※この作品はR-18です。

貞操逆転世界で異能と体質で差別され男性の精液を定期注入されないと動けなくなる ”眠り戦姫” たちを性欲にまかせた婚約セックスで救いまくる話   作:ぽぶきち

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第四十三話 病院と襲撃⑤

 

 

(これは対人戦闘ではない)

 

 呉井マナはそう確信した。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』の動きは、人間のものではなかった。

 

 人体であれば、動きやすい部分、動きにくい部分、操作しやすい部分、操作しづらい部分が存在する。

 しかし、この眠り戦姫(ソメイユ)の動きにはそれがない。

 

 まるで、人間とまったく同じ可動域で作られた機械をプログラミングで動かしているだけのような、そんな人外と戦っている感覚だった。

 

「────」

 

 地表に氷を走らせる。

 

 が、あまりにも簡単に飛んで避けられる。

 

 空中にいる間を追撃しても、多少の氷結であれば割られる。

 

(異能のおこりを見られている)

 

 遠距離攻撃は分が悪い。

 そう判断した。

 

「■■」

「──っ」

 

 刃を受け止める。

 

 拳を受け止める。

 

 蹴りをそらす。

 

 体幹の良さなどでは説明がつかないほどの身体操作で、軸足のみを保ったままほかの三肢を攻勢に用いてくる。

 

 足払いなどもってのほか。

 同じ四肢ある生物どうし。王手を取ろうとしても、こちらの王将をおびやかされて防衛に回される王手返し。

 

(これが、『制御する異能』)

 

 『半死半生(リビング・デッド)』と呉井マナは、互いの間合いを捻じるように渦巻かせながら移動していた。

 移動の理由は、呉井マナの後退にある。

 

 病院に近づけるわけにはいかない。

 自己の気で以て相手を圧し、背を向ければ斬るという姿勢を維持する。

 

 刀、後代孫六と、紫の氷剣がぶつかる。

 膂力は同等。

 鍔迫りあった。

 

 その一瞬、

 

「『溶解(アオフ)』」

 

 呉井マナは、氷結を解除する。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』の周囲には、氷が張り巡らされていた。

 それは戦闘の残滓であり、かつ、カーテンのように屹立して二人の視界を阻んでいた。

 

 それが、解除される。

 

 落ちる水の壁から、手が伸びる。

 

 山田アジサの手だった。

 

 それは確かに、『半死半生(リビング・デッド)』の身体に触れた。

 

 触れたが、その異能を解くことはできなかった。

 

 横合いから炎が『半死半生(リビング・デッド)』に迫る。

 それも、体を低く落として、蜘蛛のように滑って避けられる。

 

「異能は解除できていません! おそらくこいつの体のなかで設定後半自動的に機能する、デフォルト型です!」

 

 そう言った呉井マナに隙ありとみたか、『半死半生(リビング・デッド)』が飛ぶ。

 が、その体を何かがさらう。

 

 まるで絹のようなそれが、『半死半生(リビング・デッド)』の体を包もうとした。

 

 一瞬のうちに布地は切り裂かれるが、『半死半生(リビング・デッド)』は警戒するように三人を、いや四人を見る。

 

 神楽マツリカ。

 持つのは、『天の羽衣を顕現させる異能』。

 重量の影響を受けず、異能を阻み、神楽マツリカの意のままに動かすことができる。

 神楽マツリカは、自らの背に天の羽衣を再生させた。

 

「hh」

 

 メグの放った炎は、『半死半生(リビング・デッド)』の軍服を少しだけかすめていた。

 袖の端が、燃えている。

 手を振っても消火されない。

 消えない炎だ。

 

 袖口が後代孫六の切先で丁寧に切り裂き、捨てられた。

 落ちた袖は、炭になってもなお、さかんに燃焼を続けている。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』は、息を吐いた。

 それはどこか、ため息をついたようにも聞こえた。

 

 地面に手を触れている。

 

 そのまま、呟く。

 

感染(■■■)

 

 波動が発生し、周囲に無遠慮に広がる。

 

(────?)

 

 しかし何も、起こらない。

 

 呉井マナは一瞬だけ思考が奪われそうになるのを、山田アジサの対干渉力の影響だと無理やり理解してとどめた。

 

 再度、『半死半生(リビング・デッド)』と『氷鬼』。

 灰色の影と白黒の影が、ぶつかる。

 

 他の三人は、戦闘に入れない。

 

 二人の攻防があまりにも高速なのだ。

 

 ギリギリ山田アジサだけは目で追えているものの、加われるかどうかは話が別だった。

 

 呉井マナの剣は、より刀を模したものへと変化している。

 『半死半生(リビング・デッド)』が他の三人に意識を向けていた最中に、自分の手に馴染むように変形させたのだ。

 

 その結果、

 

 二人の攻防は、呉井マナが優勢だった。

 

「■!?」

 

 左手は軽く、右手は深く、両の手で氷の剣を持つ。

 円を描き、力を留めず流すことでもたらされる流麗な剣技は、一種の芸術や寓意性すら感じさせた。

 

 一太刀だった。

 流れる一太刀が、『半死半生(リビング・デッド)』の刀を弾き、

 腕を切った。

 

 それだけで、氷鬼は止まらない。

 

 すぐさま追撃を仕掛けようと踏み込むが、それを刀の大ぶりが払う。

 

「Ti- es-as bon-ga…… K-an ĵaluzon mi sent-s al vi」

 

 『半死半生(リビング・デッド)』は、自らの腕につけられた深い裂傷を見た。

 そして、次の瞬間には、

 その腕を切り飛ばした。

 

「な……」

 

 これには、呉井マナも唖然とした。

 有りえないからだ。

 

 特に武術に心得のある呉井マナには、いくら無用となっても腕を切り落とすなど、重心を狂わせるだけの不利にしかならないとわかる。

 一瞬を勝利を求めて刹那的な優位を生むためであっても、絶対にそのようなことはしない。

 

 だが、この『半死半生(リビング・デッド)』」において、身体操作のしやすさは必要ない。

 

再宣言(■■■)

 

 何かが変わった。

 『半死半生(リビング・デッド)』が剣を構えた。

 逆手に。ゆらりと。

 そして、ピタリと止まる。

 

 そこに呉井マナの剣戟が飛ぶ。

 

 だが、反らされる。

 

 すべての攻撃が。

 

 呉井マナの動きをすべて理解しているかのように。

 

(見覚えが……これは、私の技を模倣した……?)

 

 剣のなかに理を宿し、敵の力を利用して自らの攻とする。

 その摂理を、自らが叩き込まれた剣術の摂理を、呉井マナは『半死半生(リビング・デッド)』の動きの中に垣間見た。

 

 呉井マナは直感した。

 

 『制御する異能』で、『呉井マナの技術を模倣する』ようにプログラムを組み直したのだと。

 

 いまの『半死半生(リビング・デッド)』は『制御する異能』の制御下にある。

 その『制御する異能』が、不利を鑑みて呉井マナの技術を模倣したのだ。

 

(聞いたことがない、異能が異能を行使するなど)

 

 とん、と、呉井マナの胸元に柄が当たった。

 無骨な銀の柄が、胸部を突いていた。

 

 そして呉井マナは吹き飛んだ。

 

 

 ---

 

 

 僕は、ガタガタという音で、モニターから目をそらした。

 

 音の発生源は隣だ。

 この部屋には僕以外に一人しかいない。

 

 亜欧堂君が、震えている。

 

「怖いよね」

「うるさいな。これは持病だ」

 

 モニターの奥で行われているのは、前世ではまず起こり得ないレベルの対人戦闘だ。

 炎が舞い、氷が弾け、剣と剣がぶつかり合う。

 ここに設置された監視カメラはかなり高性能なはずだが、それでも戦闘の速度にフレーム数がまったく追いついていない。

 

「俺は、眠り戦姫(ソメイユ)に襲われた」

 

 亜欧堂君が、ぽつりとこぼした。

 

「レイプされかけた」

「……」

「幼馴染が逃がしてくれなければ、俺はあのまま」

 

 なるほど。

 得心した。

 だからあんなにも眠り戦姫(ソメイユ)を憎んでいたのか。

 

「その、幼馴染さんは……」

「…………地下にいる」

「だ、よね……」

「治癒の眠り戦姫(ソメイユ)でも、治せないらしい」

 

 源液提供を受けられず、泥眠状態(アンアライブ)になって死ぬかどうかの瀬戸際。

 そういった矯激に走る眠り戦姫(ソメイユ)がいてもおかしくない。

 

 そんな眠り戦姫(ソメイユ)が、自分の命のかかっている行為を邪魔されて、どう思うか。

 これまで虐げられてきた恨みをどう晴らそうとするか。

 

 少し嫌な想像をしてしまった。

 

「僕は特権貴族院に入る気はない」

「…………何?」

「よくわからなかったけど、多分申請して入会するタイプだよね? だったら僕は入らない」

「……嘘をつくな」

 

 入ってどうするというのだろう。

 

 僕は世の中を変えるような人間ではない。

 

 そういう責任も負えない。

 

「いまの生活でももらいすぎなんだ。

 僕は、僕の婚約者たちと暮らせるならそれでいい」

「…………」

「君が、そういう社会を維持してくれないかな?」

 

 亜欧堂君は、何も返答しなかった。

 

 沈黙が耳に痛くなりかけたそのとき、

 

 インカムから焦った声が飛んだ。

 

『ユウキ様!』

「どうしたの?」

 

 僕はモニターに目を戻す。

 一度吹き飛ばされた呉井さんが、再度『半死半生(リビング・デッド)』という眠り戦姫(ソメイユ)と戦っている。

 

 速すぎてよく見えないが、決定的敗北ではないのはわかる。

 

『市民が、この病院に来ています、モニターを変えられますか!?』

 

 カメラを切り替えると、

 そこにはゾンビにようにおぼつかなく歩く大勢の女性たちがいた。

 

 どういうことだろうか。

 

『おそらく、『半死半生(リビング・デッド)』の異能です。干渉に耐性のない一般市民を、遠隔から操作しているのです』

 

 管理委員会の牧近トーカさんが、固い声色で告げる。

 

『制御する異能』は、自分だけじゃなく、他者も制御できるのか。

 

「僕たちが制御される可能性は?」

『ないでしょう。既に『半死半生(リビング・デッド)』は片手を失っています。』

 

 アジサが、押し寄せる大衆に立ち向かう。

 アジサに触れた女性は、糸が切れたようにその場に倒れる。

 

 それをアジサが掴んで、迫る民衆の下敷きにならないように撤退していた。

 

『とにかく、このままでは人海戦術で突破されます』

 

 その返答よりも先に言うことがあった。

 

「メグ、人は、殺さないで」

『…………わかりました』

 

 彼女が人を殺して、罪悪感に塗れるのと、それで眠り戦姫(ソメイユ)へのあたりが強くなるのは避けたい。

 僕はどこまでもワガママだ。

 

『兼高様、亜欧堂様。その部屋のシェルター機能をONにしてください。電波が届かなくなりますが、通過する民衆に襲われることはありません』

 

 僕は苦笑した。

 

 亜欧堂君を見ると、何かを睨むように前を見据えていた。

 

「しないよ」

「するわけないだろう」

 

 

 

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