「やめてくれ……もう、やめてくれ!!」
キラ・ヤマトの絶叫が響きました。避難民を乗せたシャトルが、イザークのデュエルの砲火によって一瞬で光の塵へと変わります。その光景を目の当たりにしたキラの瞳の奥で、何かが弾けました。二度目の「種(SEED)」の覚醒。感情を排した冷徹な戦闘機械へと変貌したストライクは、物理法則を無視した機動でイザークたちを圧倒し、戦域を蹂躙し始めます。
しかし、キラが放つ強烈すぎる感応波に共鳴し、リン・ベルナルのストライカーブラストにも異変が起こります。
「(……あ、頭が……割れる……ッ!!)」
突如として、リンの脳内を焼鉄が駆け抜けるような激痛が襲いました。コックピット内の全モニターが禍々しい赤に染まり、中央には**「NT-D」の文字が血のように明滅します。これは彼女が「強化人間」として調整されていた頃、深層心理に刻み込まれた「敵対する感応波の抹殺」**を目的とした強制駆動プログラムでした。
「やめて……止まって……!!」
リンは激痛に耐えかね、ヘルメットを被ったままコンソールに何度も頭を打ち付けました。ガツン、ガツンという鈍い音が響く中、バイザー越しに鼻から鮮血が流れ落ち、口元を真っ赤に汚します。
「あああああ!!」
リンの絶叫と共に、機体のツインアイに致命的な過負荷がかかります。向かって左側のレンズが火花を散らして黒く沈黙し、残された右側だけが異常なまでの鮮赤色に発光しました。
強化人間としての本能が意識を飲み込み、ストライカーブラストの腕部フレームが、出力限界を超えた挙動によって「ギギギ……」と悲鳴のような軋みを上げます。リンの意思を無視して、機体は周囲のジン小隊を瞬時に屠り、その独眼の矛先を「最も強い光」を放つキラのストライクへと向けました。
4. 決別のダイブ
「逃げて……お願い、キラ君……私を、殺してぇぇ!!」
リンは必死に操縦桿を引き戻そうとしますが、腕は自分の意志に反してキラの機体へとアーマーシュナイダーを突き出しました。鋭い刃がストライクの右肩装甲を深く切り裂き、火花が飛び散ります。
「(……私は、やっぱり……化け物なんだ……)」
自分を信じてくれたキラを傷つけた絶望が、リンの心を決定的に叩き折りました。薄れゆく意識の淵で、彼女は残されたすべての力を振り絞り、スラスターを逆噴射させました。
「来ないでッ…!!」
アークエンジェルとキラを「自分」という脅威から遠ざけるため。リンはボロボロの機体を強引に戦域から離脱させ、真っ赤に燃え盛る大気の底へと、鼻血と涙にまみれた顔で、独り堕ちていきました。