ボクの前に現れた律子という女性は、お上品な物腰からボクより年上なのか、しかし小柄でお人形さんのような端正な顔を見ると、ボクより年下に見えた。
「はじめまして。瑞樹です。今日は、お招きありがとうございます」
「瑞樹さん、ここは少し居心地が悪いでしょ?わたしの部屋に行きませんか」
「わかりました」
律子に案内されて、個人の家とは思えないくらいの大きさのエレベーターに乗り二階にある部屋に通された。女の子らしい色調の部屋は、かなり広くベッドもあり車椅子でも飲食に適した高さのテーブルがあった。向かい合わせにテーブルに着き、母親は飲み物を持ってくると言い部屋には二人だけになった。
「わたし、知り合いの人たちには『ずけずけものを言う女』だと言われてます。初対面のあなたにも装飾を施したような物言いはやめて、いつも通りのわたしの言葉でお話しさせてもらってもよろしいですか?」
律子は、真っ直ぐにこちらを見て言った。
「もちろん、かまいません。ボクも、その方が話しやすいですし」
「ありがとう。わたし、来年で30歳になります。瑞樹さんより、少しお姉さんと言うことになりますよね」
「そうですね」
「それで、わたし30歳になるまでに、処女を捨てたいと思ってます」
「はい」
「まあ、100%処女だと言える自信はないのですけどね」
律子は、おどけたような笑顔でそう言った。
「それは、どう理解すればいいのでしょう」
「瑞樹さんは、同業者だからわたしの状態もわかると思うんだけど。わたしは全身に麻痺があるの。曲がりなりにも自分の自由になるのは首から上と、この右手だけ」
「ボクよりは、麻痺の範囲が広いですよね」
「だけどね、ちゃんと快感を感じるところは気持ちいいのよね。このおっぱいだって、女性器だって感じるのよね。瑞樹さんのペニスだって勃起するでしょ」
「もちろん、そうですよ」
「だから、わたしね、どんなに気持ちいいのかと思って。ネットで、大人のおもちゃを買って、あそこに入れてみたの」
「で、100%処女じゃないということなのですね」
ボクがそう言うと同時に、待っていたかのようにドアをノックする音が部屋に響いた。
「お飲み物をどうぞ」
母親が、ワゴンにアイスティを乗せて入ってきた。テーブルにグラスを置く瞬間、ボクに鋭い視線が向けられたように思えたが、母親はそれ以上なにも言わずに部屋を出て行った。
律子は、グラスに刺さったストローでアイスティを口に含んだ。
「瑞樹さんは、今まで何人の女性とやったの?」
律子のストレートな物言いに慣れていないボクは、飲もうとしていたアイスティをこぼしそうになる。
「やったの?と言われても」
「ごめんなさい。何人の女性といたしたの?いえ、何人の女性と経験したの?って聞けばいいのかしら。お母さんが聞いていたら、言葉の選択が悪いって怒られそうだわ」
笑いをこらえて肩を揺らしながら、律子は言った。
「それは、初めての男に値するかどうかの面接の質問ですか」
「違うわよ。あくまで世間話ということです。まさか、童貞ですとは言わないでしょ」
「お互い初体験同士をお望みなら、残念ながらご希望には沿えませんね」
「あら、残念。で、何人の女性をご存じなの」
年上とは言え、処女の女性にからかわれているようでいい気はしない。
「経験人数は、5人以上10人未満です。ちなみに、そのうちの2人とは、今でも彼女です」
少し、ふっかけて言ってみたのだけれど、律子はあまり驚いた様子もなく言った。
「それって、テクニシャンなの。それとも、瑞樹さんの持ち物がすごいとか」
「両方とも、違うと思いますけど」
この律子という女性は、数少ない自由になる口上で生きてきたのだなと思った。
「わたしの初めての男性が、お互いの痛みを共有出来て、経験豊富な方だとわかって安心したわ」