※この作品はR-18です。

貞操逆転世界で異能と体質で差別され男性の精液を定期注入されないと動けなくなる ”眠り戦姫” たちを性欲にまかせた婚約セックスで救いまくる話   作:ぽぶきち

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第五十五話 花見

 

 

 

 夏風が吹いている。

 

 僕は、「兼高家」と書かれた墓の前に立った。

 座り込む必要はない。墓石は大きく、周囲を石壁に囲まれている。

 

 学園から遠くもなく近くもない場所に墓を買った。

 実家の墓を探したのだが、どうやらないようだった。

 生まれてきたときはまだ脳に前世の記憶が馴染んでいなかったこともあり記憶はおぼろげだが、僕を産んだ人はどこにいるのだろう。

 

 墓の下にはルティエがいる。

 納骨の際に、指輪は骨壺に入れた。

 

「僕はね、前世の記憶があるんだ」

 

 こんな変な生まれ方をしたけど、それでもまだ死後の世界を信じてはいない。

 だとしても、手を合わせることに意味がないとは思わなかった。

 

「ある日にね、仕事で失敗しちゃってさ」

 

 とある日の記憶がフラッシュバックする。

 怒号と、泣き声。

 失望する者たちの顔と、焦る同業者たち。

 

「たとえ薄給でも、自分の行いが正しいことならやっていけると思ってた」

 

 自分の行為に意味があるのなら、人はどこまでも特化できる。

 僕は、自分が大いなる目的のために動いていると思っていたから、らしくないこともできた。したくないこともした。

 

「でも正しくないということに気づいた」

 

 地盤になっていたものが崩れて、そのとき初めて僕が一人の愚か者だったのだと気づいた。

 騙されたわけじゃない、買い被っていたのだ。自分と、自分の信じた理論を。

 

 気づいたときには、

 引くに引けなくなっていて、

 友人もいなくなっていて、

 妻の心は僕から離れていて、

 

「だから僕は、もう自分のしたいことしかしないって、決めたんだ」

 

 そのときからずっと一人で考えていた。

 大義とか正義ってなんだろう、と。

 自分の中で人並みに結論はつけられていたはずだけど、改めて自分にとってそれは何か、知ろうとしたんだ。

 

「君を娶ったのも僕のワガママだ。もし嫌だったら、僕がお墓に入るとき、めいっぱい怒ってよ」

 

 定言命法、という考え方があるらしい。

 

 平たく言えば、

 すべきことはすべき、という意味だ。

 

 人は正義という概念を操るときこの理屈を当てはめて物事を決める。

 

 何かの目標にかなうかどうかではなく、それが一般的にすべきではないことかどうかで善悪を図ろうとする。

 

 だから、大義や正義に従っていてはきっと何も得られない。

 好きに生きよう。

 今世は。

 少なくとも何かを残すために。

 そう思った。

 

 じゃないと、僕は呉井さんにも、メグにも、ライカにも、メトリにも会えていなかった。

 みんな何かしらの罪を犯している。

 でもそれでいいし、清廉潔白な人間は嫌いだ。

 僕は呉井さんたちが好きだから、好きでいる。それだけでいいし、それだけで済まないなら、僕だって悪人でいい。

 

 ルティエがどんな人間だったのかは知らない。

 

 もしかすると、僕が知らないだけで相当な悪人だったのかもしれない。

 大量殺人鬼かもしれない。

 

 でも、僕はあのときのルティエを綺麗な人だと思った。

 

 だから婚約した。

 

 この婚約は絶対に取り下げない。

 

「みんなには秘密だからね。これは僕とルティエだけの秘密だよ」

 

 線香から立ち香る煙越しに、もう一度墓石を見る。

 そろそろ戻ろうか、というときに、強い風が吹いた。

 

 なぜだかその風が、少しだけ嬉しかった。

 

 

 

 ‐‐‐

 

 

 月読ウタゲは、タバコの火を、線香に移した。

 

 月読ウタゲは多忙である。

 だからこそ、こうやって何もしない時間を意図的に作らねば効率が落ちることを誰よりもよく知っている。

 

「防衛の方法は、あなたに教わりました」

 

 墓石には、陣風字、と刻まれている。

 

 陣風字ツギは、まだ国が島国を防衛していたときの北軍将軍だった。

 どのように立ち回り、どのように人を使い、どのように護るか。

 国内の治安維持を任じている月読ウタゲは、その在り方を彼女に教わった。

 

 師匠というほどではないが、少なくとも先生ではあったのだ。

 

 昔の陣風字ツギは、最後に見たときよりもずっと荒々しかった。

 

 なぜ丸くなったのか。

 

 原因は容易に想像できる。

 

 教え子に、入れ込みすぎたのだろう。

 

 自分の教え子たちがこれから自分と同じような道を進むことを、容認できなかった。

 

 だから革命隊を組織して、現状の眠り戦姫(ソメイユ)が被差別階級である世の中を転覆させようとした。

 

「…………」

 

 現在、ヒノモトは、いや、日ノ本一州国(ひのもといっしゅうこく)は、荒れている。

 戦争中の湾州帝国(わんしゅうていこく)は、自国の言葉を暗号として用い、反対にヒノモト語を使って捕虜から情報を引き出して戦争で優位に立とうとしている。

 

 華州連合国(かしゅうれんごうこく)も、湾州帝国と同盟を結ぼうとしている動きがある。

 

 もっとも危険な、欧米統州国(おうべいとうしゅうこく)は、動きなし。

 脅威度1位の眠り戦姫(ソメイユ)、ミダ・オフィーリア・グランデは、世界に言語が戻っても、いまだ自国で沈黙している。

 

 別に、それはいいのだ。

 

 外国との争いは、月読ウタゲの職務ではない。

 

 あくまで内部を統制する留守政府のような役割が、いまの月読ウタゲに与えられた職務。

 

 いまのところ、それほど問題はない。

 だが、そのうち問題が出る。

 

 むしろ向こうの国からの亡命者を確保したことから、ヒノモトのほうが情報を持っているくらいのものである。

 

 これから発生が予測されているリスクを先んじて和らげるために動いているが、実際に起こっている問題はそこまで多くはないのだ。

 だが、水面下ではおそらく各位の思惑が蠢いている。

 

 月読ウタゲは、墓標に供えられている花が傾いているのを直した。

 

 亡命者の一人が、自分の年齢を理由に府中学園への転入を希望した。

 それを、学園長はなんと受け入れた。

 学ぶ機会は平等であるなどとうそぶいていたが、どうせ自分の権力の伸長を画策しているのだろうと月読ウタゲは半ば確信していた。

 

 その亡命者の異能は、ワールドゲイザーで見たところ、『幻覚を見せる異能』……。

 転入先は1-21。

 精神系でごったがえしたあのクラスでは、もうどんな蠱毒が巻き起こるかわかったものではない。

 

 できれば、教室が近い1-20や1-12と潰し合ってほしいものだと、月読ウタゲは切に願った。

 

「ここにいたのかよ」

 

 後ろから声がした。

 秘書の牧近トーカの声ではない。

 

 むしろ、ここに来ることは誰にも伝えていないのだから、知り合いがいるはずがない。

 

「タキビ……?」

「ああ」

 

 白い外套をまとったその金髪の眠り戦姫(ソメイユ)は、月読ウタゲの隣にたつと、墓石に向かってなぜかピースをした。

 

 行動には怪訝に思いながらも、彼女の登場に対し、月読ウタゲは納得する。

 

 国家管理委員会が保有する、未来予知能力。

 それがタキビ。金城(かなしろ)タキビ。

 

「そろそろお役目だろ?」

「……そうね」

「で、どっちだ……?」

 

 タキビは、月読ウタゲに問う。

 どちらにするか。

 亜欧堂ノゾムか、兼高ユウキか。

 どちらがより脅威で、見張っておく必要があるか。

 

「……兼高ユウキね」

「了解」

「用務員として忍び込むことになると思うわ」

「そうかよ」

 

 軽い返事に、もしかするとここまで予知していたのではないか、と月読ウタゲは訝しむ。

 

「山折ヒバリとの入れ替えも考えたけど、雅楽川レオが気難しいらしくて、彼女から断られたわ」

「職人気質なんかねぇ」

「どのみち山折の情報伝達手段は必要になる。何かあったら端末じゃなくて彼女の異能経由で伝えて頂戴」

「へいへい」

 

 パキパキと背骨を鳴らしながら、用事が済んだとばかりに金城タキビは墓地を去る。

 

 金城タキビは副流煙を嫌うため、このように用件が済むとさっさと去るのが常だった。

 

 

 

 ‐‐‐

 

 

 僕は、ミナミさんを肩車していた。

 

 花見をしようと約束してから一週間とちょっと。

 終業式が終わった日の、午後。

 

 春に絶好の花見スポットだったらしいその場所で、ミナミさんが異能を使っている。

 なんか手をこねこねして波動を打つようなポーズをすると、その手の先にある木々から、降るようなしだれ桜が咲いた。

 

「うおーーっ! くらぇ!」

 

 なにかしらの気合とともに木々を開花させていく。

 

 僕が彼女を肩車しているのは、異能が届きやすいようにするためだ。

 

「あっ♡ ふとももすりすりやめてくださいっ!」

 

 言われて僕は、ほぼ無意識に動かしていた手を止める。

 

 ミナミさんは見た目もそうだが、それ以上に軽く、肩車してもまったく痛くならない。

 

 数十分後、あたりには大量の枝垂れ桜が咲いていた。

 おそらく、今年の春もこれほど鮮やかに咲き誇っていなかっただろう。

 

「こっちも用意できたわよ」

 

 アジサに言われて、みんなのいる方を見る。

 

 レジャーシートを敷いて、その上に酒やら何やらが並べられている。

 あれは、将棋盤……? なんで……?

 

 レイアの姿が見えないので、少し奥のほうをみにいくと、一人で踊っていた。

 まるで映画のワンシーンみたいで見惚れてしまった。

 

「あっ……」

 

 レイアが僕に気づいた。

 これまでのどんなえっちのときよりも顔を赤くしている。

 このままだと黒歴史になる可能性があるので、僕はレイアの手を取った。

 

「えっ……?」

 

 呆けるレイアの手を引いて、くるとその場で回転する。

 あまりこういう踊りに詳しくはないから、後で調べようと思った。

 

 でも、レイアもおそらく経験はない。

 経験のない二人だったから、なんとなく波長が合った。

 

 踊っているというより、はしゃいでいるといったようなものだったと思う。

 

「ゆーきさまっ!」

 

 最後にレイアをお姫様だっこして終わる。

 

 レイアは僕の首に片腕を回して、上目遣いでこちらを見つめていた。

 

「さ、戻ろっか。みんな準備できたらしいよ」

「……はいっ!」

 

 そのままレイアをかかえて、皆の元へと向かう。

 

 さきほどは見なかった人影があった。

 

「すいません、遅れました」

 

 シズさんが、少し息を荒くしてやってきていた。

 終業式後の帰り際、何か用事があるらしく、シズさんは僕たちとは別行動をとった。

 

 ボーイッシュな彼女の髪に、桜の花びらがついている。

 

 取ろうとも思ったが、あまりにも似合っていたので、気づいていないふりをした。

 

 レジャーシートの上に座る。

 足を伸ばせるかどうかわからなかったが、僕の背中にアジサが背中を合わせたので、互いに体重を預ける形で安定した。

 

「膝枕しましょうか?」

 

 委員長が問うが、断っておく。

 みんなの膝枕は、空が見えなくなる。

 

 メトリと呉井さんが将棋を打っている。

 どうやら、メトリさんのほうが優勢のようだ。

 

「心を読むのは反則では?」

「読みやすいのが悪い」

「ちょうど、この刀の試し斬りがしたいと思っていました。やはり本物の人体でなければ」

「まてまてまてまて落ち着けキスした仲だろ」

 

 わきゃわきゃと口論していたが、途中から呉井さんが王手をとっていた。

 どうやら何かしらの怪電波を送ってメトリの平静を崩していたらしい。

 

「なっ、そんな、こいつ、ユウキ様とどんなプレイしてッ……!」

「そして扉は開かれる」

 

 やっぱり二人は仲がいいようだ。

 羨ましい。僕もああいう風にフランクに接したいと思ってしまう。

 アジサに頼んでみようか。

 でも、アジサにも用事があるだろう。

 

「お母さん……?」

 

 そう言ったのは、ミコだった。

 アジサとミコが、同じ方向を見ている。

 

 少し照れくさそうにしながら、二人の母、山田ミコトさんが手を振っていた。

 

「僕が頼んだんだよ。この前話してたこともあるけど、ミコはお義母さんとあんまり話す機会がないみたいだから」

「別に……」

「でも、お義母さんのこと好きでしょ?

 成績とか、僕に貢献できてるとか、お義母さんはそんなこと本当は気にしてないと思うよ」

「そんなんじゃないしっ」

「行っておいで」

「…………ありがと」

 

 用意していたレジャーシートとピクニックバスケットを渡す。

 アジサとミコとお義母さん、三人は久しぶりの家族団らんができる。

 どうやらお義母さんは、二人と会わなくなってから孤独を感じていたようだった。

 これからどうなるかはさておき、いまは再会を喜んでいてほしい。

 

 消えたアジサの背中の感触に名残惜しさを覚える。

 

 サンドイッチをかじる。

 レタスが多い。僕好みのサンドイッチだ。

 やはり呉井さん、研ぎ澄まされている。

 

「あの、私も、作ってきました」

 

 シズさんが、バッグからランチバッグを取り出した。

 中からは、お弁当が出てきた。

 若干小ぶりだ。

 おそらく、他の料理も食べると予想してのことだろう。

 

「ありがとう、いただいていいかな?」

「は、はい!」

 

 ミニハンバーグをかじる。

 まずこれを選んだのは、僕が男の子だからだ。

 

「シズさん」

「はい……」

「シェフを呼んでくれたまえ……」

「…………ふふっ、私ですよ……」

 

 ふと思い立って、聞いてみた。

 

「事情聴取、どうだった?」

 

 あんまりここで聞くことでもないのかも知れないとも思ったが、学校では話せないことでもある。

 なにより、少し言葉を吐き出したそうな気配があった。

 

「いろいろと、田中について聞かれました。

 田中は、指名手配、されたんですよね」

「そうみたいだ」

「ユウキ様は、なにか知っていますか?」

「知っているよ。でも伝えるかどうか実はずっと迷ってる」

「どうすれば……」

 

 シズさんを耳元に、口を近づける。

 

「僕と婚約してほしい」

「へぅっ…………?」

 

 素っ頓狂な声をあげて、少し驚いていた。

 

「そうしたら、すべて教えられる」

「…………でも、ユウキ様は」

「僕はシズさんのことが好きだよ。シズさんはどうなの?」

「私は…………」

 

 少し、なにか言いづらそうな、いや、言えないということに罪悪感を感じているような顔をしている。

 

「ちょっと、不思議だったんだ」

「……」

「なんで、シズさんはこんなに奥手なのに、僕に声をかけてきたんだろうって思った。傾眠性が高いわけでもないのに」

「…………」

「ミナミさんが率先したと思っていたけど、それでも、最初に会ったときのシズさんはもっとガツガツしていた」

「…………」

「もしかして、誰かに言われて僕に近づいた?」

 

 シズさんの顔が固まる。

 

 国家管理委員会のスパイとかではないと思う。

 婚約者になるのではなく、あくまで近い位置にいることが目的のように感じる。

 そういいつつも、シズさんは僕と婚約したくないわけでもないように見える。

 

 シズさんがボロボロと泣き崩れた。

 

「私は…………私は……がく、がくえんからっ」

「いいよ、言わなくて」

 

 すべてを聞き出すつもりはない。

 問題ないのだ。

 その役目のおかげで、僕はシズさんと仲良くなることが出来た。

 むしろシズさんにそれを命じたものに感謝しているくらいだ。

 

「シズさん」

「…………」

「僕と、婚約して下さい。」

 

 ひときわ強く風が吹いた。

 花嵐。

 花びらが、雪のように降っている。

 

「いいのですか……?」

「だめなの?」

 

 シズさんが、ガバっと僕に近づいた。

 唇が、触れ合った。

 

 その肩を抱きしめる。

 

「命令なんだよね? じゃあそのとおりに、ずっと、僕の側にいてよ」

「はい……一生……」

「…………でも、股間をすりつけるのは今はやめてほしい。僕が我慢できなくなる」

「あっ、す、すいません……」

「そういうのは、あとでしようね」

「あとでっ……!?」

 

 僕は、メトリのほうを向いた。

 メトリは、安心したような、しょうがないものをみたような、そんな顔で、徳利を一献呷った。

 知っていたのだろう。

 伝えなかったのは、シズさんが無害だったから。

 

 夏休みが始まる。

 

 みんなに婚約指輪を渡さないといけない。

 

 僕は一週間くらいは眠れないかも知れない。

 

 確か、体技大会というのも夏休み明けに始まるらしいし、その練習もしないといけないだろうか。

 異能と武具(サブウェポン)を用いて行われるトーナメント戦のようなもので、紅白に分かれるらしい。

 

 奇数番のクラスが紅組、偶数番のクラスが白組。

 僕たちは白だ。蓮顕寺さんのクラスも白。

 亜欧堂君と雅楽川君は紅で、対抗することになる。

 

 まぁ、でも。

 

「…………」

 

 まだ先の話だ。

 

 僕は、腕のなかで目を閉じるシズさんを見た。

 やはり、桜の花びらが似合っている。

 

 

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