※この作品はR-18です。

貞操逆転世界で異能と体質で差別され男性の精液を定期注入されないと動けなくなる ”眠り戦姫” たちを性欲にまかせた婚約セックスで救いまくる話   作:ぽぶきち

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第四十四話 病院と襲撃⑥

 

 この病院のエレベーターは既に止めてある。

 

 物資の搬入口なども閉め切られている。

 

 操られている女性たちが入り込むとしたら、僕たちと同じやり方。玄関から。

 階段を通ってこの部屋の前の廊下を、必ず通る。

 

 配布されているパンフレットに描かれているものとは別の、裏地図ともいうべき病院の全容図をみて、僕は覚悟を決めた。

 

 扉を開く。

 

 モニター越しに映っていた混沌が遠くの出来事だと思わせるくらい静かな病棟通路。

 

 僕についてきた亜欧堂君は、何やら懐から黒いものを取り出していた。

 銃だ。

 

「それで止まるかな」

「無いよりはマシだ」

 

 アジサの異能で機能停止に出来たのなら、おそらく僕たちが触れるだけで、暴徒となった女性は『半死半生(リビング・デッド)』の制御下から外れるはずだ。

 

 ほとんどの暴徒は、アジサによって食い止められている。

 ここに来るのは本当に少数なはずだ。

 

 足音が聞こえた。

 規則性のない足音。

 

 現れたのは、

 オフィスレディといった様子の女性。

 ナース服の女性。

 エプロンをつけた飲食店の店員のような女性。

 

「彼女たちは、眠り戦姫じゃない」

 

 眠り戦姫じゃないけど、なんとなく威圧感を感じる。

 

 三人は、明確に僕たちを認識した。

 そして、こちらに向かって走り出す。

 

 三人、バラバラに。

 

「クソっ!」

 

 亜欧堂君が銃を投げ捨てた。

 そのまま、女性の一人を押し倒す。

 そして、脚を伸ばしてもう一人を転ばせようとする。

 

 が、そのもう一人は前方にくるりと転回して避けた。

 その容姿からは考えられない運動神経だ。

 きっと、異能による操作で身体能力を限界まで底上げしているのではないだろうか。

 

 僕は亜欧堂君より少し後ろ側にいた。

 迫るナース服の女性の肩を掴む。

 明確に、何かの糸が切れる感覚があった。

 

 だが問題は、もう一人。

 

 ナース服の女性からあえて距離を取って走っていた。

 

 僕は、側の壁を蹴るようにして、駆け上がる。

 

 壁に二歩。

 天井の端に二歩。

 擬似的に天井を駆けた。

 

 届くかは五分五分だった。

 

 しかし、走る女性の首を、ほんの少しだけ僕の指がかすめた。

 

 それだけで、最後の一人もその場にくずおれる。

 

「……お前……本当は男の眠り戦姫(ソメイユ)だったりしないか?」

「しないよ」

 

 亜欧堂君がどこかバケモノを見る目でこちらを射抜くが、そんな表情をされても事実は変わらない。

 

「多分、五感も共有しているみたい。僕のほうを見てなかったから追いつけた」

 

 少しだけ制御が杜撰になっていたような気がする。

 それもそうだ。

 もし本当にすべての一般市民を本体と同等レベルに操作できるのなら、最初からそうしているはずだ。

 

 これはもしかしたら、苦肉の策なのかも知れない。

 

 そして、もし人数が多ければ多いほど操作が難しくなるのなら、

 

 僕たちやアジサが制御を外していけばいくほど、残った市民の身体操作能力は上がるのではないか。

 

 かつん、かつん。

 一人分の足音がした。

 

 次に階段をおりてきたのは、スポーツウェアを着た女性。

 露出が多く、鍛えられた腹筋が露わになっている。

 

 その女性は、どこからか、錆びた鉄の棒を持っていた。

 

 それを武術の達人のようにひゅんと振り回す。

 まるで脅すように。

 

 これやばいかも。

 

「……」

 

 亜欧堂君を見ると、両腕を構えていた。

 ボクシングか何かの構えだ。

 習っていたのだろうか。

 

 僕も全神経を、スポーツウェアの女性に向ける。

 ふっ、と息を吐く。

 

「来いよ」

「おいで」

 

 そう言うと、女性は全身をくねるようにしなやかな動作で僕たちに接近してきた。

 

 僕たちから逃げるのではなく、武器を利用して行動不能にする。

 なるほど、そうか。

 

 さっきの女性の視界から、この先にも一応それなりのセキュリティがあることを見抜いたのだ。

 どうせそれを解除しようとしているうち、もしくは物量で押し切ろうとするうちに僕たちに邪魔されるだろう。

 だから最初に行動不能にする。

 そう考えたんだろうな。

 

 亜欧堂君に振り抜かれた鉄の棒を、軌道上に腕を置いてなんとかそらす。

 

 武器を掴めば良い。

 触れれば勝てるのだから、武器を奪えばこちらの勝ちだ。

 

 が、女性は武器をねじってこちらの手を放させると、そのまま僕の腕と腰の間に鉄の棒を挟むようにして、大きく振った。

 

 体が浮いた。

 間接的な背負投げだ。

 

 なんとか身を翻して脚で着地する。

 

 その顔面に迫った棒を、ギリギリで避けた。

 

 女性が飛ぶ。

 その真下には、足払いをかけようとした亜欧堂君がいた。

 

 亜欧堂君の背中を、鉄の棒がしたたかに打ち付ける。

 

 カン、と地面に鉄の棒を打ち、女性は僕に向き直った。

 

 まるで、逃げるなら今だぞ、とでもいうように。

 無機質な視線が、こちらを射抜く。

 

『ユウキ様! ご無事ですか! ご無事なら返事を!!』

 

 メグの声が聞こえる。

 

 僕は、耳元のその声がどこか遠くで響いているような錯覚に陥った。

 

 ずっと見ていた。

 訓練に励んでいたメグや呉井さん、みんなを。

 

「大丈夫だよ」

 

 目の前の圧力に、呉井さんの戦う姿を幻視する。

 

 鉄の棒が、伸びた。

 伸びたと表現するしかできないくらい巧みな棒術さばきで、こちらを突いた。

 

 でも、

 

「やっぱり、呉井さんよりずっと遅いや」

 

 正中線を少しだけそらして打突を避けた。

 そのまま、カウンターで打った僕の掌底が、女性の顎を捉えていた。

 

 寸止めして、指先だけで触れる。

 

 どさりと女性の体が地に崩れた。

 

 地面に落ちる前に、抱きとめる。

 

「亜欧堂君、立てる?」

「クソ。この護身術を習うのにいくらかけたと思っている……」

「まだ終わりじゃないかも」

 

 そう言った直後、第三の暴徒が現れた。

 

 また一人だけだ。

 

 けど、その姿をみて、僕は驚愕する。

 

 アジサの母だ。

 

 

 

 ---

 

 

 

 現状は、拮抗していた。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』は片腕を失っている。

 

 しかし、異能による身体操作は、そのディスアドバンテージを補っている。

 元より、片手で刀を握っていたのだ。ただ徒手の手段が潰れただけ。そういうかのように、依然として呉井マナと剣戟を交わしていた。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』の使った『感染』は、明らかに戦況を変えた。

 

 川良メグは、迫り来る市民を殺さないために熱風しか使えない。

 神楽マツリカも、天の羽衣を一時的に着せることで市民の異能を解除しているが、手数が足りない。

 山田アジサは、市民の異能解除による戦況に著しく貢献しているが、それでも数が多い。

 

 迫る後代孫六を呉井マナが受け止める。

 

 さきほどより重くなっている。

 

「──」

 

 『半死半生(リビング・デッド)』は、その競り合った後代孫六を、蹴り上げた。

 

「なっ」

 

 呉井マナの体が、飛ぶ。

 

 吹き飛ばされながら、呉井マナは兼高ユウキの身を案じた。

 

(どうか、ご無事で)

 

 仰向けに空を飛ぶ。

 

 空は灰色だ。

 曇天だ。

 

 そして、その奥で、何かが光った気がした。

 

 轟音が鳴った。

 

 戦っていた眠り戦姫(ソメイユ)たちは、何が起こったのかわからなかった。

 

 轟音が連続する。

 病院の周囲で断続的に雷が発生した。

 

 一瞬で暴徒化した市民が、倒れた。

 

 追加の暴徒も、来ない。

 

 呉井マナはバク宙の要領でその場に着地し、氷剣でガリガリと地を削りながら減速する。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』も、その動きを止めていた。

 体からぷすぷすと煙を出しながら、膝をついている。

 

「やっと距離をとってくれましたね。私の異能は、調整が難しいので」

 

 誰かが、ゆうゆうと歩いてくる。

 呉井マナはその姿に見覚えがあった。

 

 蓮顕寺カナウだ。

 

 空が光る。

 

 そして、カナウの掲げた右拳の上に、留まった。

 

 ひび割れのようなそれ。

 空から落ちてきた雷が、静止して、カナウの拳の上で止まっている。

 

 カナウが、拳を開いた。

 

 すると雷が再度息を吹き返したかのようにひらめき、残りの暴徒に向かって直撃する。

 

 雷を、引き寄せ、掴み、放つ異能。

 

 『遠雷を掴む異能』

 

「死ぬほどの攻撃は市民に与えておりません。ただ麻痺でしばらくは動けないでしょう」

 

 カナウの手首の周りがバチバチと放電している。

 指を鳴らして、その放電を消した。

 

「どうしてここに……。いや、ご助力、感謝します」

「国難の大事ですから。」

 

 呉井マナは、『半死半生(リビング・デッド)』と蓮顕寺カナウを視界におさめたまま警戒していた。

 

 本当ならすぐにでも兼高ユウキのもとへ向かいたい。

 実際に、川良メグと山田アジサは思い出したように病院内に向かおうとした。

 

 しかし、

 

『大丈夫だよ』

 

 激戦で壊れかけたインカムから、声が聞こえた。

 

 兼高ユウキのその声は、自らを抱きしめながら何度も囁かれたものだ。

 過去を思い出して眠れない日や、PTSDに陥って夜に泣きわめいた日に、その心音を聞きながら囁かれた言葉だった。

 

 呉井マナは、その言葉に無条件で安心させられた。

 

 曇天の空から、雨が降る。

 

 ぽつりぽつりと、そして次第に驟雨となった。

 

「ァア……」

 

 『半死半生(リビング・デッド)』が、ゆらりと立ち上がる。

 蓮顕寺カナウが目を見開いた。

 

「まだ立てるのか」

「ゥ、ァアア……」

 

 獣のように唸って、『半死半生(リビング・デッド)』が襲いかかる。

 

 だが、

 だが、今は雨が降っていた。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』の剣先が、呉井マナの頬をかすめた。

 血が滴る。

 そして呉井マナの手が、『半死半生(リビング・デッド)』の腹部に当てられていた。

 

「顔を狙えば動きが固まると思ったか」

「……」

「残念だったな──」

 

 『半死半生(リビング・デッド)』は飛んだ。

 よって、全身を覆おうとした氷結から逃れることが出来た。

 

 それも、呉井マナの読みどおりだったが。

 

 氷塊が、降る雨水を吸収するように、天まで高く伸びる。

 

 『半死半生(リビング・デッド)』の体を覆う。

 

「ユウキ様は、頬に傷があっても愛してくれる」

 

 口元が覆われる寸前、『半死半生(リビング・デッド)』は、

 

「いいなぁ……」

 

 ぽつりとそう零した。

 

 水中において、人間の動きは大幅に制限される。

 行動全て、筋肉の動き全てにおいて、水圧による減衰が入るからだ。

 

 空中で氷結によって敵を拘束し、その内部を『溶解(アオフ)』によって液体に戻し、破壊不可能な監獄を作り上げる。

 

「『嶽紫氷槽牢(ニラブダ)』」

 

半死半生(リビング・デッド)』は、敗北した。

 

 

 

 

 

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