「どうして?萌が帰ってくるって思うの」
あんな出て行き方をした萌が、到底帰ってくるとは思えなかった。
「そんなふうに聞かれると、困るんですけど。『やっぱり瑞樹がいいから、帰って来ちゃった』っていいそうな気がして」
咲恵は、なんて言っていいのかわからないようで、少し困ったような顔をして言った。
「咲恵さんは、萌に実際あったことないのにそう言う気がしてるんだ」
「なんて言うか、苦しんでた自分を救い出して貰った同士だから。他の人に気持ちが移ったとしても、気持ちの奥の底の方には瑞樹さんのことが残ってると思うんです」
「はぁ」
「何かあった時に、心の奥にある想いが水の中の泡のように浮かんでくるんですよ。その泡がバーッと心の中に広がっていっぱいになるんです」
「それで、ボクの所に帰ってくると?」
「そうなると、もう他の男の人のことは考えられなくなって、やっぱり瑞樹さんがいいって思うようになるんですよ」
真顔になって、咲恵はボクに訴えている。
「で、エッチはしたらダメなんだ」
「当たり前でしょ。萌さんの心の中は、その時、瑞樹さんでいっぱいになってるんですから溺れてしまいます」
ボクもまた、困った表情になっていたのだと思う。
「自信ないなぁ。萌はこうと思ったら、強引になることが多かったから」
「だから、わたしが言っているんです。お話を聞く限り、萌さんは瑞樹さんとの関係を修復しようとするでしょう。一番手っ取り早い方法としては、カラダにものを言わせるのがいいでしょう?」
「そうかもしれない」
「瑞樹さん、自分では気がついてなしかもしれないですが、萌さんと出会ってエッチしてから能動的になったようないやらしくなったように見えます」
確かに、萌はその行為そのものでもいろいろ慣れていたし、ボクに対しても臆面もなく欲望をぶつけてきていた。それに応えようとして、ボクもまた大胆な行為に没頭出来ていたのかもしれない。
「萌は毎日のように、エッチをせがんできていたし、回数もこなしてきたから」
「わたしは、萌さんに再び瑞樹さんを渡したくないんです。萌さんとのエッチに溺れてほしくないんです」
ボク自身も、性欲自体が強くなっているのかもしれない。
「わたしが、側にいてあげたらいいんですが、今すぐはどうしようも出来ません。だから、わたしから提案があります」
「なに」
「わたしがいない間は、サイトで女の人を探してエッチしてもいいです」
「えっ、それでいいの?」
「仕方ありません、ただし浮気はですよ。同じ女性と2回以上会ってエッチしないでください。エッチしたことも、わたしに報告してください」
咲恵は、真面目な表情で、常識外れなことを言っている。
「本当にそれでいいの?」
「わたしも、できるだけ帰ってきます。今までのように、ほったらかしにはしません」
咲恵は、ボクを見定めて念を押すように言った。
「だたし、萌さんとは絶対にエッチをしたらダメです。ここに戻ってくるようなことになっても絶対にエッチはダメですよ」
「なぜ、萌はダメなの」
「それは、瑞樹さんが萌さんに本気になってしまいそうだから」
咲恵はそう言うと、ボクに抱きついて口づけをした。
「約束ですからね。瑞樹さんに選択権はないんですからね」
念を押すように、ボクを見つめてもう一度唇を重ねて、小さくでも力強く耳元で囁いた。
「誰にも渡しませんからね」