翌朝。ふかふかの布団の中で目を覚ますと、久しぶりにアラームなしでたっぷり眠れたおかげで、身体が羽のように軽かった。
「んぅー……よく寝たぁ!」
思い切り伸びをしてベッドから飛び起きる。
とりあえず今持っている服の中から、なんとか胸とお尻が苦しくないゆったりめのパーカーとストレッチパンツを引っ張り出し、手早く着替えて家を飛び出した。
まず最初に向かったのは、昔からお世話になっている市街地の義足専門のクリニックだ。
「あらリンちゃん、また随分とジョイント部分を酷使したわね。モビルスーツの整備ばかりじゃなくて、自分の足も労わってあげなさいな」
「あはは……すみません」
馴染みのベテラン技師さんに呆れられながらも、最新のパーツを使って足のサイズと重心バランスを細かく再調整してもらう。
新調した義足を装着して立ち上がってみると、驚くほど軽くて、まるで自分の本当の足と一体化しているみたいに滑らかだった。
「すごい! 踏み込んだ時のレスポンスが全然違う……!」
整備士としての血が騒ぐほど精密な作りに感動しつつ、完璧な歩き心地を手に入れた私の足取りはすっかり軽くなった。
足のメンテナンスが終わったら、次は本日のメインイベント――大型ショッピングモールへ!
まずは下着専門店へ直行し、店員さんに恥ずかしながらサイズを測り直してもらう。
「お客様、以前よりずいぶんと……その、立派になられましたね」と店員さんに笑顔で言われ、顔を真っ赤にしながらも、今の私にぴったりと合うサイズの可愛いブラジャーをいくつか新調した。
さらに、これからの季節に向けて少し大きめサイズのタンクトップや、パツパツで困っていたお尻周りでもゆったり穿ける、動きやすくてお洒落なボトムスを次々と買い込んでいく。
「これも可愛いし、こっちの服もいいなぁ……あ、このワンピースも買っちゃお!」
久しぶりの自由なお買い物にテンションが上がり、気づけば私の両手にはたくさんのショッピングバッグがぶら下がっていた。
「ふぅー、さすがに買いすぎちゃったかな」
歩き回ってすっかりお腹がペコペコになった私は、モールの広々としたフードコートへと向かった。
色々な匂いが漂う中から、今日はがっつり食べたい気分だったので、熱々の鉄板に乗ったハンバーグプレートとサラダのセットを注文する。
「いただきまーす!」
肉汁たっぷりのハンバーグをペロリと平らげ、食後の冷たいお水をコップでゴクゴクと飲み干す。
乾いた喉にお水が染み渡っていくのを感じながら、「はぁー……」と深く満ち足りた息を吐いた。
心地よい疲労感と共に椅子に深くもたれかかり、テーブルの横に置いたたくさんの戦利品(新しい服たち)を眺める。
周囲には、家族連れや友達同士で笑い合う、平和で賑やかなフードコートの日常の空気が流れていた。
(やっぱり、お休みって最高だな……)
新しい義足の調子も完璧、可愛い服もたくさん買えて大満足。私はその幸せな喧騒の中で、最高に充実した休日の午後をゆっくりと味わっていた。お腹も満たされ、新しい義足の快適さに浸りながらゆっくりしていたときのことだった。
「ねえねえ、そこのお姉さん。一人? 良かったらこの後、僕たちと一緒に遊びに行かない?」
ふと気がつくと、私のテーブルを囲むように、見知らぬ男たちが数人立っていた。ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべ、強引に距離を詰めてくる。
「あ、えっと……あの、今は一人でゆっくりしていて……!」
一人で買い物に来ていた私は、まさかフードコートでこんな事態になるとは思わず、あわあわと慌てふためいてしまった。整備場では頼りになるはずの私も、こういう慣れない状況ではすっかり弱気になってしまう。
「いいじゃん、そんなこと言わずにさ。その綺麗な顔で、そんなにガチガチになってちゃもったいないよ」
「ちょっと、腕を掴まないで……!」
男の一人が私の腕を掴もうと手を伸ばした、その時だった。
「――いい加減にしなさいよ。それ以上その子に触ったら、タダじゃおかないわよ」
冷たく、それでいて圧倒的な迫力のある声が響き渡った。
振り返ると、そこには毅然とした立ち姿のヒルダさんと、隣で静かに、しかし鋭い眼光で男たちを威圧するコノエさんが立っていた。
「……えっ、ヒルダさん!? コノエさん!?」
男たちは二人から放たれるただならぬオーラに気圧され、先ほどまでの勢いを失って顔を引きつらせた。
「な、なんだよ……あんたたちには関係ないだろ……」
「関係大ありよ。その子はね、私たちが大事にしている『ロンド・ベルの仲間』の一人なの。……今すぐ消えないと、この場であなたのその図々しい神経を焼き切る羽目になるわよ?」
ヒルダさんが腰に手を当てて言い放ち、コノエさんが一歩前に出て、男たちの肩を掴むようにして無言の圧力をかける。
その迫力に完全に負けた男たちは、「ひっ……!」と青ざめて、逃げるようにフードコートを去っていった。
「す、すごいです……ありがとうございます! ヒルダさん、コノエさん!」
私はほっと胸を撫で下ろし、心からの感謝を伝えた。
二人はふっと表情を和らげ、私を優しく見守るような眼差しを向けてくれる。
「もう、リンったら。あんな連中に捕まって、一人でアタフタしてちゃダメじゃない」
「ええ。オーブの街といえど、平和ボケしちゃだめよ」
ヒルダさんが私の頭を軽く小突くと、コノエさんは私の隣の椅子に座り、穏やかに笑った。
「礼なんていいわよ。可愛い後輩が変な奴らに絡まれてたら、放っておけるわけないでしょ」
「そうよ。私たちだって、たまにはこうしてショッピングモールでお買い物に来るんだから。偶然会えてよかったわね」
そう言って笑う二人の姿に、私は改めてこの街の、そして仲間たちの温かさを感じて、さっきまでの不安がどこかへ吹き飛んでいくのを感じた。