シュウゥゥゥゥッ!
青いサイコフレームの光の粒子を軌跡に残しながら、私はネオ・ジオングの懐へと一気に肉薄した。
「リボンズ――ッ!!」
私の叫びと同時に、決戦の火ぶたが切って落とされる。
ビームライフルを連射し、ネオ・ジオングの巨体を狙うが、リボンズは冷徹な手さばきで有線式ファンネル・ビットを急制御し、私のビームを完璧に相殺してきた。
ズバババババンッ!!!
空間を埋め尽くすようなビームの交差。
リボンズのあまりにも容赦のないオールレンジ攻撃が、ストライカーブラストの全方位から襲いかかる。私は青い光の温もりに導かれるように操縦桿を払い、機体を限界以上の速度でロールさせながら、紙一重でその包囲網を掻い潜っていく。
「ねえ、聞いてリボンズ! なんでそんな風に戦うの!? 私のことが分からないの!?」
必死の訴えを通信にのせるが、ネオ・ジオングのハッチの奥から返ってくるのは、冷たい電子音と機械的な駆動音だけ。
そこへ、混沌とした戦場から、ザフトの「ジン」の数隊と、地球軍の「ストライクダガー」の混成部隊が、この不気味な超巨大MAを排除せんと一斉に襲いかかってきた。敵味方の垣根を越え、圧倒的な脅威であるネオ・ジオングへ攻撃が集中する。
「何だあの化け物は! 撃て! 撃ち落とせぇッ!」
「地球軍の新型か!? プラントに近づけるな!」
無数の実弾バルカンとミサイル、ビームがネオ・ジオングの巨体に降り注ぐ。
しかし――リボンズは、ただ静かに操縦桿のトリガーを引いた。
「……鬱陶しい。一斉排除」
ギギギギギィィィッ!!!
ネオ・ジオングの背面にマウントされた、巨大な『四本の副腕』が、前方の二腕と合わせて計六本の腕として一斉に展開される。その指先から放たれたのは、空間そのものを裂くような極大の大型レーザーの束だった。
ドゴォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
「うわぁぁぁぁぁぁッッ!?」
「ひ、一撃で、俺たちの部隊が――っ!」
文字通りの面制圧。
六本の腕から放たれた大出力レーザーは、襲いかかったジンやストライクダガーのほとんどを、回避する隙さえ与えず一瞬にして焼き尽くし、宇宙の塵へと変えてしまった。激しい爆炎が連鎖し、周囲の宙域が地獄絵図と化していく。
「そんな……一瞬で……っ!」
私はその凄まじい破壊の光を、青いサイコフレームの力を借りて直感的に察知し、間一髪で死線を見切って大きく回避した。
爆風の煙を突き抜け、私はネオ・ジオングの頭部へ向けて、ビームライフルを正確に撃ち込む。さらに距離を詰め、頭部バルカンを激しく連射した。
ドガガガガガガガガガッッ!!!
「届いて……っ! お願いだから、目を開けて!!」
だが、ストライカーブラストが放った渾身のビームライフルは、ネオ・ジオングの機体表面に展開された**【擬似サイコフレーム】の怪しい光の障壁に阻まれ、その威力を半分以下に減衰されて弾かれてしまう。
さらに、至近距離から叩き込んだ頭部バルカンの実弾は、強固な【フェイズシフト(PS)装甲】**にパキパキと虚しく弾かれ、火花を散らすだけで装甲に傷一つ付けることができない。
「ビームが減衰される……!? それに、PS装甲まで……っ!」
「……不確定要素の戦闘能力、予測値を突破。これより直接排除に移行」
リボンズの冷徹な呟きと共に、ネオ・ジオングの巨躯が、その見た目からは想像もつかない凶悪なスピードで私との距離を詰めてくる。六本の腕が、ストライカーブラストを圧し潰さんと、悪魔の爪のように迫り狂う。
攻撃が通じない絶望的な破壊神を前に、私は暖かい青い光を全身から放ちながら、盾を構えてその猛攻を受け止めるべく、歯を食いしばった――!「はぁぁぁぁぁッッ!!」
擬似サイコフレームにビームを減衰され、PS装甲にバルカンを弾かれようとも、私は絶対に諦めなかった。
青いサイコフレームの暖かい光と完全にシンクロしたストライカーブラストは、私の限界を超えた意志に応え、獣じみた超絶的な機動を見せる。ネオ・ジオングの巨体の隙を突き、死角から何度も、何度もビームライフルを叩き込んだ。
ズババババッ! ドガァァンッ!
「届いて……届いてよリボンズ!!」
半分に減衰されようが、同じ場所に何度も執拗に撃ち込み続ければ、装甲は確実に熱を帯び、摩耗していく。執念の連射がネオ・ジオングの重装甲を、少しずつ、確実に削り取っていく。
だが、リボンズの操る破壊神の反撃は、それ以上に冷酷で、圧倒的だった。
「……目障りだ」
リボンズが淡々と操縦桿を引く。次の瞬間、ネオ・ジオングの六本の腕から放たれた大型レーザーが、網の目のように私の視界を埋め尽くした。青い光の先読みをもってしても、すべての光条をかわし切ることは不可能――。
ズザァァァァァッッ!!!
「きゃあああああッッ!?」
掠めた。ほんの一条のレーザーが掠めただけで、凄まじい熱量がストライカーブラストを襲う。次の瞬間、機体アラートが狂ったように鳴り響き、モニターの左側にあった「左脚部」のグラフィックが、一瞬にして消失した。
超高出力のレーザーによって、私の機体の左脚部の一部が、融解する暇すらなく文字通り消し飛ばされたのだ。
バランスを崩し、宇宙に投げ出されるストライカーブラスト。
「まだよ……これくらい、リボンズの苦しみに比べたら――っ!」
体勢を立て直そうとした私の目に、さらなる絶望の光景が映る。
ネオ・ジオングのあの巨大な腕部が、機体からガシャリと分離したのだ。それは有線式の巨大な「ドラグーン(ファンネル)」として宇宙をうねるように飛び回り、私の退路を完全に塞ぐ。
「しまっ――」
ドゴォォォォォォォンッッ!!!
ドラグーンによる全方位からの包囲網。そこから突き出されたのは、大質量を乗せた巨大な「拳攻撃(マニピュレーター・パンチ)」だった。
回避の間に合わないゼロ距離からの容赦のない一撃が、ストライカーブラストのシールドを、そして胸部装甲を真っ向から叩き潰す。
ガガガガガガギギギギィィィッッ!!!
「がはっ……!? あ、あああああッッ!!」
衝撃緩和システムが限界を迎え、コックピットの内部にまで凄まじい衝撃波と火花が吹き荒れた。シートごと叩きつけられ、口の中に鉄の味が広がる。コンソールはバチバチとショートし、割れた全天周モニターから不気味な警告灯が私を照らす。
息が、うまくできない。あばらが悲鳴を上げ、視界がチカチカと明滅する。
「……ターゲットの沈黙を確認。これより、完全なる圧壊を執行する」
メインモニターの向こう、ネオ・ジオングの中核にいるリボンズは、傷ついた私を見つめても、やはり何も思い出さない。ただの残骸を片付けるように、残った腕を再び振り上げてくる。
「リボンズ……ねえ、リボンズ……」
割れたモニターに向かって、私は血の混じった涙を流しながら、掠れた声で必死に手を伸ばした。
コックピットを包むサイコフレームの青い光は、私の痛みを和らげるように、未だ暖かく、優しく輝き続けている。この光が消えない限り、私の心が折れない限り……私は絶対に、あなたを諦めたりしない――!「……ターゲット、完全排除――」
ネオ・ジオングの巨大な拳が、トドメを刺さんとストライカーブラストのコックピットへ向かって容赦なく振り下ろされる。
寸前、バチバチと激しく火花を散らしていた私のコンソールに、奇跡のように文字が浮かび上がった。
【SYSTEM RESTORE――100%】
「まだ……動くッッ!!」
ギリギリのところでシステムが復旧し、警告音の嵐を気合でねじ伏せながら、私は操縦桿を限界まで引き絞った。
青いサイコフレームの光が爆発的に輝き、左脚を失ったストライカーブラストは、迫り来る巨拳のわずかな隙間をすり抜けるようにして、猛烈なスピードで戦闘を続行する。
「これで、目を覚ましなさぁぁぁぁッ!!」
私はシールドの裏面にマウントされていたミサイルランチャーのトリガーを、至近距離から一気に押し込んだ。
ズバババババババババッッ!!!!!
至近距離から放たれた無数のミサイルが、ネオ・ジオングの巨体を激しく狂い打つ。擬似サイコフレームの障壁をも強引に突き破り、弾頭が装甲の上で次々と大爆発を起こした。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
爆炎と爆煙がネオ・ジオングの視界を覆う。その一瞬の隙を見逃さず、私はビームライフルの出力を最大に引き上げ、先ほどから狙い続けて装甲を削っていた『右側の巨大な腕部』へと突撃した。
「リボンズ、その腕を、もらうわよ!!」
ズドォォォォォォンッッ!!!
至近距離から放たれた極大のビームが、限界を迎えていたネオ・ジオングの腕部の関節を真っ向から撃ち抜いた。激しい火花と共に、ネオ・ジオングの誇る六本の腕のうち、一つが完全に爆発し、宇宙の闇へと弾け飛ぶ。
「……! 腕部一基、大破。不確定要素の攻撃力、再計算――」
リボンズの、どこか狂い始めた機械的なアナウンス。
だが、破壊神の反撃は、それ以上に容赦がなかった。
腕を一つ失おうとも、ネオ・ジオングにはまだ五本の腕が残っている。残された腕から放たれた、怒り狂うような超高出力の大型レーザーが、体勢を崩した私のストライカーブラストを正確に捉えた。
「しま――っ!」
ドガァァァァァァァァァンッッ!!!!!
凄まじい衝撃。
ネオ・ジオングの腕を一本破壊した代償は、あまりにも大きかった。レーザーの直撃を受け、ストライカーブラストの左腕に装備されていたシールドが、持ちこたえられずに一瞬にして跡形もなく消し飛ばされた。
「あ、あああ……っ!!」
盾を失い、武器もビームライフルだけになった。機体は左脚に続いてシールドまで失い、満身創痍。コックピット内はさらなる爆風に晒され、私の身体はもうボロボロだった。
それでも、コックピットを包み込む青いサイコフレームの光は、少しも衰えていない。むしろ、リボンズの腕を一本もぎ取ったことで、あの子の乗るストライクスタインのコアが、ほんの少しだけ近づいたのを感じていた。
「ハァ、ハァ……まだよ。盾がなくなっても、この光がある限り……私は、あなたのところへ行くんだから……!」
折れそうな心を青い暖かい光で奮い立たせ、私は唯一残ったビームライフルを再びネオ・ジオングへ向けた。傷だらけの二機による、魂の死闘はさらに加速していく――。ドゴォォォォォォンッ!!!
シールドを失い、満身創痍となったストライカーブラスト。だが、青いサイコフレームが放つどこまでも暖かく、透き通った光の粒子は、さらに激しく宇宙に吹き荒れていた。私は唯一残された右腕のビームライフルを構え、ふらつく機体を精神力だけで制御しながら、再びネオ・ジオングの巨体へと突撃する。
「リボンズ――ッ!! 聞こえているんでしょう!? お願いだから思い出して!!」
私は通信の全チャンネルを開き、激しい砲火を掻い潜りながら、涙混じりの声を張り上げた。
ズババババババババンッッ!!!
ネオ・ジオングの五本の腕から放たれる大型レーザーが、暗黒の宇宙を縦横無尽に切り裂く。私は青い光の先読みのままに、機体を文字通り紙一重でスライドさせ、ときにはビームライフルの銃撃で迫り来るファンネル・ビットを撃ち落としながら、さらに間合いを詰めていく。
「私たち、地球で出会ったじゃない! あなたが私の手を引いて、一緒にたくさんの場所へ行って……冷たかったあなたの手が、私の熱で少しずつ暖かくなっていった、あの毎日を忘れちゃったの!?」
「……ノイズが、脳波に直接流入している……。ターゲットの排除を急ぐ」
リボンズの声に、一瞬だけ奇妙なざらつきが混じる。だが、ネオ・ジオングの猛攻は止まらない。残された巨大な腕が、凄まじい質量でストライカーブラストを叩き潰さんと、左右から挟み込むように迫り来る!
「逃げるもんかぁぁぁぁッッ!!」
私は操縦桿を激しく押し込んだ。サイコフレームの輝きが青からさらに眩い光へと膨れ上がる。ストライカーブラストは巨大な拳の直撃をアクロバティックなロールで回避すると、その腕の関節に潜り込み、ゼロ距離からビームライフルを連射した。
ドガガガガガガガガアンッッ!!!
「これで……二本目ッ!!」
削られていた左側の副腕が、根元から激しく爆発して宇宙に弾け飛ぶ。
間髪入れず、ネオ・ジオングの背面から別の腕が襲いかかる。私は地球での日々の記憶、あの子が私を命懸けで守ってくれたときの、あの切ない眼差しを思い出しながら、必死に叫び続けた。
「私が泣いたとき、あなたは不器用だけど、一生懸命慰めようとしてくれた! 『君には僕がついている』って、そう言ってくれたじゃない!! あの言葉まで、嘘にしちゃうつもりなの!?」
ズドォォォォォォンッッ!!!
叫びと同時に放った渾身のビームが、突進してきた三本目の腕のパルスシステムを貫く。内部誘爆を起こし、ネオ・ジオングの巨体が大きくのけぞった。
「く、あ……頭が……熱い……何が……」
通信の向こうで、ついにリボンズが明確な苦しみの声を漏らす。完全に消去されたはずの記憶の底から、何か得体の知れない『暖かさ』が、生体チップのプロテクトを内側から激しく焼き切ろうとしていた。
「リボンズ!!」
私はその隙を逃さず、限界を超えた推力でネオ・ジオングの胸元へ肉薄。擬似サイコフレームの障壁を青い光で強引に中和しながら、四本目の腕の装甲をビームライフルで激しく乱打し、ついにそれを粉砕した。
「あぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!! 僕は、僕は地球連合軍の……生体CPU……ストライクスタインの、パイロット、だッッ!!!」
リボンズが狂ったように絶叫した。
脳内に溢れ出す、記憶にないはずの少女の笑顔、泣き顔、その温もり。拒絶反応を起こしたシステムと、リボンズ自身の魂が激突し、ネオ・ジオングのコントロールが完全に暴走する。
「止めろ……止めろぉぉぉぉぉッッ!!!」
キィィィィィィィン――――――ッッ!!!!!
次の瞬間、ネオ・ジオングの残された二本の巨大な腕、そして機体各所のメガ粒子砲から、制御を失った極大の大型レーザーが、周囲の空間すべてを巻き込むように**【全方位】**へ向けて狂ったように一斉に解き放たれた!
「しまっ――」
光の壁が視界を埋め尽くす。青いサイコフレームの回避予測すら、その絶望的な光の濁流の前には意味をなさなかった。
ドゴォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
「きゃああああああああああああああッッ!!!!!」
凄まじい衝撃と熱量がストライカーブラストを容赦なく襲う。
アラートがけたたましく鳴り響き、機体の左側から肉体が引き裂かれるような凄まじい衝撃が伝わった。直撃を受けたストライカーブラストの「左腕」が、肩の付け根から爆発し、完全に跡形もなく吹き飛ぶ。
さらに、レーザーの余波が右腕をも襲った。ガガガガガッと激しい火花が散り、右腕のマニュピレーター(指先)の一部が熱量によって一瞬にして消し飛ばされる。
「う、あ……、あぁ……っ!」
コックピット内は完全に大破状態。すべてのモニターが割れ、火花と煙が立ち込める。
ストライカーブラストは左脚に続き、シールド、そして左腕までも失い、右の指先すら半分を失うという、文字通りの五体不満足、満身創痍の姿にまで追い詰められていた。
だが。
「……まだ、よ……っ。まだ……ビームライフルは……構えられる……っ!」
壊れかけの右腕。半分消し飛ばされたマニュピレーターは、油圧を激しく漏らし、ガタガタと震えながらも、執念だけで唯一の武器であるビームライフルをしっかりと握りしめていた。ギリギリのところで、まだ狙いはつけられる。
コックピットを包むサイコフレームの青い光は、私の体中を走る激痛を包み込むように、より一層優しく、どこまでも暖かい光を放ち続けている。
ネオ・ジオングの腕は残り二本。そして、中核にいるリボンズは、頭を抱えて激しく喘いでいる。
「届く……あと、少しで……あなたに、届く……っ!」
私は血を拭い、壊れかけの照準をネオ・ジオングのコアへと定めた。最愛の少年を地獄から救い出すための本当の最メインモニターがすべて叩き割られ、完全な闇に包まれたコックピット。だが、私はまだ、諦めてなんていない。
「サブカメラ……起動ッッ!!」
バチバチと火花を散らすコンソールを強引に叩くと、コックピット内の小さな予備のサブモニターが、ノイズまみれながらも外の景色を映し出した。左脚を失い、シールドを失い、左腕も、右の指先の一部すら失ったストライカーブラスト。それでも、青いサイコフレームの暖かい光は、私と機体の命の灯火を繋ぎ止めるように、力強く、優しく輝き続けている。
私は壊れかけの右腕でビームライフルを必死に保持し、残された二本の腕を悶えさせているネオ・ジオングへ向かって、再び戦闘を続行した。
「リボンズ、お願い、思い出して!!」
――しかし、その時だった。
ズドォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
言葉を失うほどの凄まじい大音響と、宇宙の全てを灼熱の白に染め上げるほどの、圧倒的な光の質量。
まさに真隣の宙域で、ザフトの巨大レーザー兵器『ジェネシス』の第二射が放たれたのだ。あまりにも近すぎるその破壊の閃光と、時空が歪むほどの衝撃波。サブモニターが一瞬でホワイトアウトし、機体が激しく翻弄される。
「なっ……、う、嘘……あっちの宙域が……っ!?」
あまりの恐怖と衝撃に、私はほんの一瞬、コンマ数秒の決定的な**【隙】**を作ってしまった。
その瞬間を、暴走するネオ・ジオングの自動防衛システムは見逃さなかった。
リボンズが苦しみに悶える中、ネオ・ジオングの残された二本の巨大な腕が自動でストライカーブラストを捕捉。指先の大型メガ粒子砲から、容赦のないレーザーが放たれた。
「しまっ――」
ドゴォォォォォォンッ!!!
咄嗟に回避を試みるも間に合わない。超高出力のレーザーがストライカーブラストの頭部を正確に掠め、辛うじて息を吹き返していたサブカメラ、そして機体の**【メインカメラ】**が完全に焼き切られ、大破した。
私の視界は、今度こそ本当の「暗黒」に包まれる。
「あ、ああ……っ! 何も見えない……っ!」
完全に目をもぎ取られたストライカーブラスト。
しかし、メインカメラが破壊されたその瞬間、私の叫びと、機体から溢れ出す青いサイコフレームの暖かい光の粒子は、確実に、ネオ・ジオングの中核へと突き刺さっていた。
「……あ、あ、あああああッッ!!!!!」
ネオ・ジオングのコックピットの中で、リボンズが狂ったように頭を抱えて叫び、激しく痙攣した。
生体チップによる強固なプロテクト。それが、リンの必死の過去の話と、この暖かい青い光によって、内側から激しく焼き切られていく。
真っ白に塗りつぶされていた脳内に、濁流のように記憶の断片が蘇る。
地球の冷たい雨の中で傘を差し出してくれたリン。
初めて食べたご飯の味。リンの小さな、だけどとても暖かかった手の温もり。
『君には僕がついている』――そう言って、彼女を抱きしめた自分の声。
「リン……? 僕は……君を……守りたくて……なのに、僕は、何を――っ!」
【記憶が、半分戻った】。
しかし、それは同時に、今の自分が愛する彼女をどれほど傷つけ、五体不満足になるまで破壊してしまったかという、あまりにも残酷な現実を突きつけるものだった。
書き換えられた擬似人格のプログラムと、取り戻した本当の記憶が、リボンズの脳内で激しく衝突する。
「あがぁぁぁぁぁッッ! 頭が、割れる……っ! 僕は、僕は地球軍の……違う! 僕は、リボンズ……リボンズ・アルマークだッッ!!」
完全に混濁する意識。凄まじい精神的負荷に、リボンズは血を吐くような悲鳴を上げながら激しく苦しみ悶える。その錯乱に同調するように、ネオ・ジオングの擬似サイコフレームが赤く禍々しく点滅し、巨体が宇宙でガタガタと大きく揺れ始めた。
カメラを失い、闇の中で立ち尽くす私のストライカーブラスト。
そして、記憶を取り戻しかけ、罪悪感と激痛に引き裂かれながら苦しむネオ・ジオングのリボンズ。
目も見えず、身体もボロボロ。だけど、サイコフレームの青い光は、混迷を極めるリボンズの心を、暗闇の向こうから確かに捉えていた。
「リボンズ……苦しいよね。今、助けてあげるから……っ!」
私は闇の中で、唯一残されたビームライフルを再び強く、強く握り直した――。終決戦が、今、極限の火花を散らそうとしていた――。「リボンズ……! お願い、戻ってきて……っ!!」
メインカメラを失い、完全な暗黒に包まれたコックピット。それでも私は、溢れ出る青いサイコフレームの暖かい光の粒子を通じて、あの子の魂に必死に触れようと手を伸ばし続けた。
その温もりが、ついに最悪の呪縛を打ち破る。
「……あ、あぁ……ッ! リン……リン、なのか……!?」
生体チップのプロテクトが完全に消失し、リボンズの瞳にあの聡明で、不敵で、だけど私にだけは見せてくれた優しい光が完全に蘇る。【リボンズの記憶が、すべて戻った】。
「リボンズ……! よかった、私、私ね――」
「来るな、リン!!」
再会を喜ぼうとした私の声を、リボンズの悲痛な叫びが遮った。
サブモニターに辛うじて映るリボンズの顔は、苦痛に歪み、鼻や目から一筋の血が伝い落ちていた。地球軍に捕らえられ、生体CPUとして脳を改造された際に投与された、非人道的な強化薬物。完全に初期化された脳を強引に覚醒させ、限界を超えてネオ・ジオングを駆動させた代償は、すでに彼の肉体を内側から完全に破壊していた。
彼の命の灯火は、もう、あと数分も持たない。【薬の影響で、もう死ぬのが確定していた】。
「そんな……嘘でしょ……? 嫌よ、せっかく戻ってきたのに……!」
「泣かないで、リン。僕はもう助からない……だけど、君だけは、絶対に生きて……ッ!」
リボンズは迫り来る死の恐怖を噛み締めながら、血の滲む手でネオ・ジオングの強制パージコードを叩いた。中核に格納されている、彼自身の愛機『ストライクスタイン』のロックが解除されていく。
「この機体を……ストライクスタインを、君に渡す……! これを使って、ここから逃げるんだ……!」
自分が死んでも、私の命だけは繋ぐ。それが、記憶を取り戻したリボンズの、最後の、命懸けの願いだった。
――しかし、世界はどこまでも残酷だった。
リボンズの意識が混濁し、ネオ・ジオングの制御が完全に離れたその一瞬。狂った自動防衛システムが、エラーを起こしながら勝手に駆動を始めた。先ほど爆発したはずの三本目の巨大な腕部が、ボロボロの残骸のまま、最後の盲目的な防衛本能でストライカーブラストへ向けて突進したのだ。
「え――」
ドゴォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
凄まじい質量兵器としての激突。
左脚、シールド、左腕を失い、完全に満身創痍だったストライカーブラストは、その無慈悲な一撃をまともに受け、ついに限界を迎えた。装甲が紙細工のように引き裂かれ、機体各所から誘爆の火の手が上がる。
【臨界突破――機体崩壊まで、あと5秒】
「リンッ!!!!!」
リボンズの絶叫が通信機を割って響く。
「嫌……リボンズを置いて、私だけなんて……っ!」
「生きるんだ、リン!! 頼むから……っ!!」
コンソールが爆発し、炎がコックピットに迫る。私は涙をボロボロと流しながら、リボンズの叫びに背中を押されるようにして、シートの脇にある赤いレバーを、全力で引き絞った。
ガッシャアアアアアンッッ!!!
ストライカーブラストの胸部装甲が強制パージされ、私を乗せたコックピットの**【脱出装置(エマージェンシー・ポッド)】**が、爆発する機体から宇宙へと激しく射出された。
ドゴォォォォォンッ……!
背後で、これまで私を支え、リボンズの想いを繋いできたストライカーブラストが、青い光の残滓を散らしながら完全に爆発四散していく。
「あ、ああ……、リボンズ……リボンズゥゥゥッッ!!!」
ポッドの狭い窓から遠ざかっていく、超巨大なネオ・ジオングの影。
その中心で、今まさに命を燃やし尽くそうとしている最愛の少年へ向けて、私は届くはずのない手を伸ばし、暗黒の宇宙の中で声を上げて泣き崩れた――。