※この作品はR-18です。

強化人間がSEEDの世界で活躍します   作:ナラティブ

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17話

「……お疲れ様、リン少尉。君がいなければ、この艦は沈んでいたわ」

マリューの労いの言葉に、リンは小さく首を振ります。トールが差し出してくれた温かい飲み物を震える手で受け取り、彼女はポツリポツリと、あの大気圏突入時に何が起きたのかを話し始めました。

「あの日……ストライクがイージスに捕まって、私はそれを助けようとして……」

リンの言葉に、キラがハッと顔を上げます。

「気づいたら、大気圏の摩擦熱に包まれていました。高度計は狂い、機体のフェイズシフトも限界……。死ぬんだって、思いました。でも、その時――」

リンの脳裏に、あの時の恐ろしい感覚が蘇ります。

「機体の……エターナルパックが、変形したんです。OSの設定にはない動きでした。そこから信じられないほどのエネルギーが全身に流れ込んできて、右半身が紅く光りだして……。まるで機体が、私の意志とは関係なく、生き残るために私を『燃料』にして無理やり動いているような感覚でした」

ムウが顎をさすりながら、厳しい表情で問いかけます。

「その光に包まれたまま、砂漠に落ちたのか?」

「はい。着地した瞬間の衝撃で意識を失って、それから2日間……私は砂の中に埋まっていました。意識が戻った時、コックピットの中は、私の鼻血と、機体から漏れ出した紅い霧で……地獄みたいで……」

リンの言葉が震えます。トールやミリィたちが、痛々しそうに顔を伏せました。

「怖くて、動けなくて。でも、キラ君たちの通信が聞こえたんです。みんなが戦ってるって分かって……キラ君が、泣いてるのが聞こえて。だから、レジスタンスの人たちに助けてもらって、ボロボロの機体をツギハギにしてでも、ここに来なきゃって……」

「リンさん……ごめん。僕のために、そんな……」

キラが、絞り出すような声で言いました。バルトフェルドを殺してしまった罪悪感と、リンを地獄に追いやってしまった後悔が混ざり合っています。

「謝らないで、キラ君。私、砂の中で気づいたんだ。……私、戦うのは怖い。でも、みんながいなくなるのは、もっと怖い。だから、あの赤い光が呪いでも何でもいい。私は、この盾でみんなを守るよ」

リンが去った後、マリューとムウ、ナタルは重苦しい沈黙に包まれました。

「エターナルパックの変形……そんな機構、GATシリーズの初期案には無かったはずだ」

ムウの言葉に、ナタルも同意します。

「しかも、パイロットの精神状態に呼応して機体出力が跳ね上がるなど、連合の技術体系ではあり得ません。……あの機体、やはり何かがおかしい」

ストライカーブラスト護衛仕様。

武装を失い、静かに格納庫で眠るその漆黒の機体は、まるでリンの告白を聞いていたかのように、装甲の隙間でかすかに、本当に微かに、紅い燐光を宿していました。

もう一つ語りたいことがあるの…

「どうし…たの?リンさん」

「……私が、みんなの隣にいていい人間じゃないって突きつけられたのは、あの、ハルバートン提督たちの艦隊が落とされた日です」

リンはトールがくれた温かい飲み物のカップを、今にも壊してしまいそうなほど強く握りしめました。

湯気が彼女の青白い顔を微かに潤しますが、その瞳は、未だにあの宇宙の真っ赤な爆炎を見つめているかのようでした。

「キラ君が、シャトルを落とされて……叫んだでしょう? あの時、私の頭の中に、直接、焼け付くような痛みが走ったんです」

「え……?」

キラが声を漏らし、一歩前に出ようとしました。しかし、リンの痛々しい表情に、それ以上足が動きません。

「キラ君の泣き叫ぶ声や、ものすごい怒りの感情みたいなものが、電波じゃなくて、私の脳頭の中に直接、なだれ込んできたの。そうしたら……機体が、あのストライカーブラストが、見たこともない動きを始めました」

リンは小さく息を吐きますが、その呼吸は早くも過呼吸気味に浅くなっていきます。

「画面が全部、血みたいに真っ赤になって……真ん中に、見たこともない【NT-D】っていう文字が点滅して。それを見た瞬間、私の中にあった『過去の記憶』が、強制的に引きずり出されたの。白い部屋、冷たい台、私を『部品』としてしか見ない大人たちの声……。気がついたら、私、怖くて、苦しくて、ヘルメットを被ったままコンソールに何度も頭をぶつけていました。鼻血が止まらなくて、バイザーの中が自分の血で染まっていくのに、機体は止まってくれなかった」

「そんな……じゃあ、あの時の警告アラートは……」

キラの顔から血の気が引いていきます。ストライクのコックピットで、あの時かすかに受信した未確認機の異常なシステムログ。あれは、中でリンが死ぬほどの苦痛に悶えていた証だったのだと、今になって知ったのです。

「機体の片目が焼き付いて、残った目が真っ赤なモノアイになった時、私の体は、私のものじゃなくなっていました。機体のフレームがギギギって悲鳴を上げて、私の意志を完全に無視して、キラ君のストライクを『敵』としてロックオンしたの」

「僕を……? どうして……」

キラは混乱していました。なぜリンの機体が、味方であるはずの自分を狙うのか。技術的な理由も、そのシステムの意味も、今のキラには全く理解ができません。ただ、リンが自分に向けた刃の裏に、そんな地獄があったことだけが、重く突き刺さります。

「分からない……。でも、あの機体の中にあるプログラムは、キラ君の放つ『強い力』を、絶対に許さない、見つけ出して殺さなきゃいけない『敵』だと認識したみたい。私の腕は、勝手にアーマーシュナイダーを抜いて、キラ君のストライクの右肩を切り裂いた。……守りたかったのに、私の手が、大好きな友達を殺そうとしたの」

ミリィが短い悲鳴を上げて口元を抑え、トールは拳を固く握りしめてリンを見つめています。

「逃げて、私を殺してって、心の中で何度も叫んだ。でも、声は届かない。だから……最後の一瞬、本当に意識が消えかける直前に、残った力でスラスターを逆噴射させたんです。キラ君から、アークエンジェルから、この『化け物』を遠ざけなきゃいけないって。そのまま、真っ赤に燃える大気の底に、独りで落ちていきました」

リンはそこで言葉を切り、深く頭を下げました。

ぽつり、ぽつりと、彼女の涙が床に小さな染みを作っていきます。

「キラ君……ごめんなさい。私、君を傷つけた。私は、誰かに弄くられて作られた、人を殺すための『強化人間』っていう、ただの兵器だったんだよ……」

静まり返った食堂に、リンの絞り出すような謝罪だけが響いていました。

キラは、ただ自分の両手を見つめ、震えていました。バルトフェルドとの戦いで心に負った傷に、さらに重い十字架が付け足されたような感覚。

「リンさんは、悪くない……」と、それだけを言うのが、今のキラには精一杯でした。

大人たちは、その告白の重さに言葉を失い、格納庫で眠る「ストライカーブラスト」という未知の脅威に対し、これまでとは全く違う、深い警戒と不気味さを抱き始めるのでした。「……NT-D……」

リンの口から絞り出されたその不気味な文字列を聞いた瞬間、キラの脳裏に、激しい電流が走るような衝撃が突き抜けました。

(あの時だ……。ヘリオポリスを出てすぐ、僕がストライカーブラストのOSを解析しようとしていた、あの格納庫での夜だ……!)

あの時、デバイスを接続したコンソールの隅に、不気味に浮かび上がった血のような赤文字。データログからも一瞬で消失し、気分の悪さもなかったため、技術者としての「見間違い」だと自分に言い聞かせて無理やり納得させていた、あの謎のプログラム。

(あの時から、あの機体はもう動いていたんだ。リンさんがコックピットの縁に触れた瞬間に消えたのは、機体が僕の力を感知して暴走しかけたのを、リンさんが命がけで抑え込んでくれていたから……?)

自分が何も知らずに「不思議な動きをした気がする」なんて呑気に笑っていた裏で、リンは最初から、その呪いのようなシステムと孤独に戦い続けていた。その事実が、キラの胸を鋭く抉ります。

「キラ君……?」

トールが、顔色を完全に失ってガタガタと震え出したキラの異変に気づき、心配そうに声をかけました。

しかし、キラは言葉を返すことすらできませんでした。

自分がシャトルを落とされた怒りで「種」を弾けさせ、強烈な感情を撒き散らしたあの瞬間。自分のその「強い力」こそが、リンの機体のトリガーを引き、彼女の脳を焼き、化け物へと変えて大気圏の底へと叩き落とした直接の原因だったのだと、すべての線が最悪の形で繋がってしまったからです。

「僕の……せいだ……」

キラは頭を抱え、絞り出すような声で呟きました。

バルトフェルドを殺してしまった直後の、引き裂かれそうな心。そこに、自分が大切な仲間であるリンを地獄へ突き落としていたという、残酷すぎる真実が覆い被さります。

「僕の力が……リンさんを、あんなに苦しめて……大気圏にまで……!」

涙がキラの目から溢れ、床へ零れ落ちます。

リンは、そんなキラの絶望に満ちた表情を見て、ハッと目を見開きました。そして、震える手で、そっとキラの袖を掴んだのです。

「違うよ、キラ君……。謝らないでって言ったでしょう……? 私は、みんなが生きててくれて、本当に嬉しかったんだから……」

鼻血の錆びた味しかしない口元で、リンはキラにこれ以上の傷を負わせまいと、必死に痛々しい微笑みを作ろうとしていました。

しかし、食堂の片隅でその告白を聞いていたマリューとムウ、そしてナタルの視線は、計り知れない闇を孕んだ「ストライカーブラスト」の謎へと、さらに深く沈んでいくのでした。

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