閃光が収まり、全ガンダムの火力が集中したアクシズの中心から解き放たれた緑のサイコフレームの光が、美しく宇宙を満たしていく。
アクシズの巨塊は跡形もなく消滅し、地球へ降り注ぐのは絶望の破片ではなく、温かで幻想的な虹色のオーロラだけだった。
「消えた……アクシズが……!」
リンが放心状態で呟くと、周りを包んでいた緑の光の中で、次元を超えて集ったパイロットたちが優しく微笑みかけた。
アムロ・レイ:「よくやったな、リン。君の諦めない心が、この奇跡を起こしたんだ」
ヒイロ・ユイ:「……任務完了だな。未来はお前たちの手で築け」
カミーユ・ビダン:「ありがとう、リン。君のおかげで、地球の生命は守られたよ」
ジュドー・アーシタ:「やったな! お前、最高にかっこよかったぞ!」
シーブック・アノー:「無事でよかった。君の頑張りを、僕らは忘れない」
ドモン・カッシュ:「見事だ、リン! お前の燃える熱き魂、見せてもらったぞ!」
ウッソ・エヴィン:「ありがとうございます! あなたと一緒に戦えてよかった!」
ヨナ・バシュタ:「地球を守ってくれて、ありがとう……リン」
刹那・F・セイエイ:「君もまた、未来を切り拓くガンダムだ。……感謝する」
ロラン・セアック:「みんなの想いが届きましたね。本当に、ありがとうございました」
バナージ・リンクス:「君が可能性を示してくれた。……さあ、自分たちの未来へ戻ろう」
フリット・アスノ:「見事な戦いぶりだった。地球の未来を、よろしく頼む」
三日月・オーガス:「へぇ、終わったんだな。……よくやったんじゃん、お前」
マフティー:「君の示した道が、これからの地球を照らすはずだ」
ベルリ・ゼナム:「ありがとね、リン! 僕たちも自分の世界で頑張るよ!」
イオ・フレミング:「最高にクレイジーで、いいジャズだったぜ。……じゃあな、お嬢ちゃん!」
スレッタ・マーキュリー:「よかったです……! 本当に、本当にありがとうございました!」
パイロットたちが一言ずつリンへ感謝とねぎらいの言葉を遺すと、異世界のガンダムたちは光の粒子となって優しく揺らめき、サイコフレームの輝きと共に静かに宇宙の彼方へと消えていった。
◇
「……勝った、んだよね……」
戦闘の緊張が一気に解けたキラ・ヤマトは、操縦桿を握りしめたままガクリと頭を垂れ、深い眠りへと落ちていった。
アスランも、シンも、限界を超えた疲労と精神的疲弊により、コクピットの中で意識を失うように深い眠りについていた。
「全機、回収を急げ! 救護班を第一ハッチへ!」
マリューの指示のもと、ミレニアムから救援艦載艇が次々と飛び立つ。
傷ついたストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、デスティニーが順次回収されていく。
着艦したデスティニーのコックピットから、ぐったりとしたシンが救出されると、待機していたルナマリアがたまらず駆け寄った。
「シン……! よかった、無事だったのね……っ!」
涙を流しながら、ルナマリアは眠り続けるシンを抱きしめ、無事を神に感謝した。
周辺で支援を行っていたリゼルやグスタフカールといった地球連合・連邦系のモビルスーツ隊も次々と母艦へ回収され、地球を揺るがせた恐怖の「アクシズ戦乱」は、ついにその幕を閉じたのだった。
◇
だが――奇跡の渦の中心にいたリンにだけは、まだ終わりが訪れていなかった。
「あ……く……っ! ああああぁぁぁっ!?」
機体に残ったサイコフレームが、不気味なほど強く発光を始める。
次元を超えたあまりに莫大な人間の意思と思念を受け止めた代償か、リンの脳内に耐えがたい激痛が走った。
頭を抱え、コクピットの中で体を丸めて叫び声を上げる。
「痛い……頭が……割れる……っ!! あがぁっ……!」
視界が真っ赤に染まるほどの激痛と脳波のオーバードライブ。
胸部のサイコフレームは、最後に一際眩いエメラルドグリーンの光を解き放った。
その光はリンの全身を包み込み、彼女の身体に最後の大奇跡をもたらす。
かつての戦いで失い、義足となっていた彼女の脚――その組織が、サイコフレームの「時間を巻き戻すような未知の力」によって再構成され、温かな生身の肉体へと元通りに修復されていったのだ。
だが、その代償はあまりにも重かった。
「はぁ……はぁ……っ……」
ポタポタと、リンの鼻から赤い血が滴り落ち、パイロットスーツの胸元を汚す。
足が元に戻ったことすら自覚できないほどの苛烈な頭痛が、彼女の意識を容赦なく引き裂いていく。
「あむ……ろ……さん……っ」
かすれた声で呟いたのを最後に、リンの瞳から完全に光が失われた。
鼻血を垂らしたまま、リンは激痛の果てに深い暗闇の中へと崩れ落ち、そのまま意識を失い気絶してしまった。
静まり返ったνガンダムのコクピットに、ただ彼女の短い息遣いだけが虚しく響いていた。激しい頭痛と重い暗闇の底から、リンはゆっくりと意識を取り戻した。
まぶたを開けると、白く清潔な天井が視界に広がる。漂う消毒液の匂い。そこは、ミレニアムの医務室だった。満身創痍となったνガンダムごと、無事に回収されていたのだ。
「……リン! 起きたのね!?」
ベッドの脇にいた医療スタッフと、報告を聞いて駆けつけたマリューやキラたちが目を見開いた。そして、何より全員を驚かせたのは、シーツから覗くリンの『脚』だった。
「……なっ……リン、その足……! 義足だったはずじゃ……!?」
アスランが言葉を失い、キラも息を呑む。
かつての戦いで失われたはずの脚が、皮膚の温もりを持った生身の肉体として完全に再構成されていた。サイコフレームが起こした、時を巻き戻したかのような人知を超えた現象――。
「サイコフレーム……人の意思を集めて増幅させる物質……。だが、肉体まで変質させるなんて……」
アスランが凄絶な面持ちで問う。
「リン……サイコフレームとは、そこまで危険な代物なのか……?」
「……ええ、その通りよ」
リンは自分の脚を静かになでながら、真剣な眼差しで答えた。
「人の想いを力に変える……けれど、一歩間違えれば世界を滅ぼす破滅の力にもなる。こんなものは、この世界に存在しちゃいけないの」
リンは心の中で固く決意した。地球へ戻り次第、自分のνガンダム、そしてモユラン島に封印されている半壊したユニコーンガンダム――サイコフレームを搭載したすべての機体を、自らの手で完全に破壊・破棄することを。
「……まあ、難しい話は後だ! とにかく、僕たちは勝ったんだよ、リン!」
シンが破顔して語りかけ、ルナマリアも微笑む。
危険なサイコフレームの謎や課題は残ったものの、まずは地球を滅亡の危機から救い、全員が生きて戻れたことの喜びを分かち合った。ミレニアムは温かな安堵の空気に包まれながら、青い地球への帰還コースを辿っていった。
だが、地球への降下準備が進む中、リンは自らの身体に起きた「もう一つの異変」に気づくこととなる。
回収されたνガンダムの最終点検のため、格納庫へと足を踏み入れ、機体のコクピットを見上げたその瞬間だった。
(がっ……! あ……っ!?)
突如として、頭の中を直接押し潰されるような激痛が走った。視界がグラグラと歪み、猛烈な吐き気が込み上げて胃がひっくり返りそうになる。リンはその場に膝をつき、必死に口元を押さえた。
(……これは……シロッコ……!?)
あの死闘の際、シロッコが放ったドス黒い怨念――精神を蝕む呪いが、今もリンの深層心理に深く刺さったままなのだ。モビルスーツに乗ろうと意識したり、コクピットを目の前にするだけで、脳が狂絶的な拒絶反応を起こしてしまう。
身体を震わせながらもなんとか立ち上がったリンは、心配して集まってきたキラ、アスラン、マリュー、ムウ、そしてシンの前に向かった。
「……みんな、ちょっと話があるの」
顔色の悪いリンを気遣う一同に、リンは意を決して言葉を紡いだ。
「私……たぶん、もうモビルスーツには乗らないかもしれない」
「えっ……!?」
シンが驚きの声を上げ、マリューとムウが顔を見合わせる。
「……絶対に二度と乗らない、とは言いきれないけれど。もしまた大きな戦争が起きて、誰かが戦わなきゃいけない時が来たら……その時は無理にでも乗るかもしれない。でも……基本的には、もう私がモビルスーツに乗ることはないと思う」
頭痛と吐き気の本当の原因――シロッコの呪いについては胸の奥に伏せつつも、静かに自分の思いを打ち明けるリン。
そんな彼女の言葉を、キラは優しく、包み込むような眼差しで受け止めた。
「うん……それでいいと思うよ、リン」
キラは穏やかに微笑み、アスランやムウ、マリューも深く頷いた。
「君がもうモビルスーツに乗らなくて済むような……そんな平和な世界に、僕たちがしていかなきゃいけないんだからね」
「へへ、そうだぜリン! 俺たちがいるんだから、安心して休んでてくれよな!」
シンも胸を叩いて笑ってみせる。
「……ありがとう、みんな」
窓の外には、アクシズの脅威から守り抜いた、美しく輝く青い地球が広がっていた。
激しい戦いの果てに掴み取った希望を胸に、彼らを乗せたミレニアムは、静かに大気圏へと降下していくのだった。
ザーッザーッザーッ、、
コズミック・イラ71年、最終決戦の地——ヤキン・ドゥーエ近宙域。
地球連合とザフトの憎悪が極限まで跳ね上がる絶望の戦場、巨大要塞ジェネシスの影で、二つの『呪い』が交差し、狂おしい雷鳴を打ち鳴らす。
高出力のビームと実体弾が交錯する死の空間。
背負った無数の兵装を撃ち尽くしながら、フルアーマーガンダムは猛進する。
コックピットに爆音で響き渡るのは、戦場を嘲笑うかのような激しいフリー・ジャズ。
「聞こえるか! ジェネシスの光なんぞより、この俺のジャズの方が余程いい音を出すぜ!」
操縦桿を叩きつけるイオ・フレミングの瞳にあるのは、剥き出しの戦意と歓喜。
対するは、身体と機体をダイレクトに繋ぎ、完璧な一体感を得た高機動型ザク。
絶望の淵でダリル・ローレンツの胸を満たすのは、愛おしい記憶を呼び覚ますノスタルジックなラジオの歌声。
「ここを通すわけにはいかない……俺たちの命を懸けた、この場所を!」
喪失の痛みを狂気に変え、赤きザクは漆黒の宇宙を歪めるほどの加速で襲いかかる。
ジェネシスの発射カウントダウンが刻一刻と迫る中、交わるはずのなかった二つの旋律。
憎しみを超えた殺意が、引き寄せられるように一つへと重なっていく——。
『——この雷鳴(ジャズ)を聴いたら、お前の終わりに耳を傾けろ』
極限の死線で激突するガンダムとザク。
その死闘の行方を、あなたは目撃する。、
新作夢小説ガンダムSEEDThunderbolt
9月13日に投稿開始
一応この小説もその後の外伝は書いていきます