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「ーーーーん・・・・・・・」
メムノンが目を覚ました時、彼の感覚では先程まで夜の帳が降りていた筈の夜空がしらみ始めているのが分かった。
いつものベッドとは違う床の感触を背中に感じ、
メムノンも漸く自分がいつも仕事で使う漁の為の小舟の中に
横たわっていることを思い出していた。
結局昨晩セリスと“同じ時間”を過ごした後、
彼女が自分が泊まっている船に戻るのを見届け、
そのまま自分の小舟で一夜を明かした格好になっていた。
あのまま店に戻って、
万が一エドガーやバルシネと鉢合わせするのが
内心嫌だったから。
ゆっくりと上体を起こし、
大きく両手を宙に伸ばして背伸びする。
小舟という狭い場所で一夜を過ごしため身体の節々に違和感は残るものの、それ以上に今まで経験したことないような独特の達成感も味わっていた。
それはバルシネと結婚してから、
彼女と過ごした2人きりの時間とはまた違う、
恐らく一生に一度の昨晩限りのもの。
もう少ししたら、酒場に戻るか。
流石にエドガーも船に戻ってニケアを離れるだろうーーー
内心そのように考えたメムノンの脳裏に、
次の瞬間昨晩までセリスと過ごした限られた時間での
やりとりが蘇る。
いや思い出さずにはいられなかった。
”まさか、一国の王妃である女性と、
俺みたいな一回の漁師が成り行きとはいえ、
初対面というのにーーーーー“
微かにセリスの衣服や身体についていた独特の香りが、
ほんの僅かだが残っているように感じられた。
これで、国王エドガーと、いや王妃セリス陛下と
“共犯”ということかーーー
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ーーーーーほぼ同時刻、
セリスとエドガーの姿は、
今まさにニケア港の岸壁を離れようとする
船上のデッキにあった。
既に東の水平線からは丸い太陽の半分近くが姿を現し、
昨夜の夜の帳は晴れ渡る青空からはきれいに取り払われていた。
そんな中デッキに立つ2人が見下ろす先の岸壁。
そこには数人の人影は見えるものの、
内心予想していた通りバルシネもメムノンの姿もない。
昨晩の間に、2人ともに“別れ”を済ませた形だ。
ぼんやりと完璧を勧めていたエドガーに対し、
同じ方向に視線を巡らせていたセリスが何気なく問いかける。
「・・・昨晩帰ってくるの遅かったけど、バルシネさんとはうまくやったの?」
セリスの言葉に、
エドガーは微かに微笑みを浮かべ僅かに肩をすくめる。
「・・・結局のところ、彼女とはよもやま話に花を咲かせだけさ。お互いに結婚してる身とあっては尚更だな・・・・・だから深夜のうちに、ちゃんと船に帰ってきただろ・・・それにしても」
ここでエドガーは一瞬、言葉を切る。
「・・・・何?」
つられてセリスも傍らのエドガーの方を見上げた。
「いや・・・・・結局メムノン、私が店にいる間は帰ってこなかったからな。彼とちゃんと話して」
ここでエドガーは首を左右に振り、大きなため息をついた。
「やむをえんな。だが本当はーーーー」
そんなエドガーを横目に見ながら、
セリスは自分が昨晩メムノンと“対面”していたこと、
そしてエドガーが船に戻ってくる直前に自分も船に戻ってきたことはおくびにも出さなかった。
だが夫に対し彼が懸念していることに対する“回答”を
心の中で答えていた。
(・・・大丈夫よエドガー。貴方がメムノンに対して感じている“借り”、昨晩のうちに私がちゃんと返しておいたから)
そんな2人を乗せた船は、いつしか船首の方向を変え、サウスフィカルの方角へ向けてゆっくりと体勢を変えていく。
お忍びとはいえ、セリスにとっては公式の行事や過去の男性遍歴とはまた違った。驚きと緊張感を伴ったニケア行きであった。
これからも、
こんなことがあったりするのかしらーーーーー
昨晩自分が夫以外の新たな男に抱かれていたという事実を胸に、
今後もこのような”出会いと別れ“を経験できるのだろうかという
一抹の不安、そして期待。
セリスは自分達がフィガロ城に戻ってから待ち受ける、
フィガロ王国王妃としての自分の歩みについて
思いをはせるのだったーーーー
ーーーー完ーーーー