境界線の向こう側 〜配信中の銀色の聖女を、俺だけが穢す〜 作:与次郎
深夜2時を過ぎても、夏川みずきはパジャマ姿のまま、デスクの大型モニターに向かい続けていた。
部屋の明かりは完全に落とされ、画面が放つ青白い光だけが、涙の跡が乾いた彼女の血走った瞳を冷たく浮かび上がらせている。
「……おかしい。何かが、絶対におかしい……っ!」
先ほどの、光莉との奇妙な通話の余韻――自分の恥部を優しく搾り取っていった親友の、あの甘く狂った声を頭から振り払うように、みずきはマウスを激しくクリックした。
彼女がしていたのは、過去数ヶ月間にわたる『ルミナ・ステラ』の配信アーカイブの検証だった。タイムラインを血眼になって遡り、異変の兆候をノートに震える文字でびっしりと書き殴っていく。
「ここも……このソロ配信でも、ルミナちゃんの様子が変だ……っ」
みずきは動画を一時停止し、画面を食い入るように拡大した。
いつもの清楚で優雅な笑顔でトークをしている光莉。だが、コマ送りで注意深く観察すると、アバターの視線は時折、カメラではなく、まるで「部屋のどこかにいる見えない誰か」を恐怖と恍惚の入り混じったトロンとした目で見つめている。
さらに恐ろしいのは、言葉の端々で急に声が掠れて艶っぽく濡れ、呼吸を荒くしながら、衣服の上から自分の胸をガシッときつく、愛おしげに書き抱いている瞬間が何度もあったことだ。カメラに映らない机の下で、アバターの腰のトラッキングが快感に耐えるように小さく、不自然にビクビクと揺れているのを見つけてしまい、みずきは息をのんだ。
「光莉ちゃん……この時からすでに、誰かに……配信中に、身体を触られていたの……?」
書き留められたメモの項目が、みずきの胸を激しく締め付ける。
【◯月◯日ソロ配信】開始15分頃、急にトロンとした目になり、自分の胸を乱暴に触るような動き。直後に音程が不自然に上擦る。
【◯月◯日雑談配信】言葉の端が溶けるように柔らかくなり、呼吸が完全に喘ぎに変わる瞬間が複数回。
【プライベートのチャット】以前の清楚な言葉遣いじゃなく、妙にねっとりとした、淫らなニュアンスが混ざり始めている。
誰よりも負けず嫌いなみずきの芯が、恐怖を上回る義務感でパチパチと火花を散らした。
(光莉ちゃんは、悪い誰かに脅されて、あんな身体にされちゃったんだ……! だから、さっきの電話でも、私を突き放して自白をさせるような、おかしいことを言ったんだ……。私が、光莉ちゃんを救わなきゃ。大好きな光莉ちゃんを、こんな卑怯なヤツから、私が絶対に連れ戻す……っ!)
だが、そう必死に自分を奮い立たせながらも、みずきの下腹部は、画面から流れる光莉の「掠れ濡れた声」を聴くたびに、キュン、と疼きを返してくる。
気付かないうちに、みずきの肉体もまた、光莉の声を媒介にして、天峰零の仕掛けた精神汚染の毒にジワジワと蝕まれ、蕾を微かに開き始めていたのだった。
------
自室のベッドの上で、激しい遠隔絶頂の余韻に浸りながら、星野光莉はどろりと潤んだ瞳で暗い天井を見つめていた。
衣服は乱れ、はだけた胸元は大きく上下し、太ももの間からは天峰零に開発され尽くした愛液がベッドのシーツへと滴り落ちて冷えていく。手元にあるスマートフォンの画面は、すでに真っ暗だった。
(みずきちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい……。私はもう、あなたを守ってあげられる親友なんかじゃないの……)
脳裏に浮かぶのは、先ほど電話の向こうで、泣きながら胸や秘部の快感を自白させられていたみずきの、哀れで愛おしい姿。
守ってあげたいという、かつての光莉の良心。しかし、それを押し潰すように、自分の言葉一つで親友が動揺し、羞恥に顔を染め、それでも自分を信じようとしてくる姿を思い浮かべるだけで、光莉の胸の奥は、ゾクゾクとするような異常な快悦で満たされていくのだ。
光莉は、愛おしげに、けれど呪いのようにスマートフォンを胸にきつく抱きしめ、暗闇の中でドロリとした「猟犬」の歪んだ笑みを浮かべながら、声にならない独白を漏らした。
(ねえ、みずきちゃん。あなたが泣きながら白状したとき、信じられないくらい、私のアソコが熱くなっちゃったんだよ……?)
(あんなにピュアで、みんなの天使だったみずきちゃんが、配信の裏で見えない指に弄ばれて、リスナーの前で声を乱して絶頂させられちゃうなんて。本当に可哀想……)
(私があなたを裏切って、零さんの言う通りに優しく寄り添って、あなたの不安をぜーんぶ搾り取ってあげるとき……私の心は罪悪感で引き裂かれそうになる。でもね、その痛みが、私をこれ以上ないくらい強く衝き動かす最高の快楽になっちゃうの。あなたが私を信じて、縋って、涙を流せば流すほど、私は零さんの最高のおもちゃになれる……)
(一人で怖がる必要なんてないよ。零さんの見えない指先は、頭がおかしくなるくらい気持ちいいの。プライドも、清純な仮面も、全部溶かされて、ただおねだりすることしかできない身体にされるの。私があなたを、その極上の地獄へ優しく導いてあげる。大丈夫、どんなに身体が汚れても、私がずっと隣にいてあげるからね……。だから、もっと私を信じて? もっと私に縋って、その可愛い声をたくさん聞かせて……? ふふ、あははは……!)
罪悪感が深まれば深まるほど、親友を地獄へと導ていく背徳感が、極上の媚薬となって光莉の股間をさらに濡らしていく。
聖女の面影を完全に失った光莉は、暗闇の中でただ一人、愛玩動物としての甘く狂った笑い声を、いつまでも部屋の静寂に響かせ続けるのだった。