ヒルダさんとコノエさんに改めてお礼を言い、笑顔で手を振って別れた後、私はそのまま残りの休日を心ゆくまで満喫した。
欲しかった服も買えたし、義足のメンテナンスも完璧。フードコートでのちょっとしたトラブルも、今となっては頼もしい先輩たちの優しさを再確認できた良い思い出だ。ショッピングモールを出る頃には、オーブの空は綺麗なオレンジ色に染まっていた。
家に帰り着き、買ってきたばかりの服や下着をクローゼットに丁寧に片付ける。サイズがぴったり合う新しい服たちを見ているだけで、なんだか心機一転、明日からも頑張れそうな気がしてくるから不思議だ。
お風呂に入って一日の汗をさっぱりと流した後、部屋の電気を消して、ふかふかの布団の中に潜り込む。
「んぅ……最高……」
清潔なシーツの柔らかな感触と、今日一日の心地よい疲労感が、じんわりと全身を包み込んでいく。
平和になった世界で、こうして自分の足のメンテナンスをして、新しい服を買い、仲間たちに助けられながら過ごす何気ない休日。戦いばかりだった昔の日々からは考えられないほど、穏やかで贅沢な時間だった。
(明日からは、またモユラン島で仕事だ。……休んだ分、新しい機体のデータ取り、しっかり頑張らなくちゃ)
頭の中で少しだけ明日の予定を思い浮かべながら、私はゆっくりと目を閉じた。
静かなオーブの夜風が窓を揺らす音を遠くに聞きながら、私は深く、とても穏やかな眠りへと落ちていった。「うわあああああ! やっちゃった、完全に寝坊だあーーー!!」
飛び起きて枕元の時計を見た瞬間、私の絶叫が部屋中に響き渡った。
昨日、ペントコスト司令からせっかくお休みをもらったばかりだったのに、今朝早くに入っていたのは『ザフトとの共同作戦会議を行うため、至急モユラン島へ帰還せよ』という緊急の呼び出し連絡。昨日の疲れのせいか、泥のように眠りこけてしまっていたのだ。
「待って、会議の開始まであと全然時間がないじゃん! なんで今日に限ってーー!?」
ベッドから跳ね起き、大慌てで着替えに飛びつく。
お洒落を選ぶ余裕なんて一ミリもない。昨日買ったばかりの新しいタンクトップを引っ掴んで勢いよく着替え、その上からコンパスの作業上着をバサッと羽織ってジッパーを上まで一気に引き上げた。下はとにかく動きやすいストレッチパンツ。
「よし、服は着た! 忘れ物はない!? 行ってきますっ!!」
ヘルメットとバイクの鍵を掴み、文字通り家を飛び出した。愛車のバイクに跨り、セルを回してエンジンを爆音で轟かせる。ギヤをガチリと叩き込み、私は猛スピードでオーブ本土の海岸線沿いへと滑り出した。
ビュオオオオオッ!!
アクセルを開ければ開けるほど、ヘルメットの隙間から強い風が吹き込んでくる。
朝の陽光を浴びてキラキラと輝く美しいオーブの海から吹く海風は、焦りで火照った身体を冷ましてくれて、すっごく涼しくて気持ちがいい。
……気持ちがいいはずなんだけど、今の私にはその涼しさを満喫している余裕なんて全くなかった。
「プラント(ザフト)との共同作戦会議なんて、あのイザークも絶対に席にいるに決まってるじゃん……! もし遅刻なんかしたら、あのきつい目つきで『だらしないぞ貴様ーー!!』って盛大にお説教されるに決まってるーーー!!」
新しい義足はどこまでも快調で、バイクのステップをがっちりとホールドしてくれている。マシンのレスポンスも最高だ。
「お願い、連絡船の時間に間に合ってーーー!」
私はヘルメットの中で必死に祈りながら、アクセルをさらに一段階深く回し、涼しい海風を全身に浴びてモユラン島への道を猛スピードで駆け抜けていった。