「他の人のも飲んだことあるの」
ボクは、少し驚いて聞き返した。
「あっ、ああ、ごめんなさい。言い方がおかしかったですよね」
咲恵は、どう説明していいかわからないようで、少し考えていた。
「前に言ったと思うんですけど、弟の精液を出しちゃった時、わたしの口の端にも飛んで来たんです。それを少し舐めたというか、口に入ったというか」
「その時の味とは、違ったってことなんだね。少し驚いたよ」
「いえ、弟のは舐めるつもりじゃなくて。なんか付いてると思って舌が当たっただけなんで、味なんてほとんどわからなかったんです」
「じゃあ、ボクの味はどうだったの」
自分の精液の味なんて、知るはずもなく興味本位で聞いてみた。
「好きな人のモノなので、美味しいって感じるものだと勝手に想像していたんですが」
「美味しくはなかった」
咲恵は、少し言いにくそうな顔をした。
「ごめんなさい。美味しくはなかったです。でも、瑞樹さんのモノだからって思って飲み込みました」
「無理しなくてもよかったのに」
「はい。ちょっと苦くて、あの匂いって独特ですよね」
「もう、今度から飲み込まなくていいからね」
「慣れてくると大丈夫なのかと思うんですけど」
「いやいや」
何の話をしているのだろうと思い、二人とも顔を見合わせて笑顔になった。
「口直しに、ビールでも飲んで寝ようか」
「わたし、その前に口をゆすいできますね」
咲恵は、ベッドから降りて洗面所の方に歩いて行った。
咲恵の機嫌が直ったことに、ボクは安心していた。明日には帰ってしまう咲恵を泣き顔で別れることは、一番してはいけないことだと思った。萌が出て行ってから、精神状態がおかしいと自分でも感じていたことだけれども、咲恵と再会出来てわがままになっていたのかもしれない。欲求が溜まっていたとはいえ、咲恵を傷つけることは自分でも許せないことだった。
「お待たせしました。ビールも持ってきましたよ」
そう言って咲恵は、サイドテーブルにビールとグラスを置いた。
「さあ、飲みましょ」
グラスに缶ビールを半分ずつ注いで、ボクに渡した。
「乾杯」
カチンとグラスのぶつかる音がして、冷たいビールを流し込んだ。
「おいしいね」
「おいしいです」
妙に喉が渇いていたので、あっという間にビールを飲み干して、ボク達は狭いひとつのベッドで眠りについた。
朝、目が覚めると隣に寝ていた咲恵の姿はなく、キッチンから食器の音がしていた。
「おはよう」
起き上がってリビングに行くと、咲恵が朝食の準備をしていた。昨日の咲恵とは違って、ちゃんと服を着てエプロンをしていた。
「今朝は普通の格好なんだね」
「ちょっと期待してましたか」
「少しね」
ボクが、おどけたように言うと、咲恵は真面目な顔になって言った。
「もうすぐお別れするのに、瑞樹さんの気持ちに火を付けたらいけないと思って」
「そっかぁ」
「わたしの言った約束を覚えてますか」
「うん」
「もし、エッチしたくなったらサイトで女の人を探してエッチしてください。でも、同じ人と2回目に会ってエッチしたらダメですよ」
「はい」
「それと、萌さんがもし戻ってきても、絶対にエッチをしてはいけません。わたしにすぐに連絡して、帰ってくるのを待ってください。これは絶対ですよ」
「わかりました」
咲恵は、ボクの返事を聞いて顔を曇らせた。
「あぁ、心配。本当はこのまま瑞樹さんと一緒にいたいです」