※この作品はR-18です。

タイラズマ家 ~子宮妻 東と4人の娘たち~ 分割版   作:eronosuke

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第3章 弾丸元気娘・2号の憂鬱
第1話 蕾 ☆(2号 初潮)


朝霧が窓ガラスを濡らす静寂の中で2号は目を覚ました。肌寒さが毛布の隙間から忍び寄り、身震いを一つした2号は寝返りを打とうとして──突然止まった。

 

下半身に奇妙な温もりを感じる。恐る恐る掛布団を捲ると、目に飛び込んできたのは信じ難い光景だった。白いパジャマの裾が微かに滲んでいる。慌てて起き上がると床に落とした下着に小さな赤い斑点が点在しているのが見えた。

 

「……え?」

 

頭の中が真っ白になる。保健体育の授業で教わったはずの単語が脳裏を掠めた。

姉と違い、平均よりかなり遅れていたこともあり、すっかり忘れていた単語。

 

『初潮』──しかし目の前の現実はあまりにも唐突で生々しい。股間に広がる湿った感触はまるで不浄なもののように感じられ、吐き気すら込み上げてきた。

 

「こんなの……普通じゃない……」

 

震える手で下着を握り締める。布切れを通して伝わる体温が忌々しく思えた。なぜ急に?

 

「ママの……せいだ……」

 

無意識に呟いた言葉が喉を焼く。昨日の光景がフラッシュバックする。浴室での父母の絡み合い、唾液が糸を引く接吻、そして自分の中に芽生えた得体の知れない欲望──あれらすべてがこの忌まわしい変化をもたらしたのではないか。

 

涙が零れ落ちる前に枕を抱き寄せた。嗚咽を押し殺すように布団に顔を埋める。身体の中で何かが変わりつつある。女の子であることへの嫌悪感と恐怖が入り混じった感情が胸を締め付ける。

 

「うっ……ううっ……」

 

布団の中で蹲っているうちにお腹の奥底に鈍い痛みが走った。思わず手を伸ばして下腹部に触れると、脈打つような鼓動を感じる。これが女の証拠なのか? この汚らわしい感覚こそが女として生きることなのか?

 

耐えきれなくなってトイレへ駆け込んだ。便座に座ることすら怖い。代わりに洗面台に向かい、蛇口を全開にして冷水で顔を洗う。鏡に映る少女は見知らぬ生物のようだった。青ざめた頬に涙痕がくっきりと浮かんでいる。

 

「早く止まって……」

 

誰にともなく呟きながら拳を握り締める。痛みを鎮める方法が他に思いつかなかった。恐る恐る右腕を振り上げ──

 

ガツッ!

 

鈍い音と共に骨と筋肉が震えた。想像以上の痛みに息が詰まる。しかし止まらなかった。二度、三度と繰り返すうちに皮膚が赤くなり、痛みが疼きに変わる。それでも叩き続ける。

 

「こんなの……欲しくない……」

 

額から脂汗が滴り落ちる。自分の肉体に刃を向けながら涙を流す矛盾。それは母親への逆恨みでもあった。昨夜の行為で父親の精を受け入れた母。自分もいずれ同じ運命を辿るのかと考えると恐怖で鳥肌が立つ。

 

「やめてよ……ママみたいになりたくない……」

 

最後の一撃が終わった時、足元に小さな血の痕跡が散らばっていた。自分が傷つけた下腹部から薄く滲んだ血液だ。狂気的な安堵感に襲われながらも吐き気は収まらない。

 

もうここにはいられない。ふらつく足取りで玄関へ向かった。靴を履くのも億劫でサンダルをつっかけると鍵も掛けずに飛び出す。空気は冷たいのに背中は汗でびっしょりだった。

 

「どこ行けばいいんだろう……」

 

駅までの道を走りながら考えた。行く当てなどない。ただ母の匂いの届かない場所へ。改札を駆け抜けると偶然停まっていた電車に飛び乗った。ホームドアが閉まる寸前、振り返っても母の姿は見えない。それでいいと思った。

 

ガタンゴトン……規則正しい振動が徐々に平静を取り戻させていく。車内の広告を無意識に追いかけるうち眠気が襲ってきた。肩を預けた座席の冷たさに安心感さえ覚える。

 

次第に景色が変わり始め、知らない町並みを通り過ぎていく。目的地も時間も気にせず揺られているうちに疲れ果てた身体が限界を迎えようとしていた。降りるべき駅を逃してしまい、次に停まったところでホームに降り立つ。人々の往来を避けながら近くの公園を見つけベンチに腰掛けた。

 

「……戻れないよね」

 

溜息と共に呟いた言葉が虚空に溶ける。鞄もない財布もない。携帯電話すら置いてきた。このままでは野宿しか選択肢がない。そう思った途端虚しさがこみ上げてきた。

 

視線を落とすと両膝が震えている。叩いた下腹部に触れるとまだ痛い。生理による鈍痛と自己嫌悪の記憶が複雑に絡み合う。

 

 

-----

 

 

「もう……大丈夫よ」

 

聞き覚えのある声に顔を上げるとそこに立っていたのは母だった。艶やかな金髪を風になびかせながら微笑んでいる。手には温かいペットボトルを二本抱えていた。

 

「帰りましょう」

 

拒否する間もなく隣に座り込む母。その表情からは責める様子は一切感じられない。ただ哀しみだけが漂っている。

 

「なんで……追いかけてきたの?」

 

喉が詰まって上手く言葉が出ない。

 

「あなたが泣きながら飛び出す姿を見たからね」

 

母はそう言ってペットボトルを差し出した。お湯で割った生姜湯の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

「身体……辛いでしょ? 生理痛の時は温めたほうがいいの」

 

差し出される手が少し震えていた。叱責されることを恐れていたはずなのに今は逆に恐縮してしまう。

 

「叩いた跡も痛いでしょう」

 

母の視線が腹部に注がれる。咄嗟に隠そうとした腕をそっと掴まれた。

 

「どうしてそんなことを……?」

 

問いかけには答えない代わりに涙が溢れ出した。

 

「だって私……ママみたいになりたくない……」

 

嗚咽混じりの声を聞いて母は悲しげに眉を寄せる。それからゆっくりと腰を抱き寄せてくれた。

 

「私たちみたいな関係が恥ずかしいと思ってる? それとも私があなたを産んだことが?」

 

囁き声に頭を横に振る。本当はわかっている。母は自分の行動を正当化するために嘘をついているわけじゃない。むしろ真摯に向き合おうとしてくれている。

 

「怖かったの……ただ……」

 

「大丈夫。誰でも最初は怖いものよ」

 

母の体温が伝わってくる。心地よい温もりに緊張が緩んでいった。

 

 

-----

 

 

公園のベンチで東に抱き寄せられながら、2号は堰を切ったように言葉を紡ぎ出した。

 

「ママ……教えて……」

 

震える指で下腹部を押さえる。

 

「生理が来るってことは……妊娠するってことだよね?」

 

母の表情が一瞬強張るのが見えた。それでも東は優しく息を吐きながら少女の頭を撫でた。

 

「そう……確かに可能性は高まるわね」

 

その一言が針のように胸に突き刺さる。2号は俯きながら続ける。

 

「今までは……妊娠しないってわかってたから……パパに中出しされても……」

 

声が詰まる。これまで何十、何百と繰り返してきた行為が突然別の意味を持つようになった恐怖。

 

「ただ……射精させた!って……ゲームみたいに考えてたの」

 

母の手が微かに震えているのを感じた。東もまた複雑な思いを抱えているのだろう。

 

「でもこれからは……赤ちゃんできちゃうんだよね……? 私……ママみたいになれない」

 

突然溢れ出す感情に制御が利かない。涙と嗚咽が混じり合いながら訴えた。

 

「ママみたいになりたくないんじゃない……なりたいのに……なれないの!」

 

号泣する少女の背中を東はそっと摩る。夕暮れの公園で親子が抱き合う姿は傍から見れば奇異に映っただろう。しかし二人の間にあるのは普遍的な母性と子の不安だった。

 

「どうしてそんなに私になりたいと思うの?」

 

東の問いかけに2号はしゃくり上げながら答えた。

 

「だってママは……パパに愛されてる……毎晩毎晩……ずっと……昨日だって……でも私は……」

 

その言葉の続きを言わなくても母は理解していた。自分たち親子の歪んだ愛の形—父への執着心と嫉妬心が2号を苦しめていることに。

 

「確かに私は幸運だったかもしれない」東は静かに言った。「でもあなたにも特別な魅力があるのよ」

 

「嘘……だって私はママみたいに綺麗じゃない……スタイルも悪くて……」

 

自分を客観し出来ず、自己否定に飲み込まれそうな娘を見て東は苦笑した。

 

「全くそんなことはないけどね、あなたは綺麗よ。それに外見なんて些細なこと。大切なのは内側から輝く部分」

 

東は懐からハンカチを取り出し涙を拭いてあげた。かつて自分も似たような悩みを抱えた日のことを思い出しながら。

 

「それに……私だって最初からこんなに強くなかったわ。あなたと同じ年齢の頃は生理が来ること自体が恐ろしかったもの」

 

母の告白に驚いて顔を上げる。

 

「本当に?」

 

「もちろんよ。初めて出血を見た日なんて学校休もうかと思ったくらい」東は柔らかく微笑んだ。「でもね……そういう弱さを受け入れてくれる人が必要なの」

 

母の瞳に宿る優しさに2号は心打たれた。自分もいつか誰かを守れるほど強くなれるだろうか—

 

「だから私じゃなくて、自分自身を大事にしてほしい」

 

そう言われてもまだ不安は完全に消えなかった。下腹部の違和感や将来への漠然とした恐怖。それでも母の存在が確かに支えになっていることを実感した瞬間だった。

 

「ママ……」

 

再び呼びかけても言葉が続かない。東はそっと立ち上がり手を差し伸べる。

 

「帰りましょうか? もう暗くなってきたから」

 

月明かりが公園の遊具を銀色に染め始めていた。冷たくなった手指を繋いで歩く帰り道で2号は初めて気づいた。

 

あの日見た父母の姿は憧れではなく目標だったのだと。そしてそれを叶えるために必要なのは単なる模倣ではなく自らの足で歩む勇気なのだということを。

 

駅前の街灯が二人の影を長く引き伸ばす。かつて家出するときには見ることのなかった穏やかな光景。母の手の温もりだけが確かな現実だった。

 

 

------

 

 

東は自宅に戻ると静まり返ったリビングで待っていた平をまっすぐに見つめた。

 

「話があるの」

 

その眼差しにただ事でない何かを感じ取り、平は読書を中断した。

 

「2号のことか?」

 

東はソファに深く腰掛けながら長い息を吐いた。「あの子……生理が来て怖がってる。妊娠の可能性まで考えて」

 

平の表情が一瞬強張った。「それで?」

 

「私は……」東は膝上の拳を握りしめる。「あなたに2号を抱いてほしい」

 

沈黙が部屋を支配する。窓の外で雨音が急に強くなった。

 

「どういう意味だ?」平の声が低く響く。

 

「2人きりで……できるだけ優しく」東は顔を上げた。「最初だけでいいの。優しくされた記憶があればあの子は乗り越えられる」

 

平は立ち上がりコーヒーカップを手に取りながら呟いた。「なぜ君がそこまで……」

 

「当たり前でしょ母親なんだから。それに…あの子が必要としているから」東の瞳に決意が宿る。「私も初めてのときは怖かった。だけどあなたがいた」

 

平は黙ってコーヒーを口に運んだ。湯気が曖昧な思考を隠すように揺れる。

 

「俺がしたこと、していることは……間違っているのかな?」平が振り返る。

 

東は小さく首を振った。「私たちがしていることに正しさなんてないわ。ただ……私はあの子を強くしてあげたいだけ」

 

その夜遅く、寝室で向かい合った夫妻の会話は続いていた。東は窓際で煙草をくゆらせながら言葉を選ぶように話し始めた。

 

「2号はね、いつも強がってはいるけど本当はか弱いの。父親譲りの内気な性格よ」

 

「そうか……」平はベッドに座りながら妻の横顔を見つめた。「1号も3号も出来すぎてるから、こんな悩みはなかったな」

 

東が微笑む。「ええ、2号は……私たちの似てほしくないところばかり受け継いじゃったみたいね」

 

平は深く考え込んだ後、ゆっくりと決意を口にした。

 

「分かった。高校生の時の君を愛するように……2号にも優しくしよう」

 

その言葉に東の目に薄く涙が滲んだ。「ありがとう」

 

---

 

翌朝、階下から漂ってくる甘い卵焼きの香りに誘われるように平はキッチンへ向かった。制服姿の2号がフライパンと格闘している様子に出くわす。

 

「おはよう」

 

振り向いた瞬間、2号の緊張した表情が痛々しい。「お……おはよ……」

 

平は普段通りに装いながらそばに立った。少女の手元が少し震えていることに気づいて「代わろうか?」と声をかける。

 

「大丈夫!」慌てて否定する声が上擦る。「昨日は……ごめんなさい」

 

「謝ることはない」平は冷蔵庫を開けながら言った。「今日は遅刻するなよ」

 

2号は俯いたまま小さく頷いた。

 

登校前、玄関で靴を履く彼女の肩を平が軽く叩く。「今日の放課後、話がある」

 

びくりと跳ね上がる背中。「どこで……?」

 

「俺のアトリエだ」平は淡々と言った。「来るか来ないかは任せる」

 

扉が閉まる音が異常に大きく響いた。廊下に戻ってきた東と目が合う。

 

「まさか断らないでしょうね」東が心配そうに呟く。

 

平は珍しく優しい微笑みを見せた。「大丈夫さ」

 

だが東の胸にはまだ不安の種が残っていた。この選択が果たして正しかったのか──。

 

夕暮れのアトリエでは窓辺に置かれたパステル画が風に揺れていた。キャンバスの中の少女は幸福そうに微笑んでいる。しかし今からここを訪れる本物の少女が同じ表情を浮かべてくれるかどうか……。

 

鍵を捻る音と共に静寂が破られた。平はゆっくりと振り返り、そこに立つ制服姿の娘を迎えた。胸に抱く決意が重くのしかかる瞬間だった。

 

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