「瑞樹さんのお家って、こんな感じだったんですね」
咲恵は、缶ビールを手に持ったまま、部屋をじっくりと見渡した。傷心のために何にも出来なくて散らかった部屋を見られるのは恥ずかしかったが、アドバンテージとしてボクの信条を考慮に入れてくれるとありがたいと思った。
「突然のご訪問だから、散らかってるのは許してください」
「わかっていますとも。でもね、アニメとかコミックで『来ちゃった』ていうのを見てて、わたしも一度はやってみたかったんですよ」
まだ、飲み始めて間がないというのに、咲恵の顔はほんのりと赤く染まっていた。
「で、その『いとこという女の子』の詳細を教えてくれませんか」
「わかりました」
ボクは、なるべく正直に萌との経緯を話して聞かせた。
「なるほど、瑞樹さんの『しあわせの王子シンドローム』が発症したということですね。わたしも瑞樹さんの優しさに救われたひとりですから、仕方ないのはわかります。でもね、瑞樹さんの優しさですべての人が救われる訳ではないのですよ」
咲恵は、手に持っていた缶ビールを口に運んで、ビールを少しだけ口に含んで語気を強めて言った。
「瑞樹さん、わかってます?みんなに優しいというのは罪なのですよ。わたしだけに優しくしてほしいというのが、女性の本音なのですよ」
「はい」
「あと、ひとついっておきますが」
少し声のトーンが変わったので、ボクは自然と体に力が入る。
「コホン」
少しわざとらしく咳払いをした咲恵は、姿勢を正して視線を合わせた。
「わたしは、男の人のカラダのことはよくわからないのですけど。なんとなく、エッチしないとガマン出来なくなるのかなと思ってます。だから、瑞樹さんを一人にさせた責任がわたしにもあると思ってます」
「はい」
「でもね、わたし以外の女の人とエッチされるのは、くやしいというか腹立たしいというか、ガマン出来ないんです」
「はぁ」
「わかってますか?エッチするならわたしとしてください。どうしてもエッチしたかったら、好きではない女の子としてください。わたし、絶対に瑞樹さんの心まで他の女の子に渡したくないのです」
ボクは、理解しようとして咲恵の言葉を頭の中で反芻した。
「それは・・・」
ボクの言葉を遮って、咲恵は窓際にあるものを指差して言った。
「あれをどうにかしてください。いい加減。瑞樹さんが出来ないなら、わたしが片付け・・・いえ、捨てていいですか?」
咲恵が指差した先には、洗濯した萌のブラジャーとショーツが干してあった。別に未練があって萌の下着をそのままにしたわけではない、ただ無気力で片付ける気にならなかっただけだ。
「ああ、あれは」
またもや、ボクの言葉を最後まで聞かず咲恵は立ち上がった。一直線に干してある萌の下着に手を掛ける。
「あぁ、もう」
咲恵の苛立ちが、ボクに突き刺さる。萌の下着だったブラジャーを洗濯ばさみから外して、咲恵は改めてボクを見返した。
「Eカップ・・・」
咲恵の唇が動いて、そう読めた。他の下着も手に取り、買ってきたビールが入っていたレジ袋に押し込んで、きっちり口を縛った。
「ゴミ箱は?」
「ああ、キッチンの流しの横に」
一時でも早く自身の手から葬り去りたいとでも言うように、ボクの横を早足で通り過ぎる時だった。ボクの耳元で、咲恵が言葉を投げつけた。
「わたしより、大きかったんですね。くやしいです!」