ひとりの部屋でボクは、歪んだ光に照らされたテーブルの上の紙切れを見つめていた。それを見た時、どこかでホッとしている自分に腹が立った。そして、失ったモノの大きさに落胆した。そのあと、自分を裏切って行ってしまったことに、頬を伝う涙の熱さに驚きを隠せなかった。ボクは、ベッドに横になることもせず、車椅子のままテーブルに頬杖をついて朝を迎えた。
ボクの心に不釣り合いな眩しい朝日が、疲弊した気持ちを押しつぶそうとしていた。何を話すかもわからないまま、萌のスマホに電話していた。呼び出し音が鳴っているのに、電話を取らないことを安堵した。萌への未練とは違うと、首を横に振ると瞳から溢れた涙が床に黒いシミを落とした。
「何もわかってないじゃないか」
理由を知りたい欲求と、知りたくない希望が想いの中で交差する。怒りと悲しみが、ボクを動かす。暗い闇を纏ったまま、まばゆい光の中に飛び出してゆく。追いかけても、萌の背中さえ見つけることは出来ないだろう。
「でも、このままでは」
気がつくと、萌がバイトしていたコンビニの前に、呆然とたたずんでいた。
「今さらだろう」
ボクは、自分らしからぬ行動を取り、コンビニの店長に事情を聞いた。
当然のように萌は、コンビニのバイトは昨日で辞めていた。もう一人、大学生の男も辞めていったそうだ。萌とは、よく話していたそうで仲が良さそうにしていたらしかった。もう一つ、予想もしていなかったことが判明した。萌が、夜のシフトで入っていたというのはウソだったとわかった。萌は、大学生の男がバイトを終えるのを待って、一緒に夜の街に消えていったそうだ。もし、ボクが人生経験豊富な人間であったら、こういう事態に気づけていたのだろうか。
「普通の女の子か・・・」
萌の置き手紙の言葉が、ボクの口からこぼれ落ちる。
当然、相手の大学生の個人情報は教えてはくれなかった。いや、ボクが聞かなかったのだ。調べる手段は、いくらでもある。しかし、大学生の男のことがわかったとして、ボクに何が出来るというのだ。
「辛かったんだろ」
そう、萌もボクも辛い日々を過ごしていたのかもしれない。引き寄せても引き寄せられない、求めても受け入れられない、そんな傷つけ合っていた毎日だったんだと思った。
いつまで、この喪失感が続くのだろう。萌は、これからどんな人生を送っていくのだろうか。
「普通の女の子のなり方を、教えてあげられなかったな」
ただひとつ、今、萌の側には大切だと思える人がいるということが、ボクの救いかもしれない。
弱いボクの強がりだったとしても、願ってやろうと思う。
「萌、少しでもしあわせになってくれ」