ミレニアムが薄暗いデブリ地帯へと到達すると、コンパスのモビルスーツ部隊は直ちに発進準備に入った。
ルナマリアは自身のインパルスを、広範囲のスキャンに特化した「捜索仕様」へと換装し、シンが乗るイモータルジャスティス弐式、そして私の専用機「ストライカーエウレカ」と共にカタパルトから射出された。
ジェガンのような量産機風の顔立ちに、大型の新型バイザーを備えたストライカーエウレカ。この機体は第三世代型の核融合機であり、PS装甲を併用している。背部ユニットの特殊なレーダー吸収機能によって敵の索敵から完全に姿を消すことができ、全身に配置された30個ものスラスターが圧倒的な高機動を実現していた。私はそのスラスターを細かく吹かし、インパルスを護衛しながらデブリの海を慎重に進む。
「こちらルナマリア。探知レーザーサイト、展開するわ」
インパルスから放たれた無数の不可視のレーザーがデブリの影を舐めるように走る。次の瞬間、コックピットに鋭い警告音が鳴り響いた。
「アンノウンの反応! デブリの影から来る!」
ルナマリアの叫びと同時に、巨大な岩の陰から姿を現したのは、後に「デナン・ゾン」と呼称されることになる未知のモビルスーツだった。ガスマスクのような不気味な顔つきに、これまでの連合やザフトの機体とは全く異なる、一回り小型のシルエット。紛れもない新敵だ。
「なんだこいつら! 見たことない機体だぞ!」
シンのイモータルジャスティス弐式が瞬時に前衛へと飛び出し、私もストライカーエウレカの高機動スラスターを全開にしてインパルスの盾となるべく急接近する。
デナン・ゾンはバックパックから強烈な推進力を生み出し、予測不能な軌道で肉薄してきた。敵の腕から展開されたビームシールドが輝き、手にした長大なランス――ショットランサーがジャスティスへ向けて冷酷に突き出される。
「させるかよっ!」
シンがビームサーベルでショットランサーの軌道を弾き返す。しかし敵は反動を利用してクルリと姿勢を変え、今度は私の方へ穂先を向けてきた。
「速い……!」
私は瞬時に腕部のビームシールドを展開し、凄まじい推進力で繰り出されたショットランサーの連撃をガキィィッ!と受け止める。シールド越しに伝わる衝撃に機体が軋む。敵は小型な分、懐に潜り込むスピードが異常に速いのだ。
私はサイドアーマーからビームサーベルを引き抜き、至近距離からデナン・ゾンのコックピットを狙って斬りかかる。だが、敵は器用にビームシールドでいなし、距離を取ろうとする。逃がすまいと腰部レールガンを放つが、デナン・ゾンはデブリを蹴ってそれを軽々と回避してみせた。
「くっ、チョコマカと……! シン、近接戦でインパルスに近づけさせないで!」
「分かってる! ルナは下がっててくれ!」
イモータルジャスティス弐式とストライカーエウレカによる、全く未知の小型機との激しい白兵戦がデブリの合間で展開される。
その頃、ミレニアムの周辺にもユーリカの部隊が姿を現していた。
報告にあったメッサーラやハイザックに加え、105ダガーやウィンダムが群れを成して襲いかかってくる。
「各砲座、照準を合わせなさい! レーザー砲、レールガン、一斉射撃!」
マリュー艦長の鋭い号令とともに、ミレニアムから無数の火線が放たれ、迫り来るウィンダムやダガーを次々と撃ち抜いていく。
コノエ艦長はブリッジの中央でアーサーと指揮を完全に連動させ、敵の砲火を躱すために巧みに船を移動させていた。
ブリッジの緊迫した空気の中、モニターを凝視していたムウは、戦況の異常さに冷や汗を流していた。
「……なんだ? この嫌なプレッシャーは。敵の連携が良すぎる。俺も出撃して前線を押し上げるべきか……? いや、だがこの乱戦だ、万が一デブリの影からブリッジに直接強襲をかけられたら、本艦の守りが薄くなる。クソッ、どうする……!?」
ムウは自身の出撃タイミングを見極めようと、激しい葛藤に歯噛みした。
しかし、そのムウの懸念は最悪の形で的中する。
前衛で私やシンと交戦していた新敵・デナン・ゾンのうち3機が、驚異的な機動力でこちらの防衛線をすり抜け、ミレニアムへと一直線に迫ってきたのだ。
「なっ……!? ひぃぃぃっ、ななな、なんですかあのガスマスクみたいな気味の悪い機体はーっ!?」
モニターに大写しになったデナン・ゾンの異様な姿と、得体の知れない動きに、アーサーは悲鳴を上げて完全にビビり上がってしまった。
「対空迎撃、急いで!」
マリュー艦長が叫び、ミレニアムの対空機関砲が火を噴く。だが、デナン・ゾンはその小型な機体を活かして弾幕の隙間を踊るようにすり抜け、全く攻撃が当たらない。
「ダメです、小さすぎて対空砲火が避けられます! このままじゃ本艦に取り付かれますよ、ビビるわあんなのっ!!」
パニックになるアーサーの横で、コノエ艦長は極めて冷静に指示を飛ばした。
「アスラン一佐、ジェガン隊と共に直ちに出撃を。本艦に接近する小型機を排除してください」
「……了解した。アスラン・ザラ、出る!」
ミレニアムのカタパルトから、アスランの機体とロンド・ベルのパイロットたちが駆るジェガン隊が、防衛の要としてデブリの海へと射出されていった。ミレニアムから出撃したアスランのインフィニットジャスティスと、13機のジェガン隊。しかし、彼らを迎え撃つデナン・ゾンの機動力は、これまでの常識を覆すほど異常だった。
「散開しろ! 敵の機動に巻き込まれるな!」
アスランの指示も虚しく、ミレニアムへと肉薄した2機のデナン・ゾンは、発進直後のカタパルトを強襲。出撃したばかりのジェガン2機を、カタパルトデッキごと無惨に粉砕した。
「くそっ、なんて速さだ……!」
残されたジェガン隊は即座に連携を取り、緻密な弾幕を張る。しかし、一回り小型で推力に勝るデナン・ゾンはジェガン隊の射線を嘲笑うかのように躱し、次々と熟練のパイロットたちを宇宙の塵に変えていく。
だが、元ロンド・ベルの意地がそこで炸裂した。
被弾して半壊し、片腕を失った1機のジェガンが、特攻めいた推進力でデナン・ゾンの懐に飛び込み、相討ち覚悟のビームサーベルで敵機を深々と貫き落としたのだ。
「マリュー大佐、今です!」
「ローエングリン、照準! 撃てぇっ!!」
ジェガンの犠牲で動きが止まったもう1機のデナン・ゾンを、ミレニアムから放たれた陽電子破城砲『ローエングリン』の極太の光条が、跡形もなく消し飛ばす。
一方、アスランは残る1機のデナン・ゾンと激しい近接戦闘を繰り広げていた。
敵の繰り出すショットランサーの刺突とビームシールドの連携は完璧だった。インフィニットジャスティスのビームサーベルをことごとく弾き、死角から鋭い一撃を放ってくる。アスランでさえ防戦一方に追い込まれるほどの猛攻。
(こいつのパイロット……ただ者じゃない。練度も反応速度も、間違いなく『上澄み』だ……!)
焦燥感が頂点に達した瞬間、アスランの瞳の焦点がスッと合い、弾けるような感覚――「種割れ」が起きた。
極限まで研ぎ澄まされた反応速度でショットランサーを躱そうとするが、デナン・ゾンのパイロットもまた限界を超えた動きを見せる。
ガァァァンッ!!
激しい金属音と共に、インフィニットジャスティスの左腕が根本から斬り落とされた。しかし、アスランはそれを囮にしていた。
敵が左腕を切り飛ばして体勢を崩した一瞬の隙を突き、アスランはインフィニットジャスティスの脚部に内蔵されたビームサーベルを起動。強烈な回し蹴りを放ち、デナン・ゾンの両足を綺麗に切断してみせた。
「これで、終わりだ!」
アスランと生き残ったジェガン隊がビームライフルを構え、半壊したデナン・ゾンへ照準を合わせる。しかし、次の瞬間だった。
デナン・ゾンのパイロットは自らの死を悟ったのか、残されたバックパックの推進力を異常なまでに暴走させ、ミレニアムのブリッジへ向けて一直線に特攻を仕掛けたのだ。
「なっ……! 特攻か!」
撃ち抜こうとトリガーに指をかけるアスランたち。だが、敵の機体はミレニアムの船体と完全に重なってしまっていた。
「くっ、射線にミレニアムが……撃てない!」
「対空防御、全弾発射!」
マリュー艦長の声と共に、ミレニアムからイーゲルシュテルン、ゴッドフリート、レールガンが弾幕の壁を作る。しかし、両足を失って身軽になったデナン・ゾンは、まるで狂気そのもののような変則的な機動で全ての砲火を避け、ブリッジへと肉薄する。
アーサーが絶望の悲鳴を上げた、その時だった。
ズドォォォォンッ!!
宇宙の暗闇を切り裂いて頭上から降り注いだ高出力のレーザーカノンが、ミレニアムに直撃する寸前だったデナン・ゾンを横薙ぎに貫き、爆散させた。
「……ふぅ、危ないところだったじゃねえか。間に合ってよかったぜ」
通信帯域に響いたのは、聞き慣れた軽口。空を見上げると、そこにはディアッカの機体、そしてプラント本国から駆けつけたザフト軍の大部隊が展開していた。
「遅いぞ貴様ら! グズグズするな、一気に片付けるぞ!」
イザークの怒号と共に、ザフトのジンやザクウォーリアの部隊が怒涛の勢いで戦場になだれ込む。圧倒的な数の暴力と洗練された連携により、ユーリカのウィンダムや105ダガーは次々と火を噴き、デブリの海へと完全に殲滅されていった。