「じゃあ、かわいがってあげるよ」
どうかしていると、ボクがボク自身に向かって言う。なにをイラついているのだろう。あのねっとりとした萌との欲情の日々の甘ったるい香りが、ボクの鼻腔を刺激したせいだろうか。もう、この腕に引き寄せられない後悔を、目の前に突きつけられたからだろうか。
ボクの胸に、ふつふつと湧き上がってくる黒い欲望から、自分をコントロール出来ないでいることに恐れを感じている。それが、決して壊してはいけない存在である、咲恵に向かっていることに。
咲恵を膝の上にのせたまま、ボクは車椅子を寝室に向けていた。
「着いたよ」
ベッドに車椅子を横付けにして、咲恵に移るように促す。
「こんなに、明るいところで。せめて、カーテンを閉めませんか」
「だめだ」
窓から差し込む四角く区切られた光の箱に、咲恵を押し倒した。
「いやっ」
汗で少し湿っているブラジャーを、咲恵の胸から剥ぎ取る。スリムなカラダから隆起した乳房に手を伸ばす。柔らかな咲恵の乳房に、ボクの手の指がめり込んでゆく。マシュマロのような柔らかさとは不釣り合いな、硬くなった桜色の乳首にボクは舌を這わせる。
「ああぁ」
力なくわずかな抵抗を見せて、ボクの体を押し返そうとする咲恵の細い腕に力が入る。ボクは、お構いなしにショーツにも手を掛けて、引きずり下ろそうとしている。咲恵の協力が得られないので、お尻に阻まれてショーツは限界まで伸びきった。お尻の下に手を入れて、無理矢理にショーツを脱がす。ボクは、咲恵の足の間に腕をねじ込み、手を開かれた秘部に触れようとした時だった。
「やめてください」
咲恵は、ボクの頬を平手打ちした。ボクは動きを止めて、咲恵の顔を見た。明るい太陽の光の中で、咲恵の瞳からキラキラ光るモノが溢れようとしていた。
「どうしたんです。こんなの瑞樹さんじゃないです」
涙で滲んだ咲恵の瞳の中で、驚いている自分が映っていた。
「ごめんなさい。どうかしてたんだ」
ボクは許しを請うように、咲恵の胸に額をつけた。
「萌さんのこと、忘れられないんですか?」
咲恵は、ボクの頭に手を置き、優しく撫でた。その優しい手が、ボクを責めているように思えて、自己嫌悪した。
「萌のことは、忘れようとしてるし忘れたいんだ。萌が出て行った時、ボクはどこかホッとしたんだ。そんな冷たい男なんだよ。今、また咲恵さんを傷つけようとした。ただの、優しい人を演じてるだけの男なんだ。ボクは」
咲恵は、落ち着きを取り戻したかのように静かに言った。
「そんなことないです。瑞樹さんは、いつだって本当に優しかったです」
「見せかけだったんだよ。自分の欲望にも負けてしまうような男に成り下がってしまったんだ」
「自分を責めてはいけません。瑞樹さんだって、私に教えてくれたじゃないですか」
「でも、結果的に咲恵さんを裏切ってたことをしてたんだし」
「そのことは、許せない気持ちもあります。でもわたしも瑞樹さんを一人にさせてしまったんですから」
「ごめん」
咲恵は、ボクを抱きしめて、耳元で力強く言った。
「ひとつ、約束してください」
「なにを」
「萌さんは、必ずここに戻ってくる気がするんです」
「でも」
「萌さんが、戻ってきたら私に連絡してください。絶対にエッチをしてはいけません。わたしは、なんとしてでも瑞樹さんのところに帰ってきます。急いで」