L4に位置する、かつての遺伝子研究所が存在する廃虚のコロニー――メンデル。
静寂に包まれていたその宙域に、突如として冷酷な戦火が爆発した。
「メンデル港内に、アークエンジェルの艦影を発見!」
地球連合軍の最新鋭特務艦『ドミニオン』のブリッジに、オペレーターの鋭い報告が響き渡る。
艦長席に座るナタル・バジルールは、メインモニターに映し出された、かつて自らが副長として生死を共にした愛すべき白き船の姿を、冷徹な瞳で見つめていた。
隣に立つムルタ・アズラエルが、狂気に満ちた歪んだ笑みを浮かべて急かす。
「見つけましたよ、反逆者どもを! ナタル、何を躊躇しているんです? さあ、一撃で木っ端微塵にしてやりなさい!」
ナタルはアズラエルを無視し、冷徹に、だけどどこか悲痛な決意を秘めて右手を振り下ろした。
「主砲、ローエングリン始動! 照準、アークエンジェル! ――てぇッッ!!」
ドゴォォォォォォォンッッ!!!
ドニミオンの艦首から放たれた極大の陽電子砲『ローエングリン』の光条が、暗黒の宇宙を切り裂き、メンデル港内のアークエンジェルへと容赦なく襲いかかった。
かつての仲間同士、アークエンジェルとドミニオン。同じ姿をした二隻の不沈艦による、哀しき死闘の火蓋がここに切って落とされたのだ。
「――っ! ドミニオンからの先制攻撃!? 衝撃に備えて!!」
アークエンジェル側では、マリュー艦長の悲鳴のような叫びと共に、激しい衝撃が艦内を襲っていた。
『リン! 各機、直ちに出撃して!』
「了解、ストライカーブラスト、出ます……っ!」
私はコックピットの中で息を呑みながら、リボンズから譲り受けた深紅と漆黒のフライトユニットを起動させた。
ゴォォォォォッ!! と、凄まじい推進力が機体を押し上げる。
燃費が劇的に向上したこのフライトユニットのおかげで、最終決戦までエネルギー切れの心配は一切ない。私はそのアドバンテージを胸に、キラのフリーダム、アスランのジャスティスと共に、激しい閃光が飛び交う宇宙へと飛び出した。
だが、戦況はそれだけで終わらなかった。
ピピピピピピピピッ!!!
「――警告! 別の高エネルギー反応が接近! この識別信号……ザフト軍です!!」
アークエンジェル、そしてドミニオンのレーダーが、同時に新たな『影』を捉えた。
メンデル宙域のさらに奥方から、連合でもオーブでもない、ザフト軍のモビルスーツ部隊――ゲイツやジン、そしてあの緑の髪の少年が駆る『プロヴィデンスガンダム』の禍々しい機影が、この戦場を確認し、なだれ込んできたのだ。
「ザフトまで……!? なんでこのタイミングで……っ!」
私はストライカーブラストの操縦桿を握り直し、迫り来るドミニオンのダガー部隊、そして新たに現れたザフトの脅威をモニターに捉えた。
三つ巴の混沌と化していくメンデルの戦場。
かつての仲間との戦い、そしてザフトの介入にキラたちが動揺する中、私はバックパックのフライトユニットの出力をさらに上げ、ブラックボックスのシステムへと手を伸ばした。
(燃料(エネルギー)の心配は、リボンズがくれたこの翼のおかげで、最終決戦までもういらない……。なら、やることは一つだけ……!)ドゴォォォォォォンッ!!!
メンデル宙域に響き渡る爆音。アークエンジェルを討つため、容赦のない苛烈な戦闘を仕掛けるドミニオン。だが、その前に立ちはだかるキラのフリーダムとアスランのジャスティスは、あまりにも強固だった。
「アハハハハ! チョロチョロと鬱陶しいんだよッ!!」
「こいつら……コンビネーションがさっきまでと違いすぎるッ!」
クロトのレイダー、シャニのフォビドゥン, オルガのカラミティ。連合の誇る3機のガンダムは、キラとアスランの息の合った、寸分の隙もない完璧な連携攻撃の前に、完全に圧倒され、ジリジリと押し戻されていく。
さらにドミニオンのブリッジに、クサナギが完全に参戦可能になったという報せが飛び込んだ。
「……ここまでか。全機に後退信号! 本艦はこれより戦線から一時撤退する!」
艦長席のナタルはこれ以上の攻戦は不利と冷静に判断し、苦渋の決断を下した。アズラエルが「何を言っているんだナタル! 敵は目の前にいるんだぞッ!」と喚き散らすのを完全に無視し、ドミニオンはその艦首を翻す。アークエンジェルは、辛くもこの絶体絶命の危機を脱出したのだった。
――しかし、戦火はすぐ隣の舞台へと飛び火していた。
「ザフトがコロニー内に侵入した!? チッ、あいつら何企んでやがる!」
「行くぞ、ディアッカ! 好き勝手やらせるかってんだ!」
廃棄コロニー・メンデルの内部にザフトが侵入したことを察知したムウのエールストライクガンダムと、ディアッカのバスターガンダムは、すぐさま迎撃のために暗いコロニー内部へと急行する。
そこで待っていたのは、禍々しいプレッシャーを放つザフトの新型MSゲイツ。それに搭乗するラウ・ル・クルーゼと、ムウのエールストライクとの宿命とも言える因縁の対決が、闇の中で激しく火花を散らし始めた。
「フフフ……やはり来たね、ムウ! 懐かしいな、その機体は!」
「クルーゼェッ! テメエはいつもいつも、不気味に湧いて出てきやがって! このストライクで今度こそケリをつけてやる!」
高出力のビームライフルが激しく交差し、エールストライカーの推進力が狭いコロニーの壁を削りながら爆炎が走る。その凄まじい戦闘の最中――。
「……! あれは……バスターガンダムかッ!?」
砂塵の向こうから現れた緑の重火力機を見つけ、デュエルガンダムアサルトシュラウドのコックピットでイザーク・ジュールは激しく困惑した。行方不明になり、地球軍に鹵獲されたはずの、かつての友の愛機。
しかし、そのバスターのシートに座っているのが、まさかアークエンジェル側として参戦しているディアッカだとは、今のイザークは知る由もない。
「連合のナチュラルどもが……ディアッカの機体を、そんな風に動かすんじゃねえぇぇぇッッ!!!」
怒りに燃えたイザークのデュエルの攻撃は、容赦を知らずにバスターへと襲いかかった。
57mm高エネルギービームライフルが容赦なく連射され、足元の175mmグレネードランチャーが火を噴く。
ズバババババンッ!!!
「クソッ、イザークの野郎、相変わらず頭に血が上りやがって話を聞く雰囲気じゃねえ!」
ディアッカはバスターの操縦桿を必死に操り、コロニー中央の巨大なシャフトの周囲を飛び回りながら、懸命にその猛攻をかわし続けた。反撃すれば、デュエルを、イザークを討ってしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたかったディアッカは、ついに覚悟を決め、全周囲通信のスイッチを叩いた。
「おい、やめろイザーク!! 俺だ!! ディアッカだ!!!」
「――ッ!?」
コックピットに飛び込んできた、聞き間違えるはずのない懐かしい声。
その瞬間、狂暴に刃を振り下ろそうとしていたイザークのデュエルガンダムが、ピタリと、嘘のようにその動きを止めた。
しんと静まり返るコロニーのシャフト内部。
二機は武器を構えたまま、じっと動かない。
やがて、デュエルのハッチが開き、ノーマルスーツ姿のイザークが外へと飛び出した。それを確認したディアッカもまた、バスターのコックピットから身を起こし、ワイヤーを使ってコロニーの構造物へと降り立つ。
薄暗い光の中、モビルスーツを降り、生身で対峙する二人。
かつて同じ赤服を纏い、共に戦い、正式に敵味方として別れを告げる間もなかった親友同士の間に、言葉にならない激しい緊張と沈黙が走っていた――。薄暗いメンデル・コロニーのシャフト内部。
モビルスーツを降りた二人の影が、無重力の空間に静かに漂う構造物の上で対峙していた。
カチャリ、と冷たい金属音が響く。
お互いに向かって真っ直ぐに突き出されたのは、ザフト製の拳銃だった。つい数ヶ月前までは背中を預け合っていた親友同士が、今は生身で銃口を向け合っている。
「……ディアッカ。お前、生きていたのか」
ヘルメット越しに見えるイザークの瞳は、激しい怒りと、それ以上の困惑に揺れていた。
「ああ、しぶとく生きてたぜ、イザーク。……そんなに怖い顔すんなよ」
ディアッカはいつもの不敵な笑みを浮かべようとしたが、その銃を握る手は硬く、真っ直ぐだった。イザークは震える声で、銃口を微塵もぶらすことなくディアッカにその真意を問い質す。
「なぜだ……! なぜお前が連合の船(アークエンジェル)と一緒にいる!? 行方不明になって、まさかナチュラルに寝返ったとでも言うつもりかッ! お前はザフトの、赤服のプライドを捨てたのか!?」
「寝返ったわけじゃねえよ」
ディアッカは静かに、だけど重みのある声で返した。
「俺だって、ナチュラルのやり方が正しいなんて思っちゃいねえ。……だけどな、今のザフトのやり方も、パトリック・ザラ議長の言ってることも、何かが狂ってる。このままじゃ、ナチュラルもコーディネイターも、全部巻き込んで世界が滅んじまう。俺は……ただ、それを止めたいだけだ。あの船の連中と一緒にな」
「綺麗事を……ッ!」
イザークの指がトリガーにかけられる。裏切り者として今すぐ撃つべきなのか、それとも。親友の変わり果てた、だが妙に据わった覚悟の目を前に、イザークの葛藤の緊張が極限まで高まっていた。
――同じ頃。
メンデル・コロニーの外の暗黒宇宙では、再び最悪の戦火が燃え上がろうとしていた。
「ナタル! なぜさっき退いたんですか!? 敵は目の前にいたというのに、君の弱腰のせいで仕留め損ねたじゃないですか!」
ドミニオンのブリッジでは、一時撤退に激怒したアズラエルが、艦長席のナタルに掴みかからんばかりの勢いで怒鳴り散らしていた。
「アズラエル理事、先ほどの状況での深追いは本艦の損耗を招くだけです。私は艦長として適切な判断を――」
「黙りなさい! 私はブルーコスモスの盟主であり、この艦の全権を握っているんですよ! 命令です、反転してアークエンジェルを今すぐ撃破しなさい!!」
狂気を孕んだアズラエルの強引な威圧に、ナタルは奥歯を噛み締めた。軍人としての規律、そしてアズラエルという男の絶対的な権力。抗いきれない圧力に圧され、ナタルはついに、苦渋の面持ちで再び右手を上げる。
「……本艦、回頭。各砲座、再び照準アークエンジェル。戦闘配置のまま……戦闘を、再開する!」
アズラエルに率いられるドミニオンが、再び牙を剥いてアークエンジェルへと迫る。辛くも危機を脱出したはずの白き船に、休息の時間など一瞬たりとも与えられない。
そのドミニオンのハンガーの奥、厳重にロックされた『試作型のゆりかご』の隔離室では、精神を真っ白に塗り替えられた最悪の『人形』が、再び目覚めの時を待っているとも知らずに――。
ドミニオンが再びアークエンジェルへ向けて発進しようとした、まさにその瞬間だった。
混沌とする戦場に、ザフト軍からの予期せぬ全体通信が割り込む。
アークエンジェルとドミニオン、激化する両者の戦闘の間隙を縫うようにして、ラウ・ル・クルーゼはラクスたちの乗るエターナルを執拗に攻撃するため、拠点たるナスカ級打撃型駆逐艦『ヴェサリウス』を出撃させた。
さらに、クルーゼは敵味方が入り乱れる両艦隊に対し、あまりにも奇妙な通告を一方的に送りつける。
『これより、我がザフトが拘束中である地球軍の捕虜を一台のポッドにて返還する。――受け取るがいい』
「捕虜の返還だと……!? このタイミングで何を考えてやがる、あの仮面男は!」
ストライカーブラストのコックピットで、NT-Dの赤い光に包まれながら私は毒づいた。リボンズのフライトユニットのおかげでエネルギーの余裕は十分にある。いつでも動けるよう操縦桿を握り直したその時、激しい戦闘空域のド真ん中に、ぽつんと一台の脱出ポッドが射出された。
そのポッドの中にいたのは、事態が飲み込めないまま乗せられた、フレイ・アルスターの姿だった。
「な、何なのよこれ!? 誰か、誰か助けてよ!!」
クルーゼの一方的な狂気の行為に、アークエンジェル側もドミニオン側も戸惑いを隠せない。膠着する状況の中、ただならぬ危機を本能で察知したフレイは、泣き叫びながら必死の思いでポッドの通信を操作し、アークエンジェルに助けを求めた。
「お願い、助けて! ――私、持ってるの! 戦争を終わらせるための、『鍵』を持っているわ、私!!」
『鍵』――。
その通信が響いた瞬間、それまで状況を静観してだんまりを決め込んでいたドミニオンのアズラエルが、獣のように目を剥いて動き出した。
「ナタル! 今すぐあのポッドを回収しなさい! 何としても、我がドミニオンで手に入れるんだ!!」
「フレイ……!? フレイなのかッ!!」
アークエンジェルからキラのフリーダムが、弾かれたようにフレイのポッドの救助へと向かう。
「今度こそ、今度こそ僕が守るんだ!」と、キラは必死に手を伸ばした。しかし、それを阻むようにドミニオンの3機のガンダムが狂暴に割り込み、アズラエルが放った容赦のない妨害火線がキラを遮る。
あと一歩のところでフリーダムの指先は届かず、フレイの乗ったポッドは、無情にもドミニオンのハンガーへと強引に回収されてしまった。
「フレイィィィィッッ!!」
キラの絶叫が宇宙に虚しく響き渡る。
一方その頃、ザフトのヴェサリウスに包囲され、撃沈寸前まで追い込まれていたエターナルとクサナギは、最後の勝負に出る。
「全砲門、開け! 火線をあのヴェサリウス一隻に集中させろ! ここを突破するんだ!!」
エターナルとクサナギから放たれた凄まじい一斉射撃が、ヴェサリウスの装甲を容赦なく撃ち抜いた。激しい大爆発を起こし、ゆっくりと暗黒の宇宙へ沈んでいくヴェサリウス。
ザフトはその象徴たる巨艦の撃沈を目の当たりにし、地球軍もまた目的のポッドを回収したことで、双方ともに蜘蛛の子を散らすようにしてこの戦宙域から一斉に撤退を始めたのだった。
戦いが終わり、辛くも生き残ったエターナルのハンガー。
「う、あ、あああ……っ、フレイ……っ、ごめん、僕はまた……ッ!!」
コックピットから降りたキラは、床に崩れ落ち、声を上げて激しく泣き崩れていた。目の前でフレイを奪われ、救えなかったという絶望と悲しみの嗚咽が、静まり返ったハンガーに痛々しく響く。
私はストライカーブラストから降り、泣き続けるキラの肩をそっと抱きしめることしかできなかった。
リボンズが命を懸けて残してくれたフライトユニットのおかげで、私たちは生き残れた。だけど、誰も救えていない。リボンズも、フレイも、未だ大人のエゴの檻の中に囚われたままだ。
――そして同じ頃。
撤退するドミニオンの私室にて。
「ハハ……ハハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいですよフレイ・アルスター! 君は最高の『鍵』を私に届けてくれた!!」
フレイから手渡された怪しげなディスクを読み込ませ、画面を見つめるアズラエルの顔は、完全な狂気に染まっていた。
そこに記録されていたのは、ザフトの生命線であるニュートロンジャマーを無力化し、再び『核の恐怖』を蘇らせる悪魔の技術――**ニュートロンジャマーキャンセラー(NJC)**のデータ。
「これで……これでついに、あの忌々しいコーディネイターどもを、一匹残らず地球の塵に狂い滅ぼしてやれる!!」
狂喜乱舞するアズラエルの高笑いが、冷たい艦内に響き渡る。
最悪の『核の翼』を手に入れたブルーコスモス。そしてそのドミニオンの深奥では、記憶を消され、ただの生体兵器へと作り変えられたリボンズが、再び目を覚まそうと不気味に胎動していた。
世界の破滅へと向かうカウントダウンが、今、最悪の形で始まろうとしていた――。カチャリ……。
アズラエルの私室の自動ドアが開き、一人の少年が静かに室内に足を踏み入れた。
地球連合軍のノーマルスーツに身を包んだその姿は、かつてリンを命懸けで守り、不敵に笑っていたあのリボンズのものではあったが……その佇まいは、まるで魂を抜き取られた彫刻のように冷徹で、生気がまるでない。
アズラエルはデスクの画面に映るニュートロンジャマーキャンセラーのデータをうっとりと見つめていたが、背後の気配に気づき、不機嫌そうに振り返った。
「おや、もう目が覚めたんですか。本当にタフな『道具』ですね。予定よりもずいぶんと早い調整完了だ」
アズラエルは意地悪く口元を歪め、リボンズの顔を覗き込んだ。
リボンズの額や首筋には、あの『試作型のゆりかご』で無数に打ち込まれた電極の生々しい痕が痛々しく残っている。だが、その瞳は鏡のように滑らかで、アズラエルに対する憎しみも、怒りも、そして――リンに関する記憶の欠片さえも、何一つ映してはいなかった。
完全に真っ白に塗り替えられた、ただの従順なパーツ。
リボンズはアズラエルの前に直立不動の姿勢で立つと、感情の起伏が一切ない、どこか機械的で冷たい声を発した。
「……次の、任務を」
「おや、ずいぶんと殊勝な態度じゃないですか。前の君のあの生意気な口の利き方に比べたら、実に見事な仕上がりだ。やはり『ゆりかご』の初期化システムは素晴らしい」
アズラエルは満足げに声を上げて笑うと、デスクのディスクをパッと指で弾いた。
「次の任務? ええ、最高にエキサイティングな仕事を与えてあげますよ。このディスクにあるデータを使って、我が地球軍はまもなく、あの忌々しいプラントの化け物どもに『神の火(核)』を落とす。君にはその核攻撃部隊の、絶対的な護衛(露払い)をやってもらいます」
核の再使用。世界を文字通り焼き尽くす最悪の作戦。
しかし、その凄惨な内容を聞かされても、リボンズの眉一つ動かない。
「ターゲットの、再確認を」
「まずはあのプラントの軍隊。そして――」
アズラエルの目が、ギラリと狂暴に光る。
「メンデルで私たちの邪魔をし、あの女(フレイ)を奪おうとした、アークエンジェルを始めとする反逆者どもです。あの白い新型や、生意気なストライカーとかいう機体も、今度こそ一機残らず宇宙の塵にしなさい」
『ストライカー』。
その単語がアズラエルの口から出た瞬間、リボンズの脳内の生体チップが、チリッと微かなノイズを立てた。
だが、それだけだった。
消去された記憶の底から、あの少女の笑顔や泣き顔が浮き上がってくることはない。ただ、胸の奥がほんの少しだけ、原因不明の冷たい違和感に疼いただけだった。
「……了解。アークエンジェル、および不確定要素の完全排除。ストライクスタイン、いつでも発進可能です」
リボンズは感情のない声で淡々と応じると、アズラエルに背を向け、機械的な足取りで部屋を去っていった。
かつてリンが「必ず助け出す」と誓った最愛の少年は、今や地球軍の放つ最凶の刺客として、その牙を完全に研ぎ澄ましていた。何も知らぬまま、大好きな人をその手で屠るために。
最終決戦の舞台となる宙域へ向かって、破滅の足音が確実に近づいていた――。