「純情な大人をからかうもんじゃない」
「わかりました。お風呂入ってくるね」
そう言うと萌は、立ち上がりバスルームへと姿を消した。バシャバシャと、結構激しい水音が耳に届く。
「おーい。溺れないようになぁ」
萌の耳に届くように、大きめの声で呼びかけると
「ほーい」
と返事があった。
今まで出会った中でも、一番つかみ所がない、なにを考えているのかわからない。大人なのか、それとも子供なのか、いたずらな悪魔なのか、純粋無垢な天使なのか、萌という人間をボクは測りかねていた。手を引いていたつもりが、首に鎖を付けられて引きずられている気分になったしまう。ボクは、それを彼女の魅力として捉えているのかもしれない。だからこそ、彼女の願った状況を作り出している。このまま、なにもわからずにずるずると引っ張られたままでは行けない気がしている。
バスルームが静かになり、ドアの音がして萌が戻ってきた。
「お前なぁ、ちゃんと服を着てきてくれよ」
生意気にも、裸にバスタオルを巻いて戻ってきた萌に思わず言った。
「そう言うと思って、ちゃんとパンツは穿いてるよ。ほら、さっき買ってくれたやつ」
体に巻いているバスタオルの裾をめくりあげて、ボクにパンツを見せてくる。
「いや、見せてくれなくていいから」
「あー、おっぱいの方が見たいんだ」
萌は、ボクの前に立って片手でバスタオルを剥ぎ取った。
「いや、そんなことは言ってないだろ」
すぐに視線をそらしたが、一瞬の間に萌の乳房が脳裏に焼き付いた。思春期の女の子にありがちなはち切れそうな肢体ではなく、ウエストは絞られてあばら骨が浮き出していた。それなのに、アンバランスに盛り上がった胸の膨らみが目をひいた。
「ブラも買ってやったろ。それを着けろよ」
ボクは、横を向いたまま言った。
「せっかくの人の好意を台無しに・・・」
萌は、ブツブツ言いながら、なにかゴソゴソしている。
「ほれ、これでいいんでしょ?」
わざわざ、横を向いているボクの視界に入るところまで移動してポーズを決めて見せた。
「下着姿は、マズいでしょ」
「水着と変わらないでしょ」
「いや、水着の女の子なんて近くで見たことないし」
「裸の女の子は見てるくせして」
「それは・・・」
「見てるんでしょ。だったらいいじゃん」
「恥ずかしいじゃん」
「わたし、もっともっと恥ずかしいことしてるから」
今までとは違った、声のトーンで萌が言った。
「わたしの初めての男って父親なの」
堰を切ったように立て続けに言葉を続けた。
「それも、わたしが小学生の頃。それまでも、小さな頃からわたしのカラダは父親のモノだったのよ」
「待って」
ボクは、萌の言葉を制止して冷蔵庫から水のペットボトルを出して渡した。
「ほら、これ飲んで落ち着いて。ノド渇いてるでしょ」
「ありがとう」
萌は、受け取ったペットボトルを開けて、一気に半分ほど飲み干した。ふぅっと深く息をして、真っ正面からボクを見つめて言った。
「こんなくだらない話、聞きたくないよね」
「そんなことないさ」
「ほんとに」
「ああ、ボクで良ければいくらでも聞いてあげるさ。時間はたっぷりあるし」
「ありがとう」
萌は、再びペットボトルに口を付け、自分を洗い流すかのように水を飲み干した。
「わたしの今の父親は、本当の父親じゃないの。本当の父親なんて母親だってわかんないんじゃないかしら。そんな最低な母親から生まれたのが、今の最低なわたしなのよ」