萌は、ベッドに上がり膝を抱えて、少し悲しそうな表情を浮かべて話を続けた。
「わたしの母親って、高校の頃からヤリマンで有名だったらしいの。ちょっと不良っぽい男が好きで、次々に男を乗り換えてやりまくってたの。それが原因で、不良グループ同士でけんかになったこともあったんだって」
「そっかぁ」
「その頃に妊娠して、産まれたのがわたし。母親もバカでさぁ、妊娠に気がついた時には、もう堕ろせない時期になってて。ただ、それまでもそれからも男とやってたんだって。なにしてんだって話だよね。まぁ、母親にとってわたしはどうでもいい存在だったんだよね。運が良ければ流産でもしないかと思ってたなんて言ってたくらいだから。糞みたいな親だよね」
「でも、産んでくれたんだろ」
「仕方なかったんだよ。もうどうすることも出来なくて、親に泣きついて出産費用は出して貰ったみたい。でも、産んだ後、すぐに男が出来て実家を出たんだって。そこで、わたしを捨ててくれればまだ良かったのに、一緒に連れて出たんだよね。せめて実家に預けるとか、児童施設に入れるとかしてくれてたら、こんな悲惨なことにはならなかったのに」
「それが、今のお父さん?」
「そう、わたしが覚えてる最初の記憶も父親の膝の上で遊んでる時のものだよ」
「お母さんも、別れずに長く続いてるんだよね。もしかしていい人だったとか」
「うーん。表向きには、ちゃんと仕事して、ちゃんと家にお金を入れる人だった。周りから見れば、とてもいいお父さんに見えてたかもしれない」
「キミとお母さんにとっては、いい人ではなかった?」
「そうだね」
萌は、ペットボトルを口に付けたが、もうすでに全部飲み干していたことに気がついてサイドテーブルに置いた。ボクは、冷蔵庫にあったもう一本のミネラルウォーターのペットボトルを出してきて萌に差し出した。
「ありがとう」
バキッと力強い音がして、萌はペットボトルの水を煽った。ゴクゴクと喉を通り過ぎる音が、思いのほか静かな部屋に響いた。
「お父さんは、どんな人だったの」
「父親は、支配者だったわ。母親には、自分の言うことが正しいと擦り込んでいた。なにか口答えしようものなら、拳で腹を殴ってたわ。決して他人から見えるようなところは殴らなかった。学生の頃は、柔道をやってたみたいで、痛いところとかどのくらいの力加減でやれば苦しいかもわかってたんだと思う。母親が殴られて、うずくまって動けなくなってるところを何度も見てきたわ。ご機嫌を損ねるようなことをしなければ、なにもしてこないそんな人だった。母親も、それがわかってきた頃から、もう逆らうことを忘れたロボットのようだった。そうしていれば、生活に困ることはないほどのお金を稼いできてくれてたからね。母親は性欲が強い人だったけど、それ以上の性欲を父親は持ってたから、毎晩のようにセックスしてた。いいえ、夜だけじゃないわ。朝だって昼間だって、やってたわ。わたしの目の前でも平気でね。それを、小さい頃から見せられてきたの。だから、どこの家もこんなものだろうと思ってた。幼稚園の時、先生に『お父さんはいつも、お母さんのお股におちんちんを入れてるんだよ』って話したら、母親にバレて父親にこっぴどく叱られたのを覚えてる。『家に中のことは絶対に話すな』って」
「お父さんは、キミにはどうだったの?」
「父親は、わたしには基本やさしかったわ。わたしに暴力は振るわなかったし。普通に暴力という意味ではね。まあ、母親に対する支配的な行動を目の前で見せつけられてたから、変に逆らってはいけないってのはカラダに擦り込まれてたからね。でもね、まだ殴られてた方が楽だったかもしれないと思い始める時が来たのよ。これは、おかしいことなんだと思える日がね」
「どういう意味?」
「さっきも言ったでしょ。最初の記憶が、父親の膝の上だったって。その時の父親の手が、どこにあったかわかる?わたしの足の間。わたしの大切なところを触ってたの。わたしは真っ裸。父親はパンツを穿いてなくて。わたしの手には父親のモノを握らせていたの。わたしは大きく足を開かされ、父親はわたしの割れ目を指でなぞってた。それが、わたしにある最初の記憶なの」
萌はそう言うとうつむき、シーツの上に一粒の涙の跡を残した。