目を覚ますと、部屋は朝の光で満たされていた。ボクの隣には誰もいない。当たり前だけれど、どこかホッとする気持ちが胸の中で溢れた。昨夜、なかなか眠りにつけないでいると、ドアの向こうで足音が止まったような気がした。この家には、ボクと萌しかいない。いま、ドアを開けて萌が入ってきてもおかしくはない。それは、不安なのか期待なのか自分でも理解しかねていた。そうしているうちに、眠りについて朝を迎えた。ボクは、誰もいない隣に寝返りを打って背中を丸めた。
浅い眠りで一夜を過ごしたボクは、ノロノロと起き上がりリビングに行く。
「おはようぉ」
リビングでスマホのニュースを見ていたボクに、無地の白いTシャツにボクサーパンツを穿いた萌が声を掛ける。
「昨日は、ごめんなさい。あんなこと言うつもりじゃなかったのよ」
「別に、いいさ。ボクが普通の男のように、エッチが出来ないのは事実だし。そんなこと、今まで何回も言われてるから気にしてないよ」
萌は顔を歪めて、横に何回も首を振って言葉をボクに投げかけた。
「ちがうの。そんなことを言おうとしたんじゃないの。あいつは、わたしとエッチすることしか頭になかったの。自分の欲望のままに、わたしを食い散らすことしかしなかった」
ボクは、白いTシャツにから萌の乳首が透けて、上下に揺れているのを漠然とみていた。
「わたしは、瑞樹の優しい腕に抱かれるのが好きだったの。瑞樹の暖かい胸の中で眠りにつくのがしあわせだったのよ」
萌は、自分のわがままを通そうとしている幼い駄々っ子のように訴えた。
「わかったよ。朝からこんな話はしたくないんだ。ボクは作業所に仕事を届けてくるから、萌は朝飯でも食べてて。パンとカフェオレくらいしかないけど」
「でも」
「ああ、それとこれ」
「なに、これ?」
ボクは、萌の手にお金を握らせた。
「昨日着ていた萌の服、洗濯して乾燥機に掛けてあるから。服が乾いたら、そのお金で服を買ってくるといい。普段着くらいなら洗い替えも買えるでしょ。あっ、下着も買っておいでね」
「えっ、でも」
「そんな格好でウロウロ出来ないでしょ。それと、買い物が終わったら、さっさと帰ってくるんだよ。あの男が、探してたらいけないし」
「あいつは、わたしよりおっぱい大きくてお尻のキレイなかわいい女の子とやってると思うよ。もう、わたしなんて探すはずもないから大丈夫よ」
「それでも、今はあまり外に出ない方がいいと思う」
「瑞樹、わたしのこと心配してくれるんだ」
ノーブラの胸をボクに近づけて、萌が耳元で囁く。
「揉め事が、面倒なだけだよ」
「そう」
なんとなくうれしそうにしている萌を置いて、ボクは出かけることにした。明るいうちとはいえ、萌と二人きりであの家にいることは避けたかった。久しぶりに見る、萌のあのカラダの前でボクが理性を保てる自信もなかったし、萌が何をしてくるかもわからなかった。強引に押し倒されて、パンツでも脱がされるかもしれない可能性だってある。
急ぎの仕事で、うちでパソコン入力していたモノを届けに行くのはウソではなかった。夕方近くまで作業所で仕事を片付けて、帰りにコンビニによって夕飯代わりの弁当を買って家に帰った。「ただいま」
家の中に入ると、リビングには灯りが点いていた。
「おかえり」
リビングから顔を出して、萌が応えた。
「コンビニで、弁当を買ってきたよ」
「お腹空いてたんだ」
ボクの手から、夕食の弁当を受け取ってテーブルの上に置く。
「なんで、朝と同じ格好してるの」
リビングの灯りに照らし出された萌は、乳首のありかがはっきりわかる白いTシャツにボクサーパンツ姿だった。
「服、買いに行かなかったの?」
「行ったよ」
「じゃあ、なんでその格好なの」
「瑞樹に出してもらったお金で買ったものだから、瑞樹に見せてからじゃないといけないって思って」
「バカだなぁ。そんなことどうでもいいのに」
「どうでもいいことないでしょ。それに・・・」
「それに?」
「このほうが、瑞樹が喜ぶかなって思って」
萌は、ボクの目の前で大げさに胸を揺らせて見せた。
「ほら、うれしそうじゃん」