「終わりだッ、ザク!」
カオスガンダムが背中のスラスターを全開にし、その手に握られたビームサーベルでアスランのザクウォーリアを背後から両断しようと迫る。ガイアとアビスもまた、逃げ場のない十字砲火を浴びせようと機首を向けた。
アスランはモニター越しに死を覚悟した。カガリの姿を守るための最後の一撃に賭け、ザクのメインスラスターを限界まで吹かす。
だが――その絶望的な瞬間のことだった。
軍港の爆煙を切り裂き、信じられないほどの速度で、赤と白、そして青に彩られた人型の影が、ザクウォーリアとガンダム3機の「間」へと強引に割り込んだ。
ズォォォォォォォォンッッ!!!!!
地響きのような衝撃波が周囲の煙を吹き飛ばす。
そこに立っていたのは、ロールアウトしたばかりの最新鋭機――**【インパルスガンダム】**だった。
「……なっ、なんだあいつはッ!?」
カオスのパイロットが狼狽する。
インパルスは、その機体に搭載された最新鋭の「コアスプレンダー」システムを最大稼働させ、アスランのザクを背後に庇うようにして、右手に構えたビームライフルを迷いなく構えた。
「これ以上……ここを壊させるかよッ!!」
インパルスに乗るシン・アスカの叫びが、軍港の無線に突き刺さる。
その瞳には、カガリを狙うテロリストたちへの純粋な怒りが宿っていた。シンは反射的にトリガーを引き、牽制射撃でガンダム3機を後退させる。
アスランはモニター越しに、自分を救ったインパルスの背中を呆然と見つめた。
「……ザフトの新型か? なぜ、彼が……」
一方、ラー・カイラムのブリッジで、私はメインスクリーンに映るその「赤い機体」を凝視していた。
「インパルス……」
シン・アスカ。私の独立艦隊のデータベースにも、彼の特異なパイロットとしての適性は登録されている。
敵の猛攻を真っ向から受け止め、絶体絶命の窮地でアスランの前に立ちはだかるその姿には、単なる命令以上の「意志」が感じられた。
私の脳裏を駆け巡っていたプレッシャーと敵の伏兵の影が、シン・アスカという変数の介入によって、一瞬だけ霧散する。
「……いいわ。シン・アスカ。その若さと力、今のあなたに賭けてみる」
私はカタパルト開放の命令を下そうとしていた指を離し、再びモニターへと意識を集中させる。
ここでロンド・ベルが動けば、コロニー内部の戦況はさらに複雑化し、取り返しのつかない混乱を招く可能性がある。インパルスが加わった今、アスランとシン、この二人がどのような連携を見せるのか……。
「通信を開いて。……現地部隊へ、援護射撃の準備だけはさせておいて。だけど、インパルスの動きを邪魔しちゃダメよ。彼の『戦い』を、最後まで見守るわ」
深紅の髪を揺らし、私はラー・カイラムの艦長席で、インパルスがガンダム3機を相手に、いかなる火花を散らすのか。その激闘のゆくえを、固唾を飲んで見守り続けるのであった――。「はあああああッッ!!」
アーモリーワン内部の軍港は、最新鋭機同士が激突する凄まじいエネルギーの奔流に包まれていた。
シンの駆るインパルスガンダムは、カオス、アビス、ガイアという3機の新型ガンダムを相手に、一歩も引かずにビームライフルを連射し、激しい防衛戦を繰り広げていた。しかし、同じセカンドステージシリーズとはいえ、3対1の状況はシンの天才的な直感をもってしても熾烈を極める。
――だがその時、アーモリーワンの『外』の宇宙(そら)で、真の闇が動き出していた。
強奪グループを送り込んだ地球連合軍・第81独立機動群『ファントムペイン』。
その母艦である特殊戦闘艦**【ガーティ・ルー】が、司令官【ネオ・ロアノーク】**の冷徹な指揮のもと、ついにその牙を剥いたのだ。
放たれた一斉砲撃とミサイルの嵐は、完全に不意を突かれたザフトの護衛艦隊を電撃的に次々と撃沈。さらに、凄まじい閃光とともにアーモリーワンの港湾部を外側から容赦なく破壊し、激しい爆炎を巻き起こした。
この外壁破壊の衝撃と連動するかのように、コロニー内部でインパルスと交戦していた**【スティング・オークレー】、【アウル・ニーダ】、【ステラ・ルーシェ】**の3人は、即座に作戦の第二段階――「撤退」へと移行する。
カオス、アビス、ガイアの3機は、凄まじ推力で上昇すると、爆破されたプラントの隔壁を内側からさらに打ち抜き、宇宙空間へと一気に脱出した。
「待てよッ! 奪った機体を返せぇッ!!」
そうはさせまいと、怒りに燃えるシンのインパルス、そして冷静に戦況を見極めて合流した**【レイ・ザ・バレル】の【ブレイズザクファントム】**が、激しいバックパックの火線を吹き散らしながら、壊れた外壁の穴から宇宙へと追いすがる。
しかし、プラントの外壁を飛び出した二人の視界に飛び込んできたのは、最悪の待ち伏せだった。
「ひゃっほう! 待ちくたびれたよ、お姫様たち!」
有線式ガンバレルを四方に展開し、不気味に発光する漆黒のモビルアーマー(MA)――ネオ・ロアノークの駆る**【エグザス】**が、逃げ出る3機のガンダムを背後に庇うようにして、インパルスとレイのザクの前に立ちふさがったのだ。四方八方から襲いかかるガンバレルの鋭いビームが、追いすがるザフトの新型2機を牽制し、その足を完全に止めにかかる。
――だが、この事態を予期し、すでに動いていた影があった。
避難路へと急ぐ中で、破壊される港湾部と壊滅していく護衛艦隊の惨状を通信で知ったカガリ代表とデュランダル議長。二人はこれ以上のプラントの破壊と混乱を防ぐため、すぐさま独立艦隊ロンド・ベルへの臨時の通信回線を開き、「プラントを防衛してほしい」と正式な共同要請(お願い)を伝えていたのだ。
その要請を受け、アーモリーワンのプラント防衛のために電光石火の速度で急行したのが、ロンド・ベルの精鋭――**【ジェダの5機小隊】**だった!
「ッ!? なんだこの圧迫感は……! ザフトの増援じゃない、ロンド・ベルの通常カラーのジェダ小隊かッ!」
ネオが冷や汗を流しながらエグザスを反転させる。
プラントを守るというカガリたちからの切実な要請を受け、そして先ほどコロニー内部で仲間をやられたばかりのロンド・ベルのパイロットたちに、もはや躊躇は一切なかった。これ以上のプラントへの被害拡大を食い止めるため、完全に実戦の引き金を絞る。
『ロンド・ベル1から各機へ! カガリ代表とデュランダル議長からの要請だ。これ以上のプラントの破壊は絶対に阻止する。相手は凶悪な強奪犯だ――**【プラント防衛のために、生け捕りは無し】**でいく。一気に叩き潰すぞ!』
『了解!!』
5機のジェダは美しい波状陣形(トレイン・フォーメーション)を展開すると、エグザスに向けて一斉にビームライフルと大型ミサイルランチャーの猛射を開始した。ザフトのジンとは明らかに一線を画す、ロンド・ベル特有の統率された、一切の無駄のないコンビネーション。
「うおっと!? なんだよこいつら、動きがプロすぎやしないかい!?」
ネオはエグザスの機体を激しくロールさせ、ガンバレルを鋭く引き戻して防盾代わりに展開するが、プラント防衛のために5方向から容赦なく浴びせられるジェダ小隊の「殺すための銃撃」に、一瞬で防戦一方へと追い詰められていく。
宇宙ではカガリたちの願いを背負った5機のジェダがネオのエグザスを完全にロックし、プラントの壁面ではシンとレイが強奪グループと対峙する。アーモリーワンの外壁を舞台に、国家の要請と独立組織の固い絆が交錯する、真の宇宙戦が今、激化しようとしていた――!アーモリーワンの港湾部が外側から無残に破壊され、壊滅していくザフトの護衛艦隊。この未曾有の不測の事態に対し、工廠ドックに鎮座していたザフト最新鋭新造艦『ミネルバ』の艦長、タリア・グラディスは即座に決断を下した。
「まだ進水式の最中だというのに……! 各局、臨戦態勢! 調整中のシステムは全て強制起動、本艦はこれより緊急発進するッ!!」
タリアの鋭い大号令とともに、ミネルバのトリスタン大口径ビーム砲やアイソーン複列位相エネルギー砲が次々と起動し、巨体がドックを蹴って宇宙(そら)へと這い出る。
時を同じくして、強奪された3機のガンダム(カオス、アビス、ガイア)の背中を追い、シンのインパルスとレイのブレイズザクファントムもまた、煙を噴き出すアーモリーワンの隔壁の穴から外の宇宙空間へと飛び出していった。
「逃がすかよッ!!」
シンが叫び、視界が開けたその瞬間、二人の目に飛び込んできたのは、凄まじい閃光が飛び交う予期せぬ大混戦の光景だった。
そこで待ち受けていたのは、強奪グループの黒幕である連合特殊部隊の司令官、ネオ・ロアノークの駆るMAエグザスと、プラント防衛のために急行したロンド・ベルのジェダ5機小隊による、息を呑むような激しい交戦状態だった。
「おっと、ザフトの坊やたちもご到着かい!? だけど、こっちもプロ相手に遊んでる暇はないんだよッ!」
ネオは老練な戦術家だった。ロンド・ベルのジェダ5機小隊による「生け捕りなし」の猛烈な包囲網に対抗するため、エグザスの4基の有線式ガンバレルを限界まで駆動。あらゆる死角から予測不能な軌道でビームを撃ち出す全方位攻撃を展開し、百戦錬磨のロンド・ベル部隊を相手に、巧みに翻弄してみせる。
『チッ、このMA……動きが変則的すぎる! ガンバレルの射線を誘導しろ!』
だが、ロンド・ベルのパイロットたちも決して伊達ではなかった。ネオの凄まじい全方位攻撃に翻弄されながらも、5機の連携を崩さず、互いの死角をカバーし合いながら、エグザスの複雑な攻撃パターンを少しずつ、だけど確実に解析し対応。徐々にネオを追い詰める迎撃の網を絞り込んでいく。
「あちゃー、流石にロンド・ベルはしぶといねぇ……!」
ネオの額に冷や汗がにじみ、交戦が完全に膠着し、すんでのところで双方が次の一手を放とうとした――その瞬間だった。
ドガァァァァァァァンッッ!!!!!
暗黒の宇宙を切り裂き、割って入るようにして放たれた強烈な対空防御火線の嵐。
急遽出撃し、猛烈な速度で戦場へと殴り込んできたザフトの新造艦ミネルバが、エグザスとロンド・ベルのジェダ小隊のちょうど中間にその巨大な艦体を割り込ませたのだ。ミネルバの圧倒的な質量と砲火が、ネオのガンバレルを力ずくで弾き飛ばし、結果としてロンド・ベルをネオの奇襲から救う形となった。
「チッ、ザフトの新型戦艦か! 贅沢な出迎えだねぇ!」
ネオがエグザスを反転させ、強奪した3機と共に後退する。
ミネルバのブリッジでは、タリア艦長が鋭い目で迫り来る敵の本陣を睨みつけていた。
「主砲、照準固定! ターゲット、前方の不審艦(ガーティ・ルー)! 撃てッ!!」
ミネルバはそのまま、強奪グループの母艦であるガーティ・ルーに向けて猛烈な主砲攻撃を叩き込んだ。禍々しい光条が宇宙を走り、直撃を免れようとガーティ・ルーの巨体が大きく揺らぐ。最新鋭艦同士の、一歩も引かない砲撃戦。
しかし、ガーティ・ルーの指揮官たちもまた、冷徹かつ往生際が早かった。ミネルバの圧倒的な火線にこれ以上の交戦は不利と一瞬で判断する。
「予備の推進タンクを切り離せ! ――爆破しろッ!!」
ガーティ・ルーの後部から、いくつかの巨大な金属塊――予備のプロペラントタンクが宇宙空間へとパージされた。そして次の瞬間、それらがミネルバとジェダ小隊の目の前で、凄まじい光を放って大爆発を起こした。
カァァァッッ!!!!!
空間を覆い尽くすほどの強烈な爆煙と閃光、そして強烈な衝撃波が、追いすがろうとしていたミネルバの追撃の足を完全に鈍らせる。
「くっ……! 煙幕代わりに推進タンクを自爆させたというの!?」
タリアがスクリーンを遮る光に顔をしかめる。
爆炎が晴れたときには、ガーティ・ルーはその凄まじい爆発の推進力をも利用し、強奪したカオス、アビス、ガイア、そしてネオのエグザスを急速に収容しながら、漆黒の宇宙の彼方へと消え去っていた。追撃を完全に振り切られたのだ。
静まり返るアーモリーワン近海。
傷ついたプラントを背に、シンのインパルス、レイのザク、出撃したばかりのミネルバ、そしてカガリたちの願いを背負って戦ったロンド・ベルのジェダ5機小隊は、悔しさに震えながら、テロリストたちが消え去った暗闇の宇宙をただ見つめることしかできなかった。再び世界に吹き荒れる、新たなる破滅の戦火を予感しながら――。ガーティ・ルーが放った予備推進タンクの爆破による凄まじい閃光が、漆黒の宇宙(そら)に大きな尾を引いて霧散していく。強奪された3機のガンダムとネオのエグザスは、その光の向こうへと完全に姿を消していた。
追撃を振り切られ、静まり返ったアーモリーワン近海。
硝煙が漂う宙域で、フォーメーションを維持したまま残ったロンド・ベルのジェダ5機小隊の隊長は、即座に操縦コンソールの超長距離量子通信のスイッチを入れた。
『――こちらジェダ小隊長。旗艦ラー・カイラム、およびリン様へ。敵母艦は予備タンクを自爆させ、未確認の推進加速にて離脱。追撃は不可能です。これより本隊はどう動きますか? 指示を仰ぎます』
隊長の引き締まった声が、遥か後方に潜むラー・カイラムのブリッジへと響く。
メインスクリーンで現地の爆発と敵艦の消失をすべて見届けていた私は、艦長席の肘掛けを小さく一度だけ叩き、深く息を吐き出した。悔しさはある。だけど、これ以上の深追いは罠に飛び込むようなものだ。それに、カガリたちの安全は一応確保された。
「……よくやってくれたわ、みんな。敵の動きは早すぎた。これ以上の追撃は無用よ」
私は通信マイクを引き寄せ、凛とした、だけど労うような声を現地へと届けた。
「これ以上の戦火の拡大を防ぐためにも、ジェダ小隊は**【一度撤退して】**。本艦と合流し、次の展開に備えましょう」
『了解、リン様。ジェダ小隊、これより一度撤退に移ります』
隊長は深く頷くと、通信を切り、目の前に佇むザフトの最新鋭艦へと機首を向けた。
自分たちの窮地を救い、共に戦った真紅の戦艦――ミネルバ。国家の枠を持たない独立艦隊ロンド・ベルといえど、プラント防衛のために共に戦火を潜り抜けた戦友への礼儀を忘れるような無作法はしない。
ジェダの隊長機は、ミネルバのブリッジの正面にゆっくりと進み出ると、機体の右腕をこめかみへと掲げ、ピシッと綺麗な敬礼を贈った。それに追従し、残る4機のジェダもまた、一糸乱れぬ動きでミネルバへ向かって深い敬礼を捧げる。
ミネルバに挨拶の手向けを。
『ザフト新造艦ミネルバ、およびパイロット諸君。先ほどの見事な参戦、感謝する。我々はこれより任務により退却する。――世界の行く末に、幸あらんことを』
ジェダの隊長からの毅然としたオープン通信の挨拶が、ミネルバのブリッジ、そしてシンのインパルスやレイのザクのコックピットへと流れ込んだ。
「あいつら……ロンド・ベル……」
シンはインパルスのシートの中で、去りゆくジェダたちの姿をどこか複雑な、だけど敬意の混ざった瞳で見つめていた。
ミネルバのブリッジでは、タリア艦長がスクリーンに映るジェダたちの敬礼を真っ直ぐに受け止め、自らも小さく頷いて答える。
「丁寧な挨拶ね……。流石はあのリンが率いる、世界で唯一無二の独立艦隊ロンド・ベルというところかしら」
挨拶を終えたジェダの5機小隊は、一斉にスラスターを青白く発光させると、滑るような美しい旋回を見せ、アーモリーワンの宙域からラー・カイラムが待つ暗黒の深淵へと、瞬く間に退却していった。
残されたザフトの面々と、闇へと消えていく独立艦隊。
再び世界にばら撒かれた理不尽な戦争の火種を前に、リンのラー・カイラムと、タリアのミネルバ――二つの巨大な艦艇は、それぞれの信念を胸に、混迷を極めるコズミック・イラスの未来へと漕ぎ出そうとしていた。