貞操逆転世界で異能と体質で差別され男性の精液を定期注入されないと動けなくなる ”眠り戦姫” たちを性欲にまかせた婚約セックスで救いまくる話 作:ぽぶきち
僕は、眠ったメトリの頭を撫でて、起き上がった。
「……ん」
メトリの手が、僕の袖を掴む。
「ごめんね」
僕はメトリの手をほどいて、かわりに学生服を掴ませた。
戻ってくるというのが分かるように。見捨てていないというのが分かるように。
さっとシャワーを浴びて、替えの制服に着替える。
制服の予備は5着配布されているのだが、正直そんなにいるのかなと疑念を持っている。
けれど、今日のように制服が破けることもあると考えれば、少なからず武闘の心得を求められるこの学園において制服は消耗品という思想も納得できる。
この学園の制服の色は全体的に暗い。
女子はグレーのシャツに、黒のベスト、黒のスカート。
男子はある程度自由が利くが、デフォルトは女子と似たようなものだ。黒のスカートが黒のズボンになっただけ。
以前メグにこの色合いの理由を尋ねたところ、おそらく「いつでも喪に服せるようにするため」だろうと返答された。
難儀な世の中だ。
警護官たちを連れて、宿舎を出る。
そこまで遠くないから、徒歩だ。
向かうのは、少し離れた向かいにある寮棟。
提供室と違ってそれなりに大きくまとまっているから見つけやすい。
たまに帰路が重なることがあるから、合っていると思うんだけど。
「兼高ユウキ様ですね?」
一人の警護官が、僕たちの前に現れる。
「そうです。あなたは1-11の男子の警護官の人ですか?」
「ええ。1-11担当男子、
目の前の警護官は、高柳君が生活省管理地区に移動となった代わりに1-11に転入してきた男子の専属だ。
廊下に立っているのを見たことがある。
「夜分遅くにすみません。その
「簡素な要件であれば、私が伺います」
当たり前の反応だった。
そのこちらを分析するような視線を、目の前の警護官から受ける。
「桐一葉さんに関して、少し話があるんだけど」
「…………」
表情が固まる。
無表情のようだけど、かなり動揺しているようにも見える。
虚を突かれたというよりは、判断に困っているというような感じだ。
「ここで話すのには適さない内容かもしれない。だからできるならちゃんとした場所で相談したいんだけど、駄目かな?」
「私からは……なんとも」
すると、彼女の背後から扉を開いて誰かが現れた。
短い髪、制服のズボン。男子だ。
「いいんじゃないかい? ボクは彼の話を聞いてみたいよ」
転入してきた男子、
彼との初めての邂逅だった。
♢
案内された部屋は、一言で言えば、奇妙だった。
謎のオブジェが至る所に設置されている。
動物を模しているようなものもあるが、本当は何なのかわからない。
雅楽川君は、生活感のある椅子に座って、僕にも着席をうながす。
「うわさはかねがね聞いているよ。兼高ユウキ」
「そうなんだ、どういう噂なの?」
「オシドリ夫婦の片割れ。童話のなかから出てきたような男子。
────入学早々に決闘を行った、学年一の野心家。」
卓上に置かれた粘土、そのどことなく人間のような形のそれの、目のような部分を雅楽川君はずいっと押しつぶした。
女子は基本的に男子へ男子の情報を漏らさない。だから、彼が積極的に情報を集めたのだろうと邪推してしまう。
「野心なんてないよ」
「みんなそう言うのさ。真偽は不明。
少なくとも、うちの警護官は相当警戒しているみたいだけど」
僕は雅楽川君の警護官が、冷や汗を垂らしながら僕の背後を見ているのに気づいた。
振り返ると、半身を少しだけ前に出した呉井さんがいる。氷の剣も出していないし、何のアクションもとっていないけれど、その体勢はどこか相手の行動を抑制するような圧があった。
雅楽川君の警護官、確か山折さんと言っただろうか。彼女の肩には形を変える折り紙のようなものがあって、それが迎撃体勢をとるかのように尖り、そして機を伺うように揺れている。
「そんなことをしても意味がないんじゃないかなヒバリ。そこの警護官は生ける伝説なんだろう?」
「今度ばかりはお許しください」
「やめておくれヒバリ」
「…………」
「やめろ、と言っているんだ」
雅楽川君の警護官が、静かに構えを解いた。
肩の折り紙がしおれるように崩れ、足元に落ちた。
紙を操る異能、だろうか?
僕は、机の端に置かれた折り鶴を見た。
「それで、要件は何かな? メトリさんのことだと聞いたが」
「そうだね。実は……僕、彼女に惚れちゃったんだ」
その時初めて、雅楽川君の表情が変わる。
困惑だ。
すごく戸惑っている。
「ふむ? どういうことだろうか」
「そのままの意味だよ。昨日偶然廊下で出会ったんだけど、話してみると、趣味が同じだったりして話が弾んじゃったんだ。だからその……今日、お持ち帰りしちゃったんだけど」
「お持ち帰りとは?」
「雅楽川様、おそらく」
雅楽川君の手元に、彼の警護官が紙を置く。
それを読んで、ふむ、と彼は顎に手を当てた。
「本当に?」
「本当」
「彼女、結構とっつきづらいと思うんだがね」
「話しやすいよ?」
これは少し、賭けかもしれない。
メトリが僕に異能を断片的に明かしたことを彼らが知らなかったなら、額面通りに受け取ってもらえればいい。
彼らが知っているのなら、僕がメトリを戦力として迎えようしている建前だと思ってもらえればいい。
「なるほど。それで君は何を考える?」
「彼女を僕の警護官にしたい」
雅楽川君が目を彷徨わせた。
そして、彼の警護官を見る。
警護官は、少しだけ逡巡して向き直る。
机の下、雅楽川君の手元で紙が折られるような音がした。
おそらく、何らかの返答を、紙を操る異能で受け取ったのだと思う。
「問題ない。元からヒバリの補佐的な役割で政府から送られてきただけだった。ヒバリが問題なさそうなら、ボクは別にどうだっていいさ」
決定権を、雅楽川君ではなく、その警護官の山折ヒバリさんが持っている。
やはり、そうか。
僕はずっと考えていた。
メトリが僕の情報を入手したとして、僕の内側に入り込んだとして、そこからどのように情報を伝えるのだろうかと。
もし学園に一人でも協力者がいれば可能だろうが、その協力者も学園にいるのだからそう簡単に外部にアクセスできないのではないだろうか。
男子は学園から出られないということもないが、ほとんど出ようとしない。それに帯同する警護官も、ほぼ学園の敷地内で生活を送る。
だから、異能を使っているのだろうと考えた。
例えば、"折り紙を遠くに飛ばして操作できる" とか。
机の端の折り鶴の配置が、さっきと少し変わっている。
連絡役は、メトリといっしょにこの学園に入ってきた警護官、山折ヒバリさんだ。
そして彼女は、僕がメトリに籠絡されたと考えている。
作戦がうまくいったと考えている。
実際にメトリのことは好きだからそれは間違っていないが。
結果、僕がメトリを警護官にするのを認めた。
連絡をしづらくなるから渋られる可能性もあったが、山折ヒバリさんの異能を考えれば、折り紙をメトリのもとに送って何かを書いてもらったものを受け取ればいいだけの話だ。
「一応、対価も持ってきているんだけど」
「何かな?」
「2000万くらい」
「いま、ここに?」
「うん」
僕が背後を見ると、ライカが手元のリュックを掲げた。
この場で渡す訳では無いが、僕なりの誠意と、金銭が本当に存在しているということの証明のつもりだった。
「要らないよ。そんなに惚れたのかい?」
「うん。大好きなんだ」
「そうか」
雅楽川君が初めて微笑んだ。
最初からわかっていた。
彼がまったく策を弄さない人間だということは。
「野心家だからボクの気性とは合わないと思ったけど、面白い人だ君は」
「えっと、ありがとう? あの、それって」
「ああ、これはボクの作品だ。好きなんだ。作るのがね」
彼が触っている粘土を見たあと、
僕はあたりに再度意識を向けた。
オブジェはどれも、作風がどこか一貫している。
おそらくすべて、彼の手作りなのだ。
「改めて、ありがとう。そしてよろしく。僕は兼高ユウキ」
「こちらこそよろしくね。ボクは雅楽川レオという。見ての通り一人で図画工作ばかりしている。でも友達は欲しかったんだ」
僕は彼の手を握った。ちょっと粘土でベタベタしていた。
「よかったら夕食を食べていかないかい?」
「ごめん、実はもう作ってあるから、寮に戻って食べようと思う。でももしよかったらいつかまた誘ってくれる?」
「おいしいオムライスを用意するよ」
彼の言葉に、僕は微笑んだ。
美味しいよね、オムライス。
「そうだ、君に一つ忠告だ」
「なに?」
「最近、なんか周囲がきな臭いんだ。転入してきたばかりだけど、なんというか、見えない何かが這いずり回っている気がする。どう表現するのだろう、認識できない誰かがずっと側にいるような……」
雅楽川君は、少しだけ視線を落として、再度僕をしっかりと見た。
「警護官たちから離れないようにするんだ。ボクたちは情報が制限されているから見える物が少ない、でもだからこそ "見えない" ということを感じ取る能力が他の人たちより優れていると思う。……伝わるだろうか」
「伝わるよ。ありがとう。気をつける」
僕は再度、彼に礼を言った。
メトリを警護官として雇うことを了承してくれた礼と、忠告の礼。
そして、友人としてもう一度握手を交わして、彼の家を後にした。
「ヒバリ、さっきは強い言葉を使ってごめんよ」
「いえ、私の方こそ、動転していました」
「そうか」
「…………」
「どうかしたのかい?」
「いま作っているそれは、猫ですか?」
「これはコモドオオトカゲ」
「わお」