「ボクに話をして、少しは落ち着いたかな」
先ほどよりは、呼吸のリズムもゆったりしてきた咲恵に言った。
「そうですね。瑞樹さんに話すのは勇気がいりましたけど、それでも話せて良かったと思います。でも、これで私の罪が消えたわけではないんですよね」
そう言って咲恵は顔を曇らせて目を伏せた。
「そりゃあ、倫理的に言えば決していい事とは言えないんだろうけど、咲恵さんもお母さんも、自分の欲求を遂げるためにした事じゃないと思ってる。弟さんへの優しさから起きたことではないのかな」
「そうなんでしょうか。わたし自身、よくわからないのです。母も、どんな気持ちであんなことをしたのかもわかりませんし」
「咲恵さんは女性だからわかんないかもしれないですけど、男性は欲情して勃起するだけではないんですよ。ちょっとした刺激でも、勃つことだってあるんですよ。あと『朝勃ち』とかもあるし」
「はぁ」
咲恵は、もちろんそんなことは知らないらしく、不思議そうに返事した。
「朝勃ちというのは、朝に目覚めた時勃起してることを言って、性的なものが原因ではなくて生理現象みたいなものだそうです。ボクも子供の頃、おふくろにトイレの介助をしてもらっていた時、朝勃ちしていて驚かれたことがありました。ボクも何で大きくなってるのかわからなかったし、勃起してるところをおふくろに見られてもなんともありませんでした。勃起すると何が起きるのかとかわかってから恥ずかしかった覚えがあります。ボクの勃起したペニスを初めて見たのはおふくろだったと思います」
「それは、仕方ないですよね」
「ボクには、弟さんの状態がよくわからないですが、性的な感覚で勃起していたのかただの生理現象だったかは確信が持てないですね。ボクが前に障害者施設にいた時、知的障害のある子がいてお風呂の時たまに一緒になる時があってペニスが勃ってる事があったんです。でも本人はそんなことわかってないし、周りも『立派のもの持ってるなぁ』なんて言って静観してましたね」
「うちの弟も、ただの生理現象だったんでしょうか。でも私たちは射精までさせてしまった」
「そうですね。それは、弟さんにとっては悪いことではなかったのでしょうけど、その行為の相手がお母さんとお姉さんというところには問題がないとは言えませんよね」
二人は答えのない問題に、困ってしまって気まずい空気が流れてしまう。
「弟さんのために、という気持ちでしてしまったんでしょう。そういう気持ちでいないと、いつまでも自分を責めることになってしまうので」
「わたしの都合のいい言い訳になってしまいそうですけどね」
「お母さんは、息子のためにだったと思いますよ。母性本能というか。そういう話は、世の中にたくさんありますから。咲恵さんも、たぶん母性本能だったんですよ」
「はい。瑞樹さんにそう言ってもらえると、少し気が楽になった気がします」
「まあ、忘れられない記憶なんでしょうけどね」
瑞樹の言葉を聞いて、何かに気がついたように咲恵は目線をあげて思いがけない言葉を口にした。
「わたしに、新しい記憶を上書きしてくれませんか」