※この作品はR-18です。

不自由と快楽との狭間に   作:Anthony Blue

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145.鼓動

「それは、ちょっとわがままを言いすぎですよ」

 

 ボクが断りを言う前に、節子が突飛な提案を制した。

 

「えぇー。もう瑞樹さんのおちんちんはわたしの手の中にあるのよ。少し顔を近づければ、口に入れることだって簡単なのに」

 

「物事には、順序というものがあるんですよ。律子さんは、瑞樹さんのおちんちんさえ手に入ればいいと思ってるんですか」

 

 節子は、落ち着いた声で言い含めるように静かに言った。

 

「わかったわ。わたしも、少し興奮してわがままを言い過ぎました。ここで焦ってしまって、わたしの処女を捧げることが出来なくなったら、これから一生後悔することになるものね」

 

 律子は神妙な顔になり、ボクのペニスから手を離した。

 

「瑞樹さん、ありがとう。これで一歩前進した気がするわ」

 

「律子さんの経験値が、ひとつ上がったなら良かったです」

 

「うん、すごい経験だったと思う。どんなにエッチな画像を見たって、本物のおちんちんの感触なんてわからないものね。わたしの手でも、男の人を喜ばせてあげられそうだって思えただけで自信がついたし」

 

 律子は、今までペニスを握っていた右手を、見えないペニスの太さに形取って見つめた。

 

「まだ、瑞樹さんのおちんちんの鼓動がわたしの手に残ってるの。それと同じくらい、わたしの心臓もドクドク動いてるの。わたしもあなたも、生きているんだなぁって思っちゃった」

 

 目を閉じて右手を自分の胸に当てて、自らの鼓動を律子は確認していた。

 

 障害者だけではないかもしれないけれど、障害者だからこそ自分の死というモノを身近に感じていることは確かだ。同年代の障害者が、突然亡くなるということも決して少なくはないと思う。だからこそ、生に対する執着心も大きいのかもしれない。律子が30歳になるまでに処女に別れを告げるというのも、生きている間、元気でいれる間に出来ることはしておきたいという気持ちがあるのかもしれない。

 

「実際、見て触って期待は高まりましたか。それとも、怖くなりましたか?」

 

 ボクは、少し律子が感傷的になっているのか確かめるように聞いてみた。

 

「前よりはずっと、期待の方が大きくなったわ。だって、本当に生きてるもの同士がぶつかるって感でしょ。生物としての最大の目標は、自分の遺伝子を残すことでしょ。そのための生殖行為だもん。わたしたちは、本来の目的からは少し外れるけど、それでも生命の起源となる行為を体験出来ることは、生きてるからだこそだもんね。楽しみで仕方ないのよ。うまく出来るかには、多少不安はあるけどね」

 

 開いた瞳には、キラキラ光る希望が見えたようだった。

 

「ボクも努力は、惜しまないつもりです。でも、考えてるよりは、案外何とかなるもんですよ。そのために、お母さんのサポートもあるんですから」

 

 事実、ボクが見ても心配しそうな結構重度の障害者の夫婦も、ちゃんとやることはやって楽しんでいるよと聞いたことがある。具体的にどんな風にしているかまでは、プライベートな問題だし聞くことはしなかったが、聞いておくべきだったと後悔はしている。

 

「大丈夫ですよ。わたしがついてますから。それに、それを今から面接するんですもん」

 

「そうでした。まだ、合格通知はもらってないんでしたね」

 

「さあ、体を拭きましょうね」

 

 節子は、バスタオルでボクの体を拭き、律子と入れ替わるようにボクの車椅子をバスルームに入れてボクを抱えて乗せた。バスタオルで大切なところを隠して裸のままバスルームを出た。

 

「面接会場は、わたしの部屋ですからね」

 

 節子は、ボクの車椅子を押しながら言った。後ろからは、律子が乗る車椅子のモーター音が追っかけてきていた。

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