ケルト神話・アルスターサイクルにおける伝説の戦士、「スカサハ」。
異次元の国「影の国」の女王にして門番であり、槍術とルーン魔術の天才である。
数多の亡霊があふれる影の国の門を閉ざし、支配せしめるに足る実力を有している女傑だ。
しかし、スカサハはあまりに強くなりすぎた。人の身ながら神の領域に達してしまったため、長き年月の果てに半神霊と化したスカサハは、人のように死を迎えることはできない。
神霊の領域まで踏み込んでしまったその長すぎた生に疲れ、「自分を殺せる存在」を聖杯に願うほど欲している。しかし彼女の願いは「自分を殺せるほどの強敵と戦いたい」と同義でもあるため、そのような相手に出会ったとしても大人しく殺されるわけではなく、嬉々として返り討ちにしようとするらしい。そして、いくら強くても気に入らない戦士であれば殺される気も失せる。そんな、スカサハはある日、影の国に迷い込んだ存在を城ので感じ取っていた。それも久しく見ていない、強者の気配を漂わせていた。
「ほう、久方ぶりにこの地に来る人間がこのような気配を漂わせていようとはな。ふふふ、竜・巨人・怪異を狩るのも飽きていたところだ、お主がどれほどの強さか見極めさせてもらおう」
願わくば・・・私を殺せるほどの力であって欲しいものだな。スカサハは胸のうちに秘めた思いを小さくつぶやき、迷い込んだもののもとへと向かった。
先代巫女は困惑していた。起きたら巫女服を着て見知らぬ土地にいつの間にか立っていたのだから。
(昨日は異変解決した霊夢たちと宴をして、後片付けのあとは寝間着に着替えて寝たはずだが?。まさか紫の仕業ではないだろうな)
現行の幻想郷を創った賢者の一人の名を呟く先代巫女。幻想郷にて古参中の古参と言われる妖怪であり、割と困ったちゃんな女性であり現役、引退後も霊夢ともども何かと振り回されることが多い。
話がそれたが、先代巫女は改めてあたりを見回した。暗い影のような周り、そして目の前には大きな門がある。幻想郷ではなさそうだった。自分はなぜここにいるのだろうか?ここは幻想郷の一部なのだろうか?様々な疑問が頭に浮かぶが、どれも思い当たるものはなかった。
「ほう・・・ここにたどり着くものがいるとはな」
「何者だ?・・・っ!?」
突然門の上から聞こえた声に見上げると、先代巫女は思わず声を失った。そこにあったのはまるで黄金比を体現したかのような完璧な女体。無骨な様子は与えないものの鍛え上げられた肉体、タイツのような戦闘服をパンパに押し上げている張りのありそうな胸。腰回りは細くくびれた理想的なプロポーションだった。何より美しいのはその瞳だ。紅玉を思わせる真紅の瞳、そこには一切の曇りがなく透き通っていた。一目見ただけで思わず見惚れてしまうほどだった。そんな美女を前に呆然としていると、相手が声をかけてきた。
「我が名はスカサハ、影の国の女王をしているものだ。ふむ、お主名をなんという?」
名前を聞かれ、我に返った先代巫女は慌てて答えた。
「博霊霊華、皆はよく先代巫女と呼んでいる」
「そうか、良い名だ。ところでお主、ここがどこかわかるか?」
その問いに首を振る先代巫女。その様子を見たスカサハは、なるほどと納得した様子だった。
「ここは影の国、表の世界とは隔絶された世界。恐らく何らかの原因で偶然迷い込んだのだろう」
「迷い込んだ・・・」
「うむ、心当たりはあるか?」
「・・・そういえば、昨日宴会をした時に酒を飲んでそのまま寝てしまったから、もしかしたらその時に無意識のうちにスキマを通ってしまったのかもしれない」
「スキマ?」
「八雲紫の能力の一つで、空間同士をつなぐことができるんだ。彼女ならそれくらいのことはできてもおかしくないはずだ。」
「あの胡散臭い妖怪の仕業というわけか。まあよかろう、どのみち私も退屈をしていたところだ。どうだ?偶然とは言えせっかく来たのだ、私の相手になってくれないか?」
スカサハはそう言ってきた。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。明らかに自分が負けるなどと考えていない表情だった。それを見た先代巫女は一瞬怒りを覚えるものの、すぐに冷静になり思案する。
「一つ聞くがもし私が負けて、貴女が勝ったらどうするつもりだ?」
「別に何もせんよ。だが、そうだな、お主が勝ったらなんでも言うことを聞いてやろう」
その言葉にピクリと反応する先代巫女。現状では幻想郷に変える手立てはスカさを頼るしかなく、彼女に勝てば帰る手立てが分かるかもしれない。しかし、いきなり戦えというのは、あまり気が乗らなかった。その様子を見たスカサハはさらに続けた。
「それとも、やはり私と戦うのは怖いのか?」
普段は凛として物静かな先代巫女だが、スカサハの言葉には流石に苛立ちを覚えた。我流だが体術にはかなりの自信があり、本気を出したときは神をも殴り飛ばしたことがあった。スカサハの言葉にカチンときてしまった。
「そこまで言うなら受けて立とう。後悔しても遅いぞ!」
その言葉を聞いたスカサハは妖艶なそれでいて恐ろしく、獰猛な笑みを浮かべた。久しぶりに楽しい戦いになりそうだったからだ。それはそれとしてスカサハ改めて先代巫女を見つめた。七尺の身長(約210cm)に筋肉質で引き締まった身体(腹筋はシックスパックで手足も引き締り筋肉がついている)をしている。胸も大きく四尺(約120cm)はあり、顔立ちは凛々しくも可愛らしさのある顔。露出度が高い巫女の服を着ており、ハイレグ型のTバックレオタードを下着代わりにして、その上に巫女服を着ている。脇と横乳、太ももと鼠径部の露出がすごい。黒いブーツを履いている。文句無しのグラマラスな美女で膝裏まである長いストレートの黒髪。物静かで口数が少なく冷たい印象がある。168cmの自身よりも42cm程高く、胸に至っては子供の背丈くらいはありそうだった。それでいて美しく、凛々しく、可愛らしさもあり、長く艷やかな黒い髪もそれを冗長していた。スカサハ自身も自らの身体に自身はあるが、目の前の先代巫女も負けず劣らずのプロポーションだった。更にその目だ。自身を前に些かの気後れもなく、戦意を静かにたぎらせている。
それはまさしく戦士の目であった。スカサハはその目に吸い込まれそうになっていた。
(ああ、いい目をしている。こいつなら楽しめそうだ)
「なかなかいい身体をしているではないか、楽しみだ」
「そちらこそ、素晴らしい身体だな。正直に言えば、貴女を見た瞬間一度戦ってみたいと思っていたんだ」
スカサハ一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。さあ、始めるとしよう」
そう言ってスカサハは槍を二本構えた。それを見て先代巫女も拳を構えを取る。スカサハは先代巫女が我流の体術と拳術を使うのを、身体つきから予想を立てていた。体術と拳術は自分よりも上だということも。
「行くぞ!!」
先手必勝とばかりに、スカサハは自慢の俊足で間合いを詰めて、二本の槍を同時に突き出してきた。風を切るような高速の一突き、常人ならば反応すらできずに貫かれるだろう。しかし、先代巫女はそれを容易く躱すと、逆にカウンター気味に鋭い蹴りを叩き込む。スカサハは咄嗟に後ろに跳んで避けたものの、内心驚いていた。今まで自身のスピードについてこられた者はいなかったからだ。
「ほう、流石だな」
ニヤリと笑みを浮かべるスカサハに対して、先代巫女は少し顔をしかめながら言った。
「そっちこそ速いな、危うく当たるところだったよ。今度はこちらの番だ」
先代巫女はそう言うと、瞬間移動のような速度でスカサハに殴りかかった。しかし、スカサハは動じることなく再び横に避けると、すかさず反撃に転じてきた。槍を使った連撃を放つが、先代巫女は全て紙一重で避けていく。その動きはまるで舞のようで美しかった。二人は一旦距離を取った。互いに隙を窺うように睨み合う二人。先に動いたのはスカサハの方だった。スカサハは再び距離を詰めると、目にも止まらぬ速さで連続攻撃を仕掛けてくる。しかしその全てを先代巫女は躱すか手で捌き切った。
「やるなっ!それでこそ倒しがいがあるというものだっ!」
そう言いながら更にギアを上げ、苛烈さを増していくスカサハの攻撃。それでもなお先代巫女はいとも簡単に回避していく。それどころか余裕の表情さえ浮かべていた。その表情を見てますます気分が高揚するスカサハ。ただでさえ速い動きがさらに速くなった。最早目で追うことすら難しい速度となっていた。そんな状況にもかかわらず、先代巫女は全く焦ることなく冷静に対処していった。時に攻撃を受け流し、受け流し損ねてもダメージを減らしていった。二人の実力はほぼ互角と言ってもよかった。しばらく激しい打ち合いが続いたが、ここでついに動きが生じた。スカサハの猛攻に耐えかねたのか、先代巫女が大きくバランスを崩したのだ。チャンスとばかりに懐に入り込もうとするスカサハに対し、先代巫女は二本の槍を掴み取ってみせたのだ。
「何!?」
予想外の出来事に驚愕するスカサハ。槍を引き戻そうにも掴まれた槍はびくともせず、固定されたように動かなかった。先代巫女は幻想郷でも上澄みの腕力と握力をしており、本気を出した際はあの怪力乱神の勇儀以上と言われるほどだった。そんな握力で握られれば普通なら槍が砕けてしまうが、スカサハの槍はゲイ・ボルク(クー・フーリンのそれとは形はよく似ているが別物であり、彼女が使うそれはより古い時代に作り出された槍だそう)。普通の槍ではなかったからこそ砕けなかったのだ。
「ぬぅっ……」
いくら力を入れようと全く動かせないことを悟ったスカサハは一度距離を取ろうとするが、逃すまいと力を込められ、結果引き寄せられるような体勢になってしまった。その無防備な腹部に強烈な膝蹴りが突き刺さった。
「ぐはっ!?……お゛えぇぇええええっ!!」
堪らず嘔吐してしまうスカサハ。腹を抑えて蹲ってしまう彼女に向かって、容赦なく追撃を加えようとする先代巫女だが、寸でのところで耐え抜いたのか、地面を蹴って後方に下がった。距離を取れたことで一息つくことができ、呼吸を整えることができた。対する先代巫女の方も無傷ではないようで、呼吸が乱れていた。お互いに決定打を与えられないまま膠着状態に陥ってしまったようだ。
(この女・・・!筋力は私と互角と思っていたが・・・!鈍ったか?あれは何発も食らうのは避けねばならんな・・・)
スカサハは先代巫女の怪力に警戒する。先代巫女も同じようにスカサハを警戒していた。
(スカサハはの筋力は私より弱いが、速度は私以上だ・・・!縮地や瞬間移動にも難なく対応してくるとは・・・面白い!現役時代にもこんな女傑はいなかった!ふふ、私も勇儀の戦闘狂をとやかく言えないな)
「楽しいなぁ・・・」
不意に笑みを漏らすスカサハ。それを見た先代巫女もまた自然と笑みを浮かべていた。
「ああ、本当に楽しい・・・」
「・・・私もだよ」
その言葉を皮切りに両者が一斉に動き出す。最初に仕掛けたのはスカサハだった。先程と同じ様に無数の残像を残すほどのスピードで迫っていく。それに対して先代巫女は同じように対応するつもりだったのだが、突如足元から魔力の光が立ち上り始めた。すると次の瞬間、突然目の前に現れたスカサハによる渾身の掌底をもろにくらってしまった。そのまま吹っ飛ばされ壁に激突する寸前、身体を捻ることで衝撃を殺し着地した。一体何が起こったのか理解できなかったが、どうやら転移魔術の一種のようだと判断し、次に来るであろう奇襲に備えることにした。案の定、今度は背後から殺気を感じ取り振り向くと同時に拳を突き出す。そこには先程の不意打ちを回避した時と同じように、そこに居たはずのスカサハの姿はなく、拳の先にあったのは虚空だけだった。気配を察知した瞬間、その場から飛び退いたのだろうと考えたその時、背中に重い衝撃を受け、前方に吹っ飛んだ。またもや壁まで飛ばされてしまい、さすがに痛みを覚えた。
「ぐっ……!」
痛みに顔を顰めながらも顔を上げると、目の前には既に跳躍してきていたスカサハの姿があった。
「ちぃっ……!甘いわっ!」
すぐさま反撃を試みる先代巫女だったが、まるで先読みされていたかのように躱されてしまった。その後も次々と繰り出される拳撃を避け続けるスカサハだったが、一瞬できた隙を突いて腹に蹴りを入れられ、再び痛みとともに軽く吐瀉物を吐き出してしまった。
「うぶっ……!」
胃液独特の酸っぱさと苦さが口の中に広がり、思わず顔をしかめて口を拭うスカサハ。それを見て好機と感じたのか、一気に畳み掛けようと接近戦を仕掛けてきた。それに応戦しようと身構えたところで、あることに気づいた。スカサハの表情が変わっていたのだ。いつもの妖艶な微笑ではなく、どこか楽しげなものになっていたのだ。それもそうだろう、自分の予想を上回る強敵を相手にしているのだから。今まで自分と対等に渡り合える相手がいなかったのだから無理もないことだった。だからなのか、とても楽しそうにしていた。もはや先ほどまで抱いていた警戒心はなく、純粋に目の前の戦いを楽しんでいた。
「くふっ……あっはははははっ!!最高だなっお前は!こんなにも滾るのは久しぶりだぞ!!!」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか!私も愉しくなってきたぞ!!」
二人は心の底からこの戦いを楽しんでいるようだった。だからこそだろうか、普段は見せないような表情を見せたのは。もしも別の世界でスカサハのマスターになる男の子/女の子と弟子たちが見たら驚くことになるだろう。それほどまでに彼女たちの表情は明るく、晴れやかなものだったからだ。それから数時間後、お互いボロボロになりながらもその力は全く衰えておらず、一進一退の攻防が続いていた。両者の力は拮抗しており、決着がつく様子はなかった。このままでは埒が明かないと思った両者は一旦距離を取った。肩で息をしながらも余裕そうな笑みを浮かべている二人であったが、内心はかなり焦っていた。というのも両者ともそろそろ限界が近いからである。
「はぁーっ……はぁーー……」
「ふぅー……ふぅぅーー……」
息を整えつつ睨み合う二人。
「そろそろ決着をつけようではないか?」
「いいだろう、受けて立つよ」
先に動いたのはスカサハの方だった。一瞬にして姿を消すと、目にも止まらぬ速さで移動する。そして、己の槍の真名を解放した。
「絶技、発動!」
スカサハの魔力が急速に高まり、身体に紅い魔力が迸る。
「刺し穿ち、突き穿つ!『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』!!」
先代巫女の身体が縫い付けられたように動かなくなる。『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』は敵を「空間に縫い付けて」自由を奪いつつ、突き穿つ死翔の槍を思わせる槍の全力投擲によって突き穿つ連続攻撃。つまりはクー・フーリンが持つ二種の槍術を一度に放つ絶技である。
「くっ……!!動けんッ!?」
動けないままの先代巫女を見て勝利を確信したスカサハだが、それでも油断することなく先代巫女を注視していた。この程度で倒せるような敵ならばここまで苦労はしない、そう思っていたからだ。
(さて、どう出る?)
先代巫女の動きを注意深く観察していると、驚くべきことが起こった。彼女の独特な紅白の巫女装束が、全て紅い色の巫女装束に変化したのだ。それだけではない、彼女を包む霊力が変化し、さらに強力になったのである。それを見た瞬間、流石のスカサハも動揺を隠しきれなかった。明らかに先ほどとは別次元の強さだったからだ。
「なんだ……?一体何が起きている……?」
困惑しているスカサハをよそに、ゆっくりと目を開いた先代巫女の瞳の色が金色に輝いていた。その瞳は吸い込まれてしまいそうなほどに美しかった。それと同時に凄まじいプレッシャーを放っており、スカサハは一瞬だけ完全に気圧されてしまった。すぐに我に返ったものの、先代巫女は既に動いていた。
「フンッ!!」
動けないでいた先代巫女が、気合とともに宝具の拘束を解き、『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』を振り払ってしまったのだ。
「なっ……!?」
まさか破られると思っていなかったスカサハは完全に虚を突かれてしまった。今度は先代巫女の番だった。全身から霊力がほとばしり空間そのものが軋み、揺れているような感覚がした。
「ラストワード『武想滅塵』(むそうめつじん)」
全身全霊を込めた一撃を放つ、この状態の先代巫女の最終奥義だ。幻想郷ではこの技を受けて無事でいられたものは皆無の技だった。
「くぅぅっ!?これはまずいかもしれんなっ……!!」
危機感を感じたスカサハはすぐに回避行動を取ろうとしたが、既に遅かったようだ。気がついた時には眼前に先代巫女が立っていた。振りかぶられた右腕はすでに打ち出されてしまっていた。防御することも避けることも出来ず、スカサハはその一撃を受けてしまうしかなかった。その瞬間、激しい轟音と共に衝撃波が発生した。爆発にも似たそれは、辺り一帯を吹き飛ばした。あまりの衝撃に岩肌が崩れ落ち、砂煙が舞い上がるほどだった。やがて視界が晴れてくると、その場に立っていたのは、片膝をつき、息も絶え絶えになっているスカサハの姿だった。その様子を見た先代巫女はゆっくりと彼女に近づいていく。満身創痍ではあるが、まだ戦意を失ってはいないようで、隙あらば反撃を狙っているように見えた。
「はぁ……はぁ……今のは少し効いたぞ……」
そう言うスカサハの身体は傷だらけのボロボロで、ふらふらと左右に身体が揺れていた。タイツのような戦衣は殆どが破け、ほぼ裸のような格好だった。
先代巫女も身体のあちこちに刺し傷や切り傷、打撲や青痣に出血と悲惨な状況だった。紅い色の巫女装束は解除されたが、もともと着ていた巫女装束は全て吹き飛び、下着代わりのハイレグ型のレオタードのみの状態だった。しかし、スカサハよりはまだ余裕があるように見えた。
「想像以上の強さだ。正直舐めてかかっていたことは認めるしかないな」
「……貴様こそ大した女だ、私が本気で負けるかと思ったのは初めてだよ」
スカサハの言葉に嘘偽りはないようだった。その証拠に、口調こそいつも通りではあったが、その表情からは悔しさのようなものが感じられた。
「……降参するか?」
「いや、まだやれるさ。もう少し付き合ってもらうとしよう」
強がってはいるが、実際のところ勝機はほとんどなかった。それに、これ以上続けたところで勝てるかどうかわからないほど、目の前の女性は強かったのだ。それを理解しているからこそ、ここで諦めるわけにはいかなかった。何より自分自身がまだ負けを認めていないのだから当然だ。先代巫女はスカサハが改めて凄まじく強い戦士だと再認識した。
(はぁ、私もまだまだ未熟だな。無意識に私なら勝てると驕っていたのだろ。修行を一からやり直さねばな)
先代巫女はスカサハにとどめを刺すべく、拳を構えた。
「ゆくぞ、スカサハ」
その言葉とともに、先代巫女はスカサハに駆け出した。
「博麗拳術極技『夢想封滅』(むそうふうめつ)」
蹴り上げから始まり、空中を高速で跳び回りながら連続攻撃を叩き込み、最後は強烈な一撃で締める。彼女の我流拳術の奥義だ。スカサハは避けようとしたが、ダメージが大きく最初の頃のような早い動きがでずに、初撃の蹴り上げをまともに受けてしまい、空中に打ち上げられた。身動きが取れなくなったスカサハに、先代巫女は空中を高速で跳び回りながら連続攻撃を叩き込み、最後の一撃で地面に叩きつけた。地面は大きく凹んでクレーター状になるほどの威力だった。叩きつけた衝撃で立ち込める土煙の中で、倒れているスカサハの姿を見下ろしながら先代巫女は息を吐いた。スカサハは気絶していた。その姿はあまりにも無残なもので、身体中の至る所に大きな傷が刻まれており、そこから血が流れ出ていた。特に酷いのは腹部への打撃と打撃によるものだ。大きく陥没した腹筋はもはや見る影もなく、痛々しい傷跡になっていた。腕や足も同様に骨が折れているのか変な方向に曲がっていたりと目も当てられないような状態であった。生きているのかすら怪しいほどの状態だ。それでも辛うじて息をしているのは流石としか言いようがない。
「ここまでしてもまだ死なないか……恐ろしい生命力だな」
さすがの先代巫女もこれには驚いていた。これだけの攻撃を受けてもなお生き続けていることに素直に感心していた。しかし、先代巫女は大事なことを思い出した。スカサハは勝てたらんでも言うことを聞いてやろうと言っていた。だが、今のままではそれも叶わない。先代巫女は倒れたスカサハに自身の霊力を流し込み、応急的な手当てを行い、彼女の居城と思われる城に抱えて向かった。
スカサハは全身に倦怠感を抱きながらもゆっくり目を開いた。最初に見えたのは自身の城の天井、スカサハの寝室の天井だった。
「ここは……」
起き上がろうとするが、力が入らず起き上がることができない。仕方なく首だけを動かして周囲を見回すと、そこは間違いなく自分の部屋であったことがわかった。
そこでようやく自分のおかれている状況を冷静に把握することができた。自分は負けたのだと、嫌でも理解させられた。あれほど強く感じた相手に対して屈辱を感じた。敗北したにも関わらずこうして生かされている。戦士として最高の戦いができたにも関わらず、最も望んだ戦いの果の死。それがなされなかった事にスカサハは悲しみと怒りが湧いた。
「なぜ殺さん……!」
思わず声に出してしまった。それほどまでに納得がいかなかったのだろう。
「私の目的は貴女に勝つことであって、殺すことではない」
低く、凛とした女性の声が聞こえてきた。声のする方を見るとそこには先代巫女の姿があった。恐らく自分が目覚めるまでの間ずっとここにいたのであろうことが容易に想像できた。そう思うとなんだか気恥ずかしくなってしまい、スカサハは思わず目を逸らした。しかし、すぐに怒りと悲しみの籠もった目で睨む。
「何故殺してくれない」
「最初に貴女が言っただろう?勝てたらなんでも言うことを聞くと」
その言葉にハッとなる。確かにそんな約束をして戦っていたことを今になって思い出した。そもそも自分が負けるなど考えていなかったのである。つまり、彼女が何を言おうと従う義務があるということだ。なぜあの時そんな約束をしてしまったんだという思う気持ちが強かった。あの死闘の後なのだ、もはや自分に残る力などないに等しいのだ。長すぎた生に疲れ、「自分を殺せる存在」を願うほどだ。しかし、彼女の願いは「自分を殺せるほどの強敵と戦いたい」と同義でもあるため、そのような相手に出会ったとしても、嬉々として返り討ちにしようとする戦闘狂だ。よってこの願いは叶うことはないであろうことは薄々感じていた。そんな中現れたのが先代巫女だった。今まで出会ってきた者たちの中でも指折りの強さを誇っていた彼女ならば、戦いの果に死を迎えることができるだろうと確信にも似た予感を感じていた。だからこそ、余計に悲しく、怒りが湧いた。しかし、彼女は戦士で女王だ。一度約束を結んだ以上、安易に撤回することなど以ての外だ。ましてやこのスカサハに正面から戦い勝ったほどの勇士相手に。
「お前が望むことは全て叶えよう!だから頼む、私ともう一度戦い、今度こそ殺してくれ!」
それは悲痛な叫びでもあった。普段の冷静沈着な姿からは到底考えられないような、まるで幼子のように泣きじゃくる姿の彼女に、先代巫女はいたたまれなくなってきてしまった。こんなにも悲しい顔をするのかと思った。先代巫女はスカサハが寝ている時、以前人里の古本屋でケルト神話のスカサハの話を思い出していた。彼女の生い立ちを考えれば分からなくもなかった。先代巫女は彼女のためになるかわからないが、ある事実を伝えることにした。
「貴女の中にある不老不死のことなんだが・・・私が破壊してしまったらしく、もう世界が滅ぶまで生きることはなくなったぞ」
「は?」
スカサハは先代巫女の言葉にらしくもなくポカンとした顔をしてしまった。無理もないことだ。突然こんなことを言われたら誰だってこうなるだろう。そしてゆっくりと時間をかけて言われた言葉を咀嚼していくうちに、その意味を理解していった。その瞬間、全身から力が抜けていくのを感じた。それと同時に涙が止めどなく溢れてきた。今までの比ではないくらいに泣いた。赤子のようにわんわんと声を上げ、大粒の涙を流し続けた。まさか死ぬことができるとは思わなかったからだ。これで死ねるかもしれないと思ったである。まぁ、死ぬのは戦いの果でと考えてはいたが。
「なんでもっと早く言わない!?」
泣きながら抗議するが、涙声で聞き取りづらかった。当然と言えば当然だ。なんせやっと死に場所を見つけたと思ったら、生かされ望んだ死が訪れなかったと思ったら、今度は忌々しい不老不死の呪が消えたのだ。
「すまない、言うタイミングを逃してしまって・・・」
申し訳なさそうに謝る先代巫女。
「本当に申し訳ないと思っている」
何度も頭を下げる姿に少し冷静さを取り戻したスカサハであったが、やはりそう簡単に割り切れるものではなかった。
「……せめて最後にもう一度戦ってくれんか」
しばらく考え込んだ後、先代巫女はゆっくり首を振った。
「断る」
キッパリと言われ、再び泣きそうになってしまう。それを見て慌てて付け加えるように話し始める。
「スカサハ、幻想郷に来ないか?」
スカサハは先代巫女を見つめた。
「幻想郷に来れば多くの強者たちと戦うことはできるし、それにきっと楽しい生活ができると思うぞ」
その言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴った。影の国」の女王にして門番たる自身に誇りを持っている。しかし、代わり映えのないこの世界には退屈していたのも事実だった。ならいっその事幻想郷に行くのもありだと思い始めていた。それに何より、自分と同じ強さを持った者と戦えるというのは魅力的であった。
「・・・わかった。お前に付いていく。幻想郷に連れて行ってくれ」
決意に満ちた顔でそう告げると、先代巫女は少し嬉しそうに微笑んだ。その顔を見た瞬間、胸の鼓動が激しくなるのを感じた。
(ここまで誰かに惹かれるの久方ぶりだ。ふふ、幻想郷への道が見つかるまで少し時間はあるだろう。その間に楽しむ機会を設けるとしよう♡)
(ん?何だか嫌な予感が・・・)
スカサハが新たな人生と戦い、先代巫女との夜の情事のために襲うこと考え、先代巫女が嫌な予感に軽く震えた。スカサハは流石に影の国を長くは空けられないため、定期的に戻ることにはなるが、先代巫女は博麗の巫女も似たようなものだと答えた。
1ヶ月後、紫がスキマで迎えに来たが、スカサハと戦い勝利した挙げ句、定期的に幻想郷に遊びに来ると聞いて、仰天したのはまた別の話だった。
スカサハの不老不死の呪いが消えたのは、MUGENの先代巫女の能力『物事や概念を突き破る程度の能力』が偶然破壊したからです。あまり深く考えていないためかなりいい加減です。