【ガンダムSEED 外伝】『モユラン島ネコミミ騒動記』
モユラン島の整備ドックで働くリンの、とある平和な休日の出来事である。
◇
「ちょっとルナ! これ一体何なのよーッ!?」
早朝の宿舎に、リンの叫び声が響き渡った。
鏡に映る自分の頭には、ふさふさとした黒い「猫耳」がちょこんと乗っている。手で外そうと引っ張るが、カチューシャのロック機能が働いているのか、ピッタリ頭部にフィットしてビクともしない。
事の真相は昨夜。久々に集まったルナマリアやシンたちとの飲み会で、ゲームに負けたリンが「明日一日、試作品の感情連動型ネコミミカチューシャをつける」という罰ゲームを飲み込んでしまったことだった。
「ごめんごめん! でもすごく似合ってるわよリンちゃん!」
部屋の入り口で、ルナマリアが抱腹絶望しながらスマートパネルのカメラを向けている。
「笑い事じゃないわよ! 脳波連動なんて聞いてない! なんで私の感情に合わせてピコピコ動くのよっ!」
リンがぷんぷんと怒ると、頭の上の猫耳が『ペたん』と不機嫌そうに寝そべり、照れると『ピクピク!』と素直に立ち上がる。あまりにも感情がダダ漏れになる仕様だった。
◇
結局、ロックの解除キーを持つルナマリアに押し切られ、リンはその恥ずかしい姿のままモユラン島の整備ドックへ向かうハメになった。
作業服に猫耳という前代未聞のスタイルで歩いていると、現場で工具を持っていたシンと鉢合わせる。
「……あ」
「……あ、じゃないわよシン! 見ないでっ!」
リンが顔を真っ赤にして叫ぶと、猫耳が『ピン!』と直立して激しく震えた。
シンは一瞬フリーズした後、爆笑しながらお腹を抱えて転げまわった。
「ぶはっ……! ギャハハハハ! なんだよそれ! リン、めっちゃくちゃ面白くて可愛いじゃんかぁぁっ!」
「笑うなーッ! スパナで叩くわよ!」
大騒ぎする二人のもとへ、作業工程の確認にやってきたアスランが歩み寄ってくる。猫耳姿のリンを一瞥したアスランは、一切笑うことなく真面目な顔で腕を組み、顎に手を当てた。
「フム……脳波の生体信号を微弱な電流に変換し、アクチュエータを駆動させているのか。リン、君の感情の起伏による脳波パターンが非常に明瞭で、アクチュエータの応答速度が素晴らしいな」
「アスラン! そういう真面目な解説が一番恥ずかしいのよっ!」
さらに、通信端末の画面越しにドックの様子を覗き込んだキラも、穏やかな笑顔で手を振ってくる。
『あはは、リン、すごく可愛いよ。今度ラクスにも見せてあげたいな。絶対に喜ぶと思うよ』
「キラまで面白がらないでぇぇっ!」
感情が忙しく揺れ動くたびに、頭の上の猫耳は『ピクピク!』『パタパタ!』と忙しく動き回り、周囲の整備班員たちからは「癒やされる……」「今日の作業効率上がりそう」と謎の歓声が上がる始末。
「もうっ! 私はプロの整備士なんだからね! こんな耳が付いてたって、仕事はカンペキにこなしてみせるんだからーっ!」
真っ赤な顔で開き直ったリンは、ピコピコと揺れる猫耳をそのままに、勢いよく工具箱を引っ提げて作業へと向かっていったのだった。