境界線の向こう側 〜配信中の銀色の聖女を、俺だけが穢す〜 作:与次郎
大学からの帰り道、夏川みずきは周囲の景色に目をくれることもなく、自宅マンションの階段を駆け上がっていた。肩にかけた鞄の中では、解析データを詰め込んだノートPCが、ずっしりと彼女の華奢な身体に圧し掛かっている。
カフェテリアで掴みかけた、あの不気味なデジタルノイズの共通点――それを自室の環境でさらに掘り下げる。今の彼女を突き動かしているのは、それだけの執念だった。
部屋に入るなり、みずきは靴を乱暴に脱ぎ捨て、デスクへと直行した。遮光カーテンを隙間なく閉め切り、部屋の主照明を落とす。液晶モニターの光だけが部屋を照らす、彼女にとって最も集中できる環境を整える。
「よし……本気で剥ぎ取ってやる」
みずきは強張った両手の指を軽く鳴らしてから、キーボードへと指を滑らせた。
まずは、光莉の配信ログデータを時系列で並べ替える。そして、先ほど割り出した音声波形の超音波ノイズと、3Dモデルの座標の不自然な歪みが発生した瞬間を一括でアナライザーに放り込んだ。画面の上に、無数の赤い警告マークがピンポイントで立ち上がる。
声が微かに上ずり、息が湿っぽくなった瞬間。3Dモデルの腰が不自然に浮き沈みし、太ももの座標が互いに強く干渉し合っている瞬間――それは、画面の向こう側の現実で、光莉が秘部を指先でじっとりと抉られている瞬間と、完全に狂いなくシンクロしていた。
「このASMR配信の後半、ルミナの呼吸が不自然に浅くなってる。このタイミングで、あいつは光莉ちゃんの服の中に手を滑り込ませてるんだわ……。で、こっちの通常配信の枠では……トークの最中に、生身の光莉ちゃんの胸を、何度も何度も、弄んで、転がして……っ」
画面を見つめるみずきの茶色の瞳が、段々と血走り、鋭く据わっていく。
彼女はさらに、光莉のここ一ヶ月の私生活における行動パターンも、プロファイラーのようにデータベース化し始めた。SNSの更新時間のズレ、大学の講義を欠席し始めた日付、プライベートの返信のタイムラグ。それらすべての数値を、配信中の「異常発生率」のグラフと照らし合わせていく。
「……やっぱりだ。外部からの干渉の数値が、特定のタイミングで異常に跳ね上がってる……っ」
みずきはペンを握りる手にギリギリと力を込めた。
だが――これだけ異常なハッキングの痕跡を捉えているにもかかわらず、その通信の根源をトレースしようとすると、データは世界のシステムそのものに吸収されるようにして、不自然に消失してしまうのだ。
「くそっ……! なんなの、あいつは……っ。プロトコルそのものを無視したような暗号化、個人の技術でできるわけがない……っ!」
無力感が、胸の奥でドロドロとした黒いマグマのように煮えたぎる。みずきは椅子から勢いよく立ち上がり、狭い自室の中を、激しく呼吸しながらゆっくりと往復した。
脳裏に浮かぶのは、かつての光莉の、あの純粋で優しかった笑顔。その光莉が、今、天峰零という正体不明の怪物の掌の上で、雌としての肉体も精神も、ぐずぐずに書き換えられながら配信を続けさせられている――その事実を思考するだけで、みずきの胸の奥は、激しい怒りと締め付けられるような痛みに引き裂かれそうだった。
「絶対に、あんたの正体を暴いてやる。光莉ちゃんを、あんな男の檻から、私が絶対に連れ戻す……っ!」
その時だった。ちり、と静まり返った部屋の空気が、まるで見えない静電気を帯びたかのように、わずかに、そして異様に重く変質した気がした。
「――っ!?」
みずきはハッと顔を上げ、全身の毛穴を総毛立たせながら、誰もいないはずの薄暗い部屋の四隅を鋭く見回した。何もいない。だが、肌をピリピリと刺すような、まるで現実の空間の厚みが一皮膚むけ、仮想世界の歪みがすぐ近くまで迫っているかのような得体の知れない違和感だけが、部屋の空気にべっとりと残留している。
「……来るなよ」
みずきは、暗闇の奥に潜む見えない誰かに向けて言い聞かせるように、低く、険しい声で呟いた。
「零……。あんたが次に何を仕掛けてこようと……私は絶対に、あんたの思い通りにはならないから……っ!」
彼女は自分を鼓舞するように強く足を踏み鳴らすと、再びデスクへと戻り、モニターに向き直った。
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深夜1時を、とうに回っていた。
夏川みずきはデスクに向かったまま、疲労と睡眠不足で赤く目を血走らせ、モニターの光にその顔を照らされていた。手元のノートには、零の通信ログから割り出したデジタルノイズの出現周期が、びっしりと狂気じみた密度で書き込まれている。
「まだ……核心のサーバーまで辿り着けない……っ。どうしてこんなに足跡が綺麗に消されてるのよ……っ!」
みずきはキーボードを叩く指を止め、低く掠れた声で毒づいた。零という男の影を電子の闇に追いかければ追いかけるほど、その存在の底知れなさに、心臓がじわじわと冷たい恐怖で支配されていく。
その時だった。
「みずきちゃん♪ すっごく遅くまで頑張ってるね~!」
背後の暗闇から、突如として、鈴を転がすような明るい美声が鼓膜へと飛び込んできた。
「――っ!?!?」
みずきは心臓を素手で掴まれたように激しく跳ねさせ、椅子ごとひっくり返るような勢い。で背後を振り返った。そこに、立っていた。
金髪とオレンジのグラデーションが美しいロングヘアをふわりと揺らし、完璧なプロポーションのドレスを現実の部屋の空気に馴染ませて、陽ノ川ひまりが満面の太陽の笑顔を浮かべて佇んでいた。
「ひ、ひまりちゃん……っ!? なんで……また……っ!」
みずきはパニックを起こし、椅子をデスクに強くぶつけながら後ずさろうとした。しかし、ひまりはトントンと軽い足取りで、一瞬で距離を詰めてきた。椅子の背もたれを両手でガシリと掴み、背後から覗き込むようにして身を乗り出してきた。
「えへへ、零さんのこと、そんなに一生懸命調べてくれてるんだね。私、すっごく嬉しいよ? みずきちゃんが、それだけ零さんのことで頭がいっぱいになってくれてるんだもん!」
「来るな……っ! 触らないで、近づかないでよ……っ!」
みずきは拒絶しようと腕を振り回した。しかし、ひまりはその細い腕をものともせず、椅子の背もたれ越しにみずきの華奢な肩を、上から強い力でデスクへと圧しつけた。
「ひゃあうっ!?」
押し込まれた衝撃で、みずきの胸がデスクの角にグニュリと押し潰される。ひまりはそのまま、みずきの背中に自分の豊かな胸をぴったりと密着させ、滑らかな指先をみずきのパジャマの襟元から中へと、滑り込ませた。
その指先が柔らかい胸の谷間へと滑り落ちた瞬間、昨夜刻まれた悍ましい快感の記憶がフラッシュバックし、みずきの身体がビクンと激しく震えた。
「や……だ……っ! 離して……っ! お願いだから……っ!」
「んふふ、逃げないで~、みずきちゃん。みずきちゃんが頑張ってキーボード叩いてるお顔、零さん、ぜーんぶ特等席で見てるんだから」
ひまりの無邪気な指先が、キャミソールの布地を強引に捲り上げ、生々しい胸へと直接触れてきた。驚くほど温かい、本物の人間の指先。それが、みずきの乳房を手の平全体で下から丁寧に揉みしだき、親指の腹で、その先端の小さな乳首を容赦なく押し潰すようにして、クリクリと転がし始めた。
「んあぁっ……!? や……やだぁっ……! あ……っ、は……っ、んんんっ……!?」
みずきはデスクに両手をつき、腰を激しく捩って逃げようとした。しかし、ひまりは「うふふ、だーめ」と楽しそうに囁きながら、自分の細い膝を、椅子に座るみずきの合わされた太ももの隙間へと、グイグイと強引に割り込ませてきた。
そのまま、ひまりの膝頭が、みずきのショーツのクロッチの真上――最も敏感なクリトリスへとぴったり押し当てられ、デスクの角に彼女の下半身を挟み込むようにして、沈み込むような摩擦で擦り上げられた。
「ひまり、ちゃん……そこ……だめ……っ! 熱い……熱いの、きちゃう……っ!」
みずきの顔が屈辱と快感で真っ赤に染まり、目尻から涙がポロポロと溢れ出した。ひまりに開かされてしまった身体の奥が、膝で小刻みに圧迫されるたびに、じゅわりと卑しい愛液を分泌してパジャマに染みを作ていく。
「あんなに怒って、自分の正体を暴こうと必死になってるお顔が、たまらなくエッチで可愛いんだって♪ ほら……もっと、素直に零さんの色に染まっちゃえば楽なのに~」
「零……っ! あいつ……っ、んああんっ……!?」
みずきはひまりが乳首をキュッと爪先で強く弾いた瞬間、完全に言葉を失って背中を反らせた。下半身に押し当てられたひまりの膝の動きが、さらに一段と速く、ねっとりしたものに変わる。
「は……っ、あ……っ、うあぁっ……! いく……いっちゃう……っ! やだ、……こんなの……やだぁぁっ……!」
みずきが声を裏返して絶叫したその瞬間、彼女の身体はデスクの上で激しく痙攣し、強制的に甘い絶頂の果てへと叩き落とされた。頭の中が快楽のノイズで満たされ、デスクに突っ伏したまま、ハァハァと荒い息を吐き散らす。
ひまりは満足そうにキャハハと笑うと、快感の余韻でピクピクと震えるみずきの耳元に、そっと唇を寄せて優しく息を吹きかけた。
「すっごくいい声だったよ、みずきちゃん。どれだけ抵抗しても、その必死なお顔も、こうして気持ちよくなって泣いちゃうお顔も、ぜーんぶ大好きなんだよ?」
その言葉を最後に、ちり、と部屋の空気が元に戻り、ひまりの気配と質量が、ふっと嘘のように電子の霧となって消え去った。残されたのは、静まり返った深夜の部屋。モニターの青白い光の前で、胸を半分はだけさせ、下半身を自分の愛液で濡らしたまま、デスクに突っ伏して激しい息を吐き続ける、惨めなみずきの姿だけだった。
「……あ……う……。零……あんたは……本当に……人間なんかじゃ……ない……っ」
みずきは涙でベタついた顔を机に押し付けたまま、掠れた声で、呪詛のようにその名を呟いた。