※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ーーーー全く・・・こんなところまで着いてくるなんて。君の行動力を誤解していたよ」
「何言ってるのよ。全ては貴方が私はおろか大臣や家臣にまで黙ってコソコソと動くからよ。・・・・誰だって気になるのは仕方ないじゃない」
「ここまで来てしまったらやむを得ないか・・・」
そう言いながらフィガロ王国国王エドガーはやれやれと肩を大きく上下させてため息をつく。
そんな夫の姿を横目に見ながら、王妃セリスはエドガーと並ぶ格好となり、エドガーが目指す目的の場所に向かって共に歩みを進めていた。
ここは港町ニケア。
フィガロ王国における港町の1つであるーーー
世界崩壊後も辛うじて町の被害は最小限に抑えられており、セリスやエドガー達がケフカを倒し世界が復興に向かっていく中で、フィガロ王国内で早い時期から港町の機能がほぼ機能しており現在に至っている。
今セリスはエドガーとともに
目的地である酒場を目指している。
もっとも酒場が目的地であると判明したのは、
エドガーが様々な口実とともにセリスをはじめとする関係者に隠れて城を抜け出し、
サウスフィガロから出ているニケア行き小型客船に乗り込みセリスに隠れてニケアに向かおうとしているのに気づいてからである。
セリスは自分がお忍びで身につける軽装ーーー紫色のチューブトップ、黄色のベストと黄色のズボン、そして護身用のレイピアーーーに身を包んで尾行を開始する。
船内では夫と距離を取り、
ニケア港に接岸した船のタラップを降りる彼に気付かれないように近づいた後、その背後から彼に声をかけたのだ。
はからずもエドガーはここで漸くセリスが尾行していたことに気づいたのだった。
エドガーと結婚してから数年が経ち、
フィガロ王国の王妃としての職務も無難にこなせるようになった矢先のことである。
セリス自身もエドガーに黙って或いは非公認にお忍びを繰り返しており、ある意味同類の立場ではあった。
そんなセリスも国王が周囲に黙ってのお忍び、
しかも王国内とはいえ距離のある港町に顔を出そうとしているとは少々意外だった。
尾行を開始した当初、王国の中心地から国王夫妻が揃って離れるのは内心問題を感じないでもなかったが、
結婚以来絶えてなかった夫の密かな行動がセリスの好奇心を刺激し、今日この瞬間に至ったのである。
「ーーーーもうそろそろ話してくれてもいいんじゃない?今向かっているのは、どこなのか」
セリスの問いかけにエドガーも歩みをやや遅めつつ傍らの彼女の顔を覗き込むと、ややいたずらっぽい表情を浮かべつつ答えた。
「・・・・君も知っての通り、世界崩壊直後に皆がバラバラになった後、僕がフィガロ城に潜入する前、ジェフと名乗っていた時にお世話になった場所さ」
ジェフーーーー
ある意味懐かしい名前を聞いて、
セリスはかつてエドガーそっくりの盗賊がフィガロ城に盗賊団を率いて潜入し、そこで彼等とともに城内に巣食うモンスター達と戦ったことを思い出した。
こうして言われてみると、
世界崩壊直後からジェフと名乗ったエドガーがセリス達と再会するまでの間どのように過ごしていたのか直接聞いたことはなかった。
「そういえば・・・・貴方って、世界が崩壊してジェフと名乗ってから、どんなことしてたのか、聞いたことなかったわね」
「・・・・自分から進んで吹聴するようなテーマでもないし、あまり話すことではないかなと思ってね」
「そんな貴方が、普段は慎んでいるお忍びでわざわざ思い出したかのように顔を出そうとするなんて・・・・・」
セリフの言葉にエドガーは前を向き、歩みを止めずに独りごちた。
「発端はジェフと名乗った世界崩壊直後からさ・・・・フィガロ城に潜入する前、僕は魔大陸から落下する際に身体に傷を負い、意識を失ったままこのニケアの海岸に流れ着いていたんだ」
初めて聞くエドガーの話に、
セリスは無言のまま彼の次の言葉を持つ。
「その時私を助けてくれたのが、今から顔を出そうとしている酒場の・・・経営をする女性さ」
女性、と聞いてセリスの眉毛は一瞬上がる。
「・・・・やっぱり貴方って女性に縁があるわね。昔から女性にモテるように努力していたせいかしら」
「おいおい、もう君と結婚したからには、浮気と誤解されるようなことはしないよう心掛けているつもりなんだが」
「さあ、どうかしら・・・そんなこと言って、お忍びで行こうとするからには、以前のエドガーのままじゃないって思われても仕方ないんじゃない?」
知らず知らず皮肉めいた口調になるセリス。
エドガーも、口元に苦笑を浮かべながら
「そうなるかな・・・・でも彼女のお陰で僕は傷を癒やすことができ、回復後ニケア周辺で盗賊団をまとめ上げ、セリスや他の仲間と再会することができたんだから、彼女は言葉通りの意味で命の恩人さ」
「・・・・・・・・」
そうこうするうちに、
2人はニケアの中心部から少し離れた街角にある小さなパブの入口の前にいた。
見たところパブの裏側は砂浜にそのまま面しており、建物の反対側から波が打ち寄せる音が間近に聞こえてくる。
「ここだよ、目的の場所は・・・・・」
エドガーはそう言って、ドアノブを握った。