しばらくの間、二人は頭を逆方向に向けて、お互いの足をクロスする形で動けないでいた。時と共に落ち着いてきた呼吸音と共に、ボクのペニスも平常の状態に戻っていった。
「あー、絶頂を迎えずに元に戻ってしまいましたね」
美貴は、起き上がって元気のなくなったペニスに手を伸ばして言った。力なきボクのモノを手のひらに包み込んで、口を近づけようとしているのを見て、ボクは部屋中に響くような声で叫んでいた。
「もう、やめて」
「だって」
「もういいんだ。あなたは、もう十分楽しませてくれたし、楽しんだはずだ」
「ほんとに?」
「ああ、いいんだ。これ以上、自分の価値を下げなくていいから」
「そんなこと言うんだ」
「あっ、ごめん」
「わかりました。もらったお金の分は奉仕したからね。あなたが逝こうと逝くまいと、私には関係ないわよね」
ボクは、ほんとは言ってはいけないことに触れてしまったようで、後悔の気持ちが胸に湧き上がった。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃ」
「いいのよ。私もあなたが車椅子で、どこかにかわいそうっていう気持ちがあったのかもしれない。せめて、最後まで逝かせてあげたいって思ったのかもしれない」
気まずい空気が、部屋に充満して息苦しくなって沈黙の時が流れた。
「私、シャワー浴びてきますけどあなたは」
「ボクはいいです」
「そう、じゃあ」
静寂の流れを破ったのは美貴だった。シャワールームに行く姿を見送って、ボクはのろのろと起き上がって車椅子に乗り移り、脱ぎ散らかした服を拾い集めて身支度を始めた。少しして美貴がシャワールームから戻ってきた。バスタオルをカラダに巻くでもなく、カラダについた水滴を拭きながらボクがいる反対側のベッドサイドに立った。もうあえて隠すこともしない美貴のカラダは、どこか疲れているように見えた。年齢だとか、体型がだとかではなく、生活に疲れているのだろうなと思ってしまう。ついつい視線を送っていることに気がついた美貴は、ショーツをはきながらボクに言った。
「お母さんみたいな歳の女を抱いた感想はどうでした。やっぱり、若くてスタイルのいい女の子じゃないとダメだった?」
「いえ、そんなことなかったですよ」
「そう言いながら、一回も射精もしなかったよね」
「それは、ボクの精神状態の問題というか。美貴さんは美貴さんの良さがありましたよ」
「ほんと」
「はい。本当の女性というのはこんな感じ方をするんだなと、新鮮な驚きがありました。女性ってこんな風に絶頂を迎えるんだなと」
「人間じゃなく、獣みたいだって思ったでしょ」
「ボクの愛撫で、ちゃんと喜んでもらえるんだとうれしかったですよ」
「瑞樹さん、口が上手ですよね。女の子にモテるでしょ」
「モテてたら、こういうことしてませんよ」
「そうよね」
ブラジャーに豊満な乳房を詰め込みながら美貴は、少し淋しそうに微笑んだ。
「こんなことしてる私が言えることじゃないわね」
「生きていくのは誰でも大変ですよ」
ボクたちは、身支度を終えてホテルを後にした。ほとんど話もせず駅に着くと
「じゃあ」
「はい」
と、短い挨拶を交わして別れた。次の約束もしなかったのはお互いの意思だったのかもしれない。
家に帰ると、思いのほか疲労感に襲われて、ベッドに横たわった。今までとは違った、経験をした。あれだけの快楽を与えられて、それでも射精に至らなかった自分にも不安を覚えていた。頭の中には、咲恵の美しい姿態がはっきりと思い浮かぶ。あの、忘れがたい記憶がボクの心を支配しているのかなと考えていると睡魔が襲ってきて眠りについた。