「あの……では代わりに、食べられそうなものを、取ってきては頂けないでしょうか?」
私は言葉が伝わるとも思えないゾンビにそう言いました。すると、3体の内2体が首を縦に振りスーパーの中に入っていったのです。
まさか……私の言葉を理解したとでも言うのでしょうか。実際にどうかは彼らが戻ってこなければ分かりません。それよりもまずは……
「えっと……あの……っ」
「……」
「あ、あなたは、いつまで、私の事をだ、抱きしめているのでしょうか……っ?」
「……」
さっき正面に居て、今現在も私の事を抱きしめているゾンビ。彼の腕は未だに私を抱きしめたまま動く気配がありません。いくら人間では無いゾンビだとしても、見た目は男性の人型なのです。流石に少し恥ずかしくなってきました。
しかも……ゾンビとは言いつつも、私が見かけたゾンビはほぼ人間と遜色ない見た目を保ったままなのです。違いは目の有無と肌の色くらいのもの。ゾンビではありますが、私は今までこのように殿方に優しく、でも逃げられないように抱き留められた事などありません。
「うぅ〜……」
心臓がドキドキとするのを感じます。相手はゾンビだと心に強く念じ続けても、私の頬は熱を持ち、まるで本物の男性に抱き留められているかのように錯覚してしまいます。
私が内心羞恥心に震えている中、スーパーの中から両手の袋に大量の食材を詰めて戻ってくる2体のゾンビの姿が見えました。ほ、本当に持ってこられるとは思っても居ませんでした。
「あ、ありがとう、ございます……っ」
私は思わずお礼を言っていました。彼らは首を縦に振ると再び私の左右を陣取るように立ちます。そうすると私を抱きしめていたゾンビが少しだけ腕を緩めると、私の身体をひょいと抱えてきたではありませんか。
「わっ……」
さっき地割れを越えたときみたいなお姫様抱っこ。ゾンビから顔をそらすことが出来ません。さっきよりも近場に彼の存在を感じ、顔が熱くなるのを感じます。
私はお姫様抱っこをされながら元来た道を戻ることになりました。そしてそのまま私の家まで戻ってくることが出来ました。もしかして、お姫様抱っこで家に帰してくれたのでしょうか。
「あ、ありがとう、ございます……っ」
私は彼らにお礼を言って家の中に入りました。彼らは家の中までは付いてきません。ですが、まるで周囲の見張りでもするかの如く、家の周囲を徘徊しています。こ、これでは本当に見張りや守護騎士のようではありませんか。
「うぅ……いったいなんなのですか……っ?」
私は無意識に熱くなる頬を何とか押さえながら、初めての日を終えたのです。
そんな衝撃的な日からもう2ヶ月が経過しました。私は今もこの世界で生きることが出来ています。そしてその最大の要因は、やはりゾンビ達のサポートにあると言わざるを得ません。
彼らは本当になんでもして下さいました。食材の調達に護衛、私も慣れてきて家に入るのを許可してからは炊事に家事に洗濯に、私の身辺のお世話まで全てを行っていただいたのです。
「んん〜……あ、おはようございます」
窓からの日差しで目を覚ますと、目の前に立つゾンビの姿が見えます。もう見慣れてしまった光景と同時に、私は自然と挨拶を交わしていました。
私は朝や寝起きに弱いタイプです。あと五分……を3〜4回繰り返すくらいには綺麗に起きることが出来ません。当然一人で着替えるなんてもってのほかです。
私は眠い目を擦りながら何とかベッドの端まで進みます。するとゾンビが私の身体を支えながらそっと服を脱がし始めました。彼は下着以外の服を脱がし終えると、今日一日着ることになる服を私に着せて下さいました。今日は白ワイシャツに青のショートスカートのようです。
「ん……ありがとう、ございます」
彼は私を着替えさせると、そのまま私をお姫様抱っこで抱き上げ、ダイニングに運んで下さいました。机には既に料理が完成しており、調理をしたと思われるゾンビが1体立っていました。
私は手を合わせて頂きますをすると、その用意された朝食を食べ始めました。ゾンビが作った料理なんて食べて大丈夫なのかと思うでしょうが、これがまったく問題にならないのです。
後々で分かったことなのですが、私はどうやらゾンビ化に対する完全耐性を持っているらしいのです。それが分かったのは事故でゾンビに噛まれてしまった時でした。
本来であればゾンビに噛まれたら問答無用でゾンビになってしまいます。ですが私はそうはなりませんでした。最初こそひどく怯えたものですが、ゾンビ化しないのが分かってからはそれもなくなりました。試しに何回かゾンビに甘噛みして貰ったこともありますが、それでも私はゾンビ化する事はありませんでした。
「ん……美味しい」
内容こそ缶詰を調理して出来たモノですが、缶詰と言うのは調理方法次第でここまで美味しい料理に変わるのですね。そう、なぜか人間がいなくなったはずなのにこの家だけインフラ系統が通じているのです。
理由は分かりません。ですがお風呂に入れると言うのがここまで幸せなことなのかと改めて知るいいきっかけになりました。外に出歩くと砂埃やらで酷く汚れますから。
「ご馳走様でした」
私が料理を食べ終えると、調理をしたゾンビが食器を片付けて洗い物までし始めました。普通に私より家事が出来るのが複雑な気持ちです。
私はリビングにあるソファーで食休みをしています。そして私の隣にはこれまた別のゾンビが隣り合うように座っています。隣り合う、と言うのは違いますね。腕と腕が完全に触れあっています。距離が近いです。
私がこの2ヶ月で分かったこと。それはゾンビ達は私をひどく慕っているのではないかと言う事です。私のお側に仕えて下さるゾンビは、皆一様に男性なのです。そもそもゾンビ自体男性の個体しか見たことがないのですが。
そしてこの慕っていると言う言葉。より正確に言うならば、私への好意と言う言葉とほぼ同義となります。なぜそんなことが言えるのか。それは彼らの行動に起因します。
「ふふっ。仕方の無い方ですね」
ゾンビが甘えるかの様に私の太ももに頭を乗せてきました。膝枕というものです。そしてそれを見ていた同じ部屋に居たもう1体のゾンビが、見計らったかのように私を挟み込むようにソファーに座ってきます。
そのゾンビは私の肩を抱くと、そのまま抱き寄せて来ました。私は素直にそれに従います。冷たいはずの身体が、私の熱が伝播して少し暖かくなるのを感じます。最近の日中は、こうしてゾンビの誰かしらと触れあって過ごしていることがほとんどになったのです。
そう、ゾンビ達は全員が全員私とのふれあい、スキンシップを望むのです。望むとは言いましたが、彼らが何か言葉を発したわけではありません。仕草からそのように判断しただけです。
最初こそ酷く不気味だと思いましたが、人間と言うのは慣れてしまう生き物。いつしか私もそのスキンシップを拒まなくなりました。そうして彼らと触れあっているうちに、だんだんとゾンビと言う存在に対して情のようなものが沸いてくるのを感じています。
「あんっ……も〜えっちですね」
膝枕をしているゾンビが、私の胸に手を伸ばして来ました。そのまま服がしわにならない程度に優しく揉んできます。あぁそうでした。彼らはスキンシップだけでなく、こう言うえっちな事を私とするのも大好きでしたね。