※この作品はR-18です。

境界線の向こう側 〜配信中の銀色の聖女を、俺だけが穢す〜   作:与次郎

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38:親友を想う誓い、絆という名の底なし沼

 

 ガチャリと自宅の部屋の鍵を閉め、夏川みずきはベッドにキャンバストートを放り投げると、すぐさまデスクのノートパソコンを開いた。

 

「よし……っ! 構成案、今日のうちに大枠だけでも叩き台作っちゃうんだから!」

 

 あえて明るく自分を鼓舞するように声を出し、椅子に深く腰掛ける。

 カーテンを閉め切った自室の壁には、ルミナ・ステラと陽ノ川ひまりが背中を合わせて微笑む、二人の活動初期の限定コラボポスターが貼られていた。それを見つめるみずきの瞳が、ふっと翳りを帯びる。

 

(光莉ちゃん……。あんなに怯えた目で私にすがってきて……。絶対に、普通の悩み事なんかじゃない)

 

 みずきはポケットからスマートフォンを取り出し、画面を見つめた。

 カラオケボックスの密室で、自分の首元に顔を埋めてきた光莉の、あの壊れそうなほど激しい呼吸。あの瞬間、光莉が何かを告白しようとして、結局は飲み込んでしまった言葉の重みが、みずきの胸をキリキリと締め付ける。

 

 迷った末に、光莉のチャット画面を開いてメッセージを打ち込んだ。

 

【みずき】

 光莉ちゃん、無事に家着いた? 今日の打ち合わせ、すっごく楽しかった!

 コラボの日程だけど、来週の水曜の夜で配信枠取っちゃって大丈夫そう?

 

 送信して間もなく、画面に『既読』の文字がついた。少しの空白のあと、光莉からの返信が画面に滑り込んでくる。

 

【光莉】

 うん、無事についたよ。ありがとう、みずきちゃん。

 来週の水曜の夜、大丈夫。私もその時間、すごく楽しみにしてるね。

 どんな風に進めるか、決まったら教えて?

 

 いつもの光莉らしい、丁寧で優しい文面。けれど、画面を見つめるみずきの指先が、ぴたりと止まった。

 優しくて協力的。なのに、今日のカラオケでの、あの変化や、絡みつくような声のねっとりとした余韻が、文字の裏側からじわりと染み出してくるような錯覚を覚える。

 

(やっぱり、光莉ちゃんは何かトラブルに巻き込まれてる……。誰か、得体の知れない存在が、光莉ちゃんの心を縛り付けてるんだ)

 

 みずきはペンを握り直し、ノートにコラボ配信の進行表を書き始めようとした。だが、文字を書こうとすると、どうしても肩のあたりに不自然な緊張が走る。

 目を閉じれば、個室で光莉に強く抱きしめ返された瞬間の、あの異常な肌の熱量が、鮮烈な記憶となって脳裏に蘇るからだ。

 

「……なんで、あんなに熱かったんだろう。それに、声も……」

 

 みずきはペンを置き、自らの首筋にそっと指先を触れた。

 光莉が顔を埋め、激しい吐息を直接吹き付けてきた剥き出しの肌。それを思い出した瞬間、みずきは小さく「あ……」と声を漏らし、無意識のうちに自分の両太ももをキュッと擦り合わせた。

 

 気のせいだと思いたかった。だが、光莉に触れられた首筋が、そしてトレーナーの奥、きつく尖ったままの胸の先端が、生地と擦れてきゅう、と下腹部にまで響くような不吉な疼きを伝えてくるのだ。

 みずきの肉体が、光莉を媒介にして送り込まれた零の「色気の毒」に、無自覚な拒絶と、それ以上の「未知の火照り」を覚え始めていた。

 

「違う……っ、私は光莉ちゃんを助けるために頑張らなきゃいけないのに……っ」

 

 みずきは慌てて首を振り、火照る顔を両手で叩いて焦燥を振り払った。スマホを握りしめ、再び文字を打ち込む。

 

【みずき】

 光莉ちゃん、ホントに無理してない? もし悩み事とか、何かあったら……私、いつでも聞くから。

 何でも話して! 私は光莉ちゃんの味方だからね!

 

 今度は、返信が来るまでに少しの時間がかかった。じっと画面を見つめるみずきの心臓が、不安で小さく弾む。

 

【光莉】

 ありがとう、みずきちゃん。本当に大丈夫だよ。

 コラボでみずきちゃんと一緒に楽しめたら、それだけで元気が出そう。

 

 そのメッセージを読んだ瞬間、みずきは胸の奥で、カチリと鋼のような決意のスイッチが入るのを感じた。

 光莉の「大丈夫」という言葉が、逆に彼女が何かから必死に隠蔽しようとしている防衛線のよう見えてしまう。

 

(やっぱり、メッセージじゃこれ以上突っ込めない……。だったら、コラボ当日の配信中に、しっかりと様子を確かめるしかない! 光莉ちゃんが隠してる違和感を、私が絶対に掴まえてみせる!)

 

 持ち前の負けず嫌いな根性と、大切な親友を絶対に救うという一途な正義感が、みずきの心に猛烈な炎を点火させた。

 彼女は焦燥をエネルギーに変えるようにして、BGMのリストアップや、夏の思い出エピソードの台本作成に没頭し始めた。

 過去の眩しい思い出を振り返るたびに、「私が光莉ちゃんを守るんだ」という誓いは、より一層強固なものになっていく。

 

「よしっ! 絶対に最高のコラボ配信にして、光莉ちゃんの不安も、全部吹き飛ばしてあげるんだから!」

 

 夜が更ける頃、すべての構成案を書き終えたみずきは、大きく伸びをして自分を鼓舞した。

 その時、デスクの上のスマホが、ブブッと一度だけ震えた。

 

【光莉】

 みずきちゃん、準備頑張ってね。私も楽しみにしてるよ。……大好きだよ。

 

 ストレートな、けれどどこか悲痛な響きさえ感じるその言葉に、みずきは一瞬だけ胸を熱くし、すぐさま親愛を込めて文字を返した。

 

【みずき】

 私も光莉ちゃん大好き!! 来週、二人でめっちゃ頑張ろうね!!

 

 送信ボタンを押し、スマホをそっと胸の前に抱きしめながら、みずきは暗くした自室の天井を見つめて、心の中で強く誓うのだった。

 

(コラボ配信の時、ずっと隣で見てるからね。おかしなところがあったら、私が絶対に気づいて、その手を取り返してみせるんだから……!)

 

 親友を救いたいという純真な祈り。それが、裏で待ち構える天峰零のサディズムを最も狂わせる「最高の餌」になるとも知らず、太陽の天使は、破滅のチェス盤の上で誰よりも前向きに微笑んでいた。

 

 

------

 

 

 静寂と薄暗さに支配された密室の奥で、天峰零はモニターを静かに見つめていた。

 大画面のモニターには、光莉のスマートフォンからリアルタイムで転送されてくる、みずきとのチャットログが文字データとして次々と流れている。

 

【みずき】

 私も光莉ちゃん大好き!! 来週、二人でめっちゃ頑張ろうね!!

 

 スピーカーから流れるログの受信音を聞いた瞬間、零は椅子に深く身体を沈め、喉の奥からくくくと低く、愉悦に満ちた笑いを漏らした。

 

「ハハ……! 本来なら光莉に誘わせる予定だったが、まさか獲物の側から進んで猟犬の口に頭を突っ込んでくるとはな。お節介な正義感に、その行動力……夏川みずき、本当に期待以上の極上品だ」

 

 零は無精髭の生えた顎を指先でなぞり、カラオケボックスで録音された二人の音声データを再生した。

 みずきの何も知らない、親友を救おうと必死に輝かせている太陽のような歌声と笑顔の気配。そして、その眩しさに怯えながらも、俺の命令に従って「メスの顔」を張り付かせ、みずきの首元にまとわりついていた光莉の激しい吐息。

 

「自ら処刑台の階段を上り、自分で首輪の鍵を閉めるとは、最高の滑稽劇だな。みずきが提案した企画のタイトルは『ルミナとひまりの夏休み』……いや、光莉が口走った通り、『夏の秘密』こそが相応しい」

 

 零の手元で、キーボードがカタカタと乾いた音を立てる。モニターに映し出されるみずきのプロフィール。カジュアルな服の上からでもはっきりと自己主張している、Dカップの瑞々しく豊かな果実を、ディスプレイ越しに指先でねっとりとなぞる。

 

「来週の水曜……配信中という、何万人ものリスナーがリアルタイムで見つめる公開の場。それがお前に与える絶対の制約だ。声を出してはいけない、暴れてはいけない、助けを求めてもいけない……。お前が一番大切にしている『親友』の前で、お前自身がリアルタイムで堕ちていく姿を、世界中に晒し届けてやる」

 

 零の唇の端が、鋭く歪んだ形に吊り上がる。

 光莉は零の命令通り、みずきを心配してフォローするフリをしながら、衣服の奥で衣服を濡らしていく親友を、逃げられないように背後から優しく、冷酷に追い詰める役割を担うことになる。

 

「夏川みずき……。お前が笑顔を涙でぐしゃぐしゃに歪ませ、配信中にどれだけ淫らに喘ぎ狂うか……。たっぷりとお前の『初めて』を、俺の特等席で味わわせてもらうぞ」

 

 部屋の暗闇の中で、零の冷たい瞳が、次の獲物を完全に捕らえた蜘蛛のように、邪悪な光を放ち続けていた。

 

 

 

 ――同時刻、星野光莉は、夜の静寂に沈んだ自宅の自室で、ベッドの上に膝を抱えて座っていた。

 みずきからの真っ直ぐな親愛のメッセージを表示したままのスマートフォンを握る指先が、小刻みに、そして哀れなほどに震えている。

 

「みずきちゃん……っ、ごめ、んなさい……ごめんなさい……っ」

 

 喉の奥から、押し殺した嗚咽が漏れ出す。栗色の瞳から大粒の涙が溢れ、シーツの上にポつポつと黒い染みを作っていった。

 今日、カラオケボックスの密室で、みずきが「私がついてるんだから」と自分を強く抱きしめてくれた時の、あの温もりが頭から離れない。

 

(あみずきちゃんの優しさが……私を救おうとしてくれた行動力が、一番最悪な形で裏目に出ちゃうなんて……っ。みずきちゃんは、私の異変に気づいて、助けようとしてくれてる……。なのに私は……それを分かっていながら、あなたを、零さんの用意した底なしの沼へ引きずり下ろす手伝いを……っ!)

 

 親友への狂おしいほどの罪悪感。裏切りの重圧に耐えかねて、光莉の華奢な肩が激しく波打つ。

 だがその瞬間、ドロドロとした精神の絶望に呼応するように、光莉の衣服の奥――天峰零によって徹底的に開発され尽くした肉体が、内側からじわじわと、恐ろしいほどの熱を帯びて疼き始めた。

 

『光莉……。ずいぶんと健気に泣いているな。天峰零の最高傑作が、まだそんな安いおままごとに心を痛めているのか?』

 

 ゾクッ、と光莉の全身の毛穴が恐怖で逆立った。

 突然、鼓膜を介さずに、脳髄の奥へと直接、支配者・天峰零の冷徹な低音が響き渡ったのだ。

 

「あ……っ、零、さん……あ、うぁっ……!」

 

 光莉はベッドの上で、弓なりに身体をのけぞらせて声を漏らした。

 みずきへの罪悪感で胸が張り裂けそうなのに、強制的に与えられる甘美な肉体的快感。脳髄を直接灼かれるようなその愛撫に、光莉の身体は一瞬で屈服し、下着の奥からドロリと、みだらな愛液を溢れさせていく。

 

『お前がみずきを騙し、裏切ろうと絶望するたびに、お前の身体はこんなにも淫らに濡れそぼっていく。ククク、お前にとって、親友を汚す背徳感こそが、何よりの極上の媚薬になっているんじゃないのか?』

 

 「ちがっ、違う、お願……あ、あんっ! ぁ、はぁ、はぁ……っ!」

 

 違う、と否定したいのに、頭の中に響く零のサディスティックな囁きと、身体の奥をズキズキと突き上げる快感の波が、光莉の理性を粉々に砕いていく。

 親友への申し訳なさで涙を流しながら、同時に、零の命令に従って親友を地獄へとハメる行為そのものに、ゾクゾクとするような異常な興奮と、主に褒められることへの従属の悦びを感じてしまっている自分が確かにそこにいた。

 

 精神の絶望が深まれば深まるほど、肉体の快楽が何倍にも跳ね上がるという、零の施した最悪の調教。光莉の心は、もう完全に、逃れることのできない絶対服従の檻の中に閉じ込められていた。

 

『命令だ、光莉。来週の水曜……お前のすぐ隣で、何も知らずに健気に振る舞うみずきを、俺の見えない指先が嬲り殺す。お前は親友の顔をして、その処刑を完璧にサポートしろ。いいな?』

 

 見えない指先が、光莉のクリトリスをキュッと強く爪立てるように弾いた。

 

「……っ、はい……っ、はい、零さん……! 来週の水曜……みずきちゃんを……私が、私と同じ、零さんのメスにする、お手伝いを……いたします……っ!」

 

 光莉の口から漏れ出たのは、以前の面影など微塵もない、完全に壊された愛玩動物の、とろけきった従属の誓いだった。

 脳内を支配していた零の気配がゆっくりと遠ざかっていくのを感じながら、光莉は涙で濡れた顔のまま、どろりとした虚ろな瞳で天井を見つめた。

 胸の奥には、消えることのないみずきへの哀しみ。けれど、それ以上に、親友を自分の手でゆっくりと穢し、自分と同じ泥沼の底へと引きずり込んでいくことへの、抑えきれない淫らな疼きが彼女の股間を濡らし続けている。

 

「みずきちゃん……ごめんなさい……。でもね、零さんの快楽は……本当に、すごいの……。だから、来週のコラボ配信……楽しみにしててね……?」

 

 スマホを愛おしげに胸の前に抱きしめながら、光莉の唇に、哀切と歪んだ愉悦が混ざり合った、完璧な「猟犬」の笑みが浮かび上がるのだった。

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