いて、顎の力をさらにこめる。甘噛みという加減を越えて首に牙を突き立てる行為は、獲物をしとめる肉食獣のようだった。間違いなく痛みがあるだろう強さだが、それでも少女は嬉しそうに体をくねらせる。
その間も両手は動き、その体を愛撫する。脇をなで、乳房を揉み、乳首をつねる。さらに彼女の下着の中に手を伸ばして穴に触れた時、ぬるりという感触と共に簡単に中へと潜り込んだ。
たった数分。それだけの前戯で、彼女はひどく濡れていた。
これならすぐ、エッチできる。
そう思ったら、体は即座に動いた。自分自身の衣類を脱ぎ捨てて、エマの前で裸身を晒す。ペニスはすでに大きくなっていて、少女の中を犯したいと全力で主張をしていた。
その衝動のままにエマにも手を伸ばして、その両足を割り開く。彼女の割れ目はやはり濡れていて、今この瞬間もとろりと愛液が溢れ出すほどだった。
そんな秘所にペニスをあてがい、ほんの少しだけ中に入れる。後は腰を前に突き出すだけで奥に入れられる。そんな状態で改めて顔を上げて、エマの様子を見る。
エマは、相変わらず光の無い瞳で俺のことを見つめていた。
俺のつけた首筋の歯型から、赤い血が滲んていて痛々しい。男の力に抵抗することなく蹂躙された未成熟な体が、ベッドの上に横たわっていた。
(こんなの……まるで俺が無理やり乱暴しているみたいだ……)
これでいいのだろうか。これが俺のするべきことだろうか。これが俺のしたいことだっただろうか。そんな葛藤が、下半身に支配された俺の体の動きを止める。
何か言わないといけないのにまとまらなくて、頭の中で言葉を探す。そして、口を開いたのはエマの方が先だった。
「先生、【来て】……?」
その言葉に、心の迷いは吹き飛んだ。
容赦なく腰を前に押し出して、少女の中を犯していく。ぬめ付いた粘膜にペニス全体が締め付けられて、たまらない快楽が全身に走った。
その気持ちよさに、つい俺の口からも音が漏れる。その瞬間、ようやくエマが嬉しそうに笑ってくれた。彼女が笑ってくれるなら、きっとこれでいいと思った。
ペニスが一番奥まで届いて、彼女とまた一つになる。大好きな女の子との交わりが、ただただ幸福をもたらしていく。その幸せがもっと欲しいという欲求に従って。俺の腰が前後に動き出した。
「先……生っ……あ!……あん!」
俺の腰の動きに合わせて、エマがリズミカルに声を漏らす。彼女の頬に赤みがさして、ほんの少しだけ生気が戻った。
そんな、セックスに依存し始めた少女を、それでも快楽のために犯していく。まるで精神的に不安定な家出少女を、部屋に連れ込んでセックスを教え込んでいるようだと思った。
あるいは、依存しているのは俺の方かもしれない。みんなを失った苦しみや悲しみを誤魔化すように、こうやって快楽に溺れている。世界の現状も、皆の死も、この手に残る死体の感触も、全てこの悦楽で塗りつぶしたかった。
「エマ…………エマッ…………!!」
すがるように彼女を求める。離したくないと、失いたくないと、そんな思いを示すかのように彼女の腕を掴んでベッドへと押し付けた。
激情のあまり、つい力をこめすぎてしまう。男の握力で握られて痛いだろうにも関わらず。エマむしろ嬉しそうにしていた。
「ねぇ……。ねぇ、気持ちいい?ボクの体、んっ、いい?【教えて】、先生!」
「あ、ああ!エマの体気持ちいよ!気持ちいい!!」
彼女の問いに、取り繕わない本能のままの言葉が漏れる。優しさのカケラもない、ただ彼女の体だけを見てるかのような発言は、確かに俺の本心でもあった。
「あっあは!そうだよね!先生エッチなこと、あんっ、好きだもんね……!ボクの体、大好きだもんね!!」
「好きだよ、エマ、大好きだ!」
いつもいつも、彼女のことを想って口にした好きという言葉。なのにこの場で、ベッドの上で語られる愛の言葉は、どこまでも身勝手で薄かった。
そんな風に、客観視している自分がいる。ただ自分のためだけの動きが間違っていると思うのに、快楽と本能に抗うことができずに彼女の中の感触を味わい続ける。
「ボクね、ボク何でもするよ!先生のために何でもするから……だから……!」
エマもまた気持ちよくなっているはずなのに、なぜか泣きそうなようにも思えた。あるいは、俺が泣かせているのだろうか。やはり良くないことをしているのではという、疑問が少しだけ浮かび上がる。
それでも、腰の動きが止まることはない。だって今はエッチをしなければならないから。
射精欲がこみあげる。射精して、彼女の中を汚して、気持ちよくなってしまいたい。
だが、恐らく彼女はまだイかない。どうせなら一緒にイきたいと、俺一人だけ気持ちよくなるわけにはいかないと思って、エマの腕を開放して彼女の胸へと手を伸ばした。
ペニスの動きを緩めて射精までの時間を引き延ばす。その間に彼女の乳首を転がして、エマの性感を高めていく。
そんな俺に対して、エマは自由になった腕を伸ばしてきた。ハグを求めるかのように両手を広げられれば拒むことはできず、左手を彼女の背にまわし、上体を前に倒して抱きしめあう。
それでも右手だけは、彼女のことを責め続けてどうにか一緒にイかせようとした。けれど――
「先生。【動いて】……?」
ただの一言で、再び下半身が動き出す。彼女に求められば拒否などできず、何度もその奥底をついて、もたらされる快楽に俺一人が絶頂へと向かう。
「エ……マ……ごめん……!俺、もう………!!」
「いい、よ。先生。んっ!ボクで気持ちよくなってくれたら、嬉しい、から……!!」
それでも必死に絶頂を耐えて、エマも気持ちよくさせようと無謀な攻めを繰り返す。
そして
「だからね、先生……我慢しないで、【射精して】?」
「あっ……!」
体中がドクンと震えた、その直後にエマの中へと俺の体液が溢れ出す。左手で強く少女の事を抱きしめる。胸に置かれた右手は彼女を気持ちよくさせる余裕はなく、ただ手の平で感じる柔らかさでより俺を興奮させた。
「【もっと出して】」
「あっ……あぁ……っ」
再び体が跳ねて、精液が漏れる。何度も何度も繰り返す波の中に、脳が焼かれるような俺の頭を埋め尽くす。
普段であれば、そろそろ射精は止まるはずだった。なのに今日はやたらと長く続いて、その間ずっと俺はエマに抱きしめられ続けていた。
■
全身の倦怠感に体を起こすこともできないまま、それでもようやく呼吸が落ち着いてきた。
今日の射精は今までにないほど長く、気持ちよかった。気持ちよすぎて体に悪いんじゃないかと思ったほどだ。
それでも時間と共に理性が戻って、思考能力が回復してくる。やはり今日のエマは……あるいは俺も、何か様子がおかしかった。一度ちゃんと話をした方がいい。
「なあ、エマ。今日の事なんだけ「先生」」
俺の言葉を遮るように、上からエマの声が覆いかぶさる。続きを言ったはずなのに、なぜかその言葉は俺自身にすら聞こえなかった。
「ボクとのエッチ、気持ちよかった?」
「え、えっと、そうだね。気持ちよかったよ」
「だったらさ……【もう一回しよう?】」
気付けば、再びエマを押し倒していた。すでに出し尽くしたはずのペニスは立ち上がり始めて、彼女を犯す準備を整えている。
「えへ、えへへ、先生。大好きだよ。大好き!」
「ああ。俺も好きだよ。エマ!」
そうして俺は、再び彼女と肌を重ねあう。
閉じ忘れた部屋のドアは、あいも変わらず開いたままだ。その外の暗闇に目を背けたまま、俺たちはその後、何度も互いのことを求めあった。