元公爵令嬢のTS聖女ちゃんがひたすら犯されたり辱められたり狂気に染め上げられていくだけのお話。 作:東口ゆゆ
数日後。
ファルバレル公爵家にとって、そして俺たち姉妹にとって、運命の歯車が大きく回る日が訪れた。
名目は領地視察。
だがその実態は、公爵様が新たな搾取の対象を見定めるための物見遊山であり、次期当主であるガレオス様へ権威を見せつけるためのパレードでもあった。
山道を揺られる豪奢な馬車。
その中には、不機嫌そうに葉巻をふかす公爵様と、緊張した面持ちのガレオス様、そして付き添いのリリアが同乗していた。
「おい、ガレオス。もっと背筋を伸ばさんか。次期当主がそのような貧相な顔でどうする」
「は、はい! 申し訳ありません、父上」
「まったく……誰に似たのやら。リリア、酒だ。ついでに揉め」
公爵様はガレオス様を一喝した後、隣に座るリリアの太ももに馴れ馴れしく手を置いた。
「はい、公爵閣下♡ ……ふふっ、今日は山道ですから、何が起きるか分かりませんわ。酔いが回りすぎないように気をつけてくださいね?」
リリアは妖艶な笑みを浮かべ、公爵様のグラスにワインを注ぐ。
「税の横領をしている疑惑のある街とはいえ、この私が直々に視察に行かねばならんとは。……状況によっては文官達の首を刎ねるのも考えねばならんな」
「その街を納めているのは、公爵閣下の一族の末端ですもの。心中お察ししますわ、わたくしも不出来な姉に心を痛めてばかりですので」
リリア発端で始まった、今回の視察。
本来なら公爵閣下自ら出向くなどほとんどないが、リリアの口八丁に乗せられていた事実に、胸のざわめきが治らない。
閣下のワインを注ぐその瞳の奥で、氷のような殺意が煌めいたことに、老いた権力者は気づかない様子だった。
ガタンッ!!
唐突に、馬車が激しく跳ねた。
続いて聞こえてきたのは、馬の悲鳴と、御者の短い断末魔。
そして、風を切り裂く矢の音だった。
ヒュンッ! ドスッ! ドスドスッ!
「な、なんだ!? 何事だッ!?」
「敵襲! 敵襲ですッ! なんだコイツら! どこから……くそっ、数が多すぎ――ギャアアアアッ!!」
馬車の外で、護衛の騎士たちが次々と絶叫を上げて倒れていく。
彼らは公爵家お抱えのエリート騎士たちだ。並の野盗相手に後れを取るはずがない。
だが、襲撃者たちの手際は、あまりにも鮮やかで、洗練されすぎていた。
キィィィィンッ! ズバァッ!
鎧の隙間を的確に突く剣技。連携の取れた波状攻撃。
それは盗賊の動きではない。訓練された軍隊のそれだった。
「ひぃっ! な、何が起きているんだッ! ガレオス、外を見てこい!」
「む、無理です父上! 矢の雨が降っています!」
突然の騒ぎにパニックに陥る車内。
胸騒ぎが大きくなる。何か、取り返しのつかないことが起きる予感がある。
その混乱の中、リリアだけが静かに、懐中時計を確認していた。
「……あら、思ったより早いわね」
――ドォォォォォンッ!!
轟音と共に、馬車の扉が爆破された。
煙が晴れると、そこには黒い布で顔を隠した屈強な男たちが、血濡れの剣を提げて立っていた。
周囲には、すでに息絶えた護衛たちの死体の山が築かれている。
「公爵様ァ……お迎えに上がりましたぜ」
先頭に立つ大柄な男が、ドスの利いた声で嗤う。
その目は、獲物を見つけたハイエナのように血走っていた。
「き、貴様ら何者だ!? 私を誰だと思っている!? 一族郎党首を刎ねられたいのか!?」
「はぁ? だから来たんだよ、公爵閣下殿」
男が合図を送ると、数人の部下が馬車に乗り込んできた。
「や、やめろッ! 離せッ!」
「ガレオス様、リリア!」
公爵様が引きずり出される。
ガレオス様が剣を抜こうとしたが、それはあまりにも遅かった。
「おっと、ボウヤは寝てな」
ドガッ!
男の一人が、ガレオス様の後頭部を剣の柄で強打した。
ガレオス様は白目を剥き、リリアの膝の上に崩れ落ちた。
「ガレオス様っ! きゃあぁぁっ!」
リリアが悲鳴を上げ――次の瞬間、別の男がリリアに布を押し当てた。
甘い薬品の匂い。
「……っ」
リリアは抵抗をして、ガレオス様を抱きしめたまま、意識を失う。
護衛は全滅。次期当主と令嬢は気絶する。
残るは、公爵閣下と何もできない性処理道具の俺のみ。
「さぁて、公爵様。……たっぷりと接待させてもらいますぜ」
「ひぃぃっ! や、やめろ! 小汚い山賊が私に触れるなぁ!!」
絶叫は、深い山脈に吸い込まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
★
山奥にある、廃棄された古い鉱山跡。
湿った空気と、獣の糞尿、そして腐肉の臭いが充満する洞窟の奥深くに、一行は到着した。
男たちは手際よく周囲を警戒し、松明を掲げる。
その中心には、ふかふかの毛布を敷かれた岩の上に、気絶したままのガレオス様と、それに寄り添うリリアと俺の姿があった。
「……んっ」
リリアがゆっくりと目を開ける。
周囲を見渡すと、そこには盗賊の覆面を脱ぎ捨て、本来の騎士の顔に戻った男たちが、片膝をついて頭を垂れていた。
「――ご無事で何よりです、リリアお嬢様」
リーダー格の男が、沈痛な面持ちで告げる。
彼らは、かつてリリアとレイラの実の両親が健在だった頃、最も重用されていた精鋭部隊の生き残りだった。
グローバルデイツ家をファルバレルが乗っ取り、前当主を処刑し、幼い姉妹に契約を持ち掛けたあの日から、彼らは泥水をすすりながら、この復讐の時を待ち続けていたのだろう。
「ご苦労様。……手際は完璧だったわね」
リリアは立ち上がり、ドレスの埃を払うと、隣で眠るガレオス様の顔を覗き込んだ。
「ふふっ♡ 計画が上手くいってるからかしら。子豚でも多少マシに見えるわ。……これで貴方は晴れて当主様になれるわ」
それは愛などではない。哀れな道化に対する、便利な所有物に対する愛着程度の感情。
「さて。……豚はどこ?」
リリアの声色が、氷点下まで下がる。
男たちが道を開けると、そこには後ろ手に縛られ、猿ぐつわを噛まされたファルバレル公爵が、恐怖で失禁しながら転がっていた。
「んーッ! んーッ!!」
「無様ですね、公爵様。……威厳も誇りも、しょせんは暴力の前では無力でしょう?」
リリアは公爵の前にしゃがみ込み、冷酷な瞳で見下ろした。
公爵様は必死に目で命乞いをしている。「助けてくれ」「金ならやる」「なんでもする」と。
「……お嬢様。こいつの処遇は?」
兵士の一人が、憎しみを堪えるように尋ねる。
彼らの手は震えていた。
敬愛する前当主を殺され、大切なお嬢様を性奴隷に堕とされた恨み。
今すぐにでもこの豚を生きたまま八つ裂きにしたいという衝動が、洞窟内の空気をビリビリと震わせている。
リリアはニコリと笑い、死刑宣告を下した。
「好きになさい。……殺す前に、あなたたちの気が済むまで」
「ッ! ありがたき幸せ!!」
「ただし、最後は……あそこへ。この豚に相応しい墓場を用意してあげて」
リリアが指差した先。
洞窟のさらに奥、暗闇の中から、無数の赤い光と、下卑た鳴き声が聞こえてくる場所。
――ギギッ! ギャギャッ! グルルルル……。
ゴブリンの巣窟。
それも、長い間餌を与えられず、共食いすら始めている、飢餓状態の群れだ。
「ひぃっ!? んぐーッ!!」
公爵が激しく首を振る。
ゴブリンに生きたまま食われる恐怖。それも、ただ食われるだけではない。
彼らは穴があれば何でも犯す、最底辺の魔物だ。
「じゃあね、公爵様。……地獄で、お母様たちに八つ裂きにでもされてあげてください」
リリアが背を向ける。
それを合図に、兵士たちの理性のタガが外れた。
「オラァッ!! よくも今まで好き勝手しやがって!!」
「俺たちの主君の仇だ!! その汚い指、一本ずつへし折ってやる!!」
ドガッ! バキッ! グシャッ!
「あがぁぁぁぁッッ!! 痛いッ、やめろッ、私は公爵だぞォォッ!!」
猿ぐつわを外された公爵様の絶叫がこだまする。
だが、誰も止めない。
「頼むッ! 頼む! 助けてくれぇ! 金ならある! 女もくれてやるから!」
兵士たちは積年の恨みを込めて、公爵の肉体を殴り、蹴り、関節を砕いていく。
俺は、言葉を失いただ呆然とする事しかできなかった。
「ひぃぃぃッ! リリアッ! 助けてくれ、お前を育ててやっただろうッ!」
血と涙になりながら、公爵様が地面を這い蹲りながらリリアの背中に縋る。
リリアは足を止め、肩越しに冷たく言い放った。
「育てた? ……いいえ。貴方がしたのは飼育です。そして今回、回り回って新しい家畜が出荷されるだけの話」
リリアは兵士たちに目配せをする。
「放り込みなさい」
「イエッサー!!」
兵士たちが公爵の手足を掴み、ボロ雑巾のように持ち上げた。
そして、悪臭漂う暗闇の穴――ゴブリンの巣へと、思い切り放り投げた。
「やめろォォォォォォッッ!!!」
ドサッ。
着地音。
一瞬の静寂の後、闇の中から無数の足音と、歓喜の鳴き声が湧き上がった。
ギギッ! ギャッ! ニクダ! ヤワラカイニクダ!!
「ヒィッ! くるなッ! 汚い手で触るなッ! ギャァァァァッ!! 噛むなッ! そこは噛むなァァァッ!!」
ブチブチッ! グチュッ!
生きたまま肉を食いちぎられる音。
太い指が穴という穴にねじ込まれる音。
そして、人間が発するとは思えない、魂を削り取るような絶叫。
それはかつて、この男が俺にしてきたことの、最も醜悪な形でのしっぺ返しだった。
「……いい音色ですね」
リリアは断末魔をBGMに、眠り続けるガレオス様の髪を撫でた。
「さぁ、帰りましょうか、お姉様。わたくし達のお家へ」
洞窟の奥から響く咀嚼音と悲鳴を背に、リリアは気絶した新しい傀儡を兵士たちに運ばせ、光の差す出口へと歩き出した。
その足取りは、血の池を歩いているとは思えないほど、軽やかで、無邪気だった。
★
屋敷の寝室。
重苦しい沈黙と、薬品の匂いが漂う中、ガレオス様はゆっくりと瞼を開けた。
「……っ、うぅ……」
後頭部に走る鈍い痛み。
視界がぼやける。
ガレオス様は身を起こそうとして、よろめいた。
「――ガレオス様ッ!!」
すぐに、誰かが胸に飛び込んできた。
煤と泥で汚れ、涙でぐしゃぐしゃになった顔のリリアだった。
「リリア……? 僕は……ッ、そうだ、敵襲だ! 父上は!? 父上はどうされた!?」
ガレオス様の第一声は、自身の安否ではなく、敬愛する父への問いかけだった。
彼にとってファルバレル公爵は、厳しくも偉大な、絶対的な指導者だったからだ。
「きっと父上が指揮を執って賊を蹴散らしたはずだ。……僕は不覚を取ってしまったが、父上に合わせる顔がない……」
ガレオス様は必死にベッドから降りようとする。
だが、リリアは彼を放さず、その場に泣き崩れたまま首を振った。
「……リリア?」
「……公爵閣下は、戻りません」
時が止まった。
ガレオス様の表情が凍りつく。
「な……何を言っている? あの父上が? 歴戦の猛者であり、この家を盤石にしたあの偉大な父上が……死んだとでも言うのか?」
「……はい」
リリアは涙を拭うこともせず、震える声で、外向けの英雄譚を語り始めた。
「あの後……盗賊たちとの乱戦の最中、山から『魔物の群れ』が現れたのです。……飢えたゴブリンの大群が、血の匂いに誘われて」
「ゴブリンだと……!?」
「はい。いかに公爵様の護衛騎士団といえど、連戦に続けて不意打ちと数の暴力には勝てませんでした。……全滅は時間の問題でした」
リリアはガレオス様の手を強く握りしめる。
「公爵様は、即座に決断されました。……気絶したガレオス様をわたくしに託し、こう仰ったのです。『ガレオスを連れて行け。未来の当主を、こんな場所で死なせるわけにはいかん』と……」
「父上が……僕を……?」
「はい。公爵様は、たったお一人で剣を抜き、魔物の群れに立ちはだかりました。『我が息子は、私が守る。それが当主として、父親としての務めだ!』……そう叫んで、殿を務めてくださったのです」
ガレオス様の瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
脳裏に浮かぶのは、父の背中。
いつも大きく、強く、自分を導いてくれた父。
その父が、最期までその「強さ」と「父性」を貫いて、自分のために散った。
実際には、泣き叫んで命乞いをし、豚のように食い殺されたのだが――ガレオス様の中の「父」の像は、リリアの嘘によって神格化された。
「あぁ……父上……ッ! 貴方は、どこまで偉大な方なんだ……ッ!」
ガレオス様が慟哭する。
その姿を見ながら、ベッドの脇に控えていたレイラは、恐怖で吐き気を堪えていた。
(違う……あいつはそんな立派な人じゃない。私を犯して笑うような下劣な男だった……)
だが、真実を口にすることは許されない。
「……これを」
リリアは懐から、血に染まったハンカチを取り出した。
ゴトリ、と重たい音がする。
「公爵様が……魔物の爪牙にかかる直前、炎の中でわたくしに投げ渡してくださったものです。『これをガレオスに。ファルバレルの誇りは死なん』と……」
ガレオス様が、震える両手でそれを受け取る。
聖遺物を扱うように、ゆっくりと開く。
そこにあったのは――。
「ヒッ……!?」
思わず、小さく悲鳴を上げる。
ハンカチの中に転がっていたのは、黄金の獅子の紋章が刻まれた重厚な指輪。
――そして、その指輪が食い込んだままの、「根元から千切られた親指」だった。
断面からは骨が突き出し、肉は魔物に噛みちぎられたようにギザギザに裂けている。
血は黒く凝固し、腐臭すら漂い始めている。
しかし、ガレオス様の反応は、恐怖ではなかった。
「父上の……指だ……」
彼はそのグロテスクな肉片を、愛おしそうに撫でた。
「いつも僕の頭を撫でてくれた、大きくて分厚い手……。剣を握り、領地を守ってきた、英雄の手だ……」
ガレオス様は、血塗れの指を両手で包み込み、額に押し当てて泣いた。
その姿は、狂気的でありながら、純粋な敬愛に満ちていた。
「……ガレオス様。公爵様のご最期、立派でしたよね? ……ねぇ、レイラお姉様?」
不意に、リリアが話を振った。
その瞳は冷たく凪いでいる。
『お前も肯定しろ。この茶番を完成させろ』という絶対的な命令。
俺はガタガタと震えながら、ガレオス様の背中を見た。
この純粋な、十五歳の青年は。
父親が自分を犯していたことも、無様に殺されたことも知らず、美しい嘘の中で生きようとしている。
それを壊すことは、今の俺にはできなかった。
「……は、はい……。公爵様は……本当に、強く、気高い方でした……。ガレオス様を守るために、笑って……戦場に消えていきました……」
「レイラ……」
ガレオス様が顔を上げる。
その瞳には、父への誇りと、生き残った者としての悲壮な決意が宿っていた。
「ありがとう……。君たちが真実を伝えてくれてよかった。……父上の死を、決して無駄にはしない」
ガレオス様は、父親の千切れた指から、ぬるりと滑る指輪を抜き取った。
そして、父の血と脂で汚れたその指輪を、自らの指にはめた。
「僕は継ぐよ。この家を。父上の偉大な意志を。……そして、僕の命に代えても、君たち二人を守り抜いてみせる」
ガレオス様の力強い宣言。
だが彼は気づいていない。
彼が崇拝する「父の意志」など最初から存在せず、彼がはめた指輪は、父を殺した張本人であるリリアが用意した飼い犬の首輪でしかないことに。
「えぇ。信じておりますわ、ガレオス様……いえ、新しい『公爵様』」
リリアはガレオス様の首に腕を回し、その耳元で甘く囁いた。
レイラに向けられたその顔は、勝利の喜びに満ちた、悪魔の笑顔だった。
――完璧だわ。
父の死すらも尊敬という鎖に変えて、リリアはガレオス様の心を完全に掌握したのだった。