境界線の向こう側 〜配信中の銀色の聖女を、俺だけが穢す〜 作:与次郎
零が光莉の背後に立ち、静かに右手を掲げた瞬間、部屋の「理(ことわり)」が音を立てて書き換えられた。
能力の第三段階——境界生成
今まで液晶画面という隔壁の向こう側にしか存在しなかった「虚像」が、現実の質量を伴ってこの部屋に降り立つ。零の瞳が冷たく、しかし狂熱を孕んで輝き、演算された電子の奔流が現実の空間へと溢れ出した。
部屋の空気が、まるで熱に浮かされたように激しく歪んだ。
光莉の目の前で、眩い銀色の光の粒子が、美しく、そして不気味な渦を巻き始める。粒子は瞬く間に密度を増し、光を編み上げるようにして形を成してゆく。
輝く銀糸のような髪、吸い込まれるほどに深く透明な青紫色の瞳、白と銀を基調とした、あの神聖なる「聖女」の装束。そして、優雅に尖ったエルフの耳。
星野光莉はベッドの上で、心臓を鷲掴みにされたように動きを止めた。
「……え……あ、あ……?」
彼女の目が、限界まで大きく見開かれた。
そこには、銀髪の聖女が立っていた。
画面の中で何度も見つめた、完璧なプロポーション。月の光を反射して煌めく銀髪。気高く、優雅な佇まい。それは紛れもなく、光莉がその魂を削って作り上げ、誰よりも愛し続けてきた「ルミナ・ステラ」そのものだった。
だが、これはモニター越しの3Dモデルなどではない。
今、この部屋の、手が届く距離に、彼女は「肉体」として、血の通った一人の女として「存在」していた。
ルミナは静かに、慈愛に満ちた微笑を浮かべたまま、光莉の目を見つめた。
光莉の呼吸が、完全に止まった。
(……嘘。ルミナが……ここに? 私の部屋の中に……?)
喉の奥が乾ききり、悲鳴さえ出ない。
目の前にいるのは本物だ。
彼女が動くたび、柔らかなドレスが衣擦れの音を立てる。
彼女が息をつくたび、微かな体温が空気を揺らす。
彼女の銀髪からは、光莉が設定した通りの、清楚で甘い百合の香りが現実の匂いとして漂ってきた。
「う……そ……そんな……そんなの……ありえない……!!」
光莉は弾かれたようにベッドから後ずさり、壁に背中を強く打ち付けた。
だが、目は離せない。目の前にいるのは、自分自身の理想。
鏡を見ているような、それでいて全く別の生き物と対峙しているような、脳が焼き切れるほどの認知不協和が彼女を襲う。
ルミナは優しく微笑んだまま、しなやかな脚で一歩、光莉の方へ踏み出した。
ヒタ、と。
フローリングを裸足で踏む、生々しい音が響く。
光莉の全身が、震動するスマホのように激しく震えた。
(……動いた。ルミナが、私の部屋で、生きて動いてる。これは夢じゃない。現実……これが、現実なんだ……!)
零は部屋の隅、闇に溶け込むように立ち、この光景を冷徹な瞳で見つめていた。
(……完璧な実体化だ)
光莉が絶望に染まっていく様子は、期待以上に甘美だった。
現実の光を受けて輝くルミナの肌。柔らかく波打つ乳房の揺れ。すべてが、この世の誰よりも「理想的な女」として結実している。
光莉は壁に背中を押し付けたまま、涙をボロボロと溢れさせ、ガタガタと歯を鳴らしていた。
理想が現実になった。それは本来、奇跡と呼ぶべき幸福のはずだった。
だが、今の彼女にとって、それは自分のすべてを暴き、破壊しに来た「死神」の降臨に他ならなかった。
ルミナはゆっくりと、光莉の顔のすぐ近くまで身を乗り出し、耳元で愛おしそうに囁いた。
「光莉……。怖がらないで、もう一人の私。……ようやく、本物の身体で、あなたに触れられるわ」
その瞬間、光莉の理性の糸が、ぷつりと音を立てて断ち切れた。
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ルミナが現実世界に完全な肉体を得て降臨したその瞬間、零の意識は仮想の海から現実の肉体へと完全に回帰した。
モニターの向こう側にいた支配者が、今、光莉のパーソナルな領域である「自室」の空気を共有し、そこに立っている。
光莉は壁に背中を強く押し付け、限界まで見開いた瞳で、目の前のルミナを凝視していた。
呼吸は浅く、全身の震えはもはや痙攣に近い。その絶望しきった少女の隙を、零は見逃さなかった。
零は影から滑り出すように一歩を踏み出し、光莉の背後へと回り込む。
「だ……誰……っ!?」
光莉が背後の気配に気づき、悲鳴を上げた瞬間。
零の強靭な腕が、蛇のように彼女の細い両腕を捕らえた。
「きゃあっ……!? や、やめて……! 離して……離して……っ!!」
必死にもがく光莉を、零は圧倒的な膂力でねじ伏せる。彼はあらかじめ用意していた頑丈な拘束具を使い、光莉を部屋の中央にある椅子へと押し込んだ。
背後に回された両手首を、椅子の背もたれに食い込むほどの強さで固定していく。
「やめて……お願い……! 痛い、離して……っ! あなた、誰なの……!? なんでこんなこと……っ!!」
涙で視界を濡らし、叫ぶ光莉。だが、次の瞬間、彼女の絶叫は驚愕と絶望へと凍りついた。
実体化したはずのルミナ・ステラが、無表情な、しかし慈愛さえ感じさせる微笑みを湛えたまま、零の隣へと静かに歩み寄ってきたからだ。銀髪の聖女は、光莉を助けるどころか、甲斐々々しく零の手助けを始めた。彼女の白く細い指が、光莉の脚を椅子の脚に固定するための縄を、迷いなく締め上げていく。
「ルミナ……!? やだ、嘘、あなたまで……! どうして……っ、どうして手伝ってるの……!?」
ルミナは屈み込み、光莉の震える膝を優しくなでながら、穏やかな声音で答えた。
「光莉……。怖がらなくていいのよ。私はあなたを傷つけたくてここにいるんじゃないわ。……ただ、零さんが望むようにしてあげたいだけ。あなたも、本当は分かっているでしょう? こうして自由を奪われることが、一番の救いになるってことを」
その言葉は、光莉の心を物理的な縄よりも深く、鋭く抉った。
自分の理想。自分が最も信じていた「善」の象徴が、侵入者に加担して自分を縛り上げている。その倒錯した現実に、光莉の精神は音を立てて崩落していく。
零は動けない光莉の耳元に顔を近づけ、低い、獲物をなめるような声で囁いた。
「天峰零だ。……お前の『ルミナ』を、画面の向こうからずっと犯し続けていた男だよ」
光莉の瞳が、恐怖で収縮する。
「今日から、お前の目の前で、この『聖女』を本物の女にしてやる。お前が人生をかけて守り抜いてきた理想の姿が、俺の肉棒でめちゃくちゃに汚され、快楽に溺れて堕ちていく様を……その特等席で、一秒も逃さず見届けてもらうぞ」
「やめて……お願い、ルミナを……私のルミナを傷つけないで……っ!! 見せないで、そんなの見たくない……っ!!」
光莉は椅子をガタガタと揺らして抵抗するが、腰まで追加された縄が、彼女の自由を完全に奪い去っていた。
ルミナは光莉の頬に、自らの柔らかい手のひらを添えた。
熱い。自分自身の分身であるはずの彼女の手は、驚くほど生々しい体温を持っていた。
「光莉……。私はあなたの代わり。あなたが抑え込んできた『雌』の快楽を、私が代わりに零さんから受け取ってあげる。……ちゃんと、見ていてね? あなたの中に眠る本当の悦びを」
「いや……いやぁぁぁ……っ!! ルミナ、お願い、やめて……っ!!」
零は満足げに、涙と汗でぐちゃぐちゃになった光莉の顔を覗き込み、残酷な笑みを深めた。
「ほら、よく見てろ。お前の『理想』が、今から俺の『所有物』に変わる瞬間だ」
零はルミナの肩を力強く抱き寄せた。
二人の支配者に挟まれ、椅子に縫い付けられた光莉の前に、かつてないほど濃厚で淫らな「見せつけ」の幕が上がろうとしていた。