宇宙空間を静かに突き進む戦艦ミレニアムのブリッジに、けたたましいアラート音が鳴り響いた。レーダーには急速に接近する多数の敵機反応が捉えられる。コノエ艦長とマリュー艦長は直ちに第一種戦闘配置を発令し、迎撃部隊の出撃を命じた。
「キラくんはフリーダムの最終調整が完了するまで待機! リン、シン、ルナマリア、行って!」
マリューの激を背に、ストライカーエウレカ、デスティニー、インパルスがカタパルトから漆黒の宇宙へと次々に射出された。リン、シン、ルナマリアの3機は艦を離れ、迫り来る敵の防衛線へと加速する。
その戦場へ、不気味なほどの威圧感を放つ巨大なモビルスーツが姿を現した。組織「ユーリカ」を率い、己による絶対的な世界支配という傲慢な野望を抱く男、シロッコの専用機「ジ・オ」である。
ジ・オはかつての姿より遥かに装甲が分厚くなっており、全身をPS装甲で覆い、胴体と背部、そしてメインカメラにはビームを無効化するフェムテク装甲を施した鉄壁の重モビルスーツだった。背部の大型ユニットからは強力なジャミング装置の電波が放射され、左腕にはギャンのような丸型の大型ビームシールドを装備、その内側にはレールガンとミサイルが仕込まれている。さらに、サイドアーマーやスカートの各所に多数のサブアームとサーベルを隠し持つ、まさに動く要塞だった。
「私の覇道を阻む愚か者どもが。この歪んだ世界は、私が支配し、正しき秩序の元にひざまずかせねばならないのだよ」
シロッコは冷酷な笑みを浮かべ、コックピットのレバーを握る。ジ・オが放った高出力ビームライフルの鋭い光条が迫り、迎撃に出た3機に距離を取らせまいと一気に肉薄してきた。
「させるかよ!」
シンがデスティニーを加速させ、至近距離から大型対艦刀アロンダイトを引き抜いてジ・オへ真っ向から斬りかかった。しかし、シロッコは眉一つ動かさない。ジ・オのサイドアーマーから隠されていたサブアームが瞬時に展開され、手にした小型サーベルでアロンダイトの強烈な一撃を易々と受け止めた。
「なっ……何だこの腕は!?」
驚愕するシンをあざ笑うかのように、シロッコはジ・オのビームライフルを横へ向け、援護に回ろうとしたルナマリアのインパルスを正確な射撃で牽制。同時に頭部のバルカンを掃射してストライカーエウレカの接近を阻もうとする。
「これならどう!?」
リンのストライカーエウレカがバルカンの弾幕を強引に突破し、引き抜いたビームサーベルでジ・オの死角から斬りかかった。だが、ジ・オの左腕にある丸型の大型ビームシールドが完璧なタイミングでそれを遮る。ガキィィンと激しい火花が散った直後、ジ・オの重量級の脚部から放たれた強烈な蹴りがストライカーエウレカの腹部を捉えた。
「きゃああっ!」
衝撃で吹き飛ぶストライカーエウレカへ向け、ジ・オの135ミリコンバットバルカンが容赦なく火を噴く。至近距離からの容赦ない掃射により、ストライカーエウレカが構えていたビームサーベルの刃が粉々に破壊された。
「くっ……まだ予備がある!」
リンはすぐさまもう1本の予備サーベルを引き抜き、必死に体勢を立て直す。
その隙を見逃さず、シンがデスティニーの左手を突き出した。掌の砲星パルマフィオキーナの光が至近距離で膨れ上がる。
「堕ちろぉぉッ!」
「浅はかだな。その程度の引き出しで私に勝てると思ったか」
シロッコが冷たく言い放つと同時に、ジ・オの太い右腕がデスティニーの左腕を激しく殴りつけた。それと同時に、腕部内蔵のインパクトキャノンから凄まじい衝撃波がゼロ距離で放たれる。ドォォンという重苦しい衝撃がデスティニーを襲い、左腕の駆動系が完全に焼き切れた。
「ぐわぁっ!? 左腕が……パルマが撃てない!?」
駆動を失いダラリと垂れ下がるデスティニーの腕。隙ができたその瞬間、シロッコは冷酷にレバーを引き、ジ・オの巨体から重い蹴りをシンの胸元へと叩き込んだ。デスティニーは激しく後方へと弾き飛ばされていく。
「シン! ……よくも!」
ルナマリアが怒りに燃えてインパルスでジ・オの後方から斬りかかろうとしたが、シロッコは背後の動きを完全に見切っていた。ジ・オが振り返りざまに放った高出力ビームライフルの直撃を受け、インパルスは激しいダメージを負って後退を余儀なくされた。スカート裏の3本のサーベル、横と後ろのスカートからさらに1本ずつ展開できるサーベルを引き抜くまでもなく、シロッコは圧倒的な力で3機を蹂躙していく。
「ミレニアム、前進! 3機の援護に向かいます!」
遠ざかる仲間たちの窮地を救うべく、マリュー艦長が叫び、ミレニアムがエンジンを限界まで吹かして発進しようとした。しかし、それを遮るように新たな絶望が宙域に現れる。
「艦長、ダメです! 急速接近する巨大熱源……デストロイガンダムです! さらにメッサーラ、ハイザック、ウィンダム、105ダガーの部隊が本艦を完全に包囲!」
降り注ぐ無数のビームとミサイルの嵐。シロッコが配備した迎撃部隊の猛烈な襲撃を受け、ミレニアムはその場に釘付けにされ、リンたちの援護に向かうことができなくなってしまった。
ビームの雨に晒され、絶体絶命の窮地に陥ったインパルス。ルナマリアを救うべく、シンのデスティニーが残された右腕で背部の高エネルギー長射程ビーム砲を展開して極大の閃光を放ち、同時にリンのストライカーエウレカが煙幕ミサイルを一斉射した。
激しい光条と濃密な煙幕が宇宙空間に広がり、シロッコのジ・オを強引にルナマリアから引き離すことに成功する。
しかし、シロッコは微塵も怯むことなく、立ち込める煙幕を切り裂きながらギラリと輝くビームサーベルを手に猛烈な速度で急接近してきた。
「そこか!」
リンは迫り来る脅威にいち早く気付き、シンもまたニュータイプ特有の直感でジ・オの奇襲を完全に察知する。だが、度重なる激戦で駆動系に負荷がかかっていたストライカーエウレカは、リンの鋭い反応に対して一瞬だけ機体の追従が遅れてしまった。
鈍い金属音と共に、ジ・オの振るったサーベルがストライカーエウレカの左肩を根元から鮮やかに切断する。
「これでも喰らいなさいッ!」
機体が傾きながらも、リンは残された右肩部の内蔵式3連装ミサイルを至近距離から一斉に解き放った。容赦のない爆炎がジ・オの胸元で激しく巻き起こり、分厚い装甲の隙間へ爆風が滑り込み、ついにジ・オの巨体へ確かなダメージを与えてよろけさせた。
「よくもリンを!」
そのわずかな隙を逃さず、シンがデスティニーで懐へと果敢に飛び込む。大型対艦刀アロンダイトを激しく振るい、ジ・オと至近距離での凄まじい斬り合いに持ち込んだ。
だが、怒りに駆られたシンは、ジ・オのサイドアーマーに隠されたさらなる死角からの刃に気づいていなかった。
「甘いな、小僧」
シロッコの冷酷な声と共に、サイドアーマーから不意を突く形でビームサーベルが展開される。
「なっ……!?」
予測不能な角度から放たれた一撃がデスティニーの脚部を無残に斬り裂き、駆動を失った脚が宇宙空間へと弾け飛んだ。
予期せぬ部位欠損に驚愕し、目を見開くシン。だが、絶望的な窮地に立たされたその瞬間、シンの瞳の奥で種が弾け飛んだ。
「うおぉぉぉぉぉォッ!!」
咆哮と共に、デスティニーの背部から鮮烈な光の羽が爆発的に展開される。脚部を失った満身創痍の機体が、光の羽が生み出す異次元の推力でジ・オの顔面へと肉薄した。
パルマフィオキーナを潰された右腕。シンはそれをただの鋼鉄の拳として突き出し、すべての推進力を乗せてジ・オの顔面へと真っ直ぐに叩きつけた。
メキメキとおぞましい破砕音を立て、ジ・オのメインカメラが完全に粉砕される。
しかし、フェムテク装甲と極厚の装甲に覆われた巨体への強烈すぎる打撃は、デスティニー自身にも牙を剥いた。
「ぐぁっ……!?」
衝突の凄まじい反動により、デスティニーの右腕のマニピュレーターが完全にへし折れ、内部から火花を散らして機能停止に陥ってしまう。両腕の武装を完全に失ったデスティニーに、致命的な隙が生まれた。
「メインカメラがやられようと、私の感覚は誤魔化せん!」
視界を奪われながらも、シロッコは冷徹に機体を操る。ジ・オは無防備となったデスティニーへ向けて腕部を突き出すと、ゼロ距離からインパクトキャノンを放った。
「がぁぁぁっ!!」
凄まじい衝撃波がデスティニーの機体を打ち据える。吹き飛ばされたデスティニーはそのまま背後の巨大なデブリへと激突し、ジ・オはさらに容赦のない衝撃波の連撃を浴びせ、デスティニーをデブリへと完全に縫い留め、叩きつけ続けた。