※この作品はR-18です。

強化人間がSEEDの世界で活躍します   作:ナラティブ

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26話研究編

 

波の音が、耳の奥で静かに響いていた

「……っ……、ぅ……」

リンは、胸を締め付けるような息苦しさと、全身を襲う凄まじい鈍痛で目を覚ました。

割れた額の血はすでに固まり、視界を強引に塞いでいる。それを手で拭う気力すら湧かないまま、リンは重い瞼をゆっくりと持ち上げた。

コックピットのキャノピーは激しくひび割れ、そこから差し込む不自然な太陽の光が、リンの顔を照らす。

(私は……生きて、いる……?)

壊れた計器類がパチパチと頼りなく火花を散らす中、リンは周囲を見回した。

どうやら、どこか**【謎の島】**の海岸線まで流れ着いたようだった。耳に届くのは、アークエンジェルの中にいた時とは違う、どこか物寂しい波の音だけ。

命があったことの安堵よりも先に、リンの目に飛び込んできたのは、自分と共に地獄を生き延びたストライカーブラストの、あまりにも無惨な姿だった。

「あ……、あぁ……」

機体の損傷は、酷いという言葉すら生ぬるいものだった。

あのイージスの自爆を至近距離で、それもキラを庇うために真っ向から受け止めたのだ。

ストライカーブラストの**【下半身は完全に破壊され】、跡形もなく消失している。砂浜に横たわるその巨体は、腰から下が引きちぎられたように虚無の空間へと消えていた。

さらに、最後まで残っていた【頭部は、半分が熱線で融解しながらも】、かろうじてその輪郭を留めている。かつて赤黒く光り、世界を拒絶したツインアイは、今は完全に光を失い、ガラスのように冷たく濁っていた。

そして、激しい切り合いを演じた【腕部は、左側が根元から完全になくなって】**おり、剥き出しのフレームが波に洗われている。

すべてを壊そうとし、最後にキラを守った白き盾の、これが成れの果てだった。

リンは震える手でハッチを緊急開放し、壊れたコックピットから外の空気を吸い込んだ。潮の香りが、ひび割れた心に冷たく染み渡る。

「キラ……君……?」

リンは砂浜に身体を投げ出すようにして這い出ると、弱々しい声で辺りを見回した。

そこには、ただ静かに打ち寄せる波と、見知らぬ島の緑があるだけ。

自分があれほど必死に、自爆の炎から身を挺して守ったはずの、【キラのストライクの姿は、どこにも見かけなかった。】

「どこにいるの……? キラ君……嘘、でしょう……?」

どれだけ目を凝らしても、砂浜にも、波立つ海の上にも、あの無骨なストライクの影は見当たらない。

トールを失い、仲間たちに裏切られた過去のトラウマに狂い、そして最後にキラを庇って爆発に呑まれた。すべてを失った世界の果てで、リンはたった一人、ボロボロの機体の残骸と共に、誰もいない孤島に取り残されていた。

引き裂かれるような孤独と不安が、再びリンの小さな身体を包み込んでいく――。「――動くなッ!! 手を頭の後ろに上げろ!!」

静まり返っていた海岸線に、突如として無機質な怒号が響き渡った。

キラの姿を探して砂浜を彷徨っていたリンの視界に、波飛沫を上げて近づいてくる軍用車両と、泥臭いカーキ色の軍服に身を包んだ**【地球連合軍の歩兵部隊】**の姿が飛び込んでくる。

ザッ、ザッ、ザッ、と砂を蹴立てる硬いブーツの音が、リンを包囲するように急激に狭まっていく。突撃銃(アサルトライフル)の銃口が、一斉にボロボロのリンへと向けられた。

「……あ……っ」

恐怖に身体を硬直させるリンの後方、ザァァァッと海を割るような重低音が響く。

歩兵たちのバックアップとして現れたのは、数機の**【モビルアーマー(MA)部隊】**だった。リニアキャノンを構えたメビウスが、不気味なローター音を響かせながら低空で砂浜へと進入してくる。

彼らは、この海域で散った『ガンダム』の情報をいち早く察知し、その**【モビルスーツの回収をしにきていた】**のだ。

「隊長! こいつは……ストライクでもイージスでもありません! 連合のデータベースにない異形の機体です……下半身は消失、左腕も完全になし、頭部も半分が融解していますが、フェイズシフト装甲の残骸と、見たこともないフレームが確認できます!」

「……鹵獲(ろかく)だ。本部に連絡を入れろ。技術開発部が泣いて喜ぶ特級の『おもちゃ』だぞ」

冷徹な大人の声。リンのすぐ傍らに横たわる、下半身を失ったストライカーブラストの無惨な残骸を、彼らはただの「便利な道具」として値踏みするように見つめていた。

「おい、そこのガキ! パイロットか!? 降りてこい!」

一人の歩兵が、砂浜にへたり込んでいたリンの髪を強引に掴み、引きずり起こした。

「痛っ……! 離して、離してよ……っ!」

割れた額の傷が再び開き、激痛が走る。必死に抵抗しようとするが、何日も戦い抜き、精神をすり減らしたリンの小さな身体に、訓練された大人の兵士に抗う力など残っていない

カチリ、と冷たい鉄の錠が嵌められる音が響く。

意識を失う直前、リンの腕に冷酷に突き立てられたのは、強力な麻酔薬の注射器だった。抵抗する叫びさえあげる間もなく、リンの意識は底のない暗闇へと突き落とされ、そのまま深い眠りの中へと運ばれていった。

下半身を失い、頭部が融解したストライカーブラストの残骸と共に、物言わぬ「鹵獲物」として、リンは厳重なコンテナへと押し込められた。

――そして、次に目を覚ました時。

「……っ、ぁ……!」

全身を突き刺すような、生々しい激痛。

リンは、自分が冷たい金属製のベッドの上に拘束されていることに気づいた。麻酔が切れると同時に、身体のあちこちから悲鳴のような痛みが押し寄せる。

寝ている間に、手荒な扱い、あるいは冷酷な尋問のような**【苛烈な暴行を受けたようで、リンの全身には痛々しい擦り傷や打撲の痕、衣服の破れた隙間から覗く生々しい傷がびっしりと刻まれていた。】**

「おや、やっとお目覚めですか? 随分と手荒な歓迎になってしまいましたね」

コツ、コツ、と革靴の軽い音を響かせながら、昏い部屋の奥から歩み寄ってきたのは、仕立ての良いスーツを完璧に着こなした一人の男。

地球連合軍を裏から牛耳る反コーディネイター組織――**【ブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエル】**だった。

アズラエルは、怯えと苦痛に歪むリンの顔を見下ろし、歪んだ薄笑いを浮かべた。その手には、電子端末が握られている。

「君が乗っていた**【ストライカーブラスト】……。下半身も左腕もなく、頭部も半分溶けているというのに、残されたブラックボックスから検出されるデータは実に興味深い。――いや、当然ですよね。何せあの機体は、私がわざわざ【ヘリオポリスに派遣した試作型モビルスーツ】であり、人間の脳波を物理的エネルギーに変換する【サイコフレームの試作機】**なのですから」

アズラエルは最初からすべてを知っていた。あのストライカーブラストが、自身の息がかかった最高機密の実験機であることを。

「私が興味あるのはね、君の身の上なんかじゃない。この機体が実戦で叩き出した**【戦闘記録(データ)】**なんですよ。コーディネイターの殺意や憎悪を吸い上げて、一体どれだけの出力を発揮したのか……。アークエンジェルの陽電子砲の100倍ものレーザーを放とうとした、その超常的な戦闘データこそが、私の求めていたものだ」

端末に映る赤黒い波形のグラフィックを、狂気的な恍惚の目で見つめるアズラエル。

しかし、画面に表示されたパイロットの適合者生体コードを見た瞬間、彼の動きがピタリと止まった。アズラエルは顎に手を当て、何かを思い出すようにリンの顔をじっと凝視する。

「……あぁ、思い出しましたよ。君のその顔、そしてこのバイオデータ……どこかで見覚えがあると思ったら。数年前に研究所から処分寸前で逃げ出した、**【あの実験体】**の生き残りですか」

あともう少し経ってから思い出すはずだった過去の記録。ストライカーブラストの戦闘記録とリンの顔が間近で重なったことで、アズラエルの脳内のピースが最悪の形で噛み合ってしまった。

「なるほど、道理でねぇ……! 一般のナチュラルでは自滅するはずのサイコフレーム試作機を、ここまで乗りこなせていたわけだ。まさかこんなところで再会できるなんて、本当に素晴らしい。やっぱり君たちは、私のブルーコスモスのために尽くすべき『道具』なんですよ」

冷徹で、狂気に満ちたアズラエルの瞳が、リンの絶望を映し出す。

キラを庇って爆発に呑まれ、やっと地獄から逃れられたと思ったのに、目覚めた先は、かつてのトラウマを呼び覚ますような、さらに冷酷な大人たちの檻の中だった。

自由を奪われ、全身を傷つけられたリンは、アズラエルの毒牙にかかったまま、再び暗い運命の渦へと巻き込まれていく――。

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