※この作品はR-18です。

強化人間がSEEDの世界で活躍します   作:ナラティブ

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34話

キィィィィン……。

地球連合軍の母艦、その薄暗いモビルスーツハンガーに、胸部装甲から絶えず黒煙を吹き上げるストライクスタインが滑り込んできた。背中にあったはずの高出力フライトユニットは跡形もなく消え去り、むき出しになった駆動部からパチパチと不気味な火花が散っている。

ハッチが重々しく開き、リボンズはコックピットから床へと降り立った。

全身がまだ激しい戦闘の熱と、脳を灼くような電気ショックの残響でガタガタと震えている。だが、その足取りはしっかりと床を踏みしめていた。

「いやぁ、驚いた。驚いたよ、リボンズ」

ハンガーのキャットウォークから、ねっとりとした、苛立ちを孕んだ声が降ってくる。

手すりに両手をかけ、信じられないものを見るような目でリボンズを見下ろしていたのは、ムルタ・アズラエルだった。その顔からはいつもの余裕に満ちた笑みが消え、冷酷な不機嫌さが剥き出しになっている。

アズラエルはコツコツとせっかちな足音を響かせながら階段を降り、リボンズの目の前まで歩み寄ると、手にした端末をきつく握りしめて声を荒らげた。

「説明してもらいましょうか。あれだけ大口を叩いておいて、この無様な姿は何だね? 君には最新鋭の格闘特化機を与え、大気圏内を自由に飛び回れる特別製のフライトユニットすら貸してあげたはずだ。それなのに、たかがオーブのまがい物の機体にフライトユニットを奪われ、挙句にコックピットを切り裂かれて負けて帰ってくるなんて!」

アズラエルの指が、端末のボタンにかけられる。いつでもまたあの地獄の電流を流せるぞ、という無言の脅しだ。

「……舐めてたんだよ、あのナチュラルどもを」

リボンズは激しい息を吐きながらも、フッと嘲笑うように口元を歪めた。その瞳には、恐怖など微塵もない。ただアズラエルを欺くための、完璧な「演技」の光が宿っていた。

「フライトユニットのおかげで、上空から一気にアークエンジェルを仕留める寸前まで行ったさ。だが、オーブの新型……あの白いストライカーのパイロットが、死に物狂いで突っ込んできやがった。自分の機体が大破するのも構わずに、俺の背後からフライトユニットの接続基部を力ずくで引き剥がしやがったんだ」

リボンズはわざとらしく自分の胸元を強く押さえ、酷い頭痛に耐えるような素振りを見せながら言葉を繋ぐ。

「……ユニットが爆発して、その隙に胸の装甲を一刀両断にされた。あのままあの大気圏内で戦い続けてみろ、飛べなくなったこの機体ごと、俺は海の底に沈んでたところだ。それとも何か? あそこで機体ごと無駄死にしろとでも言うつもりか、アズラエル理事?」

「チッ……っ、言い訳を……!」

アズラエルは忌々しそうに顔を歪めた。

リボンズの言葉は、提出された戦闘データや機体の損傷具合(リンが泣きながら刻んだ本物のサーベル痕)とも完璧に一致している。最高峰の『逸材』が、敵の予測不能な特攻によって戦闘不能に追い込まれた――そう判断せざるを得ない状況を、リボンズは完璧に作り上げていた。

「もういい! 役に立たない道具など、いくら性能が良くてもゴミと同じだ!」

アズラエルは吐き捨てるように言うと、リボンズに背を向けた。

「すぐに機体を修理し、宇宙(そら)へ上げる準備をしなさい。オーブを逃げ切ったと安心しているあの不気味なナチュラルの船どもを、今度こそ一隻残らず宇宙の塵にする。……次の作戦が、君の最後のチャンスだということを忘れないことだね」

アズラエルがハンガーを去っていく。その背中を見送りながら、リボンズは床にペッと血の混じった唾を吐き捨てた。

(ああ、最後のチャンスだ。……お前ら大人たちを、地獄へ叩き落とすためのな)

胸の奥の生体チップがまだズキズキと脳を刺激していたが、リボンズの心はすでに、あの漆黒の宇宙(そら)へと飛んでいた。

(待ってろ、リン。今度は宇宙だ。そこで必ず、お前のところに駆けつけてみせる……!)

黒煙を上げる愛機を見上げながら、リボンズは静かに、牙を研ぎ澄ましていた――。「……最後のチャンスだということを忘れないことだね」

そう吐き捨てて背を向けたアズラエルの後ろ姿を、リボンズは冷ややかに見送っていた。これでひとまずは誤魔化せた――そう確信し、緊張を解こうとしたその時だった。

カツカツカツカツッ!

ハンガーの入り口から、何十人もの武装した地球連合軍の兵士たちが、アサルトライフルを構えながら猛烈な勢いで突入してきた。彼らは一瞬にしてリボンズを包囲し、銃口を一斉に突きつける。

「……ッ!? 何の真似だ、これは!」

リボンズが鋭い眼光で兵士たちを睨みつける。だが、兵士たちの後ろで足を止めたアズラエルは、振り返りもしないまま、酷く冷酷な声で告げた。

「君が私に牙を剥こうとしたこと、および今日の不可解な敗北……。やはり、意志を持つ兵器ほど恐ろしく、不確かなものはありません。泳がせるのはここまでだ」

「な……っ!」

アズラエルが手元の端末を操作した瞬間、リボンズの脳内に、これまでにない規模の凄まじい電流が走った。

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!(怒)」

凄まじい激痛。視界が真っ白に染まり、リボンズはその場に膝をついて頭を抱え込んだ。逸材としての驚異的な意志の力すら、最大出力の強制コードの前には無力だった。脳が焼き切れるような頭痛の前に、指一本動かすことも、言葉を発することもできない。

「確保しなさい。計画通り、彼を『試作型のゆりかご』へ移送する」

アズラエルの冷徹な命令を受け、兵士たちが容赦なくリボンズの両腕を掴み、引きずっていく。

「が……ぁ、あ……っ!」

意識が朦朧とし、声にならない呻きを漏らすリボンズは、なす術もなく暗い通路へと連行され、特殊な隔離研究室の奥へと運び込まれていく。

そこに鎮座していたのは、無数のコードと不気味な液体で満たされた、カプセル状の巨大な装置――『試作型のゆりかご』だった。

高官たちの間で秘密裏に進められていた、精神の強制初期化と人格の再構築を行うための悍ましい脳改造装置。リボンズはそれが何かも分からぬまま、兵士たちによって手足をガチガチに拘束され、装置の内部へと押し込められる。

プシューッ……。

重々しいガラスハッチが閉まり、冷たい液体がカプセル内に満ちていく。

「ゴボッ……、ウ、ァ……ッ!」

泡が弾ける音と共に、無数の電極がリボンズの頭部に容赦なく突き刺さった。直後、脳の全領域を直接破壊し、塗り替えるような、文字通りの『地獄』が始まった。

(痛い……頭が、割れる……ッ!!)

これまでの電気ショックとは次元が違う。自分の記憶が、感情が、すべての意識が、濁流のようなノイズによって無理やり削り取られ、真っ白に上書きされていく。

何かを思い出す暇も、誰かの名前を頭に浮かべる余裕すら完全に奪われ、ただ圧倒的な破壊の苦痛だけが脳内を支配していく。

必死に抗おうとしても、思考の糸がブツブツと音を立てて千切れていく。

(あ、が……っ――――)

リボンズの意識はそこで完全に白濁し、深い、深い、暗闇の底へと沈んでいった――。

 

 

 

――キィィィィン……。

電子音が静かに響く、アークエンジェルのブリーフィング室。

大気圏を突破し、一時的な静寂を取り戻した船内で、私たちは再び集まっていた。

ホログラムの戦術マップには、地球を背にしたアークエンジェルとクサナギの現在地、そしてその周辺の宇宙域が映し出されている。

「ひとまずは無事に宇宙(そら)へ上がれたけれど……。当然、連合がこのまま私たちを放っておくはずがないわ」

マリュー艦長が腕を組み、険しい表情でモニターを見つめる。

その隣では、カガリさんがじっと私――リンの顔を見つめていた。私の背負うストライカーブラストには、リボンズが命懸けで残してくれた、あの漆黒と深紅のフライトユニットが不気味なほど鋭い存在感を放ってマウントされている。

「リン」

カガリさんが静かに口を開いた。

「お前が命懸けで手に入れたそのユニット、そしてあのリボンズとかいうパイロットの『賭け』……。拠点に戻ったあいつがどうなったか、私たちには知る術がない。だが、あいつは必ず宇宙へ来ると言ったんだな?」

「……はい」

私は強く、深く頷いた。胸の奥が、リボンズと引き裂かれた瞬間の痛みにまだ疼いている。

「リボンズは、自分の機体をわざと傷つけて後退しました。大人の監視を誤魔化して、次の宇宙での作戦で、必ず私たちの前に現れるって……。だから私は、ここでアイツを待ちます。そして、次こそ絶対に大人の呪縛から引きずり出します」

「でも、相手はあの地球軍だよ?」

キラが心配そうに私を見つめる。

「さっきの戦闘だって、リボンズの機体は僕たちのフリーダムやジャスティス、それに新型のガンダム3機とも互角以上に渡り合えるほどの化け物だった。次に来る時は、アズラエルたちがもっと残酷な罠を仕掛けてくるかもしれない。もし、また脳のチップで操られて、完全に心を閉ざしてしまっていたら……」

「それでも、私は諦めません!」

キラの言葉を遮るように、私は自分の胸元を強く握りしめた。瞳には、もう迷いなんてひとかけらもなかった。

「リボンズは、自分の命を懸けてこのユニットを私に託して、私を逃がしてくれたんです。あの子の心は、アズラエルなんかには絶対に壊せない。だから……キラ、アスラン、みんな。次の戦闘でストライクスタインが現れたら、私に、ストライカーブラストに行かせてください」

私の真っ直ぐな言葉に、ブリーフィング室の空気が張り詰める。

アスランは静かに目を閉じ、マリュー艦長も辛そうに視線を落とした。敵の最強の兵器を前に、私一人の感情で動くことがどれほど危険か、大人たちには分かっているはずだ。

しかし、その沈黙を破ったのはカガリさんだった。

「アークエンジェルもクサナギも、あの少年の暴走という名の『援護』がなけりゃ、大気圏を脱出する前にダガーの群れに推進部を撃ち抜かれて落ちていた。それは事実だ」

カガリさんはマリューさんやキラを見回し、不敵にニィと口元を歪めた。

「キラ、アスラン。お前たちは、次も現れるであろう連合の新型ガンダム3機、それとストライクダガーの相手だ。そいつらを一機たりともリンの戦場へ近づけさせるな。完璧に周囲を制圧しろ!」

「カガリ……」

アスランが驚いたように声を漏らすが、カガリさんは私の肩をガシッと力強く掴んだ。

「リン、お前の覚悟はオーブで受け取ったはずだ。宇宙へ上がってもそれは変わらない。あいつが命を懸けて繋いだその翼で、次こそ、お前の大好きなやつを引っ叩いてでも連れ戻してこい!」

「……っ、カガリさん……! ありがとうございます……!」

私の視界が、今度こそ決意の涙で滲む。

キラも優しく微笑み、「分かったよ。僕たちも全力でリンをサポートする。だから、絶対に生きて二人で戻ってこよう」と頷いてくれた。

話し合いは決着した。方針は決まったのだ。

リボンズが命を懸けて私を逃がし、私がみんなを説得して作った、最高の迎撃布陣。

(リボンズ……。あなたがどんな姿で、どんな地獄から這い上がってきても、私は絶対に逃げない。この宇宙で、あなたの帰る場所になってみせるから……!)

私は背中のフライトユニットに意識を向けるように、遥か遠く、地球軍の拠点があるであろう闇の向こうを真っ直ぐに見据えていた。作戦会議が一段落し、各自が配置に戻っていく中、私は一人、ホログラムの戦術モニターの前に残っていたキラの元へと歩み寄った。

「キラくん……ちょっと、相談があるの」

「リン? どうしたの、また作戦の確認?」

キラは優しい瞳で私を振り返る。

私は自分のコンソールを操作し、ストライカーブラストの最新の機体データをホログラムに展開した。そこには、リボンズが命懸けでマウントしてくれたストライクスタインのフライトユニットのデータが映し出されている。

「これ……整備班が解析してくれた結果なんだけど。このフライトユニットを装備したことで、機体の推進効率が劇的に上がったの。おかげでトータルの燃費がめちゃくちゃ良くて……。この分なら、最終決戦まで一度もユニットを換装せずに、ずっとフルパワーで戦い続けられる計算になったわ」

「えっ……本当!? それはすごいよ、リン。戦場での継戦能力がこれまでの比じゃないね」

キラも目を丸くして喜ぶ。

「ええ。だからこそ、今ここで決めておかなきゃいけないことがあるの」

私はキラの視線を真っ直ぐに見据え、隠していたブラックボックスのデータをモニターに呼び出した。そこに赤く浮かび上がるのは――**【NT-D(ニュータイプ・デストロイヤー)システム】**の文字。

「この翼があるおかげで、最終決戦までエネルギーは持つ。……だからこそ、私はこの『NT-D』を開放して戦うつもり」

キラの表情から、一瞬で笑顔が消えた。

「リン……君、本気で言ってるの? そのシステムは……」

「わかってる、キラくん! 脳への負荷が凄まじいことなんて、データを見れば一目瞭然よ」

私は言葉を遮り、さらに食い下がった。

「でも、聞いて。フライトユニットのおかげで、私たちは最終決戦まで、機体エネルギーを温存しながら戦える。つまり、他の機体にはない『余裕』が私にはあるの。この余裕があるうちに、NT-Dを開放してでもリボンズのあの化け物じみた動きを脳に焼き付け、システムと完全にシンクロして、あの子を制圧できるだけの力を手に入れるしかないのよ!」

「だけど、それはリン自身の体が壊れるリスクを……!」

「リボンズは今、地獄にいる! 私たちが迷ったり、温存したりしてる間に、あの子はもっと壊されていくんだよ!」

私はキラの胸元を力強く握りしめた。

「フライトユニットがあるからこそ、持久戦も短期決戦も選べる。この選択肢の多さは、リボンズが私にくれた『希望』そのものなの。だから、その希望を無駄にしないために、私は覚悟を決める! 次の戦闘でリボンズの動きに喰らいつくために、このNT-Dを使わせて……キラくん、お願い!」

キラは押し黙った。私の瞳に宿る、この冷徹なまでの決意と、リボンズを救いたいという熱い願い。二つの感情が交差する私の眼差しを前に、キラはついに観念したように、ゆっくりと深く息を吐き出した。

「……分かったよ。リンのその覚悟、否定なんてできないね。でも約束して。君が壊れそうになったら、僕が――僕たちが、必ず君を止める。それだけは約束して」

「……ありがとう、キラくん」

私は安堵と決意が混ざったような笑みを浮かべ、キラと固く約束を交わした。

これで準備は整った。フライトユニットという最高の翼を得た私は、最終決戦へ向けて、さらなる深淵へと足を踏み入れる覚悟を決めた――。

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