※この作品はR-18です。

境界線の向こう側 〜配信中の銀色の聖女を、俺だけが穢す〜   作:与次郎

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35:見えざる蜘蛛の命令

 

 画面の中で、夏川みずきがカフェから飛び出し、夜風に吹かれながら一人で歩き去っていく。

 薄暗い部屋の奥、天峰零は無精髭の生えた顎を細い指先でゆっくりとなぞりながら、無機質な瞳を愉悦に細めた。

 

「……素晴らしい。予想を遥かに超える、美しい反応だ」

 

 零はレザーの椅子に深く腰を沈め、マルチモニターに映し出されるみずきの表情を、コマ送りでじっくりと観察した。

 まだ少し赤みが引かない愛らしい頬。戸惑いと、それ以上の「熱」を孕んで小刻みに震えるスラリとした脚。カフェで光莉に耳元へ吐息を吹き付けられ、下唇を弄くられ、指を深く絡め合わされた後の動揺が、赤外線カメラの映像のように鮮明に見て取れた。

 彼女が夜道の街灯の下で、光莉に残された唇の熱を必死に擦り消そうとしている健気な抵抗すらも、高解像度のレンズは無慈悲に捉えている。

 

「絵に描いたような太陽の天使が、親友からの甘い『毒』に当てられてあそこまで貪欲に乱れるとはな……。だが、逃げ出さずに最後まで光莉の言葉を聴こうとしていた。お前のその強すぎる正義感が、すでに墓穴を掘り始めているぞ」

 

 零の薄い唇の端が、ゆっくりと歪に吊り上がる。

 光莉のスマホに仕込んだ盗聴アプリと隠しカメラから送られてきた音声、そして肉体の同期データは完璧だった。光莉は零の命令通り、忠実な猟犬として機能した。ほんの少しの物理的な接触と、零に開発されたメスとしての淫らな波長を伝染させただけで、みずきのピュアな防衛本能に致命的な亀裂を入れてみせたのだ。

 

「光莉……。よくやった。お前は本当に、最高に使い勝手のいい道具だよ」

 

 零は手元のキーボードを叩き、カフェに残っている光莉へ向けて新たな「命令」を送信した。

 画面の向こうで、上の空でスマホを見ていた光莉の身体が、受信通知とともにビクッと小さく跳ねるのを、零は見逃さない。

 

「仕込みは終わった。次は、あの小娘を自然に『コラボ配信』へと誘導しろ。お前の方から、おねだりするんだ。『みずきちゃんと、一緒に配信がしたいな』とな」

 

 零の脳内では、すでに次の調教ステージの絵図が、具体的かつ完璧にプログラミングされていた。

 ――公式の、リスナーたちが大勢見守る『コラボ配信』という公開のチェス盤。

 そこで、みずきをゆっくりと、確実に追い詰める。

 

 配信中の光莉の裏に零が潜航し、みずきには見えない位置から、最初は軽い干渉を仕掛けていくのだ。健康的な太もも、細い腰、そしてDカップの豊かな胸……。徐々に彼女の敏感な部分へと指先を這わせた時、あの負けず嫌いなみずきが、大好きな親友の前で、あるいは何万人というファンの前で、はたしてどれだけ「普通のフリ」をしていられるか。

 

 耐えようと必死に笑顔を張り付かせ、声を殺し、しかし衣服の奥でじわじわと愛液を滴らせていく天使の苦悶。その極上のバグ(狂い)が発生していく過程を、零はこの暗闇の特等席から、じっくりと味わい尽くすつもりだった。

 

(夏川みずき……お前はまだ、俺という支配者の存在すら知らない。だが、次のコラボ配信が終わる頃には、お前の身体は俺の快楽の味を覚え、引き返せなくなる)

 

 零はモニターに映るみずきの後ろ姿――夜道を必死に歩く、まだ何も知らない健康的な身体を愛撫するように、ディスプレイの表面を指先でねっとりとなぞった。

 

「光莉というシステムを完全に手中に収めた今、次は親友のお前だ。二人を同時に操り、互いの絆を利用し合いながら、快楽の泥濘へと堕としていく……。これ以上の贅沢な遊びは、他にないからな」

 

 暗闇の部屋に、零の低く冷徹な笑い声が静かに、そして深く響き渡る。

 太陽の天使を捕らえるための邪悪な蜘蛛の巣は、今や完全に、その網の目を広げ終えていた。

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