貞操逆転世界で異能と体質で差別され男性の精液を定期注入されないと動けなくなる ”眠り戦姫” たちを性欲にまかせた婚約セックスで救いまくる話 作:ぽぶきち
アジサの母は、無表情なままこちらを見つめている。
その両手には、包丁が握られていた。
まずい。
もしこれで制御を解けたとしても、彼女が亜欧堂君を傷つけてしまったら、色々とまずいことになる。
「亜欧堂君、できれば、僕に任せてくれない?」
振り向くと、亜欧堂君は鼻を鳴らして少しだけ後退した。
さて、
気絶ではなく、本気の負傷でこちらを害するつもりだ。
さきほどの女性とは殺意が違う。
僕は、息を細く吐いて、目の前のアジサの母に集中した。
しかし──、
「……ッ!」
いきなりアジサの母は何かに気づいたかのように、身を翻して走り出した。
僕たちから逃げた?
いや、どこかに向かって、戻っている?
もし、アジサの母がこのまま戻って、暴徒化してここまでやってきた民間人を人質にとったら、どうなるか。
それは本当に、まずい。
僕も、アジサの母を追いかけた。
「亜欧堂君、頼んだ!」
「は……?」
その前に触れて、異能による制御を解除しないといけない。
全力で駆ける。
しかし、もともと距離があった上にかなり精密に制御されているから、追いつけない。
階段を半ば3次元的な機動であがっていくアジサの母を、追いかける。
地形の違いがあれば、制御と非制御でここまで違いが出るのか。
距離はどんどん開けられていくばかりだ。
でも疲れたとか、言っている場合ではない。
『ユウキ様、『
インカムから、呉井さんの報告が聞こえた。
『暴徒化した市民も病院外にいるものはすべて無力化。
『
異能を解除したら、どうなるのだろう。
聞いたところによると、かなり長い間海に溺れていたはずだ。
そこから一度の源液提供もなく、ここに来て戦った。
モニターでみた『
まさに半死半生だ。
彼女は、異能を解除されたあと生きていけるのだろうか。
息が上がって、インカムに返答できない。
返答する余裕もない。
『兼高ユウキがそっちに向かったかも知れない。まだ異能のかかってる市民を追っている』
亜欧堂君が全体にそのように告げる。
有難い。
地上一階に出ると、既にアジサの母は外に出る直前だった。
亜欧堂君の情報を受けてそこではアジサとメグがいた。
が、どうやらアジサは相手が母であったことに面食らったようで、その隙を突かれた。
メグとは逆方向にすり抜けたアジサの母が、包丁を投げた。
一つは、呉井さんに。
もう一つは、その近くに形成されている、繭のような氷像に。
呉井さんは危なげなく飛来してきた包丁を弾く。
だが、おそらくそれは注意を引くためだったのだろう。
もう一方の包丁は、氷像に当たった。
少しだけ、ほんの少しだけ、突き刺さった。
それだけで、氷像は割れた。
内部から、水に濡れた亡者のような
「ァアアアアアア!!!!!」
咆哮して、呉井さんに斬りかかる。
それすらも、呉井さんは躱した。
どころか、氷結を足元に出して、踏み込んだ『
が、『
そして、手に持っていた刀を、宙に投げた。
もう一人の
と思う。
その雷撃が、宙の刀に阻まれ、軌道を変えた。
そして、切先の方向にいた呉井さんに直撃した。
「……ぐっ」
感電した呉井さんを置いて、『
飛んでいった布のようなものを避けた。神楽さんの異能だ。
「『
メグの炎を避けた。
避けたが、あまりにも熱量が大きすぎて足元が焦げた。
構わず、『
アジサは、母を抱きとめていて、対応できなかった。
『
僕のほうに。
僕は、両手を開いた。
「ァァアアア!!!!!」
受け止めた体が、倒れて、欄干に背中をぶつける。
僕に触れた『
もがこうとしていた。
でも、
でも、そこまでしなくていいじゃないか。
「もういいよ」
僕は、『
「もういい。」
ぴたりと、彼女の動きが止まった。
戸惑っているような、対処法がわからなくなったような、そんな雰囲気だ。
「頑張ったね」
抱きしめる力を込める。
そして、背中を撫でた。
僕のほうに、雷撃が飛んできた。
しかし、それは氷の壁によって阻まれる。
「ァ……ァァ……」
「何か、目的……いや、約束があったんだよね……?」
「ァァ…………」
「ごめんね、守らせてあげられなくて」
彼女の体は冷たかった。
人間らしい体温を持っていなかった。
海の香りがした。
僕の前世の母は、物産館に務めていた。
海が近い場所だったので、魚介類が物産として栄えていた。
母の手は、どこか磯の香りがして、そして水に触れていつも冷たかった。
でもその冷たさが、当時の僕には温もりだった。
彼女に言語が伝わらなくても、僕の体温が伝われば、今はそれでいい。
「ルティエ。」
「…………」
「結婚しよう」
「……ァ」
「遠くで暮らそう。戦いから、遠く離れた場所で」
彼女は、おそらく、もうじき死ぬ。
もしかしたら、既に死んでいて、これは残滓のようなものなのかもしれない。
死んでも死にきれない事情と、
やむにやまれぬ目標があった。そうなのだろう。
せめて最期くらいは、少しだけでいいから報われてほしいと思った。
「
「そういうのは、もういいじゃないか……。僕といっしょに暮らすのは嫌?」
「…………」
ルティエ・マグクラフトさんの手が、
僕の背中にゆっくりと回された。
僕は、彼女の唇にキスをした。
「おつかれさま。頑張った。すごい頑張ったよ。
だからもう、休んでいいんだ」
「…………いいの、でしょうか?」
「ダメなわけ無いよ」
互いの頬をすり合わせる。
僕の体温を、分け与えるように。
「…………」
「……ルティエ?」
「…………」
「眠ったの?」
僕は、ルティエの頭を撫でた。
「おやすみ。僕のお嫁さん」
彼女の体はすでに弛緩して、背に回されていたはずの手も、だらりと落ちていた。
胸元の空洞から、ダバダバと黒い血が溢れている。
「ユウキ様」
呉井さんが近づいてきた。
「もう、死んでいます」
「わかってる。
でももう少しだけ、こうさせてほしい」