その場にいた全員が、飲み物で口を潤し落ち着きを取り戻す時間を過ごした。少しの沈黙の時が過ぎて、節子が会話のスタートを切った。
「あのね、わたしは律子のお願いは、叶えてあげたいと思ってます。だから、男性とセックスすることは認めます。ただ、その相手が瑞樹さんでいいとは、まだ認めたわけではないのよ」
その節子の言葉に驚いて、ボクと律子はお互いの顔を見た。
「お母さん、何を言っているの。わざわざ家まで来てもらってるんだし、私も瑞樹さんならいいかなと思ってるのに」
「それは、お母さんにも瑞樹さんならいいんじゃないかと思ったわ」
「じゃあどうして、そんなこと言うの」
目の前で繰り広げられている親子の論争を、ボクは黙って見ているしかなかった。
「だったら、どうするのよ。せっかく見つかった男性なのに」
律子は、ようやく母親に許しをもらえて安心していたのに、難癖をつけられたみたいで頭の中が混乱していた。
「瑞樹さんが、ダメだといっているわけではないのよ。ただ、律子とセックスする前に、わたしが瑞樹さんのカラダを試してみたいのよ。律子の最初の相手として相応しいかどうかを」
その、母親たる節子の予想外の提案に、ボクと律子はますます混乱していた。
「それって、どういうことなの?」
理解の糸口を見つけようと、律子は母親に聞いた。
「わたしが、瑞樹さんと模擬的にカラダを重ねるって言えばいいかしら。もちろん、律子にも立ち会ってもらおうと思うの」
「お母さんと、瑞樹さんがエッチするってこと?」
節子も、上手く説明出来ない自分に少し苛立ちを感じているようだった。
「うーんっと、わたしは律子が誰よりも大切なの。だから、ちゃんと確かめておきたいのよ。律子が大人のおもちゃを買った時、穴が開くほど調べたの。それと一緒なのよ」
「お母さんは、わたしとやる前に瑞樹さんのカラダをあちこち調べたいってことなの?お母さんから見れば、わたしも瑞樹さんも子供みたいなもんなんだろうけどね。瑞樹さんは、れっきとした男性なのよ。お母さんには夫という人がいるじゃない。その人はいいの?」
律子は、お父さんとは言わないのだなとボクは思った。これは、萌も同じように父親、お父さんなどと呼んでいなかったなと改めて思う。自分に愛を注いでくれていない人間を父親とは呼びたくないのであろう。
「律子ももう大人だから、わかっているとは思うけど、もうすでに夫婦とは名ばかりの存在になっているのだから。若い愛人もいるし、その女の間に子供だっているのですよ。ですから、わたしが浮気しようがあの人に文句は言わせませんよ。もちろん、今回のことは浮気だなんて絶対そんな気持ちで言っているのではありませんし」
律子は、母親の思いの強さに戸惑っていた。
「ねぇ、黙っているけど、瑞樹さんはどうなの」
「お母さんの、仰ってることはわからなくもありません。大事な娘さんの相手をまかす男ですから、どんなカラダをしてるかということも心配なのでしょう。まあ、身体検査みたいなモンでしょうから仕方ありませんよね」
「じゃあ、後は律子の判断次第ですよね」
まとまらない思考を持て余している律子は、意を決したように言った。
「仕方ないわね。わたしもわがままを言っているんだし。わたしが立ち会ってるんだから、変なことは起きないだろうしね」