「シン!!」
デブリに激しく叩きつけられ、衝撃波に晒され続けるデスティニーの姿に、ルナマリアは息を呑んだ。相棒の危機に一瞬だけ反応が遅れてしまう。
その隙を見逃すシロッコではない。メインカメラを潰されながらも、ジ・オは恐るべき超感覚でインパルスへと襲いかかった。ルナマリアは咄嗟にビームサーベルで受け止めたものの、ジ・オの圧倒的な質量とパワーの前に、ジリジリと押し込まれて力負けしてしまう。
「くっ……ああああっ!」
ルナマリアは強引に機体を捻り、命がけでジ・オのサーベルを紙一重で回避した。しかし、激しく擦れ合ったビームの刃がインパルスのコックピット正面の装甲を無残に焼き裂く。バチバチと火花が散る中、破壊された壁の隙間から、冷たい本物の宇宙の景色がルナマリアの目の前に剥き出しになった。
「怯むな、肉壁が。そのまま押し潰されて死ね」
視界を失っているはずのシロッコが、冷酷にトドメの一撃を放とうとする。
「させないっ!!」
そこへ、リンのストライカーエウレカが猛烈な勢いで割って入った。引き抜いたビームサーベルでジ・オの刃を弾き、そのまま激しい斬り合いを展開する。片腕を失いながらも、リンは必死に操縦桿を叩き、ジ・オの懐へと飛び込んで力任せに蹴り飛ばした。
重厚なジ・オの巨体が大きく後方へとよろめく。しかし、シロッコの反応速度も限界を超えていた。吹き飛びざまにジ・オのサブアームが繰り出した執念のカウンターが、ストライカーエウレカの右足首を鮮やかに切断した。
「きゃあっ!」
リンの機体はバランスを崩し、宇宙空間へと激しく吹き飛ばされる。だが、この猛攻によってジ・オもタダでは済まず、激しい負荷とかき乱された衝撃で、自慢のサブアームの一部が完全にへし折れて使用不能となった。
「シン、ビーム砲を借りるよ!」
吹き飛ばされながらも、リンはデブリに縫い留められているデスティニーの側へと機体を滑らせた。デスティニーの背部に残されていた高エネルギー長射程ビーム砲を強引に引き抜いて構えると、狙いを定めてエネルギーを最大出力で解放する。
ズガァァァァンッ!!
放たれた極太のビームが、視界を失って動きの鈍ったジ・オの胴体を真っ直ぐに撃ち抜いた。鉄壁の装甲が激しく焼き焦げ、火花を散らす。
「これで……終わりにしてぇぇッ!」
さらにリンは、ストライカーエウレカから最後の電磁誘導ミサイルを一斉射した。容赦のない弾頭がジ・オの巨体に次々と突き刺さり、宇宙空間に凄まじい大爆発が巻き起こる。激しい炎と黒煙がジ・オを完全に包み込んだ。
「やった……!?」
ルナマリアが息を荒らげながら爆炎を見つめる。
しかし、爆煙の奥から響いてきたのは、激しい金属の駆動音と、不気味なまでの大出力の推力音だった。
「この私が、このようなところで立ち止まると思うか。世界を支配する私の覇道は、誰にも止められんのだ!」
爆炎を突き破って現れたのは、誰も見たことのない異形のモビルスーツだった。
ジ・オの傷ついた極厚装甲がすべて強制パージされ、その中身から一回りスマートな機体が出現したのだ。その名は「ジ・オ 軽アーマー形態」。
ドムやゲルググを彷彿とさせる骨太でありながら無駄のない構造を持ち、装甲の隙間からは無数の円形バーニアノズルが不気味に赤く覗いている。ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した核融合機の本領を発揮し、戦闘時間は30分が限界であるものの、これまでの重厚さからは考えられないほどの高速戦闘を可能にする形態だった。
ジ・オ 軽アーマー形態は、背部の大型ユニットから円盤状のシールドを宇宙空間へと射出した。そのシールドの外縁に設けられた6基の砲口から、全方位に向けて強烈なビームが一斉に放たれる。
シロッコは小型ビームライフルとライトマシンガンを構え、ビームサーベルの光刃を起動させると、圧倒的な速度で再びリンたちへと牙を剥いた。「この……速さ……!」
リンはすぐさまストライカーエウレカの武装をビームサーベルに切り替え、装甲をパージして身軽になったジ・オへ近接戦を仕掛けようとスラスターを吹かした。
しかし、シロッコは冷酷な笑みを浮かべ、牽制としてライトマシンガンを細かく連射する。
「小賢しい!」
リンが弾幕を避けるために軌道を変えたその瞬間、シロッコは既にその動きを読んでいた。遠隔操作で射出されていた円盤状のシールドがリンの死角へ回り込み、外縁の砲口から一斉にビームを掃射する。
「しまっ……!」
リンは直感で無理やり機体を捻り、致命傷こそギリギリで避けたものの、ストライカーエウレカの右脚部をビームが掠め、装甲と駆動系がドロドロに溶かされて機体のバランスが大きく崩れた。
「リンちゃん!……やらせるもんか!」
ルナマリアがインパルスのビームライフルを連射し、リンへの追撃を防ぎながら前線へ飛び出した。彼女はデブリの合間に漂っていたソードシルエットを素早く回収すると、巨大な対艦刀を引き抜き、ジ・オへ向かって猛然と斬りかかった。
だが、装甲を捨て去ったジ・オの機動力は、ルナマリアの予測を遥かに超えていた。
「モルモットが、私に届くつもりか?」
シロッコは対艦刀の軌道を嘲笑うかのように最小限の動きで躱すと、すれ違いざまにインパルスの背部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「きゃあああっ!」
先ほどの戦闘でコックピット正面の装甲が一部破壊され、宇宙空間が剥き出しになっていたインパルス。機体へのダイレクトな衝撃と急激なGが、ルナマリアの生身の身体に容赦なくダメージを与える。息が詰まり、全身の骨が軋むような激痛に顔を歪めた。
「目障りだ、宇宙の塵となれ」
体勢を崩したインパルスへ向け、シロッコが無慈悲に小型ビームライフルの銃口を突きつける。
だが、ルナマリアも死に物狂いだった。執念で操縦桿を引いたインパルスの対艦刀が跳ね上がり、ジ・オのビームライフルを真っ二つに切断する。
「いける……!」
そのまま返す刀でジ・オを真っ二つにしようと踏み込んだ瞬間、シロッコは左手のライトマシンガンを容赦なくインパルスの右腕へ向けて乱射した。
「無駄だと言っている!」
激しい弾幕がインパルスのマニピュレーターを蜂の巣にし、完全に破壊する。対艦刀を保持できなくなったインパルスの手から、巨大な刃が一瞬だけ離れて宇宙空間へ投げ出されてしまった。
武器を失い、完全に隙を晒したインパルスへ向け、シロッコはジ・オのスラスターを最大出力で吹かし、全体重を乗せた凶悪なタックルを敢行した。
「ああっ……!」
鋼鉄の巨体に激突されたインパルスは、そのまま凄まじい勢いで弾き飛ばされ、背後にあった巨大な小惑星のデブリへと勢いよく激突した。
その凄まじい激突の衝撃とGに耐えきれず、ルナマリアはコックピット内で頭を強く打ちつけ、そのまま意識を刈り取られて気絶してしまった。完全に沈黙するインパルス。
「ルナーーーーーッ!!」
その絶望的な光景を目の当たりにしたシンが、血を吐くような悲鳴を上げた。
「くそっ、動け! 動いてくれっ!!」
デブリに叩きつけられたままのデスティニーを無理やり動かそうと、シンは半狂乱でコンソールを叩き、レバーを押し込む。しかし、脚部を完全に破壊され、先ほどのジ・オのインパクトキャノンによってシステムの中枢まで深刻なダメージを負ったデスティニーは、各所で火花を散らすばかりで、シンの焦りに反して絶望的なほどに動きが遅くなっていた。「ルナ!!」
気絶したルナマリアのインパルスがデブリの影へと沈んでいくのを見届け、リンは奥歯を噛み締めた。ストライカーエウレカはすでに左腕を失い、右脚の駆動系もドロドロに溶かされた半壊状態。対するシロッコのジ・オ軽アーマー形態は、圧倒的な推力で宇宙空間を縦横無尽に駆け巡っている。
「まだ……動くッ!!」
リンは残された右腕でビームサーベルを狂ったように振り回し、ジ・オとの壮れた斬り合いを再開した。しかし、機体の欠損による手数の差は歴然だった。ジ・オの小型ビームライフルとライトマシンガンの連射、そして高速で繰り出されるビームサーベルの猛攻に、ストライカーエウレカはジリジリと押し負けていく。装甲が削られ、火花が散る。
だが、リンはただ圧倒されているわけではなかった。死に物狂いで敵の武装を削りにかかる。ジ・オが突き出してきた遠隔操作シールドの隙を突き、ビームサーベルを最大出力で振り下ろしてその円盤状のシールドを真っ二つに切り裂いた。さらに、残された左足でジ・オの懐へ強烈な蹴りを叩き込む。
「ええい、往生際の悪い!」
シロッコが声を荒らげた瞬間、リンはストライカーエウレカの右肩に残された、最後の内蔵式3連装ミサイルをゼロ距離で全弾発射した。
ドガァァァンッ!!
激しい爆発がジ・オを至近距離で捉える。流石の軽アーマー形態もこれを完全に回避することはできず、ジ・オの肩部装甲、左足、あるいは右腰部の一部が派手に吹き飛び、破損した。しかし、シロッコは即座に機体の煙幕装置を展開。濃密なガスが周囲に立ち込め、リンは完全にジ・オの姿を見失ってしまった。
(どこ……!? どこから来るの!?)
センサーもジャミングと煙幕で役に立たない。冷や汗が流れたその時、リンの頭の中に、聞いたこともない、しかし極限まで研ぎ澄まされた冷徹な男の声が鋭く刺さった。
『右だ! 惑わされるな、機体を右に振れ!』
「え……っ!?」
『奴はそこから来る。……気をつけろ、あのジ・オという機体、中身に「サイコフレーム」が搭載されている。奴の邪念がダイレクトに機体を動かしているんだ、甘く見るな!』
脳内に響く威圧感すらある厳しい言葉に、リンは戦慄した。サイコフレーム――それは自分が地下最深部に封印し、つい先ほど鍵を作らせたユニコーンガンダムに関わる技術のはずだ。自分しか使えない、あるいはこの世界に存在するはずのない技術が、なぜシロッコの機体にあるのか。
しかし、驚愕している暇はない。男の冷厳な警告通り、煙幕を割って右側からジ・オのビームサーベルが迫る。リンは本能的にサーベルを突き出し、激しい金属音と共に刃を交わらせた。互いの出力がぶつかり合い、凄まじい反動でストライカーエウレカとジ・オの両方が大きく後方へと吹っ飛ばされる。
体勢を立て直すわずかな猶予の中、リンは頭の中に語りかけてくる冷たい意志に問いかけた。
「あなた……誰なの!?」
『アムロだ。アムロ・レイ……。お喋りしている暇はない、前を見ろ。あのシロッコという男は、この世界に存在してはいけない人間だ。ここで確実に消さねばならない』
その容赦のない、戦い慣れた男のプレッシャー。
その瞬間、ミレニアムの方向から、紅蓮の光条を撒き散らしながらこちらへ急行してくる影が見えた。ミレニアムを包囲していたデストロイガンダムやウィンダム、メッサーラたちの部隊を、凄まじい猛攻でことごとく撃破したアスラン・ザラの乗るインフィニットジャスティスガンダム弐式だった。背部のフォランテスを輝かせ、驚異的な戦速で戦場を切り裂いている。
だが、距離が遠すぎる。最大加速でこちらに向かっているものの、この戦域に到達するには残り3分はかかる。それまでは、自分たちの力で持ちこたえなければならない。リンは男(アムロ)の厳しい叱咤を胸に、決して油断しないよう再びサーベルを構えてシロッコと向き合った。
一方、シロッコもまた、ジ・オのコックピット内で忌々しげに周囲を睨みつけていた。
「何だ、この不快なプレッシャーは……。誰かが私を覗き込んでいるのか? 愚かな、この私を怯えさせられると思うな!」
シロッコもまた、アムロ・レイの強力かつ冷徹な意志の気配をニュータイプとして敏感に感知し、明確な警戒を強めていた。
その時、デブリの影でボロボロになっていたデスティニーのコックピットで、シンが血走った目でコンソールを叩いた。
「動け……ルナも、リンも、戦ってるんだ……俺だけ、ここで見てられるかぁぁぁ!!」
ピーッという鋭い電子音と共に、デスティニーの予備システムが強制起動する。脚部が破壊され、メインシステムの一部が壊れて全体の動きは絶望的に遅い。しかし、シンは残されたすべてのエネルギーを背部のスラスターへと注ぎ込んだ。
ドォォォンッ!
デスティニーの背中から、再び激しい光の羽が死に物狂いで噴き出す。不格好に姿勢を乱しながらも、シンは圧倒的な執念の推力だけでデブリの固定を食い破り、リンの援護に向かって宇宙を飛び出した。