「萌も、自分の下着くらいちゃんと持って行けばいいのになぁ」
咲恵の圧力を、交わそうとして行った言葉が、なおさら咲恵の心を逆撫でてしまったことに後悔をした。
「萌さんというのですね。『いとこという女の子』は」
一気にビールを飲み込んで、思いっきり深いため息をついた。
「瑞樹さんも、大変だったこともわかりますし、その萌さんという女性の育ってきた環境のひどさも、わたし以上だとわかりました。瑞樹さんが、傷ついているのも見ればわかります。わたしが怒っているのは、瑞樹さんのことだけではなく、わたし自身にもなのです。こうやって、瑞樹さんに会おうと思えば会えることだってできたのに、しばらく会えないって言ってしまったことに対してなのです」
「いや、わかってるんだ。悪いのはボクだってこと。咲恵さんも、傷つけることになるってわかってたはずなのに」
ボクは、咲恵に向かって頭を下げた。
「あのぉ、わたしもひとつ謝らないといけない事があるんです」
「何があったの?」
咲恵は少しためらって話し始めた。
「わたし、男性とホテルに行ってしまったんです」
「えっ」
衝撃的な言葉に、ボクの頭は思考を止めようとしていた。
「向こうの支店に行って、少し慣れた頃に会社の飲み会があったんです。
そういうのは、はっきり言って苦手だったんですが、転勤して間がなかったので親睦のために参加してくれと課長に言われて、仕方なく行くことにしたんです。
お酒も、そんなに得意じゃなくて。でも、みんなに飲まされて、結構酔っ払ってしまったんです。飲み会もお開きになって、帰ろうとしたら
『一人じゃあぶないから、送っていくよ』
と、同じ部署の男性が言ってきたんです。
『一人で大丈夫です』
って言ったんですけど、しつこく言ってきてタクシーに押し込まれて。タクシーに乗った途端に酔いが回ってきて記憶がなくなってしまったんです。
わたし、気がつくとベッドの上に寝てて、その送ってやると言ってた同僚の男性が、わたしのブラウスのボタンを外しかけてて。ブラジャーが、丸見えになるところまでブラウスが脱がされてて、男性が胸を触ろうとしてて
『何をするんですか』
って、両手で胸を隠して、男性の手を押しのけました。
『もう、ホテルまでついてきて今さら何言ってるんだよ』
『あなたが、酔って意識のないわたしを連れてきたんでしょ』
『いいじゃないか。もうここまで来てるんだから』
男性は、スカートの中に手を入れてきて、パンティを下ろそうとするんです。
『止めてください。わたしには愛してる男性がいるんです。これ以上、わたしに触ると強制わいせつ罪で警察に訴えますよ』
それを聞いた男性は怯んで、その隙にホテルの部屋から飛び出して、表通りまで出てタクシーを拾って家に帰りました。翌朝、会社のその男性から呼び出され
『昨夜は、自分も酔っていて、申し訳ないことをした。これからは注意して、もう絶対こんなことはしないから、口外しないでくれ』
相手の男性は、平身低頭でわたしの前で謝罪を繰り返しました。
『今度、同じようなことをしたらすぐ警察に被害届け出しますからね』
たとえ未遂に終わったとしても、瑞樹さん以外の男性にカラダを触られたことがショックでした。わたしの危機意識の低さが招いた結果なので、自分を責めるしかありませんでした。このことが、瑞樹さんに知られたらきっと怒られるんだろうと考えてました。
だから、今回、瑞樹さんの様子がおかしいので、どこかでこのことが知られたんじゃないかとも思ってたんです。
『いとこさん』とのことも聞いて、もうどうしてもガマン出来なくなってしまい、来てしまいました」
「ほんとうに、ごめんなさい」
咲恵は、ボクの前に立ち深々と頭を下げた。床には、涙がこぼれていた。
「ちょっと待って。本当に謝らないといけないのはボクの方だから。咲恵さんは何も悪くないと思うし」
咲恵は、ゆっくり頭を上げた。瞳から流れ出た涙を手で拭って、膝を床についてボクを抱きしめた。
「そうです。悪いのは瑞樹さんですよ。こんなに心配させて。今回の件の責任は取って貰いますからね。覚悟してください」
「咲恵さん、こわいです」
お互いの耳元で囁き、その言葉でお互いの耳をくすぐった。
「たくさん償って貰わないといけないですが、とりあえず少しお願いを聞いて貰います」
「何なりとお申し付けください」