貞操逆転世界で異能と体質で差別され男性の精液を定期注入されないと動けなくなる ”眠り戦姫” たちを性欲にまかせた婚約セックスで救いまくる話 作:ぽぶきち
「羨ましい、羨ましいっす!」
「…………ふっ」
「ドヤ顔ムカつくっす!」
翌日、体のあちこちを労りながら出勤したメグとライカは、呉井さんの首元のキスマークをみてひどく嫉妬しているようだった。
別にそれくらいであれば、いつでもしてあげるのだが。
「ライカも今日してあげるよ」
「えっ」
「ユウキ様、ご褒美であれば、確かな論功行賞として用いないと、私のやったことが無駄だったということになります」
「……そうかも? たしかに。ごめんねライカ」
ライカは怒髪天を衝くと言った様子で呉井さんを威嚇している。
打ち解けているようで何よりだ。
最初こそメグなどに対して警戒をしていた呉井さんだが、事情を知ってからなんとなく対応が柔らかいような気がする。
潜在的な敵から、同輩へと変わった、そんな感じだろうか。
学校に着いて、メグと呉井さんは廊下に、ライカと僕は教室の席につく。
今日はライカが隣に座る日だ。
緊張しているのか、膝の上に手を置いたまま、背筋を伸ばして不動の状態で座っている。
それでも、授業が始まって少しすると、だんだん緊張がほぐれてきたようだった。
個人的には、廊下にいる二人も教室に入ってきてほしい。
だが、警護官は一般的に教室の前で不審者の出入りを抑制するという通例があるようだ。
何もしない状態でいるのは、個人的にあまり健全ではないと思っている。
僕は前世で、結婚相手に不倫されたことがあった。
結婚相手はスーパーで出会った少しふくよかな女性だった。
僕は彼女を愛していた、と思う。家事を苦にならないように、食洗機とか、少し高めの洗濯機とか、必要になりそうなものはすべて高値で揃えていた。
薄給ではあったけど、それでも彼女が楽ができるならそれでいいと思ったのだ。
そしてある日、帰って、知らない男といっしょにいるのを見つけた。
記憶にない靴があって、来客かと思いスーツを脱がずにリビングに入ると、そこで服は着たまま、抱き合っている妻と、知らない男がいたのだ。
いや、知っていた。隣の大学生だった。
退屈だった、と彼女は言っていた。
そしてだんだん、僕に対する怒りが湧いてきたのだと。
退屈で、大学生を家に招き食事を振る舞うようになった。
モラトリアム期特有の解放感にまかせて、大学生は妻に関係を持ちかけ、彼女はそれを受け入れた。
罪悪感は、僕への怒りや苛立ちでほとんど相殺された。
かすかに残ったそれも、昼間に主婦向けに流れる不倫モノのドラマをみていると、なんだか悪いことでもないような気がして、たち消えた──らしい。
僕が悪かったのだ。
主婦は、夫と違って、仕事などにおける立ち位置の上昇がない。
つまり未来への希望が薄い。
毎日同じことを繰り返していれば、退屈は募り、なにか変えるべきものを無意識で求める。
自分の存在意義を求めるようになる。
そんな簡単なことが、わかっていなかった。
ちゃんと彼女のことを考えることが、できていなかった。
『どこか痛いですか?』
ふと見ると、授業中、ライカがメモ用に広げていたノートの端にそんなことを書いて、僕に寄せてきていた。
『大丈夫。少し昔のことを思い出してただけ』
僕もノートにそう書いて返す。
すると、僕の左手の小指に、おそるおそるライカが自らの右手の小指をのせて、少しからめた。
『怖がらせたかな?』
『いいえ、心配になっただけです』
『ありがとう』
思い至って、さらに書き込んだ。
『そういえば、今朝のことなんだけど』
『なんでしょう?』
『もしかしたら、あれをご褒美にして、ライカに何か頼むかも』
僕の横で、ライカは、にしっと微笑んだ。
『お任せください』
────『あと、ありがとうございます』
♢
昼休みになって、呉井さんが作ってくれたお弁当を食べようとしたら、声をかけられた。
クラスの女子二人組だ。
背が高めな大人しそうな女の子と、小柄で明るそうな女の子。
「あっ、あの、」
少し小柄な女の子が、意を決したように口を開く。
「学食に、行きませんか!?」
足がぷるぷると震えている。
相当な勇気を出したのだろう。
入学から委員長以外の女子とそこまで話したことはない。
周りの女子も息を呑んで状況を見守っている。
「馬鹿じゃないのー?」
「うっさい田中死ねッ」
臆せず野次を飛ばした女子の一人に、小柄な女の子がキレていた。
「ええっと、ごめん、」
僕はカバンに入った弁当のことを考える。
女の子は絶望の表情をした。
「僕、呉井さんの作ってくれたお弁当が好きだから、学食は食べない。けど、一度行ってみたいとも思っていたから、注文しなくていいなら一緒に食堂行きたいな」
女の子の顔色が、段々と喜色に変わる。
花が咲くような笑顔を浮かべて、「はい!!」と元気よく返してくれた。
小柄な女の子は、
「みんなからはミナミンって呼ばれてます!」
「ミナミは中学ではゆるキャラだったんだ」
どこか冷静に皆川さんを評価するのは、彼女と同じ中学の出身らしい、
「どうして声をかけてくれたの?」
お弁当を味わいながら、向かいの席に座る二人に気になったことを尋ねる。
僕とこの二人はそこまで面識はなかったはずだ。
「いや、そのぉ……」
「このヘタレ低身長、ずっと声を掛ける機会を伺っていたらしい」
「シズ!!」
「授業中ユウキ様の方しか見てないせいで首を痛めつつあるらしい」
「シズ!!!!」
賑やかで楽しい二人だなと思った。
皆川ミナミさんは、野菜を食べながら器用に怒っている。
そしてその野菜は、現在進行系で里村さんが自分の皿からぽいぽいと移して供給している。野菜嫌いなのかな。
「里村さんはあんまり緊張してないよね。自意識過剰かもしれないけれど、僕に対してそんなふうに喋れる人あんまり見たことがなかったから、少し嬉しい」
「…………」
「ユウキ様! こいつ私を貶めて誤魔化してるだけです! めちゃくちゃ緊張しています! 会話デッキそれしかないんです!」
「ミナミ、よく喋るじゃないか」
「うっさいトマト食え!」
中学時代からの親友なのだろう。
僕は学園に中学以来の旧友はいないし、そもそも中学校に通っておらずリモート授業だったからこういった仲は羨ましいものがある。
「ユウキ様、」
ふいに里村さんが僕のほうに向き直る。
なにか真面目な雰囲気を感じて、僕は一度箸を置いた。
「私はかなり便利な異能を持っています。強さは警護官御三方には足元にも及びませんが、それでも諜報能力として有用です」
「……? そうなんだ、すごいね。どんな異能なの?」
「人に化ける異能です」
彼女は人差し指をぱきと鳴らした。
すると、彼女の顔がみるみる変わり、背丈が小さくなる。
それは皆川さんだった。
僕の目の前に、皆川さんが二人並んでいる。
「こんなふうに、他人の姿形へと自らを一時的に変容させることができます」
「声も同じだね。すごい」
「どうでしょうか」
どうでしょう、と言われて僕は小首を傾げる。
意味が良く掴めなかった。
「私であれば、お役に立てます。どうかお側に、次期警護官として置いていただけないでしょうか」
後ろにいた呉井さんたち警護官の気配が変わる。
「物理型ではなく強い異能でもないため、必要な源液も少ないです。平均六ヶ月ではなく、私の場合は八ヶ月に一回で活動できます。どんな諜報活動でもやってみせます」
彼女は今度は中指を鳴らした。
担任の青桐アオイ先生の顔になった。
少し表情の薄い先生の顔だ。
「どうでしょうか」
「里村さん、」
僕は彼女の顔をみつめて、できるだけ真摯になるように、語りかけた。
「能力、解除してもらってもいい?」
「……すいません、ご気分を損ねてしまいましたか」
「いや、そうじゃないんだ」
元の姿に戻り、少し縮こまる彼女はなにかに恐怖しているようだった。
「能力はよくわからない。だけど、君について教えてよ」
「私について……? 私の異能は……」
「異能じゃない。僕は里村さんや皆川さんが何を好んで、どんな趣味があって、どんなことを思って生活しているのか、それが知りたいな」
里村さんの小さな口が、少しだけ、唖然としたように開かれる。
皆川さんは、居心地悪そうに両手を胸の前で合わせていた。
もしかしたら、皆川さんが僕に話しかけたかったというよりも、皆川さんは里村さんの背中を押したかったのかもしれない。
交渉の場を作り、里村さんが僕へ自分を売り込める機会をつくりだす。
もしそうだったとしたら、とても友達想いな子だ。
人に化ける異能というのがすごいのはわかる。おそらく、徴兵されたら潜入任務とかが割り当てられるんじゃないだろうか。
でも、僕は誰かを騙して潜入してほしいとは思わない。
僕は立ち上がって、里村さんに近づき、しゃがんで、彼女の頬に手を当てた。
舞踏会で淑女を踊りに誘うように。少し気取って。
「里村さんは、こういう顔をしているんだね。まつげが長くて、口が小さくて、鼻が高くて、とても可愛い。僕のタイプだ」
「ッッ」
「僕は誰かに成り代わった君よりも、君自身でいる君を見たいな。異能なんて、どうだっていいじゃないか」
さきほどまでどこかビジネスライクに話していた里村さんが、顔を茹でダコのようにして押し黙る。
僕は頬に当てた手をその小さな顎にまでスライドさせる。
「異能の強い者を、選別していたんじゃ……だから警護官に優しく……」
「違うよ」
「なら、委員長と親しげにしていたのは……」
「委員長の異能はあんまり知らないけど、強いの?」
「……とても」
僕は彼女の頭にぽんぽんと手をおいた。
なんだか少し恥ずかしくなってきた。
この世界では男性がこういった気障なことをすること自体が少ないから、どうやっても基本はロマンチックに捉えられるのだが、それでも前世の価値観が邪魔して少し羞恥心を感じてしまう。
「異能じゃなく、里村さんについて教えてくれる?」
「……何でも答える……答えます」
「じゃあ次からいっしょに教室でご飯食べない? 遠巻きに見られるの、少し寂しかったんだ」
僕は皆川さんのほうを見た。
彼女は両手で顔を覆っている。
だが指の先からこちらをガン見していた。
「き、騎士様だ……」
「皆川さんもいっしょに食べようよ」
「えっ、わた、私ですかっ!?」
「ダメかな?」
「オヤスイ・ゴヨーです!!」
元気にはしゃぐ彼女にエネルギーをもらった気分になって、僕は一度席に戻った。
そこで初めて、食堂中の視線が僕たちに突き刺さっているのに気づいた。
食堂には二年生や三年生もいる。
なんなら端の方には先生たちの姿も見受けられた。
これはかなり恥ずかしいかもしれない。
呉井さん特製のエビフライを美味しくいただいて、僕は彼女たちと教室に戻った。
♢
放課後、玄関で物憂げにどこかを見つめている山田さんを見つけた。
呉井さんに打ちのめされた彼女は、僕をみつけると同時に、その後ろの呉井さんに目をやって少し怯えている。
「山田さん奇遇だね」
「奇遇じゃないわ。待ってたのよ」
「うん? いっしょに帰る?」
「……ッ、そうじゃないわよ。ほら、これ」
差し出されたのは、ジャージだ。
僕が昨日、服が破れてビリビリになった彼女を見かねて貸したものだ。
洗濯して持ってきたようだった。
「……山田さんと同じ匂いがする」
「そ、そういうことは言わなくていいから!」
とりあえず、中間服の上からジャージを着る。
山田さんがそれをなんともいえない表情で見ていた。
もう帰るのだから、制服の上になにか着ていても問題にはならないはずだ。
「あなた、警護官にもいつもそういうこと言っているの?」
「……あんまり、言っていないかも」
「そう……」
山田さんが腕を組んだまま、目を逸らしてなにかを思っているようだった。
そんな彼女に、なぜか呉井さんがずいと近づく。
「ユウキ様が我々にそのようなことを仰らないのは、同じ洗剤を使っているからです。同じ洗髪剤と、同じ液体石鹸を使っているからです」
「え、ちょ、」
「ほら、嗅いでみてください。同じ匂いがするでしょう」
自らの髪先を掴んで迫る呉井さんに、山田さんは対応に困っていた。
そしてその視線がふいに、彼女の首元に向いた。
瞳が、少しだけ大きく開かれる。
「あの、あなたは……それでいいの?」
「それでいい、とはなんでしょうか?」
「……いや、わからないなら、いいわ…………」
彼女がするりと呉井さんを躱して、学生玄関から出ていく。
「ジャージ、感謝するわ。兼高ユウキ」
立ち去るその姿は、どこか泣いているように見えた。
そう感じた理由も、彼女がそうなっている理由も、僕にはわからなかった。