※この作品はR-18です。

逆強姦桃色施設 カルデア   作:紫道麻璃也

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幕間

 夕食時の喧騒が少し落ち着き始めた頃、ピークを過ぎたとはいえ広い食堂にはまだ多くのサーヴァントたちが残っていた。

 遠くでは陽気に酒盛りを始める者たちの笑い声。厨房側から漂う香ばしい匂い。食器の触れ合う音と、誰かが椅子を引く微かな軋み。

 その一角だけが、妙に騒がしかった。

 

「だからよ、あの突撃は完璧だったんだって!」

 

 アキレウスが豪快に笑いながらフォークを振る。その前にある皿は既に三回おかわりした後らしく、量がおかしい。

 その向かい側では、イアソンが心底嫌そうな顔をしていた。

 

「どこが完璧だ馬鹿!お前、俺の命令より先に飛び出しただろうが⁉︎」

「勝ったんだから問題なし!」

「指揮官の胃が死ぬんだよ!」

「大袈裟だなぁ」

「大袈裟じゃねえ!」

 

 ばん、とテーブルを叩くイアソン。

 周囲の何人かがちらりと視線を寄越したが、すぐに「ああ、またか」という顔で視線を戻した。

 その様子に立香──今は礼装によって外見を偽装した、巌窟王姿の立香は、思わず吹き出しそうになる。

黒い外套──

影の落ちる顔──

低く補正された声──

 ダ・ヴィンチ製の礼装は完璧だった………少なくとも“見た目”だけなら──

 

「……英雄とは」

 

 立香は咳払いしてから、わざと低い声を作る。

 

「思っていたより、普通なのだな」

 

 一瞬、アキレウスが目を丸くした。

 だが楽しそうにすぐ笑う。

 

「なんだよ巌窟王、お前そういうの気にすんのか?」

 

 危ないと感じ立香は内心で冷や汗を流しながら、平静を装う。

 そして立香の質問にイアソンが肩を竦め答えた。

 

「英雄なんてこんなもんだ。船の上で四六時中カッコつけてられるかよ」

「あー、それはわかる」

 

 アキレウスがイアソンの言葉に共感して笑う。

 

「というか、英雄なんて基本問題児ですよ」

 

 静かにそう言ったのは、ケイローンだった。優雅な手つきで紅茶を置きながら、穏やかに言葉を続ける。

 

「自我が強く、能力も高い。加えて譲らない者が多いですから」

「ほら見ろ!」

「先生、それ完全にあんたも含まれてるぞ?」

 

 立香は堪えきれず肩を震わせる。そんな立香を見てアキレウスが訝しげに眉を上げる。

 

「……お前、今日なんか妙に笑うな?」

「…………」

 

 立香がそのことに『しまった!』と思った時には遅かった。

 だが次の瞬間、イアソンが鼻で笑った。

 

「ほっとけ。たまには機嫌いい日もあるんだろ」

「そんなもんか?」

「そんなもんだ」

 

 助かった。立香は内心で深く安堵する。

 そんな中ケイローンだけが、静かに紅茶を口へ運んでいた。その目が一瞬だけ、こちらを見る──まるで何かを確かめるように。

 

「そういえば」

 

 立香は話題を逸らすように口を開く。

 

「アタランテは、当時どのような人物だったのだ?」

 

 その瞬間、空気が少しだけ静かになった。遠くでフォークの落ちる音がした。誰かの笑い声が、妙に遠く聞こえる。

 

 最初に口を開いたのはアキレウスだった。

 

「俺はこいつらの時の姐さんは知らねぇけどよぉ………真面目だったなぁ」

 

 懐かしむような笑い方。

 

「あと速かった。あれはかなり」

「他にもクソ真面目だったな」

 

 イアソンも苦笑混じりに続ける。

 

「融通効かねぇし、正論ばっか言うし」

「説教も長かったですね」

 

 ケイローンが静かに付け加えた。

 

「先生まで⁉︎」

「事実ですので………彼女だからこそのこともありますしね」

 

 アキレウスが吹き出す。けれど、不思議と悪口の空気にはならなかった。

 むしろ──親しさだった。立香はそれを感じ取る。

 

「……嫌っていたわけでは、ないのだな」

「嫌う?」

 

 イアソンが鼻を鳴らす。

 

「まさか。むしろ逆だ」

 

 その声音は先程までよりずっと静かだった。

 

「面倒だったが、必要だったんだよ、ああいうのは」

 

 アキレウスもゆっくり頷く。

 

「仲間や子どもを見捨てねぇタイプだったしな」

「…………」

 

 立香は自然とケイローンを見る。彼は少しだけ目を伏せ、それから穏やかに言った。

 

「優しい子でした」

 

 静かな声だった。

 

「誰かが傷つくことを、とても嫌う子だった」

 

 食堂の喧騒が、遠くに流れていく。

 

「だからこそ、自分が傷つくことには無頓着だったのかもしれません」

 

 短い沈黙。イアソンは飲み物を揺らし、アキレウスは何も言わず皿を見つめる。

 その沈黙に重苦しさはない。ただ、長い旅路を知る者たちだけが共有する静けさだった。

 やがて立香が、小さく笑う。

 

「皆、アタランテのことを好いているのだな」

「はぁ?」

 

 イアソンが即座に顔をしかめる。

 

「なんでそうなる」

「いや、なんとなく」

「嫌いじゃねぇんだろ?」

 

 横からアキレウスが笑う。

 

「うるせぇ!」

「はははっ!」

 

 豪快な笑い声が響く。ケイローンはその様子を見ながら、ただ穏やかに微笑していた。

 その空気の中で立香は思う。きっと彼らにとって、アタランテはただの英雄ではない。

 共に海を越え、戦い、笑い、ぶつかり合った──“同じ船に乗った仲間”なのだと。

 

──そしてその時間は、不意に終わる。

 

「じゃ、俺は風呂行ってくるわ!」

 

 アキレウスが食器を持ち立ち上がり駆け抜ける。

 

「食ってすぐ走るなよお前は……」

 

 イアソンも呆れながら席を立った。

 

「先生も行きますか?」

「ええ、私はもう少し後で」

 

 やがて二人が去り、食堂の喧騒も少し遠ざかる。テーブルには、立香とケイローンだけが残った。

 

静かな間──

紅茶の湯気が揺れる──

 

そして──

 

「さて」

 

 ケイローンが穏やかに口を開いた。

 

「そろそろ、その礼装を解いてもよろしいのではありませんか?」

「…………え」

「ダ・ヴィンチ製でしょう。非常によくできています」

 

 ケイローンは静かに微笑む。

 

「声帯補正、霊基偽装、認識阻害。実に見事でした」

「き、気づいて……」

「ええ。最初から」

 

 終わった──女性陣に見つかったわけではないが、完全に終わった。

 立香が頭を抱えかけると、ケイローンは小さく笑う。

 

「安心してください。私は他言するつもりはありません」

「……なんでわかったんですか?」

「簡単ですよ」

 

 ケイローンは穏やかな声で言う。

 

「貴方は、“話を聞く時の顔”が変わりません」

「…………」

「興味深い話になると、少しだけ目が柔らかくなる。今日も同じでした」

 

 立香は完全に言葉を失った──そんなところまで見られていたのか。

 ケイローンは静かに紅茶を飲む。

 

「ですが、良い時間だったでしょう?」

「……はい」

 

 自然と、そう答えていた。そんな立香にケイローンは満足そうに頷く。

 

「ならば何よりです、マスター」

 

 その呼び方だけが、今の立香を“巌窟王”ではなく、“藤丸立香”へ戻していた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その後、立香は拉致された………

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