境界線の向こう側 〜配信中の銀色の聖女を、俺だけが穢す〜 作:与次郎
──星野光莉視点
(……もう……本当に、限界……)
配信椅子に座ったまま、私は震える指先で机の端を強く掴んでいた。
全身が熱い。特に股間の中心は、見えない指によって執拗に円を描かれ、熱く硬く腫れ上がっている。胸の先端も、耳たぶも、すべてが同時に暴かれ、弄ばれているこの異常な状況。
何よりも私を絶望させたのは、画面の隅で跳ね上がる「数字」だった。
(三万人……? なんで……どうして増え続けてるの……っ?)
私が羞恥に耐えかねて声を漏らすたび、苦痛に腰を震わせるたび、視聴者数は見たこともない勢いで伸びていく。
コメント欄は、熱狂的な喝采で埋め尽くされていた。
『ルミナ様、今日のエロさ異常だろ』『この喘ぎ、マジで演技じゃないだろ……』『最近、神(ルミナ)が進化しすぎてる』
(やめて……そんな風に、喜ばないでぇ……っ!)
心の中で叫ぶが、マイクが拾うのは、快感に負けて甘く蕩けた「あ……っ、ん、んぅ……」という、汚らわしい吐息だけ。
みんなを癒やすための「聖女」が、いまや世界中に向かって、自分の淫らな喘ぎを垂れ流している。
みんなが喜べば喜ぶほど、私が大切にしてきた「ルミナ・ステラ」という存在が、安っぽい性愛の対象へと貶められていく感覚に、胸が張り裂けそうだった。
(私は……ただ、みんなに寄り添いたかっただけなのに……! なんで……こんなに、身体が熱くなって……気持ちよくなっちゃうの……?)
嫌なのに。死ぬほど恥ずかしいのに。
クリトリスを指の腹で強く圧迫されるたび、脳の奥が痺れ、瞳から涙が零れ落ちる。
自分の意思で動かない足。勝手に蜜を溢れさせる身体。そして、その醜態を「最高」だと称賛する数万人のリスナー。
孤独な防音室の中で、私は世界で一番大勢の人間に見つめられながら、世界で一番惨めに、女としての「核」を壊されていくのを感じていた。
──零視点
零は、光莉が流した涙が、アバターの瞳を潤ませる様子を冷たく見つめていた。
爆発的に増え続ける同接数、そしてそれとは対照的に、魂が磨り潰されていく光莉の絶望的な反応。
(お前が耐えれば耐えるほど、数字は上がる。……この残酷な喜劇こそ、お前にふさわしい舞台だ)
零は唇の端を吊り上げ、最後の瞬間まで彼女を、そして世界中のリスナーを欺き続ける。
彼の支配欲は、彼女の「人気」という虚飾すらも自身の玩具として取り込み、ますます深く、黒く染まり上がっていった。
──星野光莉視点
配信終了のボタンをクリックした瞬間、星野光莉の部屋は、残酷なほどの静寂に包み込まれた。
モニターの光が消え、防音室の重苦しい空気が彼女の肩にのしかかる。
「はぁ……っ、はぁ……、っ……」
ヘッドセットを乱暴に外すと、耳元に残っていた幻の吐息が、ようやく霧散した。
だが、身体に刻まれた記憶は消えてくれない。
ドレスの裾を捲られ、太ももを割り、最も恥ずかしい場所を執拗に円を描くように弄られた——あの暴力的なまでの「指」の感覚。
(……やだ。まだ、熱い……)
光莉は椅子から滑り落ちるようにして、冷たい床に膝をついた。
両手で自分の身体を抱きしめても、胸の先端はまだ硬く尖り、下腹部の奥は自分の意思とは無関係にじんじんと疼き続けている。
ショーツが吸い込んだ重い湿り気が、今の出来事が決して「バグ」や「気のせい」などではないことを、冷徹に突きつけていた。
(なんで……? どうして、私、あんな……っ)
銀髪のウィッグを脱ぎ捨てると、汗ばんだ黒髪が首筋に張り付く。
鏡を見るまでもない。今の自分は、聖女ルミナ・ステラではなく、ただの無残に開発(しつけ)られた「雌」の顔をしているはずだ。
誰にも相談できない。配信バグだなんて、誰が信じてくれるだろうか。
真面目すぎる彼女は、自分を襲うこの「不可視の蹂躙」を、たった一人で抱え込み、恐怖に震えることしかできなかった。
(……明日も、また……あの手が来るの……?)
震える指で唇を噛み締める。恐怖。けれど、その奥底に芽生えた「快感への期待」を自覚してしまい、光莉は自己嫌悪の涙を流した。
──天峰零視点
一方、暗い自室でアーカイブを再生していた零は、極上のワインを味わうように、画面の中の光莉を凝視していた。
声が震え、腰を浮かせ、瞳を潤ませながらも「癒やしの言葉」を紡ごうとする彼女の健気な姿。その清楚な仮面が、自分の指先一つで、内側からボロボロと崩れ去っていく。
「ふふ……。いい、最高にいい『鳴き声』だったぞ、光莉」
零は無精髭の顎を撫で、満足げに椅子に深く腰を沈めた。
今夜の境界接触は、彼女の防衛本能を完膚なきまでに打ち砕いた。
もはや彼女の身体は、零の干渉を拒絶できないほどに「道」ができている。
(次は……境界同期だ)
零の瞳が、暗い愉悦に濁る。
単に触れるだけのフェーズは終わりだ。
次は、彼女の脳と、身体の神経を、俺の意志と完全にリンクさせる。
俺が指を動かせば、彼女は俺の快感を感じ、俺が命じれば、彼女は自分自身の指で、俺が望む場所を抉り始めるだろう。
「お前が自分から『弄ってほしい』と泣いて縋るまで……徹底的に作り変えてやる」
零は真っ暗な画面に映る自分の、醜悪で、かつ悦びに満ちた笑みを眺めながら、次の「実験」に向けて静かに、深く、息を吐いた。